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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第一章 召喚師の降臨と錬金術師の献身
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36話 受け入れる世界 MANAYA 1

 空が、だいぶ暗くなった夕刻。

 セメイト村に戻った俺たちは、中央広場で宴をしていた。進撃部隊が全員生還したこと、旧開拓村に群がっていたモンスターをあらかた一掃できたこと。

 それを祝い、労う宴だ。


 中央広場でかがり火を焚いて、その周りで飲み食いしながら騒いでる。

 俺はテオと交代しようかと思ったんだが。またしても功績を上げた英雄なのだから、今回の主役なんだから。なんて言ってきやがって、仕方ねぇからこのままで宴に参加している。

 ちなみに、俺は元からあまり酒に強くない。記憶を覗いてみてた限りではテオも同じのようだ。だから俺は酒には口をつけず、果実水を選んでいる。


 こんな宴を開くくらいなら、別の提案をしたりもした。

 テオとシャラの祝言でも挙げたらどうかと。

 だが「子供も生まれてないのに気が早い」なんて言われちまった。どうやらこの世界では、初子が生まれた時に祝言を挙げるらしい。

 ……異世界ってのは、わからねぇ。


「――マナヤ、で良いのだな」


 と、背後からの声に振り向く。

 横に流した黒い短髪に、黒ローブの男。黒魔導師のディロンとかいったか。


「何か、用件でも?」

「いや。君の協力に感謝する、そう言っておきたかった」

「……貴方がたには、胡散臭がられてると思ってましたよ」


 なんとなく皮肉じみた返事を返したが、ディロンが隣に座ってくる。……いや、落ち着かねぇんだが?

 すると、しばしの沈黙の後ゆっくりとディロンが口を開いた。


「旧開拓村の跡地を、調べた」

「……」

「森奥から旧開拓村に向かって、モンスターの群れが集中的に通ったかのような、長い直線状の獣道が散見された。フロストドラゴンの巨体のものも含めて、な」

「……それって」


 野良モンスターは通常、無秩序に徘徊しながら殺す人間を探す。だから遠くにいる複数のモンスターが、全員纏めて長い一直線でまっすぐ向かうってのは考えにくい。


「人為的にモンスター達が誘導され、旧開拓村に集められた可能性が高い」

「……なぜ、それを俺に?」


 何やら雲行きが怪しくなってきて、そう聞いてしまった。


「大量の野良モンスターを誘導する方法。君に、心当たりはないか?」

「――『猫機FEL-9(フェルナイン)』や『カーバンクル』。あるいは、『強制誘引(コンペルド・ベイト)』。そんなとこですかね」


 猫機FEL-9(フェルナイン)とカーバンクルにはモンスターに狙われやすくなる能力がある。補助魔法『強制誘引(コンペルド・ベイト)』は、それらと同じ能力を任意のモンスターに与える。

 そいつらを所かまわず遠出させ、歩き回らせる。モンスター達を引き付けたら、『戻れ』命令で一直線に帰還させる。それで広範囲からモンスターを釣って集めてくることは、できるだろうな。


 召喚師でない人間がそれをやるのは難しい。モンスターは、モノによって移動速度が違う。だから長距離から誘導してくるなら、移動速度の遅いモンスターは置き去りになり、いずれ追ってこなくなる。

 移動速度の速いモンスターに合わせて逃げ続けながら、後方の鈍重なモンスターをも引き付け続ける。そんなことをするには、猫機FEL-9(フェルナイン)などの『モンスターを引き付ける能力』が必要不可欠だ。


 ディロンが頷き、言葉を継いだ。


「それらを使って、広範囲から野良のモンスター達を引き寄せる。そして、モンスター達を引き連れながら旧開拓村へと呼び集める」

「そうして、人為的に旧開拓村は滅んだって言いたいんですか?」

「その可能性が高い。そしてそれを為せるならば、『召喚師』しかありえない」


 ……俺を疑ってるってことか。


「信じてもらえるかはわかりませんがね、俺は無関係ですよ。だいたい、わざとモンスターに人を襲わせるなんて、この世界の人間がやるんですかね?」


 俺の知る限り、モンスターという人類共通の敵が居るこの世界。人が人を襲うというのは、あまり意味も無いので起こらないはず。テオの記憶の限りでも、人殺しとはほぼ無縁の世界のはずじゃなかったのか?


