表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第一章 召喚師の降臨と錬金術師の献身
37/258

37話 受け入れる世界 MANAYA 2

「……チッ」


 弟子達が立ち去った、すぐ後。

 俺は、炎包みステーキの一切れを吹き消そうして……そのまま皿に戻した。


(そろそろ退散するか)


 まだ空腹は感じてるが、同じ味の繰り返しでもう口に入れる気になれない。

 ほとんど全ての料理に共通している、塩気しかない味付けにピナの葉ベースの同じ香辛料。この同じ味はもう、食う気にゃなれない。


 ……この世界での生活に関しては、『現地人』に任せた方が良さそうだな。

 テオと交代するべく、意識を沈めようとした。


「――あの、マナヤさん」


 そこへストップをかけてきたのは、聞き慣れた少女の声。


「シャラ?」


 振り向くとそこにはやはり、テオの嫁さんのシャラが居た。何か迷うような表情で、俺を見てくる。

 ……こいつと話すのは、ちょっと気が重いんだが。


「……その、あんまり食べれて、ないんでしょう?」

「……ああ」

「テオの家で、お料理、用意してるんです。よろしければどうですか?」

「わかった。今、テオに代わるからよ」


 テオと話がしたくなったんだろうな、こいつは。

 俺は、目を閉じてテオと交代しようと――


「ま、待ってください!」


 ――したら、声を張り上げてシャラが俺を止めてきた。

 目を開けると、シャラが意を決したかのような表情で。


「……()()()()()()、食べてもらいたいんです」




「……」


 テオの家に連れられた俺。目の前に並べられた料理を見て、正直ため息をつきたい気分だった。


 いつもと変わらぬ、いつも通りのメニュー。

 炎包みステーキ。餡かけのかかったエタリア。何かのスープ。そしてサラダ。

 これといって変わりない、今まで食べてきたものと同じ料理。


 だが目の前にはテオの両親とシャラも居て、真剣な顔で俺を見つめてくる。

 ……さすがに、逃げるわけにゃいかねーか。


 観念した俺はナイフとフォークを手に取り、まずは炎包みステーキを大きめの一口に切り分けた。

 ふっ、と炎を吹き消して、口に入れる。いつも通りの味を、咀嚼している時。


(……熱い……いや、(から)い?)


 ……舌の上に、ピリッとした熱さを感じたような気がして。

 ピナの葉のおかげで、熱くないのがこのステーキの売りだったはずだと。

 しかしそれをよく味わってみると、それが『辛味』であることに気づいた。


 今までの炎包みステーキに、辛味なんて無かったはず。

 塩の味とステーキ肉の旨み、そしてピナの葉の香り。それ以外の味は、無かったはずなのに。


 このステーキは、辛味がある。

 ちょうど良い塩梅の、唐辛子のような辛味が感じられる。ちょっとしたピリ辛ステーキになって、実に俺好みの味だ。


 思わずもう一切れ切り分けて、再び口に入れる。

 塩味だけじゃなく、辛味も感じる。ただそれだけで、こんなにも旨く感じるもんなのか。

 食欲を誘うピナの葉の風味が辛味ともマッチして、今までとの格差も強調される。次々と食べ進めたくなってしまった。


(もしかして)


 ふと思い至り、スプーンでエタリアも掬い取り口に入れてみる。


(……甘じょっぱい)


 今までは塩味と香辛料の風味しか感じなかったエタリア。

 それに明らかな、甘みが足されていた。

 甘味と塩味、そしてエタリアと香辛料の独特の香りが絡まり合う。この豊かな味わい……例えるなら、エビチリ、か?


