63.帰って来ない妻
ステファニーが王都へ出発する時、幼い二コラは母と離れたくなくてギャンギャン泣いた。母を慕う幼子にエイダンは心を痛めた。それだけでなく、妻がいないと心にぽっかりと穴が開いたように空虚な毎日を過ごしていた。
王宮滞在期間は予定では2週間だったから、往復を入れても3週間ほどでステファニーは帰ってくるはずだった。だが、出発後1ヶ月経っても帰って来ず、エイダンは心配になった。王宮宛にステファニーへ手紙を出したが、返事は一度もなかった。実はステファニーもエイダンに手紙を出して滞在が延びることや子供の様子を聞いた手紙を王宮から出していた。どちらもエドワードが回収させており、お互い手紙を出していることを夫婦は知らなかった。
エイダンは隣の領地のトパルキア子爵にも手紙を出したが、夫人はもう帰ってきていると言う。なんでも王都在住の『王妃の話し相手』だけ、まだたまに王妃に会いに行っているそうだが、肝心のステファニーのことは返事に何も書かれていなかった。
エイダンは王都に滞在中のステファニーの父ケネスにも手紙を出して返事をもらったが、要領を得ない。意を決してケネスがタウンハウスにいる間に王都へ行くことにした。
「エイダン君、わざわざ来てもらって済まないね」
「いえ、妻が心配ですから・・・ステファニーに手紙を送っているのですが、返事が一度も来ないのです。どうして滞在が延びたかご存知ですか?」
「王妃陛下が精神的に不安定でステファニーを気に入られて滞在を延ばすよう要請されているんだ。済まないね」
「そうですか。でもそれなら義父上ではなく、夫の私に要請が来てしかるべきではありませんか?」
「ああ、いや、どうせ私が毎日王宮へ出仕しているから私から君に話を通すと陛下に申し上げたんだ。心配かけて悪かったね」
エイダンは、今まで自分に連絡してこなかった義父の説明に納得がいかなかった。それに夫の元婚約者のステファニーが王妃にとっていい話し相手になるのだろうかと疑問に思った。エドワードは臣下の妻を愛人にするつもりはないと言っていたのに、約束を違えたのだろうか?エイダンの中で疑念がどんどん膨らんでいった。
「ステファニーを迎えに来たのですが、それはまだ難しそうですね。せめて王宮に上がってステファニーに会わせていただけませんか?」
「申請を出しておくけど、最近警備を強化しているから急な登城の許可は中々もらえないと思うよ。1週間以内に許可が出なかったときは無理だと思って欲しい」
多分許可はもらえないだろうとエイダンは思ったが、それでも1週間王都で待った。予想通り登城許可はエイダンに出ず、エイダンはステファニーに会わずにすごすご帰るしかなくなった。義父ケネスが悪いようにはしない、任せてくれと言うので、後ろ髪を引かれる思いで領地に帰った。
エイダンはせめてとケネスにステファニー宛の手紙を託した。その手紙はケネスの手紙に同封してエスタス公爵家の封蝋を押して出されたので、今度はステファニーに届いた。ステファニーは夫から返事が届かず、不安に思っていたから、エイダンが今までも手紙を出していて自分の手紙が全く届いていなかったことに驚いた。どうしてそんな事態になったのかすぐに思いつき、背筋に冷や汗が流れた。
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