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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第二章 救世の心構えと召喚師の真実
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71話 覚醒召喚師、一撃

「随分と粘るものだ。村の連中と馴れ合う、召喚師の名折れが」


 警戒しながらもそう言うトルーマンは、マナヤから……正確には、まだ動けないフロストドラゴンから距離を取る。

 しかしマナヤは、トルーマンのその一言が気になった。


「”召喚師の名折れ”だと?」

「他『クラス』ごときと関わって、一体何になる。どうせ、貴様も奴らに裏切られるだけだ」

「だから、他クラスを皆殺しにするってのか? 召喚師の家族さえも?」


 ヴァスケスがそう言っていたのを、マナヤもテオの中で一緒に聞いていた。


「召喚師のためにも、そうせねばならん。家族と共に生活したところで、どうせその家族も死ぬ」

「……どういう意味だよ」

「私の故郷だった村の連中は、私の家族を殺した。この私が召喚師になったというだけで、私と関わり合いになった者すべてを、殺そうとした」


 トルーマンの顔に、憤りの形相が戻る。


「召喚師が家族と共に過ごしたいという思いは、幻想にすぎぬ。それが叶ったところで、連中は我々を苦しめるように家族を殺す」

「……矛盾してるぞ。そんな思いをしたお前が、どうして村の召喚師達の家族まで襲う? 連中とやってることは同じじゃねえか」

「召喚師に家族など必要ない。そんな軟弱な思いを希望として抱えていれば、心を折られる。召喚師は召喚師だけで生きていかねばならんのだ! そのためにも、今『召喚師』ではない者を家族に持つ者達には、そんなヤワな感情は捨て去ってもらう!」

「それを召喚師全員に押し付ける気かよ。家族と共に居たいって召喚師達を無視して」

「どうせそれは裏切られる。家族の情愛を持てば、彼らの心が壊れる。なればこそ、自身の家族をも殺す非情さが召喚師には必要なのだ! 我々は召喚師達の心を守るために戦っているのだッ!」

「……へっ。なんだよ、結局お前も()()じゃねーか」


 ヴァスケスと同じだ。自分自身の勝手な正義を、召喚師達全員の正義として勝手に押し付けている。召喚師達に『家族殺し』をさせることが、本当に彼らの救いになると信じて疑わない。

 あるいは、周りの者にも自分と同じ目に遭ってもらい、救い主を気取りたいのだろうか。


 ――情けねぇ。俺は、こんな奴らの()()になりかかってたってワケか。


 マナヤは、先ほどのテオの回想を反芻していた。いつだかのテナイアが、テオ達に言っていた言葉を。



『自己犠牲の精神を持つ者たちの根底にあるのは、「自分は幸せになるに値しないが、それでも幸せになりたい」という相反する感情です。自分を幸福を後回しにして人を救うことで、自分の存在意義を確認したいのです』


 マナヤはテオと同居したことで、マナヤ自身が幸せになるわけにはいかないと思っていた。自分が出しゃばりすぎれば、テオの幸せを崩すことになると。


『自己犠牲の精神は、突き詰めすぎると暴走します。場合によっては、自己満足的な性質を持つ「救世主願望メサイア・コンプレックス」に変化し、「人を救う」こと自体が目的ではなくなります』


 だから自分は、テオを、召喚師達を『助ける』ことに終始すべきなのだ、と。


『救世主願望を持つ人の行動は「自分本位の判断」に左右されることが多いのです。ですから、本当に相手のためになることをやっているとは、限りません。彼らは人を救っているつもりで、相手にとっては「ありがた迷惑」であることもあるのです』


 セメイト村でも、スレシス村でも。自分は単なるゴリ押しで、頭ごなしに召喚師達を鍛えようとしていた。


『人を救うことで自分の価値を示したい。つまり、人を救うことで事実上「他人を見下したい」という気持ちが根底にあるのですよ』


 自分はセメイト村でのことから、何も学んでいなかったことに気づいた。スレシス村の召喚師達を『劣等』だと見下してしまっていた。

 ふ、とマナヤは自嘲する。



 ――結局こいつも()()、テオの足元にも及ばねえってわけだ。召喚師の立場になって、真に彼らが何を求めてるか理解しているテオにはな。



「お前らは、召喚師達のためを思ってるわけじゃねえ」

「……何だと?」


 マナヤの言葉に、トルーマンの額に青筋が浮かぶ。そんな彼に、マナヤは冷ややかに吐き捨てた。


「お前らは、自分の考えだけが唯一の正解だと決めつけてるだけだ。人の迷惑も考えず、独りよがりな考えを押し付けようとしてるクズだ!」

「黙れッ! 現実が見えておらん若造にとやかく言われる筋合いは無いッ!」

「現実だぁ? だったら二人がかりでこんな若造一人仕留められないお前らは、今この現実が見えてんのかよ、あぁッ!?」

「き、貴様ぁ……ッ!」


 トルーマンが怒りに震える。そんな銀髪の男を、マナヤはあえて()()()()


