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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第二章 救世の心構えと召喚師の真実
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79話 スレシス村防衛戦 窮地

 一方、スレシス村。

 召喚師解放同盟によるモンスター襲撃の報を受け、非戦闘要員の牧場地下シェルターへの避難が開始されていた。


 だが、避難がもたついている。モンスターの襲撃すらそうそう起こらないので、避難場所を把握していない村人が多かったのだ。

 そのため、非戦闘要員を護衛する役割に回っている戦士達が避難誘導を行っていた。


 テオの両親である、スコットとサマーも避難誘導を手伝っていた。が――


「くっ、こんな時に! サマー、まだ来るのか!?」

「まだ後ろから来てるわ! こんな時に、モンスター襲撃なんて……!」


 彼らは、避難誘導の最中にモンスター襲撃を受けていた。


 召喚師解放同盟ではない。瘴気を纏っている、野良モンスターの襲撃だ。召喚師解放同盟が手を引いたため、村周辺の森の中でモンスターの出現頻度が上がっていたのだ。

 加えて、先日の竜巻の影響も受けていた。防壁が竜巻でダメージを受け脆くなっていたのだ。そのため今日突如として崩壊し、野良モンスターが入り込んできてしまっていた。


 今スコット達が居るのは、村はずれの広場のようになっている場所。周囲を石造りの家に囲まれた、少し開けた場所だ。

 スコットは誘導していた人たちを岩壁を張って守っていた。家の間から攻めてくるモンスター達を抑えるべく、その通路を即席の岩壁で塞ぐ。さらに、石の槍を地面から突き出してモンスターへの攻撃も行っていた。サマーは索敵能力を利用しての敵の位置把握だ。

 とはいえ、建築士であるスコットの攻撃力はそこまで高くない。歴戦の経験で並の建築士よりはずっと能力が高い彼だが、壁を張り続けながら攻撃も同時に行うのであればどうしても火力が不足する。


 せめて弓が使えれば、と手にした弓を右手で握りしめてサマーが嘆いた。先ほど壁越しに攻撃してきたコボルドの矢を腕に受け、戦闘不能になってしまった弓術士の物だ。

 サマーは左腕を欠損しているため、弓が引けない。矢を口で咥えて射ることも考えたが、コントロールが上手く効かない。現役の頃は左手で弓を持ち、右手で矢をつがえていたからだ。右手で弓を持ちながら引くのは勝手が違う。それに、”口で咥えて”ではやはり『技能』を使うことができなかった。


 他にも数名の戦闘要員が共に戦っている。しかし例によって完全に平和ボケしてしまっており、複数モンスター戦を前にすっかり萎縮していた。ロクに攻撃ができていない。

 そのせいで、今彼らは全方位をモンスターに囲まれてしまっていた。スコットを始め建築士の壁で抑え込みつつ、弓術士や黒魔導師などが攻撃を放っている。だが慣れていないのか散発的で、数をうまく減らすことができていない。早々にマナ切れを起こし始める者や、壁越しに矢を放ってくる敵モンスターの攻撃で倒れる者が増えてきた。

 唯一、テオに教育された召喚師がいればなんとかなった可能性もあった。しかしあくまで誘導要員であるスコット達のチームには、召喚師が一人もいない。

 それを歯がゆく思いながらも、スコットはなんとか保たせていた。後方でガタガタと震えながら、この広場中央に集まって蹲っている人々を守るためにも。


 その震えている人々の中で、特に怯えている少女がいた。茶色い短髪の少女――ケイティだ。


「い……嫌……」


 過去に故郷の開拓村を滅ぼされた経験から、彼女は完全にパニック症候群になってしまっていた。


「うわあッ! まずい、破られた!」


 一角を担当していた建築士が、悲鳴に近い声を上げる。

 彼の前にある岩壁が叩き割られ、牛頭で大斧を担いだモンスター『ミノタウロス』が入り込んでくる。


「ひ、ひぃっ」


 その建築士は、壁を破られたことで怯えて下がってしまう。

 彼も『間引き』では、大人数で一体のモンスターをタコ殴りにする人海戦術に慣れきってしまっていた一人。そのため、少数でモンスターと対面しなければならないことに覚悟が全くできていない。


