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第1章 第1話 殺し屋

「うぇーい!」



 クラスメイトの拳が俺のみぞおちに突き刺さる。次いで顔面を蹴られ、屋上の温かい床に倒れ込む。そんな俺の姿を見下ろしながら十数人の男女がわざとらしいほど大きな声で笑った。そんなにおもしろいのだろうか。どこにでもいる普通の陰キャを複数で囲んで暴力を振るうという行為は。まぁ楽しいからいじめているんだろうが、俺にはわからない話だ。



「今日はこれくらいで許してやるよ。明日はちゃんとお小遣い持ってくるんだぞ」



 高く上がっている太陽と今日の風を肌で感じていると、鉄製の扉が開き閉じる音がした。どうやら満足して帰ったらしい。さて、俺も昼食を……。



「……げ」



 鼻血を拭きながら立ち上がると、まだ1人残っていることに気づいた。



「げ、ってひどくないですかぁ? せっかく看病してあげようと思ったのに」



 そんな台詞とは裏腹に楽しそうにニヤニヤ笑っている女子の名前は鳥海蓮華(とりうみれんげ)。俺をいじめていたクラスメイトの内の一人の後輩であり彼女、ということになっている。



「さっきまで俺がボコられてたのを見て笑ってた奴の台詞とは思えないな」

「そりゃ笑いますよぉ。だってあの道中総司(みちなかそうじ)が黙って殴られてるんですもん」



 真っ黒のハンカチを差し出してきた蓮華を無視して立ち去ろうとしたが、そうはいかないらしい。



「お仕事の時間ですよぉ、先輩」



 そういやらしく笑う蓮華の人差し指には、今一番見たくない鍵がくるくると小気味よく回っていた。



「昼休みが終わるまで時間ないんだけどな」

「だったらさっさと片づけましょ? れんげだって早く終わらせたいのは一緒です」



 そう言いながら蓮華は床にカモフラージュした造りになった鍵穴に鍵を差し込む。そして取り出したのは。



「じゃ、ちゃちゃっと殺しちゃってくださいね」



 漆黒の体躯を堂々と示す、巨大なスナイパーライフルだった。



「標的は?」

「原田浩二。警備会社の経営者です」


「ちゃんと悪人なんだろうな」

「もっちろん。先輩悪人じゃないと殺さないでしょ? 契約を増やすために強盗を指揮する大悪人です」



 蓮華から標的の写真を受け取る。……普通の男だ。どこにでもいるおっさん。こんな普通なおっさんが悪人で、こんな学校でいじめられているただの陰キャが殺し屋だなんて。この世界は本当にわからないものだ。



「14時の方向。そろそろ車が到着し、中から標的が下りてくるはずです」

「はいよ」



 言われた方向をスコープで覗き込むと、いかにもな高級車が一つの会社の前で止まっているところだった。その後部座席には写真の通りの男が腕を組んで座っていた。



「ギリギリじゃねぇか……! もっと早く言えよ……!」



 慌ててライフルを設置し、構える。そして標的が車を下りたところで、引き金を引いた。



「……終わった」



 俺がそう伝えると、蓮華が双眼鏡を覗き込む。



「きゃーっ、脳天から血がドバァって出てますよ! あれなら確実に死んでますね! さっすがぁ」

「一々説明すんなよ……」



 飛び跳ねて栗色のサイドテールの髪を揺らしている蓮華に一応注意する。ま、意味ないんだろうが。



「まったく。先輩くらいですよ? 殺し屋なのに暴力が嫌いなの」

「んなわけないだろ。仕事が好きな奴なんてめったにいない。それは普通の仕事でも殺人でも一緒だよ」


「またまたぁ。そんなに嫌なら育ててくれた組織を裏切って壊滅なんてできませんよぉ」

「育ててくれたってな……殺し屋なんかに育てた悪の組織に情なんか湧かねぇよ」


「……さすが『氷心(ひょうしん)』。れんげたちも気をつけないと殺されちゃうかも」

「仕事が入ったらな。だから他人の恨みは買うなよ。俺だってお前は殺したくない」


「うれしいこと言ってくれますねぇ。まぁ殺し屋に所属している以上恨みを買うな、なんて無理な話ですけど」

「なるべく目立つなって話だよ。俺たちの正体は絶対に誰にも知られるわけにはいかない。もし知られたら誰であっても殺すしかなくなる」


「ですね。じゃ、報酬は後で家に……あ」

「あ」



 仕事も終えたし後片付けでもしようと思っていると。屋上の入口に一人の女子が立っているのに気づいた。同じクラスの田村円香(たむらまどか)。俺のようにいじめられてはいないが、カーストの低い女子だ。まぁ何にせよ。



「先輩、殺してください」

「わかってる」

「ま、待って!」



 蓮華の冷たい指令が届くよりも早く銃口を向ける。そしてそれから少し遅れ、田村が手を上げて言った。



「道中くん……殺し屋なんでしょ……? 殺したい人がいるの……! お金は払うから……殺してください」

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