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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第二章 救世の心構えと召喚師の真実
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81話 予期せぬ戦力

 テナイア達の目的地である、南東の森の中。


「――【封印(コンファインメント)】!」


 アシュリーの簡易版『ライジング・ラクシャーサ』、そしてマナヤのフェニックスで追撃を受けて倒れたダーク・ヤングを、マナヤが封印する。トルーマンは治癒魔法の準備をしていたため封印が遅れた。


「き、貴様ァ……ッ」


 ギリギリと歯ぎしりするトルーマン。鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)に加えダーク・ヤング、最上級モンスター二体をマナヤに奪われてしまった。


「【アイスジャベリン】」


 奥の方では、ディロンの放った氷の槍が召喚師の一人の胸元を貫き、トドメを刺していた。


「【クルーエルウェイブ】」

「うああああッ!」


 続けさまに呪文を唱え、黒い波動がもう一人の召喚師を捉えていた。マナを削る攻撃魔法により、その召喚師は苦痛に顔をゆがめ、召喚するマナを失う。


「【シャドウパルチザン】」

「がふっ……」


 さらに闇撃を収束した槍で追撃し、召喚師の腹を貫いた。口と胴体から血を流しながら倒れ込む二人目の召喚師。


「っ……」


 その容赦のなさと苛烈さに、シャラがひゅっと息を漏らしながら顔を真っ青にする。人が人を殺すところを初めて見たからだ。

 当のディロン自身は、一切揺らがぬ冷たい目のままトルーマンとヴァスケスへと目を向ける。


「次は、お前たちの番だ」


 トルーマンはもちろん、ヴァスケスもマナヤの召喚モンスターによって完全に手出しができない状態になっていた。特にまともにマナヤと相対していたヴァスケスはボロボロだ。彼が命を繋いでいるのは、マナヤがアシュリーのサポートにも力を()いていたからに過ぎない。


「――トルーマン様! もはや、()()を使うしかありません!」


 ヴァスケスが必死に声を絞り出し、トルーマンへと告げる。


「な……バカを言うな! これまでの我々の苦労はどうなる!?」

「全てが失われるわけではありません、多少は『核』の力が残ります! 次の拠点で、再び力を蓄えれば……!」

「ふざけたことを! しこたまモンスターを取られて、丸ごと諦めろというのか!?」

「しかしこれ以上は我々が持ちません! まだ次の拠点でチャンスはあります!」


 ――『核』の力だと?


 トルーマンとヴァスケスの口論に、マナヤも訝る。だが、何を企んでいるか知らないがここで逃がすつもりは毛頭ない。


「逃げられると思うのかよ! 【行け】!」


 すぐさま、マナヤがヴァルキリーを突撃させる。トルーマンへと戦乙女が迫った。

 それを見たヴァスケスが慌てる。


「トルーマン様ッ!!」

「……ッ! おのれ、おのれェッ!!」


 全てを呪うかのような鬼神の形相になったトルーマンが、懐から何かを取り出す。

 ゴルフボールほどの大きさをした、黒い多面体の結晶だ。瘴気にも似た、禍々しい気配を放っている。


「【猫機FEL-9(フェルナイン)】召喚!」


 さらにトルーマンは猫機FEL-9(フェルナイン)を召喚した。マナヤのヴァルキリーがそちらへと攻撃対象を変更し、その隙にトルーマンが森の奥へと逃げ込もうとする。


「行かせん! 【スタンクラッシュ】!」


 そこへディロンが呪文を放つ。衝撃を発生させることで、敵を任意の方向へと吹き飛ばす攻撃魔法だ。


「がハッ」


 しかし、ヴァスケスが飛び出して飛んできた衝撃波を庇った。トルーマンの代わりに側面へと吹き飛ばされ、禍々しい遺跡の壁面へと叩きつけられた。

 トルーマンはそのまま、森の奥へと走り抜けていこうとする。


「ライジング・フラップ!」

「ぐあッ!?」


 アシュリーが一瞬でトルーマンへ追いつき、背後から斬りつけた。地面を転がるように転倒し、手にしていた結晶を取り落としてしまうトルーマン。

 すぐさま、ディロンが追撃した。


「【ゲイルフィールド】」


 紫色の旋風がトルーマンを取り巻く。鈍化の風に捕らわれたのだ。これでトルーマンはまともに動けなくなるだろう。


「何、これ?」


 それを確認したアシュリーが、近くに転がった黒い結晶へと近づき、それをつまみ上げる。

 しかしその瞬間、結晶から波動のようなものが放たれた。さらに黒い触手のようなものが結晶から飛び出し、アシュリーを絡めとろうとする。


「な――」

「アシュリー手放せッ!!」


 マナヤの叫びに釣られるまでもなく、アシュリーはとっさに手にした結晶を投げ飛ばした。途端に、結晶から周囲へと放たれていた波動も収まる。結晶は触手ごと森の奥へと消える。


