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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第二章 救世の心構えと召喚師の真実
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48話 スレシス村、そして再会

 その日のうちの夕方。

 マナヤ達を乗せた馬車は、スレシス村へとたどり着いた。


 外側の防壁を見ただけだと、セメイト村とさほど変わらないように見える。

 門をくぐるとやはりセメイト村と同様、入ってすぐの場所はちょっとした広場になっていた。


「……おお」


 馬車が広場に入って初めて、マナヤは感嘆の声を漏らす。


 並んでいる数々の建物の形もセメイト村と同じ。ドーム状の屋根をもった石造一階建ての家だ。

 地球で見る街のように大通りがあるわけではないので、ここからでは村の全体像はわからない。モンスター襲撃があった時に備え、迷路のように入り組んだ構造になっているためだ。それでもセメイト村と比べ、かなり大量の家が建っているのがわかる。広場を囲むように建てられている家の数が違う。

 ここスレシス村は、テオ達が住んでいたセメイト村の約五倍、五千人近い人口があるらしい。その分、村自体もかなり広く作られているようだ。

 シャラやアシュリーも馬車の窓から周囲を興味深そうに見渡している。彼女らもおそらく、この規模の村に来るのは初めてなのだろう。


 三台の馬車が停車しマナヤ達が降りたところで、スレシス村からの出迎えが来た。三十代ほどに見える黒い長髪の男性と、同じ髪色で短髪の女性が近づいてくる。


「わぁ……」


 シャラが、口元に手を当てて感嘆するような声を出した。彼らの服装に見惚れているようだ。

 二人は、鮮やかに青い布地にタンポポのような花柄の金刺繍がパターンのように縫い込まれた、見た目にも華やかな衣装をまとっていた。まるでインド衣装のような、上下セパレートの薄手の服の上から、ゆったりとした布を身体に巻き付けるように着込んでいる。


「マーカス駐屯地所属の黒魔導師ディロン・ブラムス。こちらは、同じく白魔導師テナイア・ヘレンブランドだ。召喚師の一時的な補充要請に応じて同行させてもらった」


 ディロンがマナヤ達を代表してその二人に名乗り上げた。

 スレシス村の二人は、左胸に手を当てて一礼する。


「本年度、スレシス村の村長をしております、ガルドと申します」

「村長補佐をしている、ミラです」


 男性の方はガルド、女性の方はミラと名乗った。

 ちなみにこの世界では、村の村長は年交代制だ。前年度に村長補佐をしていた者が次年度に村長となり、その際に次の村長補佐が選ばれる。

 村長のガルドは、この中で唯一『召喚師』を示す緑ローブを纏っているマナヤを見て怪訝な顔をした。


「……騎士隊の召喚師にしては、ずいぶんとお若い方のようですが……」

「実を言うと、彼は騎士隊の者ではない。セメイト村所属の召喚師マナヤだ。こちらは彼の両親、同所属の建築士のスコットに弓術士のサマー、マナヤの妻であるシャラ、そして剣士アシュリー」


 ディロンの返答と紹介に、スレシス村の二人はさらに疑念の表情を浮かべた。騎士隊ではなく一介の村人であり、しかも親連れときたのだから無理もないのかもしれない。

 シャラを紹介した時には、村長補佐のミラがさらに眉をひそめていた。召喚師が結婚しているというのが珍しいのかもしれない。


 ――おい、シャラは俺じゃなくてテオの妻なんだが。


 隣に立っているシャラも、その紹介に狼狽(うろた)えているようだ。

 だが事前にディロンから聞いてはいた。マナヤが異世界から転生した者であり二重人格者であるということは伏せると。この村ではセメイト村の時のように英雄として実績がないので、異世界からやってきた等と言っても信用されないだろうとのことだ。


