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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第一章 召喚師の降臨と錬金術師の献身
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31話 崩壊と復帰

「っと、こいつで全部か」


 マナヤが全てのモンスターを封印しきって、ようやく一息つく。


「お疲れ様、マナヤ!」


 剣を納めたアシュリーが、マナヤに近づいて手のひらを向ける。パシッ、とハイタッチする二人。


「……へっ」

「……へへ」


 これまで『間引き』で同行したときの日常を取り戻せた。そんな思いから、マナヤとアシュリーが照れ笑いを零した。


「あ、ほらシャラ。あたしはもう治りきったから、これ着けときなさい」

「は、はい、ありがとうございます」


 振り返ったアシュリーが、シャラの火傷が癒え切っていないのを見て『治療の香水』を差し出した。シャラも素直に受け取り、自分の右手首に着け直す。


「さて、ここから上に戻らねーとな」


 さんざんドンパチやった割に、上のチームは誰もこちらの様子を見に来ない。こうなったら自力で帰るしかないと、マナヤが斜面を見上げて呟く。一応、遠回りすればこの斜面を登る必要はなさそうだが、時間がかかりそうだ。


「マナヤ、あんたのその”浮く錬金装飾(れんきんそうしょく)”で登れないの?」


 アシュリーが、いまだにフワフワと地面から十数センチほど浮かんでいるマナヤの足元を見て訊ねた。シャラが、それを使ってこの斜面を降りて行ったのを見たからだ。


「降りるならともかく、登るのは無理だな。これ単体だと」

「『単体だと』?」

「シャラ、『減重の聖杯』持ってねーか?」

「あ、はい、あります」


 シャラが鞄から、杯のようなチャームのついた錬金装飾(れんきんそうしょく)を取り出した。マナを込め、それをマナヤに渡そうとすると――


 ――ズズウゥン


「なんだ?」


 どこか、上の方で何かが爆発したような音がして、とっさに振り返るマナヤ。

 その爆発音は、その直後に更に二度続いた。やや左右にブレてはいるが、ほぼ同じ方角だ。


「い、今の、まさか……」


 シャラも不安そうに、爆発音が連続した方向を見上げた。その方向は北、ちょうどセメイト村がある方向だ。


「いえ、セメイト村じゃないわ。爆発音の距離が近すぎる」


 アシュリーもその方向を見上げる。すると――


「きゃあっ!?」

「な、なによ!?」


 大きな地響きのような音と共に、地面が揺れだした。シャラはバランスを崩して尻餅をついてしまい、アシュリーは驚きながらも身を屈めて周囲を見回す。

 ()()()()()()()の関係。そして、かつて日本のテレビで見たニュースから、マナヤは一つの可能性に思い至った。


「――まずい! 【トリケラザード】召喚!」


 咄嗟にマナヤは、堅い甲羅に覆われた緑色のトリケラトプスのようなモンスターを召喚。中級モンスター『トリケラザード』、現在マナヤが召喚できるものの中で、最も図体の大きいモンスターだ。さらに『妖精の羽衣』を足首から外して地に足を着けた。


「二人とも、乗れ!」


 するとマナヤは、尻尾の方から伝ってトリケラザードの上に乗り、二人を手招きする。


「えっ……?」

「なっ、何してんのマナヤ!?」

「早くしろッ!」


 今日一番の焦り声と共に、二人を急かすマナヤ。

 モンスターといえば、人間を殺している人類の不俱戴天の仇。召喚獣とはいえ、そんなモンスターに触ったり乗ったりするのは、この世界の人間には抵抗がある。例えるなら猛毒を持った毒蛇を、飼いならされているからといって素手で触るようなものだ。