 ゲーム『サモナーズ・コロセウム』でも、プレイヤー達はネットを通じて意見をぶつけ合っていた。自身の戦術のみに拘らず、現実を見据えて広い視野を持ち、他者の考えた戦術をも尊重しながら戦法を発展させていった。

 だからこそマナヤは、弟子達にも『討論』を広めたのだ。様々な者の意見を柔軟に取り入れることができるように。


「鏡見て言えよ。現実から目を背けて自分の考えだけに凝り固まった結果が、小僧一人倒しきれねぇお前らのその(てい)たらくだろうが」

「――殺すッ! 【鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)】召喚ッ!!」


 ようやく必要なマナが溜まったのだろう。トルーマンの眼前に、大きな紋章が出現する。その中から鋼鉄の塊が出現した。

 巨大な鉄槌を三つ装備した、全長四、五メートルほどの戦闘ロボット。最上級モンスター、鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)が影を落とす。


 ちょうど、マナヤのフロストドラゴンが無敵化から解けて動き始めた。氷のブレスを鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)に吐きかけるが、多少表面が傷ついたくらいでダメージは軽い。


「どうした!? こいつにフロストドラゴンの攻撃など効かんぞ! 【行け】!」


 その背後に隠れていたトルーマンが、勝ち誇った目で鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)を発進させる。

 足元の車輪が砂煙を上げて始動し、突然飛び出すかのように巨体に似合わぬスピードで加速した。この移動速度こそ、鎚機SLOG-333を最強格モンスターたらしめている要因の一つだ。


 現時点のマナヤの手駒で、まともに鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)とやりあうのはキツい。同じ最上級モンスターとはいえフロストドラゴンは相性が悪い。機械である鎚機SLOG-333には氷ブレスは効果が薄いからだ。先ほどの岩機GOL-72(ゴルセヴンティツー)戦のような耐性消失戦術は、一度見せた以上もうトルーマンには通用しないだろう。


「【次元固化(ディメンションバリア)】!」


 再びフロストドラゴンに次元固化(ディメンションバリア)をかけて固めるマナヤ。()()()()()()()、今フロストドラゴンを消耗させるわけにはいかない。

 マナヤは、ようやく懐から目当ての錬金装飾(れんきんそうしょく)を探り当て、それを手元に置いて構えておく。


「――【行け】!」

「何!?」


 そして、唐突に『行け』命令を下すマナヤ。

 木の陰から現れた巨大なナメクジが、側面から鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)を急襲した。驚愕の声を上げるトルーマン。


 先ほどマナヤが跳躍爆風(バーストホッパー)で跳ばして緊急避難させたグルーン・スラッグが、ようやくこの場所へ戻ってきたのだ。ナメクジの触手に触れ、強酸が鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)の機械の体を蝕む。


「それがどうした! 叩き潰せ、SLOG-333(スロッグデルタ)! 【電撃獣与(ブリッツ・ブースト)】ッ!」


 トルーマンが、無駄だと言わんばかりに電撃獣与(ブリッツ・ブースト)をかけた。鈍い音と共に鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)が三つの鉄槌を周囲に浮かべ、その鉄槌全てが電撃を纏う。その威力は、岩機GOL-72(ゴルセヴンティツー)の時よりはるかに凶悪だ。

 バチバチと帯電する鉄槌三器が、一気に襲い掛かり……


「【次元固化(ディメンションバリア)】」


 ……グルーン・スラッグに叩きつけられるかという瞬間に、マナヤはまたしても次元固化(ディメンションバリア)を使った。ピラミッドのような四角(すい)のエネルギーがナメクジの全身を圧し閉じ込め、それを無敵化する。

