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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第一章 召喚師の降臨と錬金術師の献身
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28話 初めての共闘

 斜面から転げ落ちたテオは、窮地に陥っていた。


「ぐっ……【スカルガード】召喚! 【行け】っ!」


 落ちた時に捻った足首の痛みに耐えながら、六体目のスカルガードを召喚するテオ。

 彼は斜面から落ちた先で、野良モンスターの群れと遭遇していた。先ほどのチームが戦っていた群れ以外にも、斜面の下に別の群れがいたようだ。

 この場から移動しようにも、捻った足のせいでまともに動けない。

 そのため、テオは復活するスカルガードを主にした下級モンスター達を召喚し続けながら、その場しのぎをしていた。


(僕のヴァルキリーはまだ、こっちに来ない……)


 テオはヴァルキリーを【行け】命令のままにしていた。

 『行け』命令は、一番近い敵を狙って自動的に突撃する命令だ。敵の群れが全滅したら、一定範囲内に居る別の敵を攻撃しに行く。

 もしヴァルキリーが先ほどのチームと戦っていた群れを全滅させているなら、野良モンスターのいるこの場所まで自動的にやってくるはずだ。

 だが、いまだヴァルキリーが来る気配はない。ということは、上ではまだ戦いが続いているということ。


 【戻れ】でヴァルキリーをこちらに招き寄せることもできた。

 しかしその場合、上で戦っている敵モンスターを放置することになる。もしかしたらヴァルキリーをこちらに戻したことで、上のチームが窮地に陥ってしまうかもしれない。


(僕のせいで人が死ぬのは、もう嫌だ!)


 記憶の中で起こったスタンピード。

 自分のせいで、死んでしまったシャラ。

 テオは、自分のせいで人を死なせてしまうようなことは、もうしたくなかった。


「あっ!」


 敵のナイト・クラブがその銀の甲羅に覆われた巨躯で、テオの最後のスカルガードの攻撃を弾いていた。そして巨大な鋏でスカルガードを叩き斬ってしまう。

 テオのスカルガードが消滅し、地面に金色の紋章を残した。召喚師が呼び出したモンスターが死ぬと、瘴気紋ではなく金色の魔紋を残す。


「【ガルウルフ】召喚! 【行け】っ!」


 仕方なく、テオは今度は下級モンスター『ガルウルフ』を召喚する。

 復活こそできないが、ガルウルフはスカルガードと同等の攻撃力を持ち、耐久力もスカルガードよりはマシだ。今この場を凌ぐだけなら、他のスカルガードが復活してくるまでガルウルフに囮になってもらうしかない。

 灰色の狼が、敵の巨大な蟹型の中級モンスター『ナイト・クラブ』へと突撃していく。


(よし、復活してきた)


 その時、鈍い音と共に魔紋の一つが空中に浮かび上がり、中からスカルガードが復活する。ほぼ同時にさらに二体分のスカルガードが復活してきた。

 これならなんとかなるかもしれない、とテオは周囲を見渡して状況を確認しようとする。


「がふッ!」


 その時突然、テオの横から人型の金属の塊が躍り出て、テオを回し蹴りで蹴り飛ばした。

 中級モンスター『蹴機POLE-8(ポールエイト)』。高速で動き回りながら、敵を蹴って攻撃してくる、厄介なモンスターだ。


「げほっ! げほっ!」


 激しくせき込みながら、なんとか体を起こそうとするテオ。だが、無慈悲に蹴機POLE-8(ポールエイト)がマナヤへと走り寄る。



「――テオーーーッ!」



 と、その時。

 背後の斜面の上から、最愛の人の声が聞こえてきた。

 人影が凄いスピードで、斜面から滑り降りてきたかと思うと。


「やああああああっ!!」


 手にした金色の錫杖を、テオに襲い掛かろうとしていた蹴機POLE-8(ポールエイト)へと叩きつける。瞬間、鈍い破裂音と共にその機械人形が吹き飛び、背後に居たモンスターの群れへと激突した。


「……しゃ、シャラ!?」


 セミロングの金髪を揺らして、テオの前方にふわりと舞い降りた。どういう方法か、彼女は地面から少し浮き上がっている。肩で息をするシャラを、テオが見上げた。


「テオ、大丈夫!? ……えいっ!」


 テオを心配そうに見下ろすも、すぐ近くに迫ってきたナイト・クラブへと錫杖を突き出すシャラ。

 錫杖から衝撃波のようなものが発され、それを受けた巨ガニが後方へ吹き飛ぶ。


 ――シャラは、モンスターが怖くて戦場に来れないはずじゃ!?


「シャラ! どうして、ここに!」

「……テオ、動けないの?」


 慌てるテオに対し、シャラは冷静にテオが足を捻ってしまっていることを確認する。


「……今は、これしかない」


 シャラが、自分の左足首にはまったブレスレットを外した。すとん、とシャラの足が地に着く。


「【キャスティング】」


 そして、それをテオへと投げつけた。誘導されるように、そのブレスレットはテオの左足首へと装着される。


 ――【妖精の羽衣】!