「……大丈夫なのね!?」

「俺を信じろ!!」


 マナヤのいつにない余裕の無い声と、明らかに異常な地面の揺れ。アシュリーは意を決する。


「シャラ、行くわよ!」

「えっ? え、えっと……」

「早く!」


 アシュリーは戸惑うシャラの手を強引に引き、尻尾を伝ってトリケラザードの上に乗った。

 直後。


 ――ドドドドドドドッ


 北側の急斜面が崩れ、大量の土砂が滑るように崩落してくる。

 ……そう、『崖崩れ』だ。


「しっかり捕まってろ!」

「えっ、ちょ……」

「【跳躍爆風(バーストホッパー)】!!」


 三人が(またが)ったトリケラザードが土砂に飲まれそうになる直前、破裂音と共に一気に空へと勢いよく跳び上がった。


「ひゃあっ!?」

「きゃあああああああっ!!」


 トリケラザードごと空中に放り上げられ、アシュリーは驚愕、シャラは目を閉じて絶叫してしまう。

 三人が先ほどまで立っていた窪地は、一瞬にしてその大部分が土砂に飲まれた。三人を乗せたトリケラザードは、そのまま落下するかと思いきや。


「【次元固化(ディメンションバリア)】!」


 マナヤはトリケラザードに、『三十秒間、対象モンスターを無敵化するが、攻撃も移動もできなくなる』魔法、『次元固化(ディメンションバリア)』を使った。


「……は?」

「……え? あれ?」


 がくん、と体が揺れて急に安定した感覚。

 トリケラザードは空高く、何の支えもない中空に浮いた状態で静止した。そんなトリケラザードの上に(またが)っている、アシュリーとシャラの目が点になる。


「『浮島(うきじま)』戦法、って奴だな」


 下を見下ろしながら、マナヤが背後の二人に説明する。


 モンスターを『無敵化』する魔法である次元固化(ディメンションバリア)。それの副作用である『移動できなくなる』というものは、実は前後左右のみならず、『上下』にも適用される。そのため、跳躍爆風(バーストホッパー)などで空高く飛んだ状態のモンスターを、何の支えも無い中空に固定することができる。

 空に浮かんで静止したモンスターの上に乗ることで、近接モンスターから身を守る。『サモナーズ・コロセウム』では、『浮島(うきじま)』戦法と呼ばれていた。

 今回はこれを、咄嗟(とっさ)に崖崩れの安全圏である『空中』に避難するために使用した。


「えええぇ……なにコレ」


 アシュリーがトリケラザードから落ちないように注意しながら下を見下ろす。

 眼下では、窪地が埋め立てられんばかりの勢いで土砂が流れていた。窪地の北側が広範囲に崩れている。


「これ、一歩遅れてたら、あたし達も……?」

「生き埋め待ったなし、だったろうな」


 マナヤの返答に、思わずアシュリーは唾を飲み込み、また下を覗いた。まだ轟音を立てて土砂が流れ込んでいく様を、しばらく茫然と見守る。


「……あ、あの、マナヤさん」


 そんな中、頭を抱えたままのポーズでシャラがおずおずと訊ねてきた。


「これ、どうやって降りるんでしょうか?」


 土砂はほぼ崩れ終え、静寂が戻りつつある。もう降りてもさして問題は無さそうではあるが、今彼らが居るのは空中十数メートル。


「ああ、コレはあと五秒くらいで落ちる」

「えっ!?」

「ちょっ!?」


 マナヤの言葉に、二人が血相を変える。

 何もない虚空に浮かんでいられるのは、次元固化(ディメンションバリア)の効果によるもの。効果時間が終了すれば、当然落下する。


「まあ落ち着け、落ちる時にクッションは作れるからな」

「……クッション?」


 ――ガクン


「きゃああああああああっ!!」

「ちょ、ちょっとおおおおお!?」


 本当にそのまま落下していくトリケラザード。しかし。


「【反重力床アンチグラビトン】」


 マナヤがモンスターを地面から十数センチほど浮かせる補助魔法『反重力床アンチグラビトン』を使用。これにより、トリケラザードは地面スレスレでふわりとクッションでもあるかのようにやんわりと停止する。

