67.思い出の薔薇
ステファニーは数日で西の塔を出てエドワードの隣の部屋に戻ることになった。エドワードは、リチャードがステファニーをまた助け出さないように人目の付かない西の塔に再び監禁したが、最早リチャードはエドワードがやることについてよほどのことがない限り反対しないので、自分の近くに置くことにしたのだ。
「陛下、私がこの部屋に滞在するのは恐れ多いことです。どうか元の『王妃の話し相手』の部屋に戻して下さい」
「ステフィー、呼び方を間違えているよ」
「間違えていません」
「ねえ、せめて2人だけの時は昔みたいに僕を呼んで」
「でも私は臣下の妻。陛下もご結婚されています」
「あれは単なる仕事上のパートナーだって言っただろう?僕の愛はいつも君にあるよ。君以外には誰も愛せない。君がいなくなった時、僕がどんなに絶望したかわかる?もう君のいない世界では生きたくない!」
「何をおっしゃるのですか。尊い御身を大切にして下さい!」
「それなら、大切にできるようにステフィーがしてくれる?」
「・・・わ、私がここにいることで十分ではございませんか?」
「僕は君の全てが欲しい」
「私は人妻です」
「でも君の身も心も僕のものになるはずだったんだ!僕は今でも身も心も君のものだよ。僕は君を愛してるんだ。君も今でも僕のことを愛してくれてるよね?」
エドワードはステファニーの両手を自分の手で包み込みながら、ねっとりとした熱を孕んだ昏い瞳で見つめた。そんなエドワードがステファニーは怖くなってしまって、今でも彼を慕っているのかどうかわからなくなった。
「どうして答えてくれないの?僕は悲しいよ。ねぇ、覚えている?よく庭園の薔薇を見てガゼボでお茶したよね。君と微笑みあってたわいのない話をして・・・それだけだったけどすごく楽しくて幸せだった」
「ええ、もちろん覚えております」
ステファニーの長いまつ毛が下を向いた。成就できなかった初恋の思い出は切ないものだ。
「あの頃は君と心が通じ合っていて幸せだった。また僕を幸せにしてくれないか?僕も僕の愛で君を幸せにするよ」
「し、臣下として・・・陛下をお支えすることが陛下を幸せにすると信じております」
「あの幸せは王太子と臣下の令嬢という関係からは生まれなかったはずだ。僕は君とまた愛しあいたい」
「そ、そんなわけには・・・」
「またあんなひと時を君と過ごしたいな。今日はもう遅いけど、明日、庭園に薔薇を見に行こう。ちょっと季節外れだけどまだ咲いている薔薇もあるはずだ」
「・・・ええ、そうですね。でも執務はよろしいのですか?」
「午後のお茶の時間に長めの休憩をとるから、その時に迎えに来るよ」
翌日、エドワードは時間通りにステファニーを迎えに来た。エドワードが腕を差し出すとステファニーはその腕をとっていいのか迷った。
「ステフィー、前みたいに僕の腕に手をかけて」
「で、でも・・・恐れ多いことでございます・・・」
「またそんなこと言うの?」
エドワードは悲しそうにステファニーを見た。
「気にしないでいいんだよ。女性をエスコートするのは男性の務め。恋人同士とか、夫婦だとか関係ないよ。さあ、早くしてくれないと、休憩が終わっちゃう」
「も、申し訳ありません・・・」
ステファニーはエドワードの腕に手をかけたが、婚約時代のようにとはいかなかった。罪悪感が胸の中にこみあげてきて以前のような幸福感が全くない。エドワードもステファニーが固くなっていることに気付いて悲しそうだった。
2人が庭園の薔薇が植えられている場所来ると、やはりと言うべきか、薔薇は数えるほどしか咲いていなかった。王宮の庭園はなるべくどんな季節でも様々な花を楽しめるようになっていたが、婚約時代、2人は特に薔薇の季節に庭園をよく散策したり、ガゼボでお茶をしたりしていた。
「やっぱり寂しいな。薔薇の季節はもう終わりだから、別の花を見に行こうか?」
「いえ、ここがいいです」
ふとまだ咲いている薔薇が目に入り、エドワードはそれを手折ったが、指にとげが刺さった。
「大変、血が出ています!手当に行きましょう」
「このぐらい大丈夫だよ。それよりこれを受け取って」
エドワードはステファニーの前に跪いて薔薇を差し出た。
「ありがとうございます。でも尊い御身をそんなことで傷つけては・・・」
「君のためならたとえ火の中でも水の中でも飛び込むよ」
「そ、そんなわけには・・・」
婚約時代、2人が薔薇の季節に会う時にはエドワードはあらかじめ庭園の薔薇を切らせておいてステファニーにプレゼントしていた。その頃の思い出が2人の脳裏に浮かび、懐かしく切なくなった。
その頃、ユージェニーは窓から庭園を見下ろしていた。そこからは、エドワードが薔薇を手に持ち、跪いている様子が見えた。
「・・・何をやっているんでしょうね、夢見る国王陛下は・・・」
ポツンとつぶやいた言葉は静かな部屋で消えていった。
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