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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第一章 召喚師の降臨と錬金術師の献身
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33話 召喚師の実力 1

「ノーラン隊長!」


 マナヤ達がようやく進撃部隊に辿り着き、アシュリーが騎士隊のノーラン隊長に呼び掛ける。

 騎馬隊を含む進撃部隊の大多数が、街道の途中に集まっていた。剣士隊、建築士隊、弓術士隊、黒魔導師隊、白魔導師隊がほぼ揃っている。召喚師隊だけ見当たらない。

 負傷兵も多いようで、荷車のような物に乗せられ白魔導師隊の治療を受けていた。


「セメイト村のアシュリーか! こうも早く援軍に来てくれるとは!」


 その声に振り返ったノーラン隊長は、アシュリーの姿を見て安心した顔をした。しかし直後、彼女の隣に居るヴァルキリーに跨ったマナヤを見て絶句する。


「……な、何をしている、テオ?」

「あー、マナヤの方です。ノーラン隊長」

「……待て。まさか、またマナヤが降りてきたとでも言うつもりか?」


 ノーラン隊長が、マナヤの返答に目頭を指で押さえながら、呆れたように問いかける。


「降りてきたというか、『交代』したっていう方が正しいですね」

「交代、だと?」

「ええ。俺とテオは、どうやら二重人格みたいな状態のようですから」


 ……心底疲れたと言いたげに大きくため息を吐くノーラン隊長。


「ノーラン隊長。失礼ながら積もる話は後です。今は、あのフロストドラゴンをどうにかしなければいけないのでは?」


 シャラを背から降ろしたアシュリーが、改めてノーラン隊長にそう告げる。それを聞いて、ノーラン隊長も顔を引き締めた。


「……仕方あるまい。追及は後回しだ。確かに厄介な状況ではあるからな」

「部隊は、撤退中なのですか? これだけの人員が……」


 アシュリーが、首を傾げながら隊長に問いかける。

 まだ旧開拓村までは少し距離があるはずだ。街道の途中で、召喚師隊を除くほぼ全部隊がフロストドラゴンに対し撤退陣形を取っている。


「フロストドラゴンだけであれば、まだ手の打ちようもあった。だが、側面から奇襲も受けてしまったのだ」


 ノーラン隊長が歯噛みしながら、語り始めた。


 旧開拓村に近づいた時点で、フロストドラゴンの存在を確認したのだという。フロストドラゴンは氷ブレスの射程も長く、攻撃範囲も広い。甲殻も頑丈なので並の攻撃は通用しない。炎が弱点ではあるが、黒魔導師の射程ではフロストドラゴンの氷ブレスを浴びてしまう。

 そこで長射程が売りの弓術士が、黒魔導師による炎の付与魔法をつけてもらい、後退しつつ氷ブレスの射程外から撃ち抜くという作戦を立てた。さらに、建築士隊に命じてフロストドラゴンの進路上に障害物を乱立させ、進行を遅らせる準備をした。翼が生えてはいるものの、フロストドラゴンは空を飛ぶことはできないからだ。


 だが、いざ攻撃を始めようとしたその時。弓術師達が突然、モンスターの群れが側面から押し寄せてくるのを感知した。スタンピード級の数がいる大量のモンスターの群れ。すぐに対応しようとしたものの、側面からの大量のモンスター達に加え正面からフロストドラゴンのブレスをも受けて、完全に陣形が崩れてしまったのだそうだ。


「後退しつつも、側面から襲ってきたモンスターどもはなんとか対応できた。だが、その結果……」

「もしかして……マナ切れ、でしょうか?」


 と、自身もマナ切れを起こしているシャラが、部隊を見渡してはたと気づいた。


「……その通りだ。フロストドラゴンのブレスを、建築士隊が何重もの壁を築き上げて防ごうとした。ここまでの撤退には成功したが、こちらのマナの損耗が激しすぎた」


 と、ノーラン隊長が悔しげに顔をゆがめる。

 奇襲を受けた際に、建築士隊が正面からフロストドラゴンの攻撃を壁で防ぎ、その間に他の面々がモンスターの群れに対処。だが、防衛を担当する建築士隊が手一杯になったことで守りが薄くなり、長期戦は不利になった。

 他の隊が全力をもって側面からのモンスター討伐に当たった結果、錬金術師含めて人員のマナもほぼ枯渇してしまった。しかもフロストドラゴンの後方からも、新たに大量のモンスターが湧いてきた。やむなく救難信号を上げて一時撤退中なのだという。


「そんな大量のモンスターが、一体どうして湧いてきているのですか?」


 先ほども妙だと感じた、この森のモンスター出現頻度。それをアシュリーが指摘する。それに隊長が頭を振った。


「不明だ。ともかく今まともに戦えるのは、異常なマナ回復力を持つ召喚師隊だけだ」

「じゃあ今は召喚師隊だけで、あのフロストドラゴンの相手を!?」


 アシュリーがぎょっとして、フロストドラゴンの方へ振り向く。


「……うむ。召喚師長が、ここを抑えることならばできる、と言い張ったのでな」


 ノーラン隊長は呆れているような驚いているような、複雑そうな表情でそう答えた。


(ザック召喚師長……それに、あいつらも……)


