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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第一章 召喚師の降臨と錬金術師の献身
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9話 救世主の神託

「……して、どう思われます? ディロン殿、テナイア殿」


 騎士隊に割り当てられた宿舎の一室にて、セメイト村のスタンピードに急行した騎士隊長ノーランが問いかけた。

 ノーランの前に座っているのは、この国、コリンス王国の王国直属騎士団、黒魔導師隊副隊長のディロン・ブラムス。そして、同じく王国直属騎士団白魔導師隊副隊長のテナイア・ヘレンブランドの二名だ。


 彼らはセメイト村を始めとする、元開拓村の状況を確認する駐屯地に駐留していた。いざスタンピードが発生した際に、いち早く駆けつけてその規模を確認し、可能ならばそれを撃退することを義務付けられている。

 本来は王国直属騎士団の者が同行するような任務ではない。だが、仮にもその黒魔導師隊副隊長と白魔導師隊副隊長が揃っていることには、ある理由があった。


「ひとまず、私がマナヤと名乗る彼に、尋問をした。一応の整合性は取れていたが……」


 黒魔導師ディロンはそこまで語ると、白魔導師テナイアへと視線を向ける。テナイアがそれに応え、回答した。


「……嘘をついている兆候は見られませんでした。巧妙に隠しているのであれば、その限りではありませんが」


 ディロンとテナイアは、マナヤに対し、容疑者や重要参考人などを尋問する際のテクニックを使っていた。

 ディロンは相手に考える隙を与えずに矢継ぎ早に質問を繰り返し、テナイアが回答する相手の仕草や表情の動きを見る。整合性を考える暇を与えぬ質問攻めによって、相手が嘘をついていれば矛盾が発生し、ディロンがそれを指摘できる。あるいはテナイアが、落ち着かなくなった相手の目線、仕草、体の動きなどから嘘の兆候を発見することができる。


「同時に、村人からの聞き込みも行いました。テオが村を離れたのは、間違いなく成人の儀で王都へ向かった時のみであるそうです」

「別世界から転生してきたなど、にわかには信じがたいですが……」


 ノーラン騎士隊長はかぶりを振ってため息を吐く。そこへディロンが反論した。


「問題はそこだ。もし彼が”一員”で、何か(はかりごと)があるならば、ここまで荒唐無稽(こうとうむけい)なことを言い出すとは考えにくい」

「召喚師解放同盟、ですか……」


 ノーラン隊長が唸る。


 召喚師解放同盟。

 二十年ほど前に突然現れた、召喚師のみによって結成された団体だ。

 その目的は、「戦場に必要不可欠な『召喚師』が虐げられている」現状を変え、召喚師中心の世界を作り上げること。

 そういえば聞こえは良いが、やっていることはただのテロ組織と変わらない。

 村や開拓村を廻っては、そこに所属する召喚師達を勧誘し、召喚師以外の者を皆殺しにする。もしも所属する召喚師が抵抗した場合、当然のようにその召喚師も抹殺する。


 モンスターによる襲撃で人間全体が危ういというのに、この期に及んで人が人の数を減らそうとするなど狂気の極み。それがコリンス王国、ひいてはこの世界にある様々な王国間での共通認識である。

 そのために、召喚師解放同盟の動きを調べて掴むこと。それが、王国直属騎士団に所属するディロンとテナイアが駐屯地に駐留していた理由だ。


 ディロンとテナイアがマナヤの尋問を行ったのは、召喚師解放同盟の関与を疑ったため。

 何らかの方法で故意にスタンピードを発生させ、村を襲わせることで、召喚師達を連れ出す足掛かりを作る。それが召喚師解放同盟の手口だった。

 ディロンは尋問の際、召喚師解放同盟の名、およびその創立者や関係者の名などをマナヤに聞かせた。他にも無関係の者の名をフェイクとして混ぜ、テナイアに反応を見させた。しかし、結局彼はそれらの名を聞いても動揺する様子を全く見せなかったし、フェイクの名にも反応の変化が無かったのだ。

