60.噂話はティータイムの香りづけ
ユージェニーと『王妃の話し相手』の初めてのお茶会がサロンで開かれた。サロンには、7人分の椅子がないといけないはずなのに椅子は6脚しか用意されていなかった。ユージェニーが何も言わなかったので、『王妃の話し相手』達はユージェニーがそのことに気付いていないのかと思った。
「陛下、椅子が1人分足りませんわ」
「足りていますよ。今日はアンヌス伯爵夫人が欠席と連絡が入ったので、これで全員です」
「えっ、初回からですか?!」
「カエルム男爵夫人、御前ですよ」
「も、申し訳ございません」
王妃の前にも関わらず素っ頓狂に叫んだカエルム男爵夫人にアウトムヌス公爵夫人が注意した。
素直に驚きの表情を顔に出したカエルム男爵夫人とトパルキア子爵夫人以外の『王妃の話し相手』達も、ステファニーが初回のお茶会を欠席することに内心では驚いていた。その後、お茶会でステファニーの話題が出ることはなく、なごやかにお茶会は終了した。
トパルキア子爵夫人ダイアンとカエルム男爵夫人マリーは、共に下級貴族同士で結婚した身の上で、実家も婚家も経済的に苦しいという共通点がある。初日に『王妃の話し相手』全員が国王夫妻に謁見した後、2人はお互いに親近感を抱いてどちらかともなく話しかけて意気投合し、最初のお茶会の後も自室でおしゃべりをしようと約束をしていた。
「マリー、ステファニー様がどうして欠席したか知ってる?」
「いいえ、知らないわ」
「ここだけの話、ステファニー様は国王陛下の寝室に閉じ込められているらしいのよ。私の友達が王宮で侍女をしているんだけど、同僚から聞いたそうよ」
「ええーっ?!それじゃ、『王妃の話し相手』は国王陛下の愛人候補って本当なの?!主人がその噂を聞いて渋っていたのをなんとか説得したのに!主人が知ったらすぐに田舎に呼び戻されちゃうわ、どうしよう?!」
「違うわよ、陛下の狙いはステファニー様だけらしいわ」
「どういうこと?」
「うちの領地ね、ステファニー様のアンヌス伯爵家の隣の領地なんだけど、わざわざ陛下がうちまで来てアンヌス伯爵も呼び出したの。それで私が『王妃の話し相手』選抜のお茶会に参加するから、ステファニー様も候補として参加するようにって」
「うちには陛下はいらっしゃらなかったけど、主人が近くの領地に呼ばれて他の候補のご主人達と一緒にお会いしたわ。候補者2軒分を1軒で効率よく済ませようと陛下も思われたんじゃないかしら?だからアンヌス伯爵をお宅に呼び出したと言っても、陛下がステファニー様を特別視しているっていうのは考え過ぎじゃない?」
「そうかしらねぇ?」
「そうよ、いくらなんでも陛下が臣下の妻を奪うなんて不道徳なことをするはずないわよ」
「ああ、そうよね!」
先ほどのお茶会で余ったお菓子を2人はもりもり食べながら楽しそうにしゃべっていた。
「流石、王宮で出されるだけあってどのお菓子もおいしいわ。太らないように気をつけなくちゃいけないわね」
「そうね。それに私達がお茶会で余ったお菓子をむしゃむしゃ食べながらこんな噂話をしてるってアウトムヌス公爵夫人が知ったら絶対キーッってなるわ!気をつけなくちゃ」
「フフフ・・・マリーったら!でも本当ね。彼女、礼儀作法にうるさいから。このお菓子が余ってもったいないからもらってもいいかって聞いた時もはしたないって怒ってたじゃない」
「侍女達もおやつに狙ってたから、毎回もらっていくと恨まれるかもしれないわね」
「そうね。ほどほどにしておきましょう。でもアウトムヌス公爵夫人のヒステリーはお菓子をもらうのを止めても治まらないわよ。彼女は陛下を狙ってるそうだから、ステファニー様が陛下のお気に入りになって気にくわないみたい」
「えっ?!愛人になるつもり満々なの?アウトムヌス公爵は承知しているの?!」
「あの夫婦は他人みたいな冷たい関係らしいから、夫人が国王陛下の愛人になっても構わないんじゃない?でもアウトムヌス公爵家は貴族派だから王家をスパイするのが目的かもね」
「ふうーん、貴族派とか王家派とか私にはよくわからないわ」
2人の楽しいおしゃべりは晩餐の時間になるまで続いた。ステファニーとエドワードの噂話は、この2人だけにとどまらず、王宮中にどんどん広まっていった。
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