「お、おい! 逃げるんじゃない! その人たちを守らなきゃ……くっ!」


 スコットが慌ててその建築士に声をかけるも、彼の耳には届いていない。

 すぐにでも駆け付けたいが、目の前の壁を放置するわけにもいかない。しかも、他の場所でも建築士が張っている壁が崩れ始めた。

 長らく、この村の建築士達は戦闘で岩の槍を突き上げて攻撃することにしか使っていなかった。そのため彼らは壁の強度を維持することができない。時間をかけて家や防壁を建てる際と違い、即席の壁を作る能力が劣ってしまっていたのだ。


 広場の中央で縮こまっていた者達が、ミノタウロスから逃げるように広場中央を離れていく。

 しかし一人だけ、動くことができずに震えながら蹲っている。ケイティだ。


「い、いや……っ! 助けてぇっ……!」


 足がすくんで動かず、ミノタウロスを怯えた目で見上げながら命乞いをすることしかできない。当然、そんな命乞いを聞くようなモンスターではない。


「……っ!」


 サマーが意を決し、再び矢を口で咥えて射るのを試みる。

 だが、間に合わない。ミノタウロスが、ケイティ目掛けて真っすぐと突撃していき……



「――【跳躍爆風(バーストホッパー)】!」



 突然、そんな声と共に破裂音が鳴る。何者かが壁を跳び越えて広場の中に飛び込んできた。

 ドズン、と重い音と砂煙を立てて落下してきたのは、瘴気を纏っていない『ゲンブ』。


 そして、その上に乗った赤毛の少女……ティナ。


「ティナ!?」

「ケイティ!」


 その見覚えのある後ろ姿に、ケイティが驚いて声を上げた。ティナが、幾分か輝きを取り戻した目でケイティを見つめ返す。


「ティナ、あなた……!」


 ティナのその姿を見て、ケイティの声が震える。

 ティナは、ぼろぼろだ。全身あちこちに敵モンスターによる物と思しき傷を負い、息もやや粗い。


「……ケイティがこっちに居たって聞いて。モンスターまで襲ってきたっていうから」


 肩で息をしながらも、ケイティにやや寂しげに微笑んで見せるティナ。ここに飛び込むため、モンスター達の群れを突っ切って無茶をしたようだ。

 しかしその間にも、ミノタウロスは接近してきていた。ゲンブの上に乗ったままのティナ目掛け、ミノタウロスが斧を振り下ろす。


「ティナ!!」


 ケイティの叫び声とほぼ同時に、一本の矢がミノタウロスの肩口に突き立った。サマーが苦労して口で射ったものだ。

 しかし、それだけではミノタウロスは止まらなかった。


「くっ」

「ティナ!」


 間一髪、ティナはなんとかゲンブから転げ落ちるようにして斧を避けた。

 振り下ろされた斧はゲンブの甲羅を叩き割る。しかしゲンブはそれだけでは倒れず、負けじと頭突きでミノタウロスに反撃。


「ティナ! あなた……!」

「ケイティ……大丈夫だよ。ケイティは、私が守るから」


 ケイティに寂しそうに笑いかけ、ティナは再びミノタウロスへと視線を戻す。その横顔に、ケイティはズキンと胸が痛んだ。

 ティナは、立ち向かおうとしている。過去を振り切って、現在(いま)を守るべく戦えるようになっている。


「【猫機FEL-9(フェルナイン)】召喚、【レン・スパイダー】召喚! 【行け】!」


 ティナは早速、テオから教わった猫機FEL-9(フェルナイン)による囮戦術を行った。さらにその後方にレン・スパイダーも配置し、敵の動きを鈍化させながら援護射撃できる準備を整える。