 三つの鉄槌は、何の影響ももたらさずに弾き返された。


「バカめ! もう貴様を守るモンスターは居ないぞ! ――ヴァスケス!」

「【ギュスターヴ】召喚!」


 哄笑するトルーマンに、ヴァスケスが合わせた。召喚紋から出てきたのは、全長十メートル近い地を這う巨大なワニ。イノシシのように下顎から巨大な二本の牙が生えていた。

 上級モンスター『ギュスターヴ』、下顎の特徴的な大牙で敵を貫く『精霊系』モンスターだ。


 最上級モンスターと上級モンスターで前後を挟まれるマナヤ。次元固化(ディメンションバリア)はモンスターを無敵化するが、逆に敵モンスターにも無視されるようになる。今、マナヤを鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)とギュスターヴから守ってくれるモンスターは、居ない。


「……だああああッ!」


 マナヤは雄たけびを上げながら走り出す。……『ギュスターヴ』に向かって。


「がッ……」


 巨大なワニが大牙を突き上げた。胴体に突き刺さり、マナヤは喀血する。辛うじて貫通はしていない。


「トドメだ、SLOG-333(スロッグデルタ)!」


 トルーマンの鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)が、ギュスターヴの牙に腹を刺されたマナヤへと迫る。


 しかし、ここでマナヤの全身が青く光った。胸元の『最期の魔石』が効力を発揮し、マナを大幅に回復したのだ。

 マナヤは(から)になった『最期の魔石』を外し、素早く用意しておいた錬金装飾(れんきんそうしょく)へと付け替えた。


 ――【跳躍(ちょうやく)宝玉(ほうぎょく)


「だぁッ!」


 血を吐きながらも、ギュスターヴの頭を踏み台にしてひとっ跳びでフロストドラゴンの背に乗った。SLOG-333(スロッグデルタ)の鉄槌は高度が足りず、マナヤの足下を通り過ぎる。


「な、何ッ!?」

「撃機VANE-7(ヴェインセヴン)、【行け】」


 トルーマンが困惑する中、突撃命令を下すマナヤ。プロペラで飛んでいる撃機VANE-7(ヴェインセヴン)が、近くにいたギュスターヴを空中から落下するようにして叩き始めた。地を這っているギュスターヴは反撃することができず、撃機VANE-7の打撃を受けて押し戻される。


 あれでギュスターヴは多少足止めできる。フロストドラゴンの背から、トルーマンと鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)を見下ろすマナヤ。

 フロストドラゴンの背の位置は高さ七メートルほど。身長四、五メートルほどしかない鎚機SLOG-333では、竜の背に乗っているマナヤには攻撃が届かない。フロストドラゴンの周りを無駄にぐるぐると彷徨い始めた。

 鉄槌は浮遊しているとはいえ、鎚機SLOG-333はあくまで『近接攻撃モンスター』。あの鉄槌は、鎚機SLOG-333の周囲から離れられない。


「おのれェ……ッ! 【跳躍爆風(バーストホッパー)】!」


 トルーマンは、跳躍爆風(バーストホッパー)で鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)を跳ばしてみせる。しかし、丁度フロストドラゴンの背に乗ったかのように見えた鎚機SLOG-333は、つるりとその背から滑り落ちてしまった。


 次元固化(ディメンションバリア)のかかったモンスターの上には、人間はともかく『モンスター』を乗せることはできない。『サモナーズ・コロセウム』ではそうであったし、この世界でも同じであることをマナヤは確認済みだった。


 ちらりと、もう一人の方を確認するマナヤ。

 ヴァスケスは、撃機VANE-7(ヴェインセヴン)に対し飛行モンスター『ヴァンパイアバット』を召喚していた。巨大なコウモリのような姿をした『伝承系』の中級モンスターだ。

 撃機VANE-7は、下向きについているドリルを敵の真上から叩きつけるという攻撃方法。ゆえに、飛んでいるとはいえ下方にしか攻撃できない。同じく飛んでいるヴァンパイアバットに反撃する手段がない。


 トルーマンもその様子を見て、ニヤリと不敵な笑みでマナヤを見上げた。彼も気づいたのだろう。フロストドラゴンの上に乗っている今のマナヤは、飛行モンスターに対して無防備だと。

 だからマナヤは、先手を打つ。トルーマンまでもが飛行モンスターを召喚する前に。


「【送還(バウンス)】」


 腹の傷で荒く息をしながら、撃機VANE-7(ヴェインセヴン)を送還するマナヤ。その胸元には、いつの間にか『跳躍の宝玉』に代わって別の錬金装飾(れんきんそうしょく)が装着されていた。


 ――【増幅(ぞうふく)書物(しょもつ)


