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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第二章 救世の心構えと召喚師の真実
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58話 災難去ってまた災難

 孤児院の建物内へと入り、台所に移動するテオ達。


 地下室は、孤児院の台所にある岩の蓋を開け、そこから入れるようになっている。普段は貯蔵庫として利用しているためだ。

 テオは、セメイト村から来た召喚師達と共に地下室へと降りていった。ディロンとテナイアは、騎士隊の者達と共にギリギリまで残って避難が完了していない村人達の誘導に回ると言って、ここには居ない。


 明かりの魔道具により、地下室はそれなりに明るい。入ってすぐの壁には戸棚が並んでおり、おそらく食材等が保管されているのだろう。床には黄色い簡易的な敷物も敷かれており、家具も一通りそろっている。さして埃っぽい匂いもせず、思いのほか快適そうだ。


「――シャラ! アシュリーさん! 父さんと母さんも!」

「テオ! よかった、間に合ったんだね」

「良かった、これで一安心ね。ちょっと遅いから、焦ったのよ」

「テオか! なんとか無事で良かったぞ。それに皆さんも」

「テオ、皆さん、間に合って良かった」


 そこに孤児院の職員と思しき人達に混じり、シャラとアシュリー、そしてテオの両親の姿があった。ジェシカ達についてこの村に来ていた、サフィア、ニスティ、エメルもいる。


 ――シャラは、まだテオにマナヤの件を話そうとしてくれる気配がない。

 だが、テオはシャラを信じて待つことに決めていた。シャラは今のところ、何一つ変わりなくテオと接してくれている。その話題を避けようとしている雰囲気はあるが、少なくともテオ相手に気まずい雰囲気は出そうとしておらず、テオはほっとしていた。


 地下室の中は、静かとはいえなかった。

 入り口の岩蓋を閉めたものの、それでも段々とゴウゴウという強風の音が強くなってくるのがわかる。どこからか、カランカランと何かが飛んでいるのか揺れているのかわからない音もしてくる。時折、上の孤児院の壁に何か硬いものがぶつかる音も響いてきた。

 テオ達が皆の荷物を再確認する中、ジェシカとシャラが不安げに天井を見やる。


「うわあ……なんというかこう、無性に不安になりますねぇ」

「そう、ですね……戻ったら孤児院、飛んで無くなってたりとか、しませんよね?」

「ちょ、ちょっとシャラさん怖い事言わないでよ」

「ご、ごめんなさい」


 やはり、こんな音がしておいて窓も無く外の様子もわからないというのは、不安をあおるのだろう。

 すると、そこへテオの父であるスコット、そしてニスティの建築士コンビがおもむろに立ち上がる。


「そういうことなら、少し確認させてもらおうか。ニスティさん、手伝って貰えますかね?」

「あいよ。こういうのは、それこそあたいら建築士の本領発揮だね」


 ぼきぼきと手を鳴らしながら、地下室最奥の壁へと近寄り手をつくニスティ。スコットの方は真逆の、入り口の岩蓋元にある階段に手を当てた。


「――ふーん、さすがは竜巻が多い村だねぇ。思った以上に頑丈みたいじゃないか。スコットさん、そっちはどうだい?」

「ああ、こっち側もほぼ問題ないみたいですよ。……ん、ちょっと壁にヒビが入ったみたいだな。どれどれ……」


 と、スコットが階段に当てた手を、ほんのりと光らせる。


「……父さん?」

「ああやって、上の壁をここからでも修復できるのよ」


 怪訝に見つめるテオに、サマーが解説してくれた。


 建築士は建物の一部に手を当てることで、その建物のほぼ全体を把握できる。その上、岩壁の部分に限ればちょっとした破損も修復することが可能だ。建築士が常時メンテナンスすれば、ちょっとやそっとの災害では倒壊することはない。