「【戻れ】……アシュリー、大丈夫か!?」

「え、ええ、あたしは何ともないけど」


 慌ててマナヤが駆け寄る。当のアシュリーは、驚いたようではあったがケロリとしていた。結晶をつまみ上げた自身の左手を覗き込んでいるが、何か悪影響を及ぼしている様子は無い。


「トルーマン。お前は何をしようとしているのだ」


 先ほどの黒い結晶のことは、ディロンも把握しているわけではないらしい。油断なくトルーマンとヴァスケスを視界に入れながら問い詰める。

 紫色の旋風に捕らわれたトルーマンは、歯ぎしりしながら沈黙を貫いていた。


「っ! 皆さん、敵が来ます!」


 すると突然、シャラが鋭い声を上げた。トルーマンが向かおうとしていた森の奥を指さしている。

 途端に、先ほどの黒い波動がその方向から放たれるのを感じた。先ほどの結晶と同じ感覚だ。


「な、何だ!?」


 突風のように吹き付ける波動に、思わずマナヤが目を腕で庇う。

 そして、森奥から一つの人影が現れた。いや、はたしてそれを人影と呼んで良いものか。


「げへ、へへへへ……」


 黒髪のその人影は、野良モンスターのような黒い瘴気を纏っていた。さらにその背中から、先ほどの結晶と同じ黒い触手が蠢いている。

 全員が警戒して身構えた。


「ジェルク!? まさか貴様が『祭壇』を!?」


 ヴァスケスが瞠目して問いかけた。どうやら彼の顔見知りらしい。それを、目の焦点が合っていないような曇った瞳で見返すジェルクという男。


「ゲヘヘヘ……ヴァスケスの旦那ぁ。こりゃあいいモンでやすねぇ。今なら、あんたもこの手で八つ裂きにできそうだぁ」

「ジェルク、抑えろ! それほどの出力、『核』を力を使い尽くすつもりか!?」


 ヴァスケスが焦ったように彼へと恫喝するが、ジェルクは狂ったように嗤い飛ばす。


「げひゃひゃひゃひゃッ! 知ったこっちゃねえでやすねぇ! あんたらの小言はもう聞き飽きてんでやさぁ!」

「――ジェルク! そこの『マナヤ』を始末しろッ!」


 突然、忌々しげな表情ながらトルーマンが彼に命じた。

 ぎょろり、と禍々しいオーラを纏ったジェルクがマナヤ達の方を睨む。


「ゲヘヘヘ、言われるまでもねえでやさぁっ! あんたらで憂さ晴らしさせていただきやすぜぇ……まずは、忌々しいあんたでさぁッ!!」


 と、弓を引き絞るように体を屈めたジェルクが地を蹴る。凄まじい速度でマナヤの方へと飛び出した。


「【アイスジャベリン】」

「【バニッシュブロウ】!」


 そうはさせじと、ディロンの魔法とアシュリーの技能がジェルクを正面から迎え撃つ。巨大な氷の槍と敵を圧し飛ばす剣撃が、黒い瘴気を纏うジェルクを捉えた。


「無駄でさァッ!」

「何!?」

「うそ!?」


 だが、二人の攻撃は突然弾かれる。ジェルクの周囲に、瘴気のバリアのようなものが展開されたのだ。全く勢いを衰えさせず、ジェルクはマナヤへと突き進む。


「【行け】! 【火炎防御(グレネイド・ガード)】!」


 咄嗟にマナヤは、傍らのヴァルキリーと上空のフェニックスの攻撃命令を下す。フェニックスの火炎にヴァルキリーが巻き込まれても良いよう、火炎防御(グレネイド・ガード)もかけた。


「鬱陶しいでやすねェ!」


 しかし、フェニックスの爆炎もヴァルキリーの長槍もジェルクには全く通らない。疎むような目でヴァスケスが二体のモンスターを睨み、一気に上空へと跳躍する。


「げひゃひゃひゃひゃッ!」


 人間業とは思えない身体能力で、一気にフェニックスの元へと跳び上がったジェルクが炎の鳥に拳を突き出す。黒い触手がその拳にまとわりつき、そのままフェニックスの体を貫いた。一撃でフェニックスが倒され、魔紋へと還る。


「な……【封印(コンファインメント)】ッ!」


 とっさに、魔紋を封印するマナヤ。連中に先に封印されなくて良かった、と一瞬安堵するも慌てて周囲を見渡す。トルーマンとヴァスケスの姿が見えない。


「シャラ! トルーマンどもはどっちだ!?」

「あ、あっちに向かいました! どんどん離れていきます!」


 唯一『森林の守手』で敵の位置を把握できるシャラに尋ねると、より森の奥の方を指さした。ジェルクとやらがやってきた方向だ。どうやらスレシス村へと行かれるわけではないらしい。


