24.憎い男の子供
ステファニーは、難産の末に男の子を出産した。子供はアーサーと名付けられた。ステファニーにあまり似ておらず、赤毛、灰色の瞳を持っていた。
ステファニーは出産後に疲れ果てて眠っていたが、目が覚めるとすぐに何も事情を知らない乳母がステファニーの元にアーサーを連れて来た。
「奥様、かわいいお坊ちゃんですよ」
アーサーは灰色の目をまんまるにしてステファニーを見つめた。その途端、ステファニーは自分の純潔を奪った大男の欲望に染まった灰色の瞳を思い出してしまった。
「いやーっ!」
「おぎゃー!おぎゃーっ!」
ステファニーが急に叫んだので、アーサーは火が付いたように泣き出した。
ステファニーはアーサーを見ると、あのおぞましい事件を思い出してしまい、取り乱してしまうため、アーサーはステファニーの所には連れて来られなくなった。それでも母乳で乳房が張る度にステファニーはまたあの事件を思い出してしまって精神不安定になってしまった。授乳しないうちにやがて母乳は出なくなったが、アーサーを見るとパニックに陥るのは変わらなかった。その度にエイダンはステファニーを抱きしめて背中をさすろうとしたが、ステファニーがびくっとするので、ステファニーに差し出した手は宙に浮いたままになった。
ステファニーの持参金は莫大だったが、アンヌス伯爵家が背負っていた借金も先代の領地経営の失敗や災害復旧で巨額に及んでおり、持参金は借金返済やエスターの浪費でアーサー誕生の頃にはほとんどなくなってしまった。本来なら持参金で婚家の借金を返済する必要はないのだが、ステファニーの父はアンヌス伯爵家を継続的に援助したくなかったため、借金返済分も含めた持参金の額だった。もちろんその額には愛人の贅沢費用は含まれていない。そのため、エスターが住む別邸以外にアーサーの養育用にもう1軒別邸を持つ余裕がアンヌス伯爵家にはなかった。だからアーサーは同じ家に実母と住みながらもほとんど会えない生活を強いられた。
エイダンが明るい茶髪に茶色の瞳でステファニーは金髪に青い瞳なので、使用人達はアーサーを強姦犯の子か不貞の子じゃないかと噂し、その噂がステファニーの耳にも入り、動揺を誘った。そればかりか運の悪いことにエスターの耳にも入り、ステファニーを罵倒するネタになってしまった。
「あんたの子供、旦那様にもあんたにも全然似てないわね。強姦犯の子供なんじゃないの?それとも不貞の子?」
ステファニーはひいっと叫んで過呼吸になり、倒れてしまった。
「フン、庇護欲をそそるようにふるまうなんて淫乱なあんたのお手の物ね」
エスターは捨て台詞を言ってステファニーをそのままにして去った。
「ステファニー様?!大丈夫?!」
長期休暇で学校から帰省していたブライアンがステファニーを抱き上げて使用人の助けを呼んだ。その時、ステファニーの白いうなじに金色の髪がかかっているのが目に入り、胸がどきんとしたが、駆け付けた父エイダンを見てその感情に罪悪感が湧き上がった。エイダンはエイダンで息子がステファニーを見る目に穏やかでない感情がこもっているのに気付き、動揺したが、その感情は辛うじて顔に出さずに済んだ。
「ブライアン、俺が寝室に連れていく。お前は医師を呼んでくれ」
「僕が彼女を寝台に寝かせますから父上が呼んだらどうですか?」
「俺の妻だ。俺が連れていく。でも今はこんなことで争っている場合じゃない。早く医師を呼ぶように執事に伝えろ」
気を失いつつあるステファニーには周りの声がおぼろげながら聞こえていた。
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