 孤児院には併設された宿舎もあったので、おそらくニスティはそちらを確認しているのだろう。


「あ、ど、どうもすみません」


 と、孤児院の職員と思しき男性が、スコットとサマーにお礼を言っていた。どうやらこの孤児院に勤める建築士のようだ。仕事を二人に先にやられてしまい、恐縮しているのだろう。召喚師がこんなに地下室に集まっているのに驚き、職務を忘れていたのだろうか。


 ゴウゴウという風の音が鳴り響く中、建築士達が交代で建物の見張りをしながら、夜を越すことになった。



 ***



「うわあ……ダメなとこは、やっぱりダメだったのね」


 翌朝、竜巻はすっかり収まったようで、風もやみ雲一つない快晴の中。外に出たアシュリーが周囲を見て思わず仰いだ。


 石造建築とはいえ、いくつかの建物は倒壊していた。また、壁に岩板のようなものが突き刺さっている家も見られる。倒壊した建物の破片がぶつかったのだろうか。

 何人かは、倒壊した建物の近くで作業していた。この村所属の建築士だろう。瓦礫を片付け、家の形を修復し始めている。


「どうやら、我々も手伝った方が良さそうだな」

「だね。さて、とりあえず近場から手をつけていこうじゃないか」


 スコットとニスティがいち早く動いた。手分けして、人手が足りなさそうな瓦礫の方へと向かっていく。


(僕にも、何かできることがあるかな)


「あ、待ってテオ、私も行くよ」


 せめて自分にも何かできることを探そうと、フードを被ってスコットの後をついていくテオに、シャラも追随した。





 竜巻の多い村らしく、村所属の建築士の数も結構多い。が、今回の竜巻はいつもよりも規模が大きかったらしい。建築士が家族に居ない家は、倒壊したり被害が出ているものが多かった。


 そんな中。

 突然、女性の甲高い悲鳴が聞こえた。同時に、数人の慌てたような声も届いてくる。


「な、なんだ!?」


 ちょうど目の前の家を修復したスコットが、咄嗟にそちらに向かって駆けだした。テオとシャラ、サマーも走ってそれについて行く。


 スコットが立ち止まった前には、岩板が複雑に折り重なって倒壊していた家があった。十数人ほど瓦礫の周りをたむろしながら、慌ただしく動き回っている。表情には一様に焦りが見えた。

 その中で一人、半狂乱になって近くの建築士らしい人に縋りついている男性がいた。


「お、お願いします! 早く妻と、娘を!」

「わかっている! しかし、これでは……!」


 瓦礫に近づいている建築士の一人が、そっと瓦礫に手を当てる。するとすぐに、瓦礫の中から悲鳴が聞こえた。


「だ、ダメだ! これじゃ、手がつけられない!」


 途方に暮れたように、額に汗しながら瓦礫を仰ぎ見る建築士。

 スコットがその建築士に問いかける。


「何がありました!?」

「そ、それが、この人の奥さんと娘さんが瓦礫の中に閉じ込められて……!」


 話を聞くと、この家の旦那は昨晩の竜巻の時、弓術士の集会場に詰めていてそこで地下室に避難していたのだという。帰宅するとこのありさまで、妻と子が瓦礫の中に閉じ込められていることがわかったのだそうだ。

 なぜ彼女らがこの家の地下室に避難しなかったのかはわからない。しかし、この瓦礫を建築士が動かそうとすると妻が苦痛に半狂乱になって瓦礫の中から叫んでくるらしい。痛みで冷静さを完全に失っているらしく、問いかけようとしても要領を得ないと。


 おそらく中で、瓦礫に潰された家具やガラスの破片に身体の一部を挟まれているのでは、というのが建築士達の所見だ。だから、修復しようと瓦礫を動かした時に家具の破片に潰され、痛がっているのではないかと。

 となれば、迂闊に手をつけることができない。上に重なっている瓦礫を退けるのも怪しい。何かの拍子に細々とした破片が中で倒壊すれば、彼女を足を圧し潰してしまうかもしれない。


