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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第二章 救世の心構えと召喚師の真実
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86話 事後処理

「――『核』はどうだ、ヴァスケス」


 森の中。

 トルーマンがヴァスケスに問いかける。彼らは今、それぞれが自分のヘルハウンドに乗って一気にマナヤ達から距離を取り、山脈の中に潜んでいた。


「……我々が溜め込んだ力の、七割近くを消費してしまったようです」

「何だと!? 我々の今までの苦労は……!」


 乗っているヘルハウンド達が足を止め、ヴァスケスが手にした『核』と呼ぶ結晶を見つめながら報告。トルーマンが激昂し、怒りに任せて自身のヘルハウンドの背を殴る。


「まさか、ジェルクの奴があそこまで無遠慮に力を使うとは思っておりませんでした」

「何を無責任なことを! 『核』を使うと言い出したのはヴァスケス、お前ではないか!」

「……弁解の余地もございません」


 ヴァスケスも歯噛みする。もっとも、あれだけの力を使ったからこそあの場を切り抜けることができたのも事実だ。


 この『核』は、トルーマンが偶々見つけた黒い神殿にて発見したものである。

 見るからに禍々しいそれを手に取った瞬間、その『核』の意思をトルーマンは受け取った。これを完全にすれば、召喚師は自分自身が戦う術を得る。簡単な命令しか受け付けず柔軟には扱いにくい召喚モンスターとは違う。召喚師自身が、自らの思うままに力を振るえるようになると。それは、トルーマンの復讐のためにもぴったりの力であった。


 その意思を受け取ったトルーマンは、『核』を発見した神殿を使って計画を立てたのだ。

 この神殿には、『核』に人間の魂を吸わせることで瘴気を収束する能力がある。これを利用すれば、瘴気の濃いモンスター……すなわち、上級モンスターや最上級モンスターなどを人為的に生み出すことができる。

 人を殺したモンスターを、野良・召喚獣問わず『核』に近づける。そうすることで、そのモンスターに内包された人間の魂を『核』に移すことができた。人為的にスタンピードを起こす計画もちょうど良かった。モンスターにがっつりと人間の魂を吸わせることができるからだ。


 同時に、魂を吸った『核』を神殿のとある祭壇に納めることで、その人物が凄まじい力を発揮できるようになる。『核』に目いっぱいまで魂を吸わせれば、まさに世界を統べることができるほどの力を得られると『核』に教えられた。


 トルーマンは青筋を立てながらも冷静さを取り戻すべく、拳を握りしめる。


「仕方ない、か。終わってしまったことをこれ以上嘆いても意味はない。次の拠点で改めて力を蓄え直すしかあるまいな」

「はい」

「マナヤは死んだと思うか?」

「あれほどの力を放出したのです。殺し損ねられては困ります」


 二人が苦い表情になる。結局確認することもできず、早々にその場を離れざるを得なかったからだ。

 ジェルクが異常なほどの力を引き出していたため、枯渇する前に祭壇から『核』を抜き取らねばならなかった。力の七割を勝手に使った挙句、もしも肝心のマナヤを仕留めそこなったなどということになれば大損害だ。


