53話 幸福のおすそ分け
それから、三日後。
テオの待ち人達を乗せた馬車が、ここスレシス村に到着した。
「――カルさん! オルランさん! ジェシカさん!」
セメイト村所属の召喚師三名が馬車から降りてくるのを、テオとシャラが迎える。
「ああ、テオ君の方か! シャラさんも、わざわざ出迎えに来てくれたのかい?」
「ここが、スレシス村なのか……たしかに相当大きな村なのだな」
「わあ、門をくぐったらこんなに違うものなんですね! 他の村は、初めて来ましたよ」
三人は、馬車から降りて挨拶はしながらも、伸びをして村の中を見渡した。
さらに、もう三人の女性が馬車から降りてくる。
「わあ……ここから見ただけでも、家屋が多いのがわかります。凄い……」
「へえ、家の形はうちの村と変わらないんだねぇ。でも、各家に地下室があるんだって?」
「うわ、反対側の防壁が遠い! それに向こうの山脈、良い景色じゃないの」
ウェーブのかかった黒いロングヘアを靡かせた白魔導師、サフィア。
赤いクセっ毛の単発を後ろで小さく束ねた、長身の建築士、ニスティ。
そして、ストレートの金髪を後ろでポニーテルに束ね、もみあげを赤いバンダナで押さえている弓術士、エメル。
セメイト村から呼んだ召喚師三名の人選は、この三人も一緒に着いて来てくれることを前提として、テオが決断したものだ。
「皆さん、ありがとうございます。わざわざ、来ていただいて」
「テオが、いつもお世話になってます」
テオとシャラが、三人にこの世界の礼を取った。こちらの都合で呼びよせてしまった、最低限の礼儀だ。
「構わないさ、ちょっとした旅行みたいなもんだ」
来訪者六人を代表して、カルが明るい笑顔でそう言い放つ。
「ジュダさんも、騎士隊所属の召喚師に教える立場になれると張り切っているようだったからね」
「今はマナヤさんの教本もありますから、さらに突っ込んだ指導もできるでしょうし」
オルラン、続いてジェシカがそれに笑顔で頷いて同調した。
テオは、ディロンを介してこの六人をこの村へ一時的に派遣して貰えないか、打診したのだ。テオの考えに納得してくれたディロンがそれを手配し、さらにマーカス駐屯地から穴埋めの六人を派遣することも約束してくれた。派遣する駐屯地の召喚師三名には、セメイト村流の召喚師戦術の教導をしてもらうことを条件として。
恐らく騎士隊から派遣する召喚師枠は激戦になるだろう、とディロンが苦笑していたのをテオはよく覚えている。
けれども、テオがここで申し訳なさそうに目を泳がせる。
「それで、その……すみません。先にお伝えした通り、この村は……」
「ああ、召喚師の扱いが悪いんだって?」
カルが苦笑いしながら、テオの頭に手を当て、乱暴にわしわしと髪を乱す。
「いいさ。俺たちはセメイト村じゃあ充分良い思いをしてるんだ。そのくらいは、もう大丈夫だよ」
「ああ。私達もたまには初心に帰るのも悪くない。マナヤさんの功績を忘れないためにも、な」
オルランもやってきて、テオを安心させるように肩に手を置く。
「それでテオさん、シャラさん。私達は何をすれば良いんでしょう?」
「あ、まずは皆さんを宿泊先にご案内しますね。実際に始めるのは、明日以降からになりますから」
ジェシカの質問に、シャラがポンと両手を合掌させるように合わせてから、六人の誘導を始める。
既に馬車が停まった広場の方から、ジロジロと彼ら六人に注目する村人が見られる。やはり緑ローブの召喚師が三人も含まれるからか、どこか蔑む視線が多いようだった。
シャラが、馬車小屋近くに待機していた騎士隊の面々へと声をかけた。道中の警護をしてもらう手筈になっている。そうでなければ、召喚師達がまとめて歩いていて、村人に何をされるかわからないからだ。