 マナヤが感慨深げにそちらへ目をやり、少し前に駆けて彼らの戦いを観察しにいく。


 街道脇の森の中から、時々青い何かが飛び出してフロストドラゴン近くへと落ちていくのが見える。

 青い猫型のロボットモンスターである、下級モンスター『猫機FEL-9(フェルナイン)』だ。召喚したそれを、モンスターを大ジャンプさせる魔法跳躍爆風(バーストホッパー)で放り込み続けているのだろう。交代でやっているのか、インターバルを置いて一匹ずつ放り込まれていく。


「ああやって、召喚師隊が下級モンスターをフロストドラゴンの近くへと飛ばし続けている。あれが一応、フロストドラゴンらの足止めに成功しているようだ。建築士隊が抑えきれなくなった先ほども、それで難を逃れることができた」


 マナヤの近くまで歩み寄ったノーラン隊長が、やや苦々しげに語る。対照的に、マナヤは誇らしげだ。


「いい手ですよ。機械モンスターである猫機FEL-9(フェルナイン)は、氷のブレスが効きにくいですからね」


 猫機FEL-9(フェルナイン)などの機械モンスターは、冷気無効、かつ斬撃にも多少の耐性がある。鋭い氷を無数に放つブレス攻撃を行うフロストドラゴンによるダメージを、だいぶ抑えることができる。

 もっとも、『抑えることができる』程度だ。さすがに氷の刃による物理的なダメージは防ぎきれない。現時点でフロストドラゴンの攻撃を完全に防げるモンスターや補助魔法は、召喚師達の手元には無い。


「それならば、もっと数を送り込んで一気に倒してしまえば良いのだ。なぜ、あのように一体ずつ出し惜しみしておるのか……」

「いえ、あれでいいんですよ。俺の指導通りです」

「何?」


 ノーラン隊長の文句に、自信満々に言い返したマナヤ。隊長がマナヤへと眉をひそめる。


「あいつらは、ブレス攻撃モンスター対策の鉄則を守っているんです。ほら、上手いこと周りのモンスターを巻き込んでるようじゃないですか」


 あの猫機FEL-9(フェルナイン)を狙ってフロストドラゴンが氷のブレスを放っている。そのブレスに、他の野良モンスター達が巻き込まれて倒れている。

 意図的に、猫機FEL-9を跳躍爆風(バーストホッパー)で野良モンスターの群れの中に放り込んでいるのだ。そうすることで、フロストドラゴンが取り巻きの野良モンスターを巻き込んでブレスを放つように。『同士討ちは基本』。マナヤの教えだ。

 目を凝らしてみれば、時々馬に乗った人影が周囲のモンスターの群れへと近づき、また森の中へと戻っているのがわかる。おそらく、ブレスに巻き込まれて倒れたモンスターを封印しているのだろう。馬に騎乗しているということは、おそらく騎士隊所属の召喚師だろうか。


「ブレス攻撃モンスターに、大軍を一斉に差し向けるのは悪手です。大軍全員が一発の広範囲ブレスに巻き込まれて、全部隊が一気に削られてしまう。一体ずつ送り込んだ方が、まだ消耗を避けられるんですよ」


 腕を組んでフロストドラゴンの方を見ながら、マナヤはそう解説した。

 そう、だからこそ彼らは、猫機FEL-9(フェルナイン)を少しずつ送り込み、なるべく少ない消耗でフロストドラゴンを抑え続けているのだ。チーム分けして『FEL-9送り込み役』と『封印役』を定め、マナを維持しながら戦い続けている。

 これだけの形が成立したならば、むしろ召喚師のみで戦った方がやりやすいだろう。フロストドラゴンのブレスを利用する都合上、味方が近くに居るとかえって邪魔だ。


 それを興味深げに聞いていたノーラン隊長だったが、ふと気づいたように咳払いをしてマナヤに問いかけた。


「だが、肝心のフロストドラゴンが手つかずではないか」

「そうですね。あいつらには、そこにもっとヤキを入れてやらにゃいけないようです。倒せる時に倒すチャンスを逃してるようですからね」


 そう、黒い笑い声を上げてマナヤは言った。その表情にノーラン隊長も引いている。

 一応、この騎士隊に所属していたザック召喚師長も、上級モンスターを持っていると聞いている。しかしその上級モンスター『ギュスターヴ』では、フロストドラゴンとの相性が悪い。


 ふと、マナヤが真顔になり、数歩フロストドラゴンの方向へと足を進めた。


「……シャラ、アシュリー」


 正面を向いたまま、マナヤの背後にいる二人に静かに呼び掛ける。


「はいっ!」

「オッケー! 何をすればいいの?」


 シャラが凛と返事をし、アシュリーも拳を手のひらにパンッと打ち付けながら問いかける。


「わざわざついて来てもらったとこ、(わり)ぃんだけどよ……」


 くるりとマナヤが振り向き。


「多分もう、お前らの出番()ぇわ!」


 今日、一番のイイ笑顔で言い放った。


「……はい?」

「……は?」


 シャラとアシュリーの目が点になった。

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