「……SLOG-333(スロッグデルタ)、お前に殴る相手をくれてやるよ! 【ヴァルキリー】、召喚ッ!」


 『最期の魔石』と『ドMP』で、こちらも充分にマナが溜まった。

 マナヤはフロストドラゴンの背の上で、上級モンスター『ヴァルキリー』を召喚する。全身装甲に赤いマントを靡かせ、戦乙女がすいっとフロストドラゴンの背から滑り降りた。


 それを見たトルーマンが高笑いする。既に一度、鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)で瞬殺することができた相手だ。


「貴様の余裕も、そこまでだ! 【重撃獣与(ブロウン・ブースト)】ッ!」


 フロストドラゴンの背後に滑り落ちてしまっていた鎚機SLOG-333《スロッグデルタ》の鉄槌が、鈍い振動音を一掃強める。

 重撃獣与(ブロウン・ブースト)。機械モンスター限定で、その物理攻撃力を倍増させる獣与(ブースト)系魔法だ。単純に物理火力が上がるため、防御魔法で防ぐことはできない。ヴァルキリーを一撃で潰すことも余裕な威力であることは証明済み。


 回り込んできた鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)が、佇むヴァルキリーを発見する。再び、三器の鉄槌が宙に浮かびだした。ヴァルキリーも長槍を構え始めるが、初動がやや遅い。

 相手の攻撃を先に受けてしまえば、ヴァルキリーはアウトだ。


「【ガルウルフ】召喚! 【行け】!」


 そこへ、マナヤはなんと下級モンスター『ガルウルフ』を召喚する。灰色の狼がフロストドラゴンから滑り降り、鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)の目と鼻の先に着地した。

 勝ち誇るトルーマン。


「悪あがきを! 下級モンスターなど、一撃で粉砕してくれる! 時間稼ぎにもならんわッ!」


 ――バカが! 一撃引き受けてくれりゃ、充分なんだよ!


 ニヤリと嗤うマナヤ。

 繰り出される鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)の三つの鉄槌。それらがガルウルフを破裂させ血飛沫へと変えた。


 入れ違うように、血煙の中から飛び出したヴァルキリー。長槍を鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)へと突き出す。

 瞬間、マナヤがヴァルキリーへ呪文を唱えた。



「――【野生之力ワイルド・ファランクス】!!」



 緑色の閃光を宿したヴァルキリーの長槍が、鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)を貫く。

 とんでもない轟音。貫通した部分から衝撃波が発生し一気に周囲へ広がるような気さえした。



 鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)の金属の身体が、一撃で爆砕する。



「な……【(コンファイ)――」

「【封印(コンファインメント)】」


 まさかの、一撃必殺。予想だにしていなかった事態に、トルーマンは回収が間に合わなかった。マナヤに鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)の魔紋を封印されてしまう。


「貴様ァッ……何故だ! 一体何なのだ貴様はァッ!」


 トルーマンが、激怒をあらわに慟哭する。それに対し、してやったりとマナヤは不敵に笑うだけだ。


 野生之力ワイルド・ファランクス

 中級モンスター召喚と同等量のマナを消費する、高位の補助魔法。場に出ている自分の生物モンスター、その全員のHP合計値に比例して、対象モンスターの物理攻撃力を高める効果を持つ。

 つまり生物モンスターを多く出していればいるほど、HPが高ければ高いほど、火力が上がる。早い話が持続型の元〇玉である。


 マナヤの場には、異常なHPを誇るフロストドラゴンが居た。無敵化させたグルーン・スラッグや、先ほどテナイア達を跳ばした時のトリケラザードもいた。洞窟の中に残したままだった高HPの『ストラングラーヴァイン』も控えていた。おまけにヴァルキリー自身の高HPも加算される。

 トドメのように、錬金装飾(れんきんそうしょく)増幅(ぞうふく)書物(しょもつ)』の効果により、その火力合計がさらに五割増しにされていた。


 結果――ヴァルキリーの攻撃力は十倍以上に達した。


 無論、あの時の強化された鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)がそのまま正面激突すれば、先にヴァルキリーが一撃でやられていただろう。だからマナヤは、ガルウルフで最初の一撃分だけヴァルキリーを守ったのだ。


 生物モンスターを次元固化(ディメンションバリア)で守りつつ、それらを障害物として利用し身を守る。その上で、一発の破壊力が高いモンスターに『野生之力ワイルド・ファランクス』をかけ、一撃で敵を粉砕する。ワイルド・ワンショットと呼ばれた、『サモナーズ・コロセウム』の対人戦で使われる戦術の一つだ。治癒魔法を挟ませず確実に数を減らせるため、チーム戦時に自軍側が不利になっても逆転しやすいと言われている戦術。