本番は、明日から。テオとシャラは、まずは六人に英気を養ってもらうことにした。
***
次の日の、丁度昼時。
「皆さん、もう一度集まって頂いて、ありがとうございます」
講堂前面にある演壇に立ち、テオが挨拶をする。数日前にマナヤが使っていた講堂とは違う、椅子だけではなく長テーブルも置かれている講堂だ。
テオは、この村の召喚師達を再び講堂に召集してもらっていた。六十人ほどいる召喚師達が、テオの方を胡乱げに睨んでくる。テオの口調がまるで違うことを訝しんでいるらしい者達も、ちらほら見られた。
それらの視線に、テオは思わず気圧されそうになってしまう。
なまじ感情が見えるだけに、彼らが本当にテオ達を疎んでいるのが、直接テオに伝わってきてしまう。思わず、後ずさりしてしまいそうになった。
けれど、隣に控えてくれているシャラが、ぎゅっとテオの手を握ってくれた。ちらりと彼女の方を見ると、勇気づけるように笑顔を向けてくれた。
テオは気を取り直し、言葉を紡ぎ始める。
「以前にも提案させて頂きましたように、今日も皆さんに僕達の指導を受けて頂けないか、お願いに参りました」
「その話はもう済んだじゃないか! もう俺たちに構わないでくれ!」
と、席の方からヤジが飛んだ。それを皮切りに、集まった召喚師たちが一斉にざわつき、虚ろな目のまま罵倒を浴びせ始める。
テオは、その勢いに呑まれないようにぐっと腹に力を入れる。
「……皆さんの気持ちは、わかっているつもりです。僕もかつては、同じでしたから」
「何が同じよ! だったらどうしてあたし達をほっといてくれないの!」
苛立ちを隠そうともしない罵声が飛んでくる。テオは一回深呼吸し、笑顔を作って続けた。
「――なので、まずは皆さん、食事にしましょう。せっかくのお昼時ですからね」
場違いのような言葉に、罵声が急速に鳴りを潜めた。召喚師達がざわざわと互いの顔を見合わせる。
テオの言葉を皮切りにして、テオの両親、そして昨日テオが呼び寄せたセメイト村の六人が入室してきた。それぞれの手に、プレートを持っている。それらのプレートを順番に、召喚師達の前へと置いていった。ごくり、と集まった召喚師達が無意識につばを飲み込む。
プレートの上には、温かい料理が乗っていた。
汁たっぷりのシャナ鳥煮込みに、シャナ鳥の卵焼き、ネルガ芋のステーキ、エタリアの香草あんかけ、生野菜サラダ。
マナヤ達がこの村に来た時にも供された、スレシス村では定番の献立。それも、村人の一般的な家庭料理に使われる、材料と味付けに調整して。
「皆さん、温かい料理はお久しぶりでしょう? 遠慮せずに、食べて下さい。僕達のわがままに付き合わせたお詫びも兼ねていますので」
既にしんと静まり返った講堂に、テオの声だけが淡々と響いた。
おずおずと召喚師達が食器を手に取り、食べ始める。
一度手が伸びたら、そこからは早かった。ある者はガツガツと、ある者は一口一口じっくり味わうように、思い思いの食べ方で料理を食べ続ける。
これが、テオが思いついたアイディアだった。
テオが両親やシャラと再会したこと以外で、嬉しかったこと。それは、『温かい手料理を食べることができた』ことだ。
召喚師は基本的に各々の宿舎に篭りきりになる。錬金術師もあまり寄り付かないので、生活用の錬金装飾の充填も頻繁にはできず、毎日自炊するのも難しい。そのため、セメイト村の召喚師達は皆、手軽に食べることができる保存食や、軽い出来合いのものを中央区で貰ってきて食していることが多かった。
テオは、シャラが食事などを毎日持ってきてくれていたため、まだマシだった。それでも持ち運びできる物に限定されるため、大抵は冷めている。ましてや、零れる可能性のある汁物などは食することができなかった。
だからテオは、彼らにも食べさせてあげたかった。