「えっ?」


 その瞬間、今度はテオの体がふわりと浮いた。捻った足が宙に浮いていて痛くない。そのまま、足を動かさずとも浮いたまま自由に動けそうだというのが、なんとなくわかった。


「ごめんねテオ、本当は治してあげたかったんだけど……」


 そのための錬金装飾(れんきんそうしょく)である『治療の香水』は、先の白魔導師に装着してしまって、今は無い。


「シャラ、いつの間にそれを……い、いや、それよりも!」


 自分には使えない、とシャラが言っていたはずの戦闘用錬金装飾(れんきんそうしょく)を使っていることに疑問を持つテオ。しかし、今はそれどころではないことをすぐに思い出す。


「シャラ、君がここに来ちゃダメだ! 君まで……!」


 テオの脳裏に、自分を庇って死んだシャラの姿が浮かぶ。一番死んで欲しくない人が、ここに来てしまった。自分のせいで。


「あっ危ない、シャラッ!」


 後方からやってきた敵のコボルドが、シャラを弓矢で狙っているのが見えた。

 しかしシャラは、既にそれに気づいていた。冷静に鞄から素早く、竜巻のような形のチャームが吊り下がった錬金装飾(れんきんそうしょく)を取り出す。マナを込め、すぐに自分の首にかけた。


 ――【旋風(せんぷう)護符(ごふ)】!


 すると、シャラの周囲を旋風が取り巻いた。コボルドがシャラに放った矢は、その旋風によって左へと勝手に逸れていく。

 丁度そのタイミングで、テオのスカルガードが、また数体復活してきた。それによって、シャラへ攻撃しようとしていたモンスターが、標的をスカルガードに変える。


「テオ、動けるよね!?」


 周囲を確認し、錫杖――【衝撃の錫杖】を構えながら、テオへと問いかけるシャラ。


「シャラ! ダメだよ、君は戻って! 僕なら大丈夫だから――」

「――いやなのっ!!」


 テオの言葉を遮り、シャラが悲鳴のように叫んだ。


「もう、テオや、他の人に守られ続けるだけの自分でいるのは嫌! 一方的に、テオに支えられるだけの自分でいるのは、嫌! 大事な時に何もせずにいるのは、もういやなのっ!!」


 涙声になりながら、テオへと必死に言葉を紡ぐ。


「シャ、シャラ……」

「テオはずっと、私を支えてくれた。私にいっぱい、やさしさを、幸せをくれた」


 涙を袖でふき取りながらも、シャラは語り続けた。


「だから、私もテオに返したい! 私だって、テオを守りたい! お互いに、支え合いたいの!!」


 そして、まだ涙が残っている瞳を、テオに向けた。


「じゃないと、私……テオの、お嫁さんでいる、資格、なくなっちゃうもん」


 必死に作った笑顔のその瞳から、ぽろり、と堪えきれなかった涙が零れ落ちる。


(シャラ……)


 ――だが。


「――なっ」


 そんなシャラの側面、スカルガードがまた死んで手薄になった所。一部炎を纏った犬型モンスター、ヘルハウンドが現れ。

 シャラへと、飛び掛かる。


「シャラ!!」


 テオの脳裏に再び甦る。

 スタンピードの日の、シャラの姿が。

 自分を庇ったせいで死んだ、最愛の幼馴染の姿が。


(いやだ!)


 その時。

 テオの脳裏に、別の記憶が浮かび上がる。



『――そこだ! 敵の目の前で、タイミング良く召喚するんだ!』



 ――!!


 それは、テオの中にある、テオが知らないはずの記憶。

 テオを食いつぶしてしまいそうに思えた、記憶。


 これに従えば……

 自分は、別の何かに乗っ取られてしまうのか。

 自分は、テオではなくなってしまうのか。


 ……でも。


(シャラを、守れないのは……)


 ――もっと嫌だッ!!


「うああああああぁぁぁぁぁーーーーっ!!」


 テオは、滑るように地面の上を翔けて。

 シャラの前へと、躍り出て。


 その声に、従う。


「【ナイト・クラブ】召喚っ!」


 瞬間。

 テオの目の前に、紋章が発生。

 甲高い音と共に、ヘルハウンドの攻撃を弾いた。



『――ほらな! そうすれば、敵の攻撃を防げるだろう?』



 ――『紋章防壁』。

 召喚時の紋章を、盾として使う技術。

 テオが、知らないはずの知識。声に従ってしまったら、自分でなくなってしまうのではないかと、恐れていた記憶。


 けれど。


(大丈夫、だっ!)


 大丈夫だった。

 ずっと、怖かったけれど。

 勇気を出して、やってみれば、なんてことはない。


 ――シャラを、守ることができるなら。

 ――あのスタンピードの姿を、再現せずに済むなら!

 ――もう、そんなものは、怖くないっ!