 そして、彼がこの村から出たこともほとんど無いことが判明した。となれば、召喚師解放同盟と接触するチャンスは無かったはずだ。王都で接触・加入したのであれば、話は別だが。


荒唐無稽(こうとうむけい)なことを口にすることで、そう(あざむ)こうとしている可能性はありませんかな?」

「無くはない。が、リスクに見合わないと言わざるをえないな。結局、彼は我々に目をつけられてしまっている」


 ノーラン隊長の言い分に、ディロンは否定はしないが可能性は低いと語る。召喚師解放同盟はこれまでのところ、事前に官憲に悟られるような行動を起こすことを是としていない。方針転換の可能性も否定できないため、断言することは避けていたが。


「手ぬるいのではありませんか? 危険因子であれば、排除すべきであると考えますが」

「ノーラン隊長」


 過激なノーラン隊長の発言に、テナイアが待ったをかける。


「それでは、罪なき人をも巻き込んでしまいます。現状で人の数を無暗に減らすことは私達の信条に反することなのは、貴方にもおわかりでしょう」

「しかしですなテナイア殿、このまま召喚師解放同盟を野放しにしておけば、それこそ罪なき人々が死にゆきます」

「だからこそ、村人達が力を付けるチャンスを逃すわけにはいきません。そのためにマナヤを『英雄』に祭り上げ、指導を促進したのです」


 ディロンとテナイアは、騎士隊の者たちを使って、マナヤを村人に『英雄』視させるように誘導していた。そうすることで、村の召喚師達への指導をやりやすくし、マナヤの『動き』を観察するために。


「わざわざ英雄に仕立ててまで、手を回してやる意味はありましたかな?」

「スタンピードが起きて、今また開拓村へ進軍する必要が出てきたのです。短期間で手練れを増やすためにも、彼の指導が必要になります」

「あの者の指導を信用すると?」

「彼が召喚師解放同盟に関わっていなければそれで良し。関わっていたとしても、少なくともその手口を知る足掛かりにはなるでしょう。彼の戦い方から、召喚師解放同盟の戦術を分析できるかもしれません」

「泳がせるおつもりですか。それが罠である、という危険を冒す価値があるとは思えませぬが……」


 ノーラン隊長は、ここ最近のコリンス王国の対応に好印象を抱いていなかった。後手に回りすぎている、という印象が拭えないのだ。

 これ以上、村や開拓村が召喚師解放同盟によって混乱することは危険。故に、強引な方法を使ってでも召喚師解放同盟をまずは全力で叩き潰すべきであると、ノーラン隊長は考えている。にも関わらず、王国は『疑わしきは、罰せず』を貫きすぎていた。追撃をかければ首謀者を仕留めることができる、という状況になっても、国は撤退を指示してくることが多くなったりもした。


 そこへ、ディロンが指先で机をトントンと叩いて二人を落ち着かせる。


「いずれにせよ、今回の件は国王陛下にも報告する。大規模スタンピードをたった一人でひっくり返すことができる召喚師の存在……挙句、別世界からやってきたなどと嘯く。現時点では、我々の判断に余る」

「……マナヤと名乗る彼は、放置されるのですか?」

「監視は行う。明確に敵対しない限りは、泳がせる。彼が不審な行動に出たら、報告して頂きたい」


 そう言って、ディロンは掌を翻した。「解散」の合図だ。

 ノーラン隊長は、やや不満げながらも席を立ち、右掌を左胸に当てて一礼し、退室した。ディロンがため息を吐く。


「ディロン……」

「すまない、テナイア。お前を矢面に立たせてしまった」


 隣に座るテナイアに、小声で謝罪の言葉を贈るディロン。しかし、テナイアはかぶりを振る。


「問題ありません。”神託”の件を表沙汰にはできません」


 神託。

 それは文字通り、『神からの御言葉』を頂く行為だ。


 優秀な白魔導師は、死した者を『蘇生魔法』により甦らせることができる。もちろん代償を支払う必要があるし、死んで時間が経ち、魂が完全に消滅した場合は蘇生できない。成功率もお世辞にも高いとは言えない。