「く……中の様子さえ、わかれば……!」


 スコットが脂汗をかきながら、必死に考え込んでいる。


「どういうこと、父さん!?」

「――中で、奥さんを挟みつけている瓦礫や破片の正確な状態がわかればいい。そうすれば、傷つけないように瓦礫をコントロールできる」

「建築士の能力で、瓦礫の状態はわからないの」

「瓦礫の状態だけだ。奥さんがどの瓦礫にどういう状態で挟まっているのかがわからないと、打つ手がない!」


 と、焦りを隠せずにスコットが歯ぎしりした。建築士は岩の瓦礫なら操れるが、木製家具の破片やガラスなどは感知することも操ることもできないのだ。

 ふとテオは、瓦礫の中に、小さな隙間を見つけた。なんとか中の様子を覗き込めそうなくらいの隙間だ。


「あの隙間から中の様子が見えませんか!」

「無理だ! 瓦礫が折り重なっていて中までは見えん! ――って、貴様! なぜ召喚師ごときがここにいる!?」


 テオの提案に、建築士の一人が苛立ちを隠せずに乱暴に言い放つ。テオはそれを意にも介さず、考えを巡らせる。


(中の様子を確認できれば……)


「……そうだ! 皆さん、どいてください! 【猫機FEL-9(フェルナイン)】召喚!」


 テオは一つ、閃いた。さっそく猫機FEL-9(フェルナイン)をその場に召喚すると、周囲の者達が目を剥く。


「な、何をしている!? この非常時に、モンスターを召喚するなど!?」

「この人達を助けるなら、こうするしかありません!」

「バカを言え! 召喚師に何ができる! この人の妻と子どもを殺す気か!?」


 テオと周りの者が、乱闘になりかかる。しかし。


「――やめなさい! 人の生き死にが関わってる時に、言い争いをしている場合ではないでしょう!」


 テオの母であるサマーが、迫力のある声で皆を一喝した。

 皆が思わず黙り込んでサマーを一斉に見た隙に、テオの方へと声をかける。


「テオ、考えがあるのね?」

「うん! 【空間圧縮(ミニチュアライズ)】」


 テオはすぐに、猫機FEL-9(フェルナイン)に補助魔法『空間圧縮(ミニチュアライズ)』をかけた。モンスターを一時的に小さく縮める魔法だ。

 しゅるると握りこぶしよりやや小さい程度のサイズまで縮んだ猫機FEL-9。


(――視点変更!)


 テオは目を閉じて猫機FEL-9(フェルナイン)に視点を移し、それを操作する。小さくなった青い猫ロボットが、瓦礫の隙間の中へとするりと潜り込んでいった。


「【秩序獣与ブレスド・ブースト】」


 さらにテオは、その状態で補助魔法『秩序獣与ブレスド・ブースト』をもかける。モンスターに『神聖属性』の攻撃力を付与する魔法だ。

 瓦礫の中にある猫機FEL-9(フェルナイン)の両前足、それが神聖な白い光を帯びる。


(……いた!)


 神聖な光で周囲が照らされた猫機FEL-9(フェルナイン)の視界を通して、瓦礫に足を挟まれている女性の姿が見えた。


「シャラ! 二十七番!」

「うん!」


 テオは猫機FEL-9(フェルナイン)視点のまま、シャラに呼び掛ける。すぐに首元に何かがかけられるのを感じた。


 ――【転視(てんし)鏡石(かがみいし)


「父さん! 目を閉じて!」


 そして目を瞑ったまま、スコットがいるはずの方向へと手を伸ばす。


「……こ、これは!?」

「僕の視界を通して、中のFEL-9(フェルナイン)が見てるものが見えるでしょう!? それでどういう状況かわかる!?」


 『転視の鏡石』。任意の相手に自分の視界を共有できるようにする錬金装飾(れんきんそうしょく)だ。テオが今、猫機FEL-9(フェルナイン)に視点変更しているため、スコットにもその視界が見えているはず。