 ガルドが畏まりながらも追及するように訊ねてくる。


「お言葉ですがディロン様、騎士隊の方からの補充では、ないのですか?」

「安心されよ、腕前はお墨付きだ。彼はセメイト村に襲ってきたスタンピードにて、モンスターの半数をたった一人で処理した」

「はあ……」


 と、ガルドが胡乱(うろん)げにマナヤを見てくる。

 その表情には、明らかな不満と疑惑の色が見えた。その上から目線にマナヤもカチンときてしまうが、ぐっと抑える。


「マナヤはさらに、セメイト村の召喚師達を指導し、彼らの質を上げた実績もある。スレシス村所属の召喚師も彼の教えを乞うといい」

「召喚師の指導、ですか? 信用して、良いのでしょうか」


 ディロンとガルドの会話を聞いただけで、マナヤはわかった。ガルドと、そして同じ表情をしている村長補佐のミラもおそらく、当初のセメイト村以上に召喚師を疎んでいる。

 セメイト村の時のように、ただ単に忌避しているというだけではない。むしろ『侮蔑』の感情が強いだろう。


「信用できないという君たちの疑念は、もっともだ。ゆえにマナヤ達がこのスレシス村に滞在する間、私とテナイアも駐留する。何かあれば我々が責任を取ろう。それでも不足か?」

「い、いえ、滅相もございません。それでは、滞在する家屋を手配したいのですが……」


 召喚師一人どころか、ディロンやテナイアも含めていきなり七人も滞在するということになる。そのため、寝泊まりする場所が用意されていなかったのだろう。


「ああ。私とテナイアで確認をしたい、同行しても構わないな?」

「もちろんです。……では、他の皆さまはこちらでしばらくお待ちください」


 二人はこの世界の礼をすると、マナヤ達を馬車小屋の傍にある東屋のような休憩所へと案内した。

 他の騎士達は、馬車をしまうために馬車小屋の中へと入っていく。


「……なんか、微妙に感じ悪い奴らだったな。俺に対してだけ」


 村長たちがディロン、テナイアと共に家屋の向こうへと姿を消してから、東屋に腰掛けたマナヤがぽつりと漏らした。

 前にテオの記憶で見た、かつてのセメイト村の村人たちとも違う。畏怖されることこそあれ、馬鹿にされることは無かった。


「どこの村でも、召喚師の扱いはあんまり良くないのよ」


 と、マナヤを慰めるようにサマーが語る。

 彼女の隣に座っているのスコットも、それに相槌を打っていた。二人は他の村に行ったことがあるのだろうか。


「でも、あの衣装は素敵でした。作り方、教えてもらえないかなぁ……」


 と、『マナヤの妻』発言からようやく立ち直ったらしいシャラが、うっとりするように語った。

 ああいった凝った衣類を作るのは錬金術師の領分だ。だからこそシャラはあの綺麗な衣装が気になるのだろう。



「――おい、そこの召喚師。何いっちょまえに人前に姿現してんだよ、ああ?」



 と、突然乱暴な声で男がマナヤの背中に声をかけてきた。


 腰掛けたままマナヤが振り返ると、青い髪を左右に分けた男が立っていた。二十歳手前くらいだろうか。マナヤを小馬鹿にするように、嫌みったらしくニヤニヤしながら睨みつけてきている。

 その男は赤茶の衣装の上から、赤い布に金属製のリベットが無数に取り付けられたブリガンダインの胸防具を着込んでいる。腰にも帯剣しているということは剣士なのだろう。


「……人前に姿を現すなんざ、人の勝手だろ。何様のつもりだ、お前」

「はっ、召喚師如きが人扱いされると思ってんのかよ」

「あァ?」

「能無しは能無しらしく馬小屋にでも引っ込んでな。人サマに迷惑かけてんじゃねぇよ」


 先の村長達との会話で既にムシャクシャしていたマナヤは、立ち上がってその男に食ってかかってしまう。青髪の剣士は、自身よりわずかに身長の低いマナヤを見下すように下卑た笑みを向けてきた。