 ――なら、これも。

 そう思い、今度はスープもすくって口に入れる。


(……すっぱい)


 塩気ベースだったはずのスープ。

 こちらには酸味が足されていた。どことなくフルーティな感じもする酸味。トマトスープの味わいに似ている。


(……これも)


 サラダを食べれば、酸味と辛味を感じる。

 今までは酸っぱいドレッシングのようなものだけだったのに。このピリッとした辛さと酸味……まるで、ピクルス。


「……お口に、合いました?」


 シャラがおずおずと訊いてくる。


 日本で食べていた料理とは、まだまだ比べ物にならない。

 出汁を使ってないから、味にはまだ深みが足りない。醤油のようなコクも感じられない。

 まだまだ、味の薄っぺらい料理ではあったけれども。


「うまい」


 苦笑するような形で、破顔してしまった。

 味が少し混ざるだけで、これほどまでに変わるものか。新鮮な味わいになって、でもどことなく馴染みのある味で。


 気づけば、ガツガツと料理を頬張っていた。


「おかわり、いりますか?」

「頼む」


 即答だった。

 シャラが空になった皿を取って、台所で料理を足している。俺はもう何も考えずに、ただ目の前に並べられた料理を(むさぼ)り続けた。




「……ふぅ」


 満腹になった腹をさすって、息を吐いた。

 この世界に来て、食でこんなに満たされたのはいつぶりだろうか。


(わり)ぃ、スコットさん、サマーさん。わざわざ味付け、変えてくれたんだな」


 そう、テオの両親に向き直って感謝する。


「お礼なら、シャラちゃんに言うといい」

「……え」

「シャラちゃんが作ってくれたのよ、この料理」


 スコットさんとサマーさんに言われて、俺は思わずシャラの方を見る。

 もしかして、とは思っていた。

 なぜ、シャラが呼びに来たのか。

 なぜ、シャラが味の感想を聞きたがったのか。


「……アシュリーさんから、聞いたんです。マナヤさんが、味が混ざってるものが食べたいと、言っていたって」


 やや恥じらいながら、シャラがそう言った。


 ……アシュリーが。

 確かに、あいつの前でそんな話をした。


「私は錬金術師ですから、いろんな調味料も作れるんです。だから、色々な組み合わせで味を混ぜてみて、調整してみました」


 ……シャラ、が?

 テオでなく、俺に?


「どう、して……?」

「――マナヤさん」


 俯き気味だったシャラが、凛とした表情で俺をまっすぐ見てきた。


「今まで、あなたを避け続けていて、本当にごめんなさい」


 ――こんなに、含みのない目で俺を見てきたのは。

 初めて、かもしれない。


「お、おい……」

「それから……お礼を言うのが遅れて、ごめんなさい」


 シャラが表情を緩めた。


「この村を……私達を……何より、テオを、助けてくださって。ありがとうございました」


 ――こいつは一番、俺を疎んでいたはずなのに。


「あなたが、居なかったら……私達は、死んじゃってました」


 ――テオが居なくなった原因とすら、思っていたはずなのに。


「何より……テオが堂々と出てこれる環境を、作ってくれて」


 ――そのこいつが、礼を?



「本当に……本当に、ありがとうございました……!」



 そう言ってシャラは、少し恥ずかしそうにしながらも。

 初めて、俺に。


 はにかむような心からの笑顔を、向けてきた。


「マナヤ君、私達からも礼を言わせてくれ。……テオが、私達とまた笑い合えるようになったのは、君のおかげだ」

「テオの願いを叶えてくれて……テオを、返してくれて……その上、マナヤさんも一緒に戻ってきてくれて、ありがとう」


 テオの両親まで、俺に。

 ……二人だって、テオが居なくなったと思って、悲しんでいたのに。

 俺を最初、疎んでいたのに。


『俺は……この世界に、「拒絶」されてるんじゃないか?』

 ――あの日、俺が抱いた疑念。

 けれど。


『――この世界にはまだ、あなたが必要なんです!』


 テオの、あの懇願が無ければ……

 俺は目覚める気など、無かった。



 この世界に疎まれていると思っていた、俺が。


 少し。

 本当に、少しだけ。


 世界に、受け入れられた、気がした。



 ……ちくしょう。

 この程度の、ことで……

 なんで、目頭が熱くなってきやがるんだよ……!


 見ろよ。

 テオの両親も、シャラも、俺を見て困惑してんじゃねーか。


 こういう時は、そうだな……

 引っ込んじまおう。

 この新婚夫婦にも、水入らずの時間を与えてやんねーとな。



 熱いものが零れそうになる目を、閉じて。


「――ありがと、な。シャラ」


 意識を、深く沈めた。





 ……なんとなく。

 今日は、よく眠れそうだ。



次回、一章最終回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