 とは、いえ。

 あの窪地に大量に溜まっていた、モンスター達。そしてそれらを処理した途端に発生した、爆発と崖崩れ。人為的な何かを感じずには、いられない。


「……それをやりたがる者が居る可能性は、ゼロではない。そういう話をしている。君も気を付けることだ」

「……はぁ」

「開拓村は至急整備せねばならん。瘴気が集まる場所には違いないからな」

「そりゃ、そうでしょうね」

「君の活躍も含め、今回の件は国王陛下にも報告することになる。いずれ君にも通達が来るだろう」


 そう言ってディロンは立ち上がり、去っていった。

 ……やっぱ、警戒されてんじゃねーのか、これ。


「ったく……」


 そこらの焼肉をフォークで突き刺し、食らう。といっても、舌に感じるのは単純すぎる味わい。同じ味しかしなくて、もう飽き飽きしている。


「あ、あの、マナヤさん……」

「ん?」


 と、そこへ数人の足音が聞こえてきて、俺に話しかけてきた。そこに居たのは、六人の女性。

 ……って、俺に求婚してきた奴らと、その友人どもじゃねーか。


「ごめんなさいっ!!」


 俺が警戒して立ち上がろうとする前に、連中が一斉に謝ってきた。


「は? え、一体……」

「アシュリーさんから聞いたんです! その、マナヤさんの、世界じゃ……求婚の作法とかが、そもそも無かったって」


 ……アシュリーめ。

 変に気を遣うなって言っといたんだがな。


「私達、その、何も悪気が無かった人に、酷いこと言っちゃって……」

「アシュリーさんに言われるまで、気づかなかったんです! そういう常識が、無い世界の人なんだってこと! だから……」

「だから、その、ちゃんと謝っておかなきゃ、って……」


 俺を糾弾してきた友人三人が、伏目になりながら真摯に謝ってきた。

 ……いや、まあ。こっちの文化をちゃんと確認しようとしなかった俺も、悪いんだが。


「……わかった、謝罪は受け取っとくよ。ただ俺からも謝らせてくれ」


 と言って俺は、後ろでおどおどしている求婚してきた三人に向き直った。


「知らなかったこととはいえ、こっちの文化だと最低な対応をしちまったのは、俺だ。すまなかった」


 すると顔を真っ赤にして俯く三人。


「い、いえ、その、気にしないでください……」

「あたし達も、突然だったし……」

「も、もしかしたらチャンスあるかな、なんて思っちゃったから」


 といって、もじもじしてくる。


「ただ……(わり)ぃな。俺の体(テオ)がシャラと結婚しちまったから、どの道お前らの気持ちには答えられねえ」


 ……まさか、こっちの世界じゃ一夫多妻があるとか、ねぇだろうな?

 慌ててテオの記憶を探るが、一般人にはとりあえずないらしい。……一般人以外ならあるのか?


「は、はい、仕方ないですね……」


 どうやら三人も、それはわかっていたみてぇだな。素直に引き下がってくれた。


「その、月並みですけど、お幸せに」

「……あー、まあ、テオに伝えとくわ」


 そう言って、去る六人を見送った。

 俺に祝福されても困るんだがな。シャラと結婚してんのは、あくまでテオなんだから。


「――罪作りな男ねぇ」


 彼女らが去ったあと、逆方向から聞こえてきた声に、すぐに振り返る。


「お前な、余計なことを……」


 鮮やかな赤毛がかがり火に照らされたアシュリーの姿があった。


「あの子たち振っちゃって、よかったの? 女のあたしから見ても可愛い子達だと思うんだけど?」

「だから、俺の体は結婚してるんだっての」

「それは、テオでしょ? あんたの心は、あんたのもんじゃない」


 こてん、と首を傾げながら、さも当然のように語ってくる。


「無茶言うな。俺が誰かとくっついたら、この体(テオ)に二股させることになんだろーが」


 答えながら、プラムに似た果物を一口。

 するとアシュリーは、んー、と人差し指を顎に当てて考え込み。


「その理屈だとさ、シャラの方が、あんたとテオで二股かけてることにならない?」

「ぶふっ!? げっほ! げほっ!!」


 ――何言い出しやがる、こいつは!!