「よそ見してんじゃねぇやぁ!」

「がッ」


 しかし突如ジェルクが空から降ってきた。触手を纏った黒い拳で、マナヤを上から殴りつける。地面を揺らし、クレーターを作りかねない勢いでマナヤの体が叩きつけられた。


「うん? まだ生きてる? しぶといでやすねェ。それならッ――」

「マナヤさん!? 【リベレイション】!」

「げひっ!?」


 シャラがすぐさま、錫杖を振るって魔法を放つ。衝撃波がジェルクを捉え、今度は無効化されずにジェルクが吹き飛ばされた。


「効いた!?」


 それを見たアシュリーが目を見開く。先ほどアシュリーが放った『バニッシュブロウ』は全く効かなかったのに、今のシャラの攻撃は通じた。


「まさか! ぐッ……【精神獣与(ブルータル・ブースト)】!」


 何とか顔を上げたマナヤが、咄嗟に閃いて精神獣与(ブルータル・ブースト)を使う。ヴァルキリーの長槍が黒いエネルギーを帯びた。

 黒い長槍をジェルクへと突き出すヴァルキリー。それを受けたジェルクの瘴気バリアが一瞬揺らぐ。


(そういうことか!)


 マナヤはゲームでの経験から、何となくそのバリアの性質が読めた。

 シャラの『リベレイション』だけがジェルクに通じた。対して、アシュリーが放った同様の『敵を吹き飛ばす』攻撃は完全に無効化されている。その様子にマナヤは見覚えがあった。『レイス』と同じ特性だ。

 上級モンスター『レイス』は、いわゆる幽霊のようなモンスターだ。ゲームではHPがゼロの代わりにMPだけを持つモンスターで、『精神攻撃』以外の一切の攻撃が効かない。そして、純粋な威力による吹き飛ばし攻撃では全く動じないが、ダメージを伴わない吹き飛ばし攻撃だけは通じるという特性も持っていた。


 つまりあれは、レイスのように『精神攻撃』もしくは『ダメージの無い吹き飛ばし攻撃』しか効かないようになるバリアなのではないか。


「ディロン! 精神攻撃だ! 【精神防御(グルーミング・ガード)】!」

「【クルーエルウェイブ】」


 マナヤが叫んでヴァルキリーに防御魔法をかけた直後、即座に反応したディロンが精神攻撃の範囲攻撃魔法を放つ。それに捕らわれたジェルクのバリアが更に大きく歪んだ。


「ケッ、やっぱてめえが一番鼻もちならねぇってコトでやすねぇッ!」


 般若のような怒りの形相を貼り付け、ジェルクが再びマナヤへと一直線に飛び込んでくる。


(くそ、紋章防壁を……まてよ)


 召喚して防御しようとしたマナヤだが、今のマナ残量に気づく。

 もう少し溜まれば、最上級モンスターが召喚できるだけのマナが確保できる状態だ。


(いっそここは、『ドMP』で受ける!)


 最上級モンスターで対抗すれば、この瘴気バリアを剥がしやすくなるはず。

 そう判断し、マナヤはあえて避けずに仁王立ちした。『増命の双月』のおかげで、今の自分はHP(生命力)も高まっている。先の一撃から推測して、あと一撃くらいなら十分耐えきれるはず。


 が、直後。


「ヒャァッ!」

「な――」


 ジェルクのその体から、ゴワッとより一層強烈な瘴気が吹き荒れた。

 同時に突っ込んでくる速度も一気に加速。

 やばい、と思った瞬間には……



 ――ドシュウッ


 触手を纏った腕が、マナヤの胴体を貫いていた。



「マナヤ!?」

「【リベレイション】! マナヤさんっ!!」


 血相を変えたアシュリーが全力で駆け寄る。シャラがもう一度リベレイションを放ち、ジェルクを吹き飛ばす。


 腹から背中まで貫通する、大きな風穴をあけられたマナヤ。吹き飛んでいくジェルクを見つめながら、前方に掌を差し出す。


(バカが。お前のおかげで、大量のマナが――)


 ――あれ?


 がくり、と両脚から力が抜けていく。

 前に差し出した腕も、勝手にだらりと垂れ下がっていく。


 ――なんだよ。せっかく、マナが溜まったってのに……


 上体がぐらりとよろめく。

 踏ん張る事もできず、マナヤの視界が斜めに傾いていく。


 ――何やってんだよ、俺。さっさと召喚しねえと、アシュリーが……シャラが……あぶねえのに……


 真っ青になって自分に駆け寄ってくるアシュリーが見える。

 絶望の表情に打ちひしがれたシャラの表情が見える。


 ――動けよ、俺の体。……テオの命だって、かかってんだ……ぞ……


 しかし、彼の意に反して全身が冷たくなる。

 アシュリーとシャラの映った視界も、暗くなっていく。

 息を吸うことも、声を出すことすらもできなくなっていく。


「――ゲヘヘヘ……まずは一人、でやすねぇ」


 薄れゆく、意識と視界の中。

 ジェルクの下卑た声が最後に耳に届き……




 ……マナヤの意識は、完全に途絶えた。

……次回。

大どんでん返し劇、開幕。

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