71.怒り
妊娠がわかってから何事もなくても2日ごとに宮廷医がステファニーを診察するようになった。
「ご気分はいかがですか?」
「・・・いいわけありませんっ!妊娠させられて部屋に監禁されて――」
「ステファニー様っ!」
その場にいた侍女がステファニーの言葉を遮った。
「お身体はほどほどに動かすほうがよろしいのですよ。せめて庭園で散歩ぐらいはできるように私の方から陛下にお願いしておきます」
宮廷医が言った通り、しばらくすると王族専用庭園で散歩することがステファニーに許された。ただ、それ以降、ステファニーがエドワードの子供を妊娠しているのではないかという噂が王宮から王都中へ、更に国中に急速に広まっていった。それはステファニーを守りたいエドワードにとって大きな誤算だった。王族専用庭園に王族以外の人間は許可なく立ち入ることができないが、庭師は働いているし、ステファニーやユージェニー、王太后メラニー、庭園でのお茶会に招待された人々、彼らに付き添う侍女や護衛も庭園に来る。
ステファニー妊娠の噂は父ケネス、夫エイダン、エドワードの妃ユージェニー、宰相リチャードもすぐに聞き及ぶことになったが、正に寝耳に水だった。特にエイダンは怒髪天をつく勢いですぐに王都に滞在中のエスタス公爵ケネスを訪ねた。
「義父上、ステファニーが陛下の子供を妊娠中だと国中で噂になっています。彼女は私の妻ですよ!いったいどういうことですか?!」
「私も何が何だか訳がわからないのだよ。事実確認中だからもう少し待ってくれないか?」
「そんな悠長なことは言っていられませんよ!だから本当は『王妃の話し相手』なんかにさせるのは嫌だったんです!陛下が懇願して愛人にはしないって約束したから送り出したのに・・・こんな酷いことってありません!」
ケネスは噂が真実だと認めざるを得なかった。
「済まない、力及ばず・・・」
「義父上も任せてくれって言うから1人で領地に帰ったのに・・・酷いじゃありませんか!」
「・・・正直言ってステファニーは取り戻せないと思う。悪いが、諦めてくれないか?援助はこのままするし、君が望むならアーサーと二コラも引き取る」
「どういうことですか!私はステファニーと別れませんよ!元々、貴方達が妊娠したステファニーを私に押し付けたんでしょう?!今更、虫が良すぎるじゃないですか!」
エイダンは鬼気迫った様子でケネスの両肩を掴んで揺さぶった。
「そんな不道徳な理由で教会が離婚を許すはずがありません!」
「ステファニーが君と離婚できなくても陛下はステファニーを手放さないだろう」
「そ、そんな!私は子供達とステファニーを待ちます!」
「無駄だと思うよ・・・アーサーは君にとって生さぬ仲の子供だ。二コラは無理でもアーサーは引き取らせてくれ」
「お断りします。ステファニーが帰ってくる時に2人ともアンヌス家にいるようにしておきます」
ケネスはエドワードから娘を取り戻すのは諦めた。それはエドワードを国王として支えるのを止めるのと引き換えだった。まだ表立ってエドワードを廃するような行動はとらないものの、次期王としてヘンリーを擁立しようと考えているリチャードと密かに連絡を取るようになった。
エイダンは義父に頼るのを諦め、エドワードの側近リチャードならとりなしてくれると思い、彼に何度も手紙を送ったが、なしのつぶてだった。しかし、思いがけなくエドワードから直接会いたいと連絡が来た。エドワードがエイダンに話すのを許可すると、エイダンは不敬を承知でエドワードに詰め寄った。
「妻に会わせて下さい!彼女が陛下の愛人で陛下の子供を妊娠してるなんて噂は嘘ですよね?!」
「『愛人』ではない。彼女は余の唯一の女だ」
「どういうつもりですか?!よくも抜け抜けと・・・!」
「だから彼女のことは諦めてほしい」
「冗談じゃないですよ!早く会わせて下さい!」
「胎教に悪いから会わせられない――アンヌス伯爵がお帰りだ、連れていってくれ」
「た、胎教?!噂はやはり本当なのですか?!そ、そんなっ!――待って下さい、ステファニーに会わせてく――」
エドワードが侍従に声をかけると、懇願し続けるエイダンは引きずられるように無理矢理部屋の外に出された。
それから数ヶ月後、ステファニーはエドワードによく似た金髪碧眼の男の子を出産し、トビアスと名付けた。
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