 スコットが瓦礫の傍へと移動していく気配を感じた。おそらく建築士の能力で瓦礫の状態をも確認し、猫機FEL-9(フェルナイン)の視界と照らし合わせているのだろう。


「……そういうことか! 二人とも、じっとしているんだ! すぐに、痛くせずに助けてやるからな!」


 そう中へと叫んで、目を閉じたままスコットはそっと瓦礫に触れた。

 彼の手が燐光を帯び、そして少しずつ瓦礫が持ち上がっていく。今度は悲鳴は聞こえない。テオにも中の様子が見えていた。女性は中途半端に砕けた木製の書棚に脚を圧し潰されていたらしい。スコットは岩の瓦礫を器用に操って、それを利用し木の破片を退けている。


 やがて、瓦礫の後方が開いた。


「サリア! ミオ!」

「あ、あなた……」


 この家の主人と思しき男性がそちらへ駆けつける。中にいた女性の周りから、綺麗に瓦礫が取り除かれていた。

 女性の両脚が痛々しく腫れている。弱々しく夫に声をかけながら、解放された安堵に涙を流していた。彼女の腕には、まだ四歳ほどの小さな女の子が抱えられている。女の子は息はしているようだが、衰弱していて意識が無い。


「――今、治療します!」


 と、控えていた白魔導師の男が、まずは女の子の方に治癒魔法をかけた。竜巻発生からずっと閉じ込められていたなら、意識が無く体力にも乏しい女の子の方が危険だ。


「く……」


 しかし、白魔導師の顔が歪む。なかなか女の子が、目を覚まさない。症状が重すぎたのか、治癒魔法の力が足りていないようだ。


「【キャスティング】」


 そこへ唐突に、シャラが本のようなチャームがついた錬金装飾(れんきんそうしょく)を投擲した。


 ――【増幅(ぞうふく)書物(しょもつ)】!


 白魔導師の胸元へと装着されると、白魔導師が放つ治癒魔法の光が強くなる。魔法の効力を増幅する錬金装飾(れんきんそうしょく)。それで、治癒魔法の力を増幅したのだ。

 驚いて白魔導師がシャラの方を見ると、シャラが真剣な顔で頷きかける。それに白魔導師も、力強い首肯を返した。


 強くなった治癒魔法の光をしばらく浴びたのち、咳き込みながら女の子が目を開いた。


「ミオ! 大丈夫か!?」

「……パ、パ……?」


 弱々しく父親の方を見る女の子。

 白魔導師が安心させるように父親に頷きかける。そして今度は両脚を腫らしている女性の方へと駆け寄り、そちらにも治癒魔法を施した。


「サリア! 良かった……本当に良かった……!」

「あなた……」


 夫婦と娘が抱き合いながら、涙を流す。

 そんな三人を見て貰い泣きをしてしまったシャラの肩を、テオがそっと抱いた。スコットとサマーも安堵し、救われた彼らを暖かく見守る。


「――ありがとうございます! なんと、お礼を言っていいか……!」


 ひとしきり泣いて落ち着いたのか、夫の方がスコットの元へとお礼を言いにやってくる。


「礼なら、うちの息子夫婦に言ってやってください。二人が居なければ中の様子がわかりませんでした」

「ありがとう……本当に、ありがとう……!」

「い、いえ、そんな……」


 テオとシャラの方へとやってきて、縋りつくように繰り返し礼を言ってくる男性。テオはなんだかむずがゆくなり、シャラの方を仰ぎ見る。まだ涙を湛えたシャラの笑みが返ってきた。

 先ほどテオを止めようとした建築士達も、おずおずと謝罪してくる。


「……その、すまなかった」

「あんたらが居なけりゃ、あの奥さんは脚を切断しなきゃいけなくなってたかもしれない」

「いえ、大丈夫です。……その人達が助かって、本当に良かった」


 応じながらテオは、自分の手のひらを見つめる。


 ――召喚モンスターには、こういう使い方もあったんだ。


 最初は、人を怖がらせるだけだと思っていた、呪われた『クラス』の力。

 そんな力も使い方次第で、人を助けることができる。それを改めて実感した。


 今までの戦いの中でされた感謝とは違う、穏やかな達成感。

 それがただただ無性に、嬉しかった。

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