 トルーマンが舌打ちする。


「『マナヤ』の戦い方、想像以上に凄まじいものだった。あれほどの事ができる者であれば、我々の陣営に加えたかったところだが」

「あれほどの実力を持っていたのです。その知識を我々が吸収し、同胞達にも伝えれば一気に国との力関係を覆すこともできたでしょう」


 それこそが、彼らがマナヤを勧誘しようとした理由だ。


「しかし、奴は我々とは相いれませんでした。下手に暗躍されるよりは殺してしまった方が良いでしょう」


 ヴァスケスは、マナヤと会話して強く彼の思想を実感していた。もしもマナヤが召喚師解放同盟に加わったとして、おそらく同胞達の結束を乱すだけだっただろう。

 トルーマンが鼻を鳴らす。


「ふん。最上級モンスターを二体も奪われ、『核』の力を七割も失い。それで我々が得たものは何だ?」

「……致し方ありません。あのままではトルーマン様がやられていた可能性もありました」

「チッ……スレシス村の襲撃はどうなっている」

「救難信号も上がらず、村の方角から火の手が上がっている様子も無い。と、なれば」

「失敗、か。くそ、撤退するしかないようだ」


 何もかもが失敗だ。マナヤを仕留めているならば、それが唯一の収穫であろうが。


「次の拠点へ移動中の者達に通達が必要だ。これまで以上に警戒せねばならん。あの『マナヤ』に鍛えられた召喚師達が、本格的に我々に牙を剥いてきかねん」

「はっ」


 トルーマンとヴァスケスが再び目を閉じる。彼らが跨っている二体のヘルハウンドが、森の奥へと再び走り出した。



 ***



「ひぃっ、ひぃっ……ち、ちくしょう」


 ジェルクは森の奥へと走りながら、息を切らしていた。


 連中を始末し、一気に名誉挽回を図るつもりだった。実際、あの『マナヤ』、いや影武者かもしれないが、彼を仕留めることができたのは功績に数えられるはず。

 だが他の連中が揃っている前で、いきなり『祭壇』の力を失ってしまった。『核』が抜き取られたためだろう。さしものジェルクも、単独で残る三人を相手するわけにはいかなかった。ジェルクでは、ディロン一人だけを相手にしてさえ勝ち目がないのだ。


「ヴァスケスの野郎……とことん、あっしに嫌がらせをする気だぁな」


 木の幹に手を着いて、荒く息を繰り返しながら悪態をつくジェルク。

 こんなところで、死んでたまるか。何が何でも生き延びてやる。ただその執念だけがジェルクを突き動かしていた。


 ――と。


「【エーテルアナイアレーション】!」

「がひぇっ!?」


 突然、巨大な黒いエネルギーがジェルクを背後から打ち据えた。

 途端に、全身から一気に力が……マナが失われていくのを感じる。


「鬼ごっこは終わりか?」

「ひ、ひぃっ……」


 ジェルクが来た道から悠々と姿を現した、ディロン。

 彼の目は怒りに燃えている。かつてないほどの殺気がジェルクに叩きつけられるのを感じた。


「し、死んでたまるかっ! 【狼機K-9(ケイナイン)】召喚っ!」


 だらだらと脂汗をかきながらも、ディロンへ掌を向け機械の狼を召喚するジェルク。


「……【フレイムスピア】」


 それを見て取ったディロンは、両手の手のひらを上に向ける。それぞれの手の上に炎が集まる。彼は二本の炎の槍を顕現させていた。


「ひ、ひゃはははは! とんだバカでやすねぇ! 【火炎防御(グレネイド・ガード)】!」


 ジェルクが安堵に打ち震えながら、狼機K-9(ケイナイン)に補助魔法『火炎防御(グレネイド・ガード)』をかけた。炎による攻撃を反射することができるこの魔法があれば、『フレイムスピア』で逆にディロンを貫くことができる。