「お、おまっ……なん……っげほっ」

「だってそうでしょ? シャラは『テオとあんた』の体と結婚してて、あんたはそのせいで結婚できない。じゃ、あんたが結婚できないのは、あんた自身もシャラと結婚してるからってことになるじゃない」

「んな単純な話じゃなかっただろうが!?」


 いや、俺自身も二重人格者の結婚なんてどうなってるか知らねーけどよ! だからってそれは屁理屈ってもんだろ!

 アシュリーが突然、意地悪そうな顔でニマニマとしてきて。


「それとも、あんたもシャラが好きなの?」

「ちげーよ! テオの恋人を盗るような趣味は()ぇ!」

「それだったらテオに遠慮ばっかしてないで、あんたもあんた自身の幸せを見つけなさいよ?」


 と、アシュリーが今度はニカッと明るい笑顔を見せてきた。


「……俺自身の幸せ、ねぇ」

「そりゃそうよ。あんたは二度もセメイト村を救った英雄なのよ? その英雄が報われないなんて、うそでしょ」

「……」


 そう言うとアシュリーは、背を向けて去ろうとして――


「――アシュリー」

「? なに?」


 思わず、あいつを呼び止めた。


「……すまなかった」

「え?」

「あの日、お前に当たっちまったこと。まだちゃんと謝ってなかったからな。……すまなかった。もう、あんなみっともない真似はしねぇ」


 ……俺が一番、自分が情けないと思っていた事は、これだ。

 あの時、親身になって俺を気遣ってくれた、歩み寄ろうとしてくれたアシュリーに、あんな最低な当たり方をしちまったこと。この世界への八つ当たりを、アシュリーにまで向けちまったこと。

 何より……それなのに、俺はこいつに先に謝らせちまったことだ。俺の理不尽に付き合わされたこいつが一番、俺に怒りをぶつけてもいいはずだったのに。


 アシュリーが再び背を向け、鼻をすすった。


「……ん、受け取ったわ。これでもう、お互いに言いっこなし。ね?」

「お、おいアシュリー、お前には怒る権利が――」

「マナヤ」


 背を向けたまま、アシュリーが俺の言葉を遮った。


「あたしはね。師匠が……ヴィダさんが脚をなくしたのは、今でもあたしのせいだと思ってる」

「……」


 こいつとヴィダの間に何があったのか知らない俺には、何も言えない。


「だからね、あたしはどんな些細(ささい)な事でも、こう考えるようにしてるの。あたしがあの時こう動いていれば、回避できたんじゃないか。あの時あたしがああしていれば、こんな悪い方には動かなかったんじゃないか。そんな風にね」

「……アシュリー」

「マナヤ。あんた、言ってたわよね。あんたは、ただ何もかもに歯向かいたかっただけだったって。もしあたしが『帰りたかったら、帰っても良い』ってあんたに言ってたら、あんたは壊れてたかもしれないって」

「……ああ」


 アシュリーが再び鼻をすすり、背を向けたまま空を仰いだ。


「――あたしは、今度は間違えてなかった。あんたが帰ってきてくれる選択肢を、ちゃんと選ぶことができてた。……それがわかっただけで、あたしは充分」

「……ありがとな」


 手をひらひらさせて、アシュリーは今度こそ去っていった。


(俺自身の幸せを、追求なんてしていいもんかね)


