55.呼び出し
『王妃の話し相手』が王宮の部屋に入って初日のことだった。ステファニーが王宮の自室で荷物を整理し終わってくつろいでいると、『王妃の話し相手』につけられた侍女がやって来た。
「ステファニー様、陛下がお呼びです。すぐに私と一緒にいらして下さい」
ステファニーは、『陛下』がエドワードのことだとは露とも疑わず、てっきりユージェニーのことだと思って侍女に付いていった。だが、前を行く侍女がどんどん国王の私的空間に向かっていくのに気付くと不安になった。ステファニーは長年、エドワードの婚約者だったから、王宮は勝手知った場所である。今は亡き前国王ウィリアムの使っていた国王の私室もエドワードが今は使っているであろうことも予想できた。
侍女に招かれた部屋に入ると、不安は的中し、エドワードが1人でソファに座っていた。侍女はすぐに部屋から出て行き、部屋の扉はぴっちり閉じられた。
「陛下、これはどういうことでしょうか?誤解を防ぐためにも扉を開けさせていただきますね」
「待って!」
ステファニーが扉のほうへ行こうとすると、エドワードはすぐにソファから立ち上がり、彼女の腕を掴んで引き留めた。
「どうか2人だけで落ち着いて話させてくれないか?まずは座ってくれ」
エドワードの懇願する瞳を見たら、ステファニーは断れ切れなくなり、向かいのソファに腰を下ろした。
「ここは、君の2番目の部屋だ。僕と話したくなったら、ここに来てくれ。僕も君と落ち着いて話したくなったら、今日みたいに呼び出す」
「私の本来の部屋でもよいでしょう?呼び出しに侍女を使ったら、王宮中に噂が広まります」
「本来の部屋は、他の『王妃の話し相手』の部屋に近い。彼女達に気取られると面倒だ。それからあの侍女は本当は侍女ではない。王家の影だ。呼び出しには影を使う」
「単なる幼馴染との交流に影を使うなんて大げさ過ぎます」
「・・・単なる幼馴染?!」
「ええ、陛下。私達は昔、婚約していましたが、今はお互い配偶者のある身。だから今は幼馴染でしかありません」
「・・・ステフィー、僕を『陛下』なんて呼ぶのは止めてくれ。2人だけの時は昔みたいに『エド』って呼んでくれないか?僕は今でも君を愛しているんだ」
エドワードはステファニーの隣に座り直して彼女の手を取った。
「お止め下さい!こんなことは不貞です!教会も王妃陛下も許しません!」
「心配ないよ。ユージェニーは側妃を娶ることを了承した。僕が結婚してもう5年経っているが、未だに子供はできていない。その場合、教会は国王が側妃を娶ることを認めている」
「でも私は結婚していますから、側妃にはなれません。それに側妃は純潔の女性と決められていますので、私には資格がありません」
「大丈夫だよ。そこは僕が何とかするから安心して」
「何をおっしゃっているのですか?!私に離婚して愛人になれとでもおっしゃるのですか?私ははエイダンと離婚するつもりはありませんし、陛下とそんな不道徳な関係になるつもりもございません」
エドワードは、ステファニーに離婚の意思がないことを聞いて顔をゆがめた。ステファニーはそれに気付いていない振りをした。
「なぜあのアンヌス伯爵と離婚する意思がないの?親子ほどの年齢差でしかもあの男の息子に強姦されたんだろう?そんな酷い一家の下にいないほうがいいだろう?!十分、離婚の理由として教会に認められるはずだよ!」
ステファニーは、ブライアンに強姦されたことをエドワードに知られているとは思っておらず、息を呑んだ。恥ずかしいと思うと同時に、あの時の恐怖が蘇ってきた。
「嫌―っ!」
ステファニーはエドワードの手を振り切って部屋を飛び出していった。
「ああっ!ステフィー!!ごめん!僕の配慮が足りなかった・・・」
独り後に残されたエドワードは、力なくつぶやいた。
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