 アシュリーが胸をなでおろした。


「……焦ったじゃない」

「うう……」

(わり)ぃ。しかし、さっきの爆発は何だったんだろうな」


 青い顔で涙目になっているシャラを尻目に、マナヤが訝しむ。

 この崖に近い急斜面に面した場所で、爆発音。とっさにマナヤが『崖崩れ』の可能性に思い至って事なきを得たが、あの爆発が原因であったことは想像に難くない。


「うーん、けどまあ、これでここから上に出られるわね」


 アシュリーが、崩れてなだらかになった斜面を見上げた。


「ああ待て、このままトリケラザードに乗っていく。崖崩れの後だから、地面が柔らかくなりすぎてるかもしれねぇ」


 と言って、マナヤが目を閉じた。トリケラザードに視点を変更したのだ。


「わっ」

「きゃっ」


 突然、地面から少し浮いた状態のまま動き出したトリケラザードに、乗っていたアシュリーとシャラがバランスを崩しかける。


「このままトリケラザードを操作して上に行く。反重力床アンチグラビトンの効果で地面から浮いてるから、地面に触らずに登れるしな」


 マナヤが目を閉じたままそう言った。

 召喚モンスターは『待て』命令状態の時に限り、視点変更中に『待機先』の位置を指定できるようになっている。行きたい方角を『待機先』として指定することで、好きな方向へとモンスターを動かす。乱戦時には使えない手段だが、周りに敵がいない状態であれば、こうやってある程度モンスターを直接操作することが可能だ。


「しっかり掴まってろよ」

「は、はい」

「わ、わかった」


 マナヤは、再び土砂が滑り出さないように注意を払いながらトリケラザードを操作した。



 ***



「――あっ、アシュリーさん! 錬金術師さんにテオ君も! 良かった!」


 崩れた斜面を登り切り、先ほど村人と一緒に戦っていた場所まで大回りして戻ってきた。

 すると、そこには八人ほどの村人が待機していた。人数が増えているのは、村からの増援だろう。一向に戻ってこないアシュリーらを心配していたようだ。


「おう、オルランさん。”久しぶり”、ってことになんのか?」

「え……そ、その口調、まさか……マナヤさんか!?」


 手を挙げて挨拶したマナヤに、その場に居た男性召喚師……オルランが目を見開く。


「遅くなって悪かったわね。この下の方にも、モンスターの群れがいたのよ」


 とりあえず、皆を代表してアシュリーが斜面下での状況を説明した。


「な……そんなにたくさんの群れが!? しかも、上級モンスター『フェニックス』まで!?」

「ええ。なんとか全部(さば)いたけどね」

「全部って……ま、まさかアシュリーさん達、たった三人で!?」

「大変だったのよ。マナヤが戻ってきてくれなかったら、危なかったわ」


 驚く一同にそう言って、アシュリーがマナヤに目を向ける。


「……俺はフェニックス相手にちょっと手助けしただけだよ。あとはアシュリーとシャラだけでも対処できたろ?」


 マナヤが、頬の掻きながら視線を逸らす。


「マナヤさん、本当に戻ってきてくれたのですね」


 召喚師オルランがマナヤを見て、感極まったような目を向ける。そして、ふと思い出したようにオルランが問いかけた。


「では、もしかしてあの爆発もマナヤさん達が?」

「いや、それは俺たちもわからん。三回爆発音が鳴ったかと思ったら、北側の斜面が崩れたんだ」


 どうやら、先の爆発はこの場に居る村人が起こしたものでもないようだ。皆が顔を見合わせる。


「――それにしても、解ぜんな」


 そんな中で黒魔導師が、『解決済み』を示す紫色の信号を上げながら、考え込んでいた。


「上級モンスターまでいたとなると、それはもはや準『スタンピード』級だ。先日も、スタンピードを処理したばかりだというのに……」

「そうね。しかも、その後に爆発と崖崩れ……この森に、何が起こってるのかしら?」


 さすがに偶然にしては、出来すぎている。誰かが人為的に自分達を殺そうとしているのではないか。アシュリーもその疑念を認め、考え込む。

 ――が、突然。


 ――ドウッ


 さらに南方から、赤い光の柱が立ち昇った。アシュリーが目を剥く。


「また救難信号!? しかも、赤!?」


 赤の救難信号。意味は、『スタンピード級の危機』。

 位置はおそらく、旧開拓村があった場所。先刻、騎士隊が大軍を率いて向かったはずの場所だ。

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