「【行け】ぇ!」


 狂気に満ちた顔で、狼機K-9(ケイナイン)に突撃命令を下すジェルク。

 対するディロンは、瞳は怒りに燃えながらも冷徹な表情で両の手のひらを握る。


 ――ボシュウッ


 両手に形成されていた炎の槍を、発射前に二本ともわざとキャンセルした。


「【ヘイルキャノン】」


 即座にディロンが次の魔法を放つ。巨大な氷の塊がディロンの左手に形成され、狼機K-9(ケイナイン)に射出された。

 機械の狼に命中したその氷の塊は、淡いオレンジ色の膜に包まれたその金属の肉体にヒビを入れ、そして砕いた。


「な……」

「防御魔法を誘発させ、逆属性で攻撃、か。マナヤの教えは正しかったようだ」


 あっさりと狼機K-9(ケイナイン)を倒され慄くジェルクに、ディロンが悠然と歩み寄りながら呟く。

 ディロンは今、駐屯地からスレシス村へ向かう前にマナヤと交わした会話を思い出していた。


『仮に、敵の召喚師と戦うことになった場合。……我々は、どのように戦えば良いと考える?』

『……そうですね、例えば……逆属性で攻撃することです』

『逆属性?』

『はい。召喚師は炎の攻撃を「火炎防御(グレネイド・ガード)」で防げますが、冷気を防ぐ魔法は習得しません。冷気で攻撃するモンスター自体少ないですからね』

『つまり冷気で攻撃すべき、と?』

『いえ、その時は機械モンスターで対応されますね。機械モンスターは冷気が効かないものがほとんどです』

『では?』

『炎で攻撃すると、一度は見せかけるんですよ。相手が「火炎防御(グレネイド・ガード)」を使ってくれれば、しめたものです。火炎防御(グレネイド・ガード)は逆属性である冷気耐性を消してしまう。もうそのモンスターは冷気攻撃を防ぐことができなくなりますからね』


 思い返した彼との会話に、ディロンは一瞬悲しげに目を細める。


「こ、このッ……」


 ジェルクが後ずさりしながらも、必死に虚勢を張っていた。

 一方のディロンは、すぐさま掌をジェルクに向け、呪文を唱える。


「【クルーエルナパーム】」

「ぎゃああッ!」


 途端、手のひらから爆炎と精神攻撃のエネルギーが合わさった衝撃波が放たれ、ジェルクを打ち据えた。


「ぎっ、こっ、このっ……な、何!?」


 転げたジェルクがなんとか身を起こしつつ、召喚しようと掌を前に突き出す。だがそこで彼は気づいた。マナが、足りない。

 ディロンは再び、マナヤとの会話を思い出していた。


『それから、召喚師を相手にする時には精神攻撃を主体にするべきですね』

『ああ、それは術師と戦う際には基本だな』

『召喚師が相手の場合は特に、ですよ。なにせ召喚師は、自身がダメージを受けるとマナが回復しますからね』

『……何だと?』

『だから、下手に精神攻撃以外で攻撃すべきじゃありません。奴らに反撃の糸口を掴ませることになります。属性攻撃と精神攻撃、両方を織り交ぜて戦うべきですね』


 その助言に従い、ディロンは先ほど『ブラストナパーム』と『クルーエルウェイブ』の同時発動魔法である『クルーエルナパーム』を使った。炎の範囲攻撃と精神攻撃の範囲攻撃の合成魔法だ。ジェルクにダメージを与えると共に、そのマナをも削り取っていた。


「【アイススリング】、【クルーエルウェイブ】」

「がはっ、げはっ」


 軽い氷の刃を放ちつつも、即座に精神攻撃魔法で追撃。逃げ回るジェルクのマナ回復を阻害し続ける。


『召喚師がダメージを負う時、ダメージ量とピンチ度に応じてマナの回復量が増えます』

『ピンチ度?』

『ま、死にかけになればなるほど、攻撃によるマナ回復率が上がってしまうんですよ。だから召喚師を攻撃する時は、小さいダメージを小刻みに放つ。即座に、回復されたマナを精神攻撃で削る。この繰り返しです』


 軽い攻撃魔法を放ちつつも、精神攻撃も織り交ぜながらディロンはジェルクを少しずつ追い詰めていた。結果的に、ジェルクを長く苦しめ続ける拷問のような戦い方となった。


「な、何なんでやすか……てめぇ、てめぇ……!」


 全身から血を流しながら、ジェルクが怯えの混じった目でディロンを見つめる。

 先ほどから全くマナが回復しない。普段ならば経験上、自身が傷を負うとなぜかマナが溜まっていることが多かったジェルクだが、なぜか今回に限ってそれが通用しない。


「【クルーエルウェイブ】、【フレイムショット】、【クルーエルウェイブ】」


 ディロンは全く意に介さず、機械的にただひたすら攻撃魔法と精神攻撃を交互に連射していた。


『召喚師を追い詰めていけばいくほど、死にかけになってマナが回復してしまう率が上がります。なので、追い詰める度に少しずつ精神攻撃の比率を増やしていくと良いでしょう』