彼らの家族が作り、家族と一緒に食べたであろう、温かい手料理を。
三日前からシャラとサマーに協力してもらい、スレシス村での一般的な家庭料理の味を調べてもらった。そして今朝、テオ自身やスコットも加わって彼ら全員分の料理を作り、講堂に繋がっている準備室に用意しておいたのだ。
「食べながらで良いので、聞いてください。……僕も召喚師になりたての頃は、宿舎に篭りっきりでした」
召喚師達の何割ほどが聞いているか、わからない。それでもテオは、諭すように語り続けた。
「モンスターに近しい人たちを殺された村人も居ましたから、人とは出来る限り距離をとって過ごしていました。食事も、出来合いの冷めた食べ物を持ち帰って食べる。村の各方面に散らばった一人用の宿舎で、そんな孤独な生活をずっと続けていました。……これでも、皆さんよりはずっと、恵まれていたのでしょう」
ここスレシス村での召喚師の食事を調べると、酷いものだった。
村人が、セメイト村とは比べ物にならない差別意識を持っているからだ。そのため出来合いの物どころか、新鮮な食材を貰うことすらロクにできない。配給される干し肉や干しエタリア、ドライフルーツなどの簡易保存食だけで三食を済ませていたのだという。
「そんな僕が、家族の元で再び暮らせるようになって……このような、出来立ての温かい料理を食べることができた時は、本当に嬉しかった。家族と一緒に、笑い合いながら摂る食事。召喚師になる前は当たり前だった温かさと、時間。僕も……ずっと、取り戻したかったんです」
召喚師達は、食べるのを辞めない。
しかし、そこかしこから鼻をすすったり、むせび泣き始める様子が見られた。
――やっぱり、そうだったんだ。みんなも同じだったんだ。
「皆さんは、どうですか? 幸せだった時間を取り戻したくはありませんか? ……家族に、会いたくはありませんか?」
食べる手が止まっている召喚師達が増えてきた。
俯いて涙を零す人。うわごとのように家族と思しき名を呼び続ける人。多くは、おそらくまだ両親が存命の、比較的若い世代だ。
「父さん……母さん……っ!」
「うっ……ふぐっ……!」
家族と食べた、出来立ての温かい料理。それが記憶を呼び起こし、家族との時間を思い出している。
――僕は、酷いことをしているのかもしれない。
ぎゅ、とテオが演壇の裏で拳を握りしめる。
今の孤独な生活にようやく慣れてきた彼ら。そんな彼らに、幸せだったころの事を思い出させている。テオらが帰還した後はもう二度と食べられないかもしれない、温かい料理。その美味しさを、思い出させてしまっている。
「……ケイティ……」
端の方から、ぽつりと赤毛ポニーテールの女の子の声が、テオとシャラの耳に届いた。
はっと顔をあげるシャラに、テオが頷いてみせた。……テオには、見覚えのある少女だったからだ。
「……だから、なんだというのだ」
別の方向からは、そんな声が聞こえた。くだびれた表情をした中年の男性だ。憎々しげな表情で、テオらを睨んでくる。
「お前たちの指導とやらを受けたところで、何になる。それで、家族に会えるようになるとでも言うのか? 我々が戦い方を変えた程度で、村人が態度を変える保証が、どこにある」
「……保障はできませんけどね、前例ならありますよ」
そんな彼の言葉に答えたのは、演壇の横から一歩進み出たカルだ。
それを皮切りに、オルラン、ジェシカも共に前に進み出る。
「見ての通り私達もマナヤさんと同じ、セメイト村からの召喚師だ。彼の指導を受けることで、世界が変わったのさ」
「マナヤさんから学んで、彼の戦い方を真似て。『間引き』に同行した人たちから評価され、受け入れられ始めました」
むせび泣いていた者たちが、希望を見るように顔を跳ね上げる。
カルが召喚師達を見渡し、こうも続けた。