 だが蘇生に成功した者の大半が、死後の世界で神に出会い、神と言葉を交わしたという。これが”神託”と呼ばれ、その内容は基本的に国家機密となっている。


 もっとも、記録に残っているものも含めて、”神託”はおおむね同じ内容だ。

 すなわち、『召喚師をもっと優遇すること』。


 ここ数十年、スタンピードは増加の一途を辿っていた。

 その原因が召喚師の不足によるものであり、封印するモンスターの数が減ったことで瘴気が増えたこと。故に、召喚師を優遇してモンスターの封印率を高めるべし。

 細かい部分は”神託”ごとに異なるが、概要はだいたいがそのようなものだ。


 しかし、三年前にも久々に蘇生に成功し、”神託”を受け取った者が現れた。

 その”神託”の内容は、これまでのものとは大きく異なっていたのだ。


『近く、世界を救う召喚師が、救世主として降臨する』


 これが、召喚師解放同盟への対応が甘くなった理由である。

 召喚師の立場を変えようとする団体である以上、その中に”世界を救う召喚師の救世主”が存在する可能性があった。もしもそれが、”神託”通りに現れた神の使徒であったならば、無暗に征伐することは控えなければならない。

 首謀者を仕留めることができる状況で、仕留められない。それに歯がゆさを覚えているのは、ディロンやテナイアも同様だった。


 しかし、そこへ唐突に現れたのがマナヤだ。

 曰く、別世界からの転生者。召喚師の身でありながら、たった一人で大規模なスタンピードの半分ほどを処理。単独での上級モンスター『ヴァルキリー』撃破。神から『召喚師の戦い方を教授すべし』という使命を預かっているとも語り、実際にセメイト村所属の召喚師達へ指導を始めたいという。


 ――もし彼が、我々の求めていた『救世主』ならば――


 ディロンは考える。スタンピードの増える現状を変え、安全に召喚師達の立場を上げ、さらに召喚師解放同盟を生かしておく口実が消える。

 ディロンとテナイア、ひいてはコリンス王国が抱えていた問題を、一挙に解決できる一石となるかもしれない。


 しかし、ディロンもテナイアも、立場を考えればこそ慎重に判断せねばならない。


「最悪のシナリオは、マナヤ……いや、『テオ』も召喚師解放同盟の一員であり、”神託”の内容も知られている、というものだ」

「”神託”の内容が漏れていて、召喚師解放同盟がテオを送り込み、国に取り入って内部から崩壊させんとしている……」


 ディロンの呟きに、テナイアが後を続けた。

 もし、三年前の神託が召喚師解放同盟に漏れ、その内容に沿うようにテオを『マナヤ』と名乗らせ送り込んできたのだとしたら。

 コリンス王国は、召喚師解放同盟の罠に飛び込んでいくことになる。


「……それを見極める必要がある。騎士隊の召喚師長に、彼の指導を監視させ、思想を変化させようとしてはいないかを確認する。あわよくば、今回の進軍でその指導の信頼性を確認することができれば……」


 ディロンの言葉にテナイアが頷く。


「もしそれが召喚師解放同盟の策略に都合の良いように誘導するような思想や戦術であれば、彼は警戒対象となります。しかし、現実的に有用な戦術であると証明されたならば……」

「彼が信頼に足る人物であるかどうか。召喚師解放同盟に所属はしていなくとも、影響を受けてはいないか。確認することは他にもあるが」


 ――願わくば、彼こそが救世主であって欲しい。


 ディロンとテナイアは、切にそう願わざるを得なかった。

次回、再教育スタート。

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