 マナヤが召喚師たちに真っ先に知識を教え込んだ理由の一つが、これだ。

 この世界の召喚師達は、モンスターのHP量を知らなかった。だから野生之力ワイルド・ファランクスの法則には気づけず、『その時々によって威力が違う、不安定な魔法』としか認識されていなかったのだ。


「トルーマン様! くっ、【行け】! 【電撃獣与(ブリッツ・ブースト)】」


 ヴァスケスが自分のモンスターを突撃させた。まずはヴァンパイアバットがヴァルキリーに躍りかかる。

 だが全身装甲に覆われたヴァルキリーは、降下してきたヴァンパイアバットの爪など意に介さない。浮上しようとするヴァンパイアバットを、返す刀のごとく槍で刺し貫き、一撃で粉砕する。

 続いて雷を纏った牙で食らいついてきたギュスターヴにも、先制の槍で一撃。ワニの頭部が爆ぜるように血飛沫へと変わり、ギュスターヴは何の成果も残せず魔紋へと還っていった。


「く……【封印(コンファインメント)】」


 ヴァスケスが慄く。上級モンスター『ヴァルキリー』一体で、鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)もギュスターヴも瞬殺されてしまった。先ほどまで有利になりかかっていた状況が、すっかり逆転している。ヴァスケスはなんとか封印(コンファインメント)でギュスターヴを回収する。


「ぐっ」


 一方マナヤは痛みに呻き腹を再び押さえた。傷の治りが、遅い。見ると、右足首についているマナヤの『治療の香水』から放たれる碧の光、それが薄くなっている。


(……酷使しすぎたか。『治療の香水』のマナが、切れかかってやがる)


 錬金装飾(アイテム)のマナ切れ。ゲームには無かったその現象に、マナヤは心の中で悪態をつく。

 今日はテオが『間引き』を開始した時からずっと装着し続けている錬金装飾(れんきんそうしょく)。間引きでのモンスター出現率が高かったこともあって、スレシス村の戦士をかばってテオも何度か怪我をしていた。おまけに、この拠点に来てからの『ドMP』狙いでの数々の傷。『治療の香水』はもう限界に近い。


 だがその焦りをできるだけ隠し、マナヤはトルーマンへと啖呵を切る。


「結局お前らにゃ、知識も考え方の柔軟性も足りてねえんだよ。だから、モンスターでこういう戦い方ができる事にも、気づかねぇ」

「……黙れ……」


 震えながら、低く唸るトルーマン。


 彼らを挑発し、この場に引き留めておかなければならない。

 彼らが逃げを選択した場合、マナヤのこの傷ではいよいよ追いかけるのが難しくなった。何が何でも、ここでトルーマン達を逃がすわけにはいかない。


「お前らの召喚師への対応と同じだよ。反対意見は全部殺して封殺するから、考え方が偏る。現実が見えてねぇから、人が本当に求めている物に気づかねえ」

「黙れ!」

「さすが、自分の考えこそが正しいと言い張る思考停止野郎は違うなァ、ええッ!?」

「黙れェッ!!」


 ――ま、こうやってゲーム知識でマウント取ってる俺も、似たようなモンだがな!


 マナヤは自分自身、かつて自分の意見を人に押し付けようとしていたことも。こうやって知識を使って他人を見下していることも、承知の上だ。

 それでも、他『クラス』を見境なく皆殺しにせんとするこの連中ならば、見下してしかるべきとも思っていた。召喚師達に肉親殺しをさせるような、こんな輩ならば。


「……貴様は、後悔する。貴様がこの場に残ったことをな」


 内心焦るマナヤを前に、怒りを通り越しシンと冷たく無表情になったトルーマンが、息を荒げながらも呟いた。


「あ?」

「残りの同胞達には、スレシス村を襲わせている。……貴様一人がいかに強かろうが、関係がない」

「村が、お前らに滅ぼされる。そう言いてえのか?」

「そうだ。貴様がここで足止めされている以上、貴様はスレシス村を救うことはできん。貴様が私を殺そうと、もうスレシス村は終わりだ」


 しかし、フロストドラゴンに乗ったままマナヤは内心鼻で笑う。


(何も心配はいらねえな。村には、ちゃんと残ってる。セメイト村の――)


 テオの記憶から、数々の召喚師達の顔が浮かぶ。


(――俺の、()()な弟子達が。そしてその弟子達が育てた、そいつらの教え子達がな!)

黒星だらけだったヴァルキリーさん、ようやく面目躍如。


次回から四話ほど、スレシス村視点になります。

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