70.嘆き
エドワードとステファニーが初めて結ばれてから2ヶ月ほどしてステファニーの身体に変調があった。2度の妊娠で経験したのと同じような体調の変化だったが、ステファニーの頭は霞がかかったようにぼんやりしていて自分では体調の変化に気付けず、侍女が気付いた。
宮廷医の診察でステファニーの懐妊が確定されると、エドワードは大喜びした。お腹の子供に悪影響があったら困るので、エドワードはステファニーに媚薬を盛るのを止めた。しばらくしてステファニーは媚薬の中毒症状から抜け出して徐々に正気に戻り、以前妊娠した時のような体調の変化に気付くと、まるで頭を殴られたかのような衝撃を受けた。
(・・・頭が痛い・・・ううう・・・気持ち悪い・・・ええっ、これって?!)
何週間前か何ヶ月前かステファニーにはもうわからなかったが、口移しで変な液体を飲まされた時から記憶が途切れ途切れであいまいになって何が起きたかよく覚えていなかった。いや、ステファニーはそう思い込みたかったのかもしれない。かつて心から愛した人が媚薬を使ってまでして自分を無理矢理犯したなんて誰だって信じたくないだろう。でも記憶がぼんやりしていても、あの後何があったのかわからないほどステファニーは子供ではない。
授かった以上、教会の教えもあるし、ステファニーに産まないという選択はなかったが、エイダンのことを思うと、罪悪感が込み上げてきて手紙を出す勇気がなくなってしまった。
ステファニーが寝台の上で起き上がろうとすると、吐き気が襲ってきた。寝台から急いで降りようとして間に合わず、床に吐いてしまったが、すぐに侍女が駆けつけて始末してくれた。清潔な夜着に着替えさせてもらって横になっていると、目から涙があふれてきた。
「うっうっうっ・・・エイダン・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・エイダン・・・」
突然ノックがして返事をする間もなくガチャガチャと鍵を開けてエドワードが部屋に入って来た。寝台に腰掛けると、ステファニーの頬をするっと撫でながら、目を細めて彼女を見た。
「ああ、ステフィー!やっと目が覚めたんだね!僕がこんなに心配してたのに他の男の名前を呼ぶなんてひどいよ。僕達の初めての子供が君のお腹の中にいるのに」
「エイダンは私の夫です。どうしてこんなことを!ひどい!こんな仕打ち、許されません!」
「アンヌス伯爵だって他の男の子供を宿した女なんていらないに決まってるよ」
「それでも彼は、あんな事をされて他の男の子供を妊娠した私を娶ってくれました。私はエイダンを信じます」
エドワードは手で頭をぐしゃぐしゃにかき乱して叫んだ。
「うるさい!うるさい!うるさい!その名前を呼ぶな!そんな女でもいるって言っても伯爵風情が僕にできることなんてない。君は僕の所にずっといるしかないよ!」
「でも陛下はあの時、私を捨てたじゃありませんか!」
「僕は君を捨ててない!あれはくだらない王家の決まりに強制されて仕方なかったんだ!だから今、君と子供を作って一緒になるんだよ」
ハハハハハと昏く笑うエドワードに昔の優秀で公明正大な王太子の面影は最早なかった。
「陛下!いったいどうされたのですか?!私が婚約していたエドワード王太子殿下はこんな非道な事をする方ではありませんでした。どうしてっ・・・どうしてっ・・・」
ステファニーの言葉は仕舞いには泣き声に重なってエドワードには聞き取れなかった。ステファニーが泣いている間、エドワードはずっと彼女の頭を撫でていた。彼女が泣き疲れて眠り込むと、エドワードは額にキスをして部屋を立ち去った。
「おやすみ、ステフィー・・・君を手放せなくて・・・ごめんね・・・」
ステファニーは、おぼろげながらエドワードが何か言って部屋から出て行ったのに気が付いたが、すぐに意識が泥のように沈んでいった。
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他サイトへの転載の過程で作品を少しずつ訂正しています。大幅な改稿はありませんが、第70話を少し加筆しました。(2023/10/28)