「ひっ」


 近距離に召喚されたモンスター達。それにケイティはトラウマを呼び起こされ、恐怖に顔が引き攣る。


「うわあッ! まずい、こっちも!」


 続いて、今度は左隣の通路を塞いでいた壁も崩れ始める。その奥から、銀色の巨大なカニのようなモンスター『ナイト・クラブ』がのっそりと瓦礫を乗り越えて入り込んできた。

 そのナイト・クラブは、ミノタウロスと交戦していたティナの猫機FEL-9(フェルナイン)に引き寄せられ、そちらへと近寄る。

 しかし、タイミングが悪かった。


「あっ!」


 丁度、ミノタウロスの斧で猫機FEL-9(フェルナイン)が倒されてしまった。ナイト・クラブが侵入してきたことに気を取られ、ティナの治癒魔法が間に合わなかった。

 ギョロリ、と巨大な蟹がが最寄のケイティを睨んだ。半端にナイト・クラブを猫機FEL-9の方向へ移動させてしまったことが裏目に出た。


「――ッ」


 完全に自身に目を付けられ、刺々しく禍々しい見た目をしているナイト・クラブを前に、ケイティは恐怖で声が出なくなってしまう。


「ケイティ!!」


 それに気づいたティナが悲痛な声を上げる。ここに辿り着くまでに結構無理をしたティナは、今マナが足りない。

 ナイト・クラブが、ケイティの近くまで寄ってくる。そしてその巨大なハサミを彼女に振り上げる。


「いやあああああッ!!」


 ようやく声が出たケイティの喉から、悲鳴が迸り……



 ……ティナの背が、斬り裂かれた。



「ぐ……っ」

「ティナ!?」


 ぱっと鮮血を背中から散らしながらも、懸命にケイティを庇うティナ。目を開けたケイティが、悲鳴に近い声を上げる。

 しかし意に介さずナイト・クラブは再びティナの背へ、ハサミを。新たな鮮血を舞わせながら、ティナは必死に耐えた。


「ティナ、やめて! 死んじゃうよ!」

「っ、【牛機VID-60(ヴィドシックスティ)】召喚!」


 ケイティを庇い続けたティナは、マナが溜まり即座に振り向いた。紫色の牛の姿をした機械人形『牛機VID-60(ヴィドシックスティ)』を召喚する。押しのけられたナイト・クラブのハサミと、牛機VID-60の角がぶつかり合った。


「ティ……ティナ!?」


 痛みにあえぎながら膝をつくティナに、ケイティが慌てて手を伸ばしながら声をかける。しかし、ゆっくりケイティの方へと振り向いたティナは……


 とっさに、ケイティを突き飛ばした。


「痛っ――」


 尻餅をついてしまうケイティ。文句を言おうと、顔を上げてティナに向き直った。

 けれども、突き飛ばしたティナの右肩に、矢が突き立っていた。


「え……」


 その光景に、まるで現実味が無いかのように茫然とするケイティ。

 しかし、左方からさらにどんどん矢が飛び込んでくる。岩壁が張られた向こうから、コボルド達が矢を曲射の要領で射かけてきたのだ。


「か、はっ……う」


 さらに、次々とティナに突き立っていく矢。しかし、ティナはそれでもその方向を向いて、さらにモンスターを召喚した。


「け……【ケンタウロス】、召喚……っ! 【竜巻防御(ゲイル・ガード)】……!」


 すぐさま、左方にケンタウロスが召喚され、コボルドの矢をその身で受け止めた。その直後、竜巻防御(ゲイル・ガード)が効果を発揮し、ケンタウロスへと射かけられる矢が左右へと逸れていく。

 それを見届けたティナはケンタウロスに伸ばした手を降ろし……どさりと地面に倒れ込む。そのまま、地面に血が溜まりはじめた。


「……ティナ? ティナぁっ!!」


 ケイティはモンスターへの恐怖も忘れ、ティナに縋りつくようにしてその体を助け起こした。仰向けにしたティナはゼイゼイと荒く息をしながら、弱々しくケイティを見つめ返す。