「テオ!?」

「シャラ、大丈夫?」


 すぐさまシャラを自分の背後に隠すように、手で押しやるテオ。


「て、テオ、私も――」

「話は後だよ、シャラ!」


 シャラが言わんとしたことを察し、テオが遮った。


「だから、一つお願いがあるんだ」

「……テオ?」

「もし僕が、僕でなくなったら……」


 自分は、まだ弱いけれど。

 シャラが、そばに居てくれれば。

 シャラが、自分を支えてくれるならば。


「……シャラ、君が、僕を連れ戻して!」


 もう、あんな記憶は恐れない。

 自分でなくなってしまった自分も、引き戻してくれるなら。

 これを乗り越えた先に、最悪を回避する手段があるなら。


「今は一緒に、ここを切り抜けよう!」


 ――僕は、今度こそ、シャラを守り切ってみせる!


「……うんっ!」


 涙を拭き、力強く頷くシャラ。


 そこへ、テオのスカルガードがまた一体、倒れる音がした。ハッとそちらを振り向くテオ。


「シャラ! その武器、どのくらい威力があるの!?」


 テオはすぐに気を引き締め、シャラに確認を取った。


「ご、ごめんねテオ……これ、敵を吹き飛ばして押しのけるのがメインだから、破壊力はほとんど無いの」


 『衝撃の錫杖』は、錬金術師の護身用の武器だ。そのため攻撃力よりも、敵を一旦吹き飛ばして味方を守り、仕切り直すことに重きが置かれている。


「わかった、じゃあ僕がモンスターで攻撃する! シャラはその杖と、錬金装飾(れんきんそうしょく)で援護をお願い!」

「うん!」


 テオが一歩足を踏みしめ、シャラが錫杖を握り直す。


「よし、まず……」


『――モンスターが増えすぎたら、一旦送還してしまった方が良いぞ――』


「【送還(バウンス)】!」


 記憶の声に従い、場に出ているスカルガードの一体を送還(バウンス)の魔法で収納した。

 テオの場には、魔紋になってしまっているものも含め、スカルガード六体とナイト・クラブが一体。さらにこの場に居ないヴァルキリー一体の計八体。召喚上限数だ。ガルウルフは既に倒されており、場に残っていない。

 今、スカルガードを一体送還したことで、計七体。召喚できる枠が一つ空いた。


「あれは!」


 見ると、テオのナイト・クラブが敵のミノタウロスと交戦していた。

 大斧による打撃攻撃を行うミノタウロスは、ナイト・クラブを覆っている堅い装甲をも貫通してしまう。このままでは、テオのナイト・クラブが危ない。


『――相手の攻撃属性を考えて、相性が良い召喚獣をぶつけるんだ――』


「【ゲルトード】召喚!」


 テオは声に従い、大型犬ほどの大きさをした、巨大なカエル型の中級モンスター『ゲルトード』を召喚した。ゲルトードは体が非常に柔軟で、ミノタウロスの斧のような打撃攻撃を受け流しやすい。


「シャラ! そこのミノタウロスを、左に吹き飛ばせる!?」

「わかった!」


 それを聞いたシャラがナイト・クラブの傍へと、隠れるように移動する。そして、その背後からミノタウロスの横へ忍び寄って――


「ええいっ!」


 側面から『衝撃の錫杖』を叩きつけ、ミノタウロスを左方向へと吹き飛ばす。


『――【戻れ】命令状態を使って、モンスターを誘導するんだ――』


「【ゲルトード】、【戻れ】!」


 テオは、ゲルトードのみを指定して『戻れ』命令を下す。自分の周囲を回り始めたゲルトード。


「よし!」


 その状態でテオは、敵ミノタウロスが吹き飛ばされた位置まで、滑空するように自ら前進した。ミノタウロスが、ぎょろりとテオの方を向く。


「【行け】!」


 そして至近距離でゲルトードに命令を下す。すると、ゲルトードはしっかりとミノタウロスを狙い交戦を始めた。


(……すごい)


 かつて、火炎攻撃してくるジャックランタンに対し、耐火を持つヘルハウンドを闇雲に『行け』命令だけでぶつけようとして、全くうまくいかなかったことを思い出す。

 この記憶に従えば、自分は本当に強くなれるかもしれない。テオが、希望を持ち始める。


 ――ザザッ


 途端に、今度は右方向の茂みが音を立てた。かと思うと――


「シャラ!」

「えっ?」


 先ほどミノタウロスを弾くために前に出てしまったシャラへと、黄色い何かが突進していった。

 黄色い甲虫型の中級モンスター、イス・ビートル――!


「危ない!」


 テオが動こうとした、その時。



「――五十点よ!」



 今度は頭上から、赤い影が疾風のように舞い降りる。

 轟音を立てて、イス・ビートルを叩き潰した。


「アシュリーさん!?」


 シャラが驚いたように、飛び降りてきた赤毛の女剣士の名を呼んだ。

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