 ……『この体』でそれを求めるのは、難しいかもしれない。そう考えながら、小粒の穀物である”エタリア”も一口分すくって、乱暴に口に入れる。


「あ、あの、マナヤさん!」

「あ?」


 ――今日は千客万来だな。

 見ると、セメイト村の召喚師達。俺の()()たち一同が揃って俺の元に集まってきていた。


「――マナヤさん! あの時は、すみませんでしたッ!」


 一歩前に出てきて大声でそう言い放ったのは、カルだ。


「俺、とんでもないこと、マナヤさんに言っちまって……!」



『……ッッ! そんなに異世界が好きなら! さっさと異世界に帰ればいいじゃないか!!』



 ……ああ、そうだったな。

 確かにあの時の俺に、あの言葉は堪えた。

 でもな。


「……いい。それより、俺の方こそ言い過ぎた。すまなかった」


 俺は立ち上がり彼らに真摯に向き合い、彼らに謝罪した。

 慌てだしたのは、俺の弟子達だ。


「そ、そんな、とんでもないです!」

「マナヤさんが正しかったことは、証明されたんですから!」

「私達の精進が足りなかったんです!」


 口々に言ってくるが、俺は納得しなかった。


「いや。俺は『元の世界かぶれ』になっちまってたんだ。この世界の何もかもが劣等だと、勝手に決めつけようとしてたんだよ」


 だから、ちょっとでも気に入らないことがあったら、この世界のせいだと押し付けようとしてたんだ。劣等な異世界だから、俺の世界の基準に合わせるのが当然。そう思い込んでいた。

 この世界には、この世界の誇りと文化があることを忘れて。


 俺がこの世界を”染めていい”と自信を持って言える部分は、召喚師の戦い方に関してだけだ。それ以外は、ロクに知らない俺が口出しする部分じゃない。


「お前らはこの過酷な世界で長年、必死に生き抜いてきてたんだもんな。すまなかった」


 こんなにも不便な世界で。いつ死んでしまうかもわからず、定期的に命の危険がある戦いをしなければならない世界で、こいつらはずっと生き抜いてきたんだ。


 そもそも俺が自分の知識を威張れていたのは、俺自身の功績じゃない。あくまで、『サモナーズ・コロセウム』の力。あのゲームで、世界中の人間が共有した試行錯誤の結晶。そして……史也(ふみや)兄ちゃんの導きがあってこそ、だった。

 召喚師の戦い方とは関係のない部分にまで踏み込んで、マウントを取っていいわけじゃない。それをやったら、俺の方こそ野蛮になっちまう。


「や、やめてくださいよマナヤさん」


 そう言いだしたのは、カルだ。


「あなたがテオさんになってから、思い知ったんです。マナヤさんに謙虚な態度は、似合いませんよ。ねえ?」


 苦笑するように言いながら、他の召喚師達にも同意を求める。皆、同じような表情で頷いていた。


「――だから、マナヤさんはマナヤさんらしく、どーんと構えてて下さいよ」


 と、皆の気持ちを代弁するように、カルが笑った。


 ……そうか。

 柄にもないことは、俺には似合わねぇか。


「……わかった。ならせっかくだから、コレだけは言わせてもらうぜ!」


 だから。

 びし、と弟子達に指を突きつけながら、声高に言い放ってやった。


「いいか! 今日俺がやったようなことができるヤツは、召喚師としてようやく『スタートライン』なんだ。お前らも、せめて俺が今日やったくらいのことはできるようになってみせろ!」


 そうだ。あんなのは基本テクニックに過ぎない。基本テクニックを使いこなせるようになって、やっと脱初心者。もっと応用テクニックも使いこなせるようにならなきゃ、生き残れねぇ。

 すると弟子達は、苦笑いしながら顔を見合わせる。そしてカルが、おずおずと。


「自分達は、マナヤさんほど優秀じゃありませんから……」


 ……そうか。

 なら、指導二日目にも言ったあの言葉をもう一度、くれてやろう。

 俺も、史也(ふみや)兄ちゃんに幾度となく言われた、あの言葉を。



「なら、優秀になれ!」



 一瞬、ぽかんとした弟子たち。

 みんなしてすぐに顔を引き締め、声を合わせた。


「はいッ!!」


 ――いい返事だ。

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