「ケイティ……やっと、目、合わせて、くれたね……」

「ティナ! しっかりして! 白魔導師さん、早く!!」


 ケイティの必死の悲鳴に、ただ一人だけいた白魔導師がすぐに駆け付けた。すぐ近くにいるティナの召喚モンスターにやや怯えながらも、ティナに治癒魔法の光を浴びせる。

 けれども、ティナは呻くばかりで力を取り戻している様子が無い。治癒魔法を受ければ勝手に抜けていくはずの矢も、抜けない。


「う……」

「ティナ! 白魔導師さん、どうして治らないんですか!」

「わ、私一人の力じゃ、もうこの子は手の施しようがありません……!」


 白魔導師の女性が悲観するようにそう言った。

 傷が重すぎて、しかも血を流しすぎた。命が消えていく勢いに治癒魔法が追いついていないのだ。


「そんな……! なんとかしてください! このままじゃ、ティナが……!」

「なんとかしたい、ですけれど……っ!」


 必死に懇願するケイティだが、白魔導師も目を瞑って必死にマナを振り絞り治癒魔法をかけ続ける。けれども、どうしてもティナの生命力を戻す力が足りない。


「……そ、そうだ!」


 ケイティはふと、自分が普段から持ち歩いている鞄を漁った。

 その中から、小さなガラス瓶のようなチャームがついたブレスレットを取り出す。戦闘用の錬金装飾(れんきんそうしょく)、『治療の香水』。治癒効果という汎用性の高い錬金装飾(れんきんそうしょく)であったため、戦闘用の錬金装飾(れんきんそうしょく)を扱う練習用として持ち歩いていたものだ。

 けれどもその『治療の香水』は、チャームが活気の無い灰色になっている。マナが充填されていないのだ。


「お願い……っ!」


 ケイティはそれを両手で必死に握りしめ、祈るようにしてマナを込めようと試みる。けれども、『治療の香水』はうんともすんとも言わない。

 この錬金装飾(れんきんそうしょく)をティナにつければ、彼女を救えるかもしれないのに。


「お願いっ! お願い……!」


 涙を流しながら、必死に『治療の香水』を握りしめ続けるケイティ。

 そんな彼女に、絶望を促すように。


 ――バシュウ


 ティナの牛機VID-60(ヴィドシックスティ)、レン・スパイダー、そしてケンタウロスも、突如として消えてしまう。

 召喚モンスターは、召喚主が死ぬか意識を失うと消滅してしまう。血を失いすぎたティナは、ついに意識を保てなくなったのだ。


「え……」

「ひっ!」


 ケイティが茫然としながら、そして白魔導師が怯えながら、残ったナイト・クラブとミノタウロスを見上げる。


「なっ……君たち! 逃げろ!」

「三人とも、逃げて! 早く!!」


 自身の目の前にある岩壁を支えているスコットが、そして弓になんとかもう一本矢をつがえようと四苦八苦していたサマーが、彼女らに呼び掛ける。

 けれども、三人は動けない。


 大斧を担いだミノタウロスが、三人に迫る。

 巨大なハサミを構えたナイト・クラブも迫る。


 スコットとサマーが彼女らを見つめながら、必死に心の中で叫ぶ。


 ――お願いだ! 彼女らを救ってくれ!

 ――こんな時に腕が、守るための力が使えないなんて、嫌!


 彼女らの姿に、テオとシャラを思い出しながら。


 ――テオと同じ召喚師を救う、力を!

 ――シャラちゃんと同じ、召喚師を想う人を救う、力を!



 ――今ここで使えなくて、どうする!!



 スコットとサマー。

 二人の思いが、一つになった瞬間。


 ピチュ……ン――


 二人の心の中。

 同時に、心の中に波紋のようなものが広がるのが、わかった。

 言葉を交わさずとも、同じものを感じていることがわかった。


 一瞬、二人が遠隔から互いを見つめ合う。

 そして……心の中から溢れる言葉を、同時に紡いだ。



「――【共鳴(レゾナンス)】!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] え、まさかのスコットとサマーが最初!? 共鳴覚醒レースの予想をした翌日に答えが出て、しかも全くの見当違いだったという…。 良い群像劇?は、意外なところでキャラの見せ場がきますね。
2022/10/19 21:53 退会済み
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