「マナヤさんからの教えのおかげで、今じゃセメイト村は、召喚師を疎んじる人なんてほとんど居ない。俺たちも、家族との時間を取り戻せたんだ。久々に家族と再会して……やっと、人並みの幸せを取り戻せたんだって実感したよ」
こちらは、シャラのアイディアだった。『セメイト村の召喚師達に、実体験を語ってもらってはどうか』と。
テオは、比較的恵まれている方だった。『召喚師』になりながらも、両親やシャラはテオを疎んじることは無かった。テオが勝手に距離を取っていただけだ。
だがセメイト村でも他の召喚師達は、そうではない者が多い。侮蔑するとまではいかずとも、モンスターを恐れて、あるいはモンスターに近しい人を殺された友人らに遠慮して、家族達から距離を置かれていた者は少なくない。
だからこそ、テオ以外の召喚師に実体験を語ってもらった方が説得力が生まれるのではないか、とシャラは考えついたのだった。
「……ふん。どうせ私には、帰りを待つ家族など居ない。そんな話は、知ったことではない」
先の苦言を呈した中年男性が、目を逸らして吐き捨てる。
「では、これから家族を作りたいとは、思いませんか?」
「なんだと?」
テオの言葉に、男が視線を戻した。
「……実は、僕の隣に居るシャラは、僕のお嫁さんです」
「はじめまして、皆さん。錬金術師のシャラです」
シャラが自己紹介した時、召喚師達が一気にざわついた。
生活に必要な様々なものを作れる錬金術師は、結婚相手として倍率が高い。なのに、あろうことか『召喚師』が彼女を射止めている。その事実が信じられないようで、テオとシャラへと視線が集まる。
「僕達だけではありません。セメイト村から来ていただいた、こちらの三人の召喚師。彼らも、召喚師じゃない『クラス』の人たちと、交流を深めています。……まずはカルさん、どうぞ」
「え、俺から? ま、まあ、いいけどさ……」
頭を掻きながら、カルが部屋の片隅に立っている、黒髪の女性白魔導師の方に視線を飛ばす。それを受けて、その白魔導師――サフィアも、恥ずかし気にカルの横へと移動した。
「えーと、今更だけど俺の名前はカル。で、この人は俺の嫁さん、サフィアです」
「は、初めまして。白魔導師のサフィアです、よろしく」
ざわめきが一回り大きくなった。
流れで、先ほどまでサフィアが立っていた隅にいた建築士と弓術士の女性、ニスティとエメルも進み出てきた。それに応じて、オルランとジェシカが彼女らの横に立つ。
「私は、オルランという。……こちらの女性は、先日私の求婚に応じてくれた、ニスティだ」
「初めまして皆さん方、建築士のニスティだよ。こんな性格だからか、あたいは全然モテなくてね。……それでもこの人は、以前村の近くで起こった戦いで、あたいを庇ってくれた。そんな人が求婚してくれて、嬉しかったんだよ」
オルランとニスティは、セメイト村のフロストドラゴン事変の時、村近くで遭遇したモンスターの群れと共に戦っていた。その時の話をしているのだろう。
先ほどの中年男性がよろめく。オルランやニスティは、彼とほぼ同年代だった。
「えっと、ジェシカです。私は結婚はしてないんですけど、召喚師になってから初めての友人になってくれたのが、こちらのエメルです」
「なんか凄い、気まずいんだけど……弓術士のエメルよ。『間引き』でジェシカと気が合って、最近召喚師との連携とか、色々話をしてるのよ」
これまでが結婚相手という流れで、ただ一組、同性の友人ポジションであるジェシカとエメルが、ややバツが悪そうに苦笑していた。
テオも苦笑いしながら、気を取り直して話し始めた。
「……ここに居る三人だけじゃありません。今ではセメイト村の召喚師達はみんな、他『クラス』の人たちとさほど変わらない生活をしています。騎士隊の人に問い合わせてみれば、わかると思います。この三人に代わって、騎士隊の召喚師さん達がセメイト村に詰めて下さっています。セメイト村に行きたがる騎士隊の召喚師さん達は、多いそうですよ」