「【クルーエルナパーム】、【クルーエルウェイブ】、【クルーエルナパーム】、【クルーエルウェイブ】」

「ぎえっ、がぁっ」


 ジェルクを追い詰めていることを見て取ったディロンは、属性魔法と精神攻撃の交互撃ちから、属性魔法を精神攻撃との合成魔法に切り替えて放ち続けた。全ての攻撃に精神攻撃が含まれる形になり、ジェルクにマナを全く回復させずに追い詰め続ける。

 必死に逃げ回ろうとも全身を切り刻まれ、焼かれ、マナを削る苦痛に苛まれ。ジェルクはとうとう倒れこんでしまう。


『そして、最後の詰めでは一撃で確実に倒せる攻撃で締めるべきでしょう。一気に倒しきってしまえば、マナが回復しようが関係ありませんからね』


 奇しくも、マナヤがジェルクに殺された際に起こったことだった。


「……マナヤは、素晴らしい男だった」


 ディロンが手のひらに稲妻を纏った巨大な炎の塊を創り出した。そのまま倒れ込むジェルクへと語り掛ける。


「な、なにを……」

「精神的に危ういところはあったが、召喚師の立場を変えようと努力してくれた。その知識を総動員して召喚師のためを思い、他所の世界の事にも身を粉にして立ち向かってくれた。彼こそまさに、救世主に相応しい男だった」


 ディロンが炎雷の塊をさらに巨大化させながら、戸惑うジェルクに向かい恨み言のように言葉を続けた。


「そして、テオもまた素晴らしい少年だった。独りよがりの判断に踊らされず、心から召喚師達の事を思って行動することができる、立派な心根を持つ少年だった。……その前途ある二人の少年の未来を、貴様が奪った……!」


 こみ上げる憎悪により深く顔を歪めていきながら、ジェルクを睨みつける。


「な、何の話をして……」

「覚悟しろ。貴様だけは、骨すらも残さん」


 そして炎雷の塊を、ジェルクに振りかぶる。


「ちょ、ちょっとお待ちくだせぇ! あ、あっしを殺せば、同盟(ウチ)の情報が手に入りやせんぜ!」

「どうせ明かすつもりなど無いのだろう? 情報を吐いた後は殺されるということがわかっていて、わざわざ喋るとも思えん」

「……ッ!」

「マナの回復速度が早い貴様ら召喚師を拘束するのも、困難を極める。もはや、貴様らに手加減などはせん。危険の芽は早々に摘む。……テオとマナヤを殺した貴様が教えてくれた、教訓だ……ッ!」


 ジェルクが恐怖に顔を引き攣らせ、両掌をぶんぶんと振って必死に後ずさりする。


「ま、待った! い、いいんですかい!? 人を殺したりしちまって! 人が人を殺すのは、おたくらの理念に反するはずだ!」


 しかしディロンは全く表情を崩さなかった。


「ああ、その事ならば心配はない。私も既に、()()()()()()