「ま、マナヤさんが二人……」


 後方でシャラが愕然とそう呟くのが聞こえた。乱暴な口調の人間が増えたことを言っているのだろうか。


「へェ?」


 その声を聞きとがめたらしい青髪の剣士が、シャラへの方を向く。彼女の姿を上から下まで舐めるようにジロジロと下品な視線を向ける。


「ひっ」


 嫌らしい視線を向けられたシャラが、小さく悲鳴を上げて萎縮してしまった。

 彼女を守るように、スコットとアシュリーがシャラの前に立ちふさがる。



「――ちょっとダスティン、やめなさいよ!」



 と、そこへ建物の陰から姿を現した茶色い短髪の少女が、小走りで青髪の剣士を止めに来た。

 歳はダスティンと呼ばれた青髪の剣士と同じくらいだろうか。先ほどの村長達のように青地に金色の刺繍が入った衣装を着ている。


「えっ?」


 彼女を見たシャラが、後方で小さく声を上げた。


「ンだよケイティ、またテメェか。なんでテメェなんざに指図されなきゃいけねぇんだよ」

「突っかかる相手くらい考えなさいって言ってるの! そこの人たち、今日来るっていう騎士隊の人たちよ、きっと!」


 ケイティと呼ばれた少女が両腰に手を当て、馬車の紋章を一瞥してから剣士の顔を下から睨みつける。

 彼女の言葉を聞いた剣士は、チラリとマナヤの方を見て。


「……チッ」


 舌打ちをして背を向け、足早に立ち去って行った。


「その、うちの村の者がすみませんでした騎士隊の方々」


 と、茶髪の少女が左胸に手を当て、マナヤ達に一礼してくる。


「――ケイティ? ケイティだよね?」

「……え? うそ、シャラ!?」


 男が去ってからおずおずと東屋から出てきたシャラが少女に声をかける。すると少女の方も、シャラの姿を見て驚愕していた。


「知ってる子かい、シャラちゃん?」

「はい、学園の錬金術師科で一緒だった子です」


 スコットの問いに、シャラが顔を輝かせながら答えた。

 シャラと、ケイティと呼ばれた少女が互いに駆け寄り、互いの両手を合わせて喜び合う。


「久しぶりじゃない! えと、三年ぶりくらい?」

「久しぶりケイティ! そっか、ケイティってスレシス村に来てたんだ」

「まさかまた会えるなんて! ってシャラ、騎士隊に入ったの? いつの間に?」

「ううん、私達は騎士隊じゃないんだ。故郷のセメイト村から来たの」


 シャラと彼女が学園で一緒に学んだということは、シャラと同年代なのだろう。二人してきゃいきゃいと笑い合う。


「紹介するね。私のお義父さんとお義母さんの、スコットさんとサマーさん」

「スコットです。シャラちゃんが、学園でお世話になっていたようだね」

「サマーよ。よろしくね、ケイティちゃん」


 と、スコットとサマーがケイティと、改めてこの世界の礼をし合う。


「はじめまして! ……そっか、そうだったね。シャラも、両親が……」


 少し表情を陰らせながら、ケイティがシャラの方を気遣うように視線を送る。


「うん。でも、私は今はもう大丈夫。……ケイティは?」

「……私も、もう踏ん切りはついたよ。いつまでもくよくよしてられないしね」


 と、互いに慰め合うように言葉を交わした。


「あれ? でも、どうしてシャラの村の人が? 騎士隊の召喚師が来るって聞いたんだけど……」

「えっと、話せば長くなるんだけど……セメイト村の、このマナヤさんが担当することになったの」


 シャラがマナヤの方に視線を向けた。


「……そ、そうなんだ。えっと、はじめまして」

「……ああ」


 戸惑いがちに、視線を泳がせながらマナヤに挨拶してくるケイティ。

 だがやはり余所余所しい。というより、『関わりたくない』オーラを全身から放っているようだ。だからマナヤもあえてそっけなく返した。


「でも、うれしい! まさかシャラがここに来てくれるなんて!」

「私もだよケイティ! いっぱいお話したいことがあるの」

「そうだ、後で村を案内してあげるよ! この村は、モンスターも少ないみたいで、すごく平和なのよ」


 今後しばらくはこの村に滞在することになるので、二人が一緒に過ごせる時間も長くとれるだろう。


 先ほどの村長達が帰ってくるまで、シャラとケイティは仲良く会話していた。

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