驚きの表情で召喚師達がテオらを代わる代わる見つめてくる。
「僕達は、召喚師の戦い方次第で、村人達の僕達への態度が変わるという事を実証しています。そのおかげで僕達は、召喚師でありながら人並みの幸せを享受できているんです。友人を作ることだって……結婚することだって、できるんです」
基本的に召喚師は、まず結婚ができない。他『クラス』の異性が召喚師に近寄ること自体がほぼ無いし、召喚師同士が結婚することも困難が待つ。彼らの間に生まれた子供も、幼い頃から村人に疎まれることになるからだ。
「……だからこそ、この村で苦しんでいる皆さんを放って、自分達だけが幸せでいることが、心苦しいんです」
かつて、テオがシャラを慰めた時と同じだ。
テオだけが両親が生きている幸せを受けられるのに、シャラだけが受けられなくなったのが、耐えられなかった。
だから……テオは、手を差し伸べずには、いられなかった。
「だから、お願いします。僕達に……皆さんを、助けさせてください」
そう言ってテオは演壇から少し横に移動した。全身が見える位置に立った所で、両膝を地面に着き、両手を胸の前で祈るように握った。
――この世界での、相手への最大級の敬意を表す仕草だ。
テオに文句を言う者は、もう誰も居なかった。
***
「――ティナちゃん」
講堂に集まった召喚師達が、解散した直後。廊下でシャラが、立ち去ろうとする赤毛ポニーテールの少女を背後から呼び止めた。
テオと同年代だというティナが、怪訝そうにシャラに振り返る。
「……どうして、私の名前を」
「初めまして、シャラです。あなたのことは……ケイティから、聞いています」
「っ!」
ケイティの名に、ティナが顔をゆがめて目を逸らした。そのまま棘を含んだ声で……
「……どうしてあなたがたは、人の過去を蒸し返すんですか」
「ティナちゃん……」
「ライアンも、マナヤさんも! そして、あなたも! どうして希望を持たせるんですか! 忘れたいのに!」
両目から大粒の涙を零しながら、ティナが慟哭する。
「忘れさせてよ! ”今”が惨めになるから、幸せだった頃なんて、忘れたいのに! どうして――」
しかし彼女の言葉は、途中で途切れる。
シャラが彼女を正面から抱きしめていた。かつてテオが、シャラにそうしてくれたように。
「幸せだった頃を、忘れちゃ……ダメだよ……!」
シャラ自身も瞑った目から涙を零しながら、感情に流されるままティナを諭す。
「忘れたいなんて、そんな悲しい事、言わないで……」
「……っ、はな、して……っ」
ティナが、抱き着いてきたシャラの体を押しのけようとする。けれどもその腕には、言うほどの力は篭っていなかった。
ぼろぼろと涙を溢れさせながら、悔やむように口から言葉を絞り出す。
「……ケイティ、だって……っ、私を、捨てた、のに……っ」
「……大丈夫。ケイティは、そんな人じゃない。私にはわかるの」
あまりにも楽観的とも言えるシャラの言葉に、ティナが激昂する。
「わかって、ないっ! だったらどうして、ケイティはっ……!」
「お願い。もう少しだけ、私達に時間を下さい。きっと……ケイティを、あなたの元に、戻して見せるから」
ティナと同じくらいの涙を流しながら、シャラはそう約束する。
久しぶりに感じる、抱擁の温かさ。自分の身を案じてくれる、久々の人の体温。ティナの心は、否応なしに懐かしさに呑まれてしまう。
「う……うぁ……」
心から溢れる、温かさ。人に抱き留められる、安心感。
冷たく封じたティナの心は、溶かされてしまう。
大声をあげて泣き通すティナを、シャラは抱きしめ続けた。