「な……」

「死ね。同じく人間ではない貴様らに、もはや慈悲などは無いと知れ」


 ジェルクが涙、鼻水を垂れ流しながら腰を抜かす。

 ディロンが怒りの眼差しのまま、手のひらをジェルクへと振り下ろした。


「――【ギャラクシーバーニング】!」


 炎雷の塊が、ジェルクに叩きつけられる。


「――!」


 絶大な爆音と共に、荒れ狂う猛火と電撃。ジェルクは断末魔を発することすらできず、一瞬にして灰となった。同時に周囲の木々や草、果てには岩すらも蒸発させて吹き荒れる。


 その炎と稲妻の嵐が収まった後には、何もかもが消し炭になった黒い穴だけが残されていた。


「……覚悟しろ、召喚師解放同盟」


 その穴に背を向けて歩きながら、ディロンが誰にともなく呟く。


「絶対に、ただではすまさん……!!」


 煌々と、ディロンの目が収まりきらぬ憤怒を灯していた。



 ***



 スレシス村では、既に防衛線が終結していた。


 召喚師解放同盟は森の中に潜んだまま長時間スレシス村を攻めていた。その結果、その森に野良モンスターも集結してくる。野良のモンスターは近場にいる人間へと攻撃を仕掛ける本能を持つ。召喚師解放同盟の者達が標的になり、彼らは撤退せざるを得なくなったのだ。


 撤退する中、逃げ遅れた者が三名いた。スレシス村所属の召喚師達が主導して野良モンスターを処理しつつ、その三名を村に連行していた。彼らのマナが回復しないよう、精神攻撃を行う『サーヴァント・ラルヴァ』をつけて。


「エメット、ケルソン、シア……お前たち」


 騎士隊の手によって鎖で拘束された男二人、女一人の召喚師達。彼らを哀しげに見下ろしているのは、スレシス村の召喚師達を統括している男。


「生きていたのだな。……そして、召喚師解放同盟などに与していた」

「……」


 彼の問いに、三人は騎士隊に押さえつけられたまま目を逸らして沈黙で答える。至近距離で吹き鳴らされているサーヴァント・ラルヴァの笛に顔をしかめながら。

 彼らこそ、『間引き』で行方不明になり死んだと報告されていた、かつてこの村に所属していた召喚師達だった。


「何をしているのですか、ダラス!」


 人だかりになっていたその場へと慌ててやってきたのは、この村の村長ガルドと村長補佐ミラ。


「敵をわざわざ村に連れてくるなど! 騎士隊の方々、速やかにそのテロリストどもを――」

「村長。この場は我々に任せてはもらえませんか」


 いきり立つ村長を、召喚師達を統括しているダラスが俯き気味に抑えた。それに村長が目を剥いて反抗する。


「何をバカな! テロリスト相手に情けなど無用でしょう!」

「テロリストとは言いますが、彼らに限っては元々この村に所属していた召喚師達です。……騎士隊には突き出します。それまで、我々に話をさせて貰いたい」

「こ、この村を襲ってきた時点でもはや村人でも何でもない! 村の裏切り者相手に何を悠長な――」

「――彼らが村を裏切ったのは! 彼らの命が脅かされたのは、誰の責任だったとお思いか!!」


 思わずダラスの言葉に力が篭った。村長が言葉に詰まってしまう。村の剣士ダスティンが村所属の召喚師達を陥れていたという報告は、既に騎士隊の者達から受けていたからだ。


「そうだ、話くらいはさせてやっても構うまい」

「この襲撃を抑えられたのは、彼ら召喚師たちのおかげなんですから」

「ダスティンの奴が暴走した結果なんだろう! 騎士隊には突き出すって言ってるんだから、いいじゃないか!」


 集まってきた村人達からも、ダラスに味方をする声が飛んできた。

 建築士の者達が多い。村長もそんな声にたたらを踏んでしまった。竜巻がそこそこ頻繁に発生するこの村では、建築士の発言力が強い。


「村長、彼らに任せましょう」

「……ミラ」


 村長ガルドの傍に立っていた補佐のミラが、村長を諭す。


「召喚師の方々が居なければ、襲撃は防げませんでした。それは村長もおわかりでしょう」

「……」

「召喚師解放同盟とやらだけではありません。野良モンスターの襲撃についてもです。報告を信じるなら……今後、『間引き』でのモンスター戦は苛烈を極めるでしょう。召喚師の方々の戦力が無ければ、この村は立ち行きません」

「……そう、ですね」


 ミラに説得され、村長ガルドも目を伏せて数歩下がった。襲撃時、召喚師達の働きの数々は村長自身も目にしていたからだ。それにテナイアからの報告で、今後は野良モンスターの数が増える可能性が高いことも把握していた。


「――エメットさん、ケルソンさん、シアさん」


 静まり返ってきた所で、その場にライアンが進み出てきた。彼を目の当たりにした召喚師解放同盟の三人は、そのライアンを憎々しげに睨みつける。


「……ライアン、お前」

「お前が裏切ったせいで、もう全てが終わりだ」

「よくも、のこのこと顔を出せるものね。私達を笑いに来たの」


 そんな彼らの言葉に、ライアンはぎゅっと目を強く瞑った。だが拳を握りしめつつ、再び彼ら三人を見返す。


「……オレがこんなことを言う資格は、本当はない。でも、あなた達は召喚師解放同盟のやり方で救われると、今でも思っているんですか」

「……っ」

「復讐心に駆られて、故郷の村人達を殺して! 自分の家族まで殺して! そんな人間が未来を切り開けると、まだ思っているんですか!」

「な、何言ってんだ! お前だってさっきまでそのつもりだったじゃないか!」

「ええそうですよエメットさん! だから、今の召喚師の皆さんを見た今だからわかる! 親殺しになったオレ達が主導する人類になんて、希望はない!」


 ギンと目を見開いて三人を睨みつけるライアン。そして背後に立っているスレシス村の召喚師達を示すように腕を仰いだ。


「みんなを見てくださいよ! 召喚師だって、その気になれば村人と共存できる! 家族殺しになんてならなくたって、召喚師は人間らしく生きていけるんだ!」

「……っ、だったらどうして! どうして私達が居る時に、それができなかったのよ! どうして、私達だけ……っ!」


 拘束されたまま、シアが涙を零しながら項垂れてしまった。他の二人も悔しさに唇を噛んでいる。

 そこへ、ダラスが進み出た。


「確かに、今の我々が村人達とも共に歩めそうになっているのは、マナヤ君という幸運に恵まれたからだ。我々だけの力ではない。それは認めよう」

「では何か! 我々三人は、ただ運に見放されたというだけでこのような仕打ちを受けているということか!」

「残念ながらその通りだケルソン。もう少し彼が早く来てくれていれば……そう思ったこともある」

「……ッ」

「だが……だからこそ、手遅れになる前に、これだけはしておきたかった」


 と、ダラスが後方へと目を向けた。その先から八人ほどの団体がやってくる。


「な……父さん、母さん、兄さん!?」

「親父! お袋! な、なぜ……」

「お父さん! お母さん……テサ」


 召喚師解放同盟三人の家族達だ。


「……エメット。生きて、いたのだな」

「ごめんなさい、ケルソン……私達が、不甲斐ないばかりに」

「姉さん……良かった。生きてて、よかったぁ……っ」


 家族達が、三人を見て涙を流す。

 三人の目から憎悪の色が消えていく。人間らしい、親愛の情が灯ってきた。


「私が呼んだ。今のお前たちの家族は、お前たちを避けるつもりなど、ない。何を今さらとも思うだろうが……そんな彼らを無惨に殺すことが、本当にお前たちがやりたかったことだったのか」

「う……うぅ……っ」

「お前たちにどのような処分が下るかは、私の知る所ではない。だが先に、せめて……家族とくらいは和解しておけ。お前たちに人の心が残っているならな」


 そう言って、ダラスは数歩下がっていった。入れ違いに三人の家族が前に進み出る。

 騎士隊に監視されている状況下、三人に触れるほど近寄ることは許されない。だがそれでも許可される距離まで歩み寄った家族達は、泣きながらその場に崩れ落ちた。三人もぼろぼろと涙を流し続ける。


 そんな彼らの姿を、村人達もやるせない思いで見つめていた。

次回、第二章最終回。

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