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229話 真実 1

「……我々の負けだ。約束通り、すべてを話そう」


 ヴァスケスの遺体を抱えたままのシェラドが、沈黙を破って口を開いた。

 俯いたままで、声からは感情が感じられない。


 ディロンがマナヤを庇うように下がらせ、険しい表情でシェラドを見つめる。


「素直にすべてを話すというのか?」

「フン……」


 鼻を鳴らしながら顔を上げたシェラドは、憎悪に満ちた目でマナヤを睨んでくる。


「私とて貴様らに協力などしたくない。できることならば、ヴァスケス様を殺した貴様らに報復をしてやりたい」


 シェラドが、陽炎が立ち昇りそうなほど強烈な怒気を発してくる。マナヤ含め、思わず全員が身構えた。


「……だが。マナヤとの、横やりのない決着。それこそが、ヴァスケス様の最後の誇りだった」


 しかし次の瞬間、その怒気をフッと消し去る。


「ここで私がお前たちを襲えば、その最後の誇りまで穢してしまう」


 膝の上にヴァスケスの亡骸を抱えた状態で、シェラドは観念したように項垂れた。

 ディロンがちらりと後方のテナイアへ視線を向ける。彼女はこくりと頷いた。『嘘の兆候はない』ということだろう。


 全員が構えを解く。

 話を聞く気になったことを察したか、俯いたままシェラドはポツポツと話し始めた。


「……結論から言おう。あの『核』と神殿は、人の魂を吸収し『邪神の器』をこの世界に顕現させるためのものだ」


 それを聞いてマナヤはしかめっ面で頷く。


「俺も、それを神サマから聞いた」


《――邪神が滅された際、奴は既に地上に世界を食らいつくす仕掛けを残していた――》

《――モンスターに殺された者達の魂を集め、それを糧にして地上そのものを破壊する『邪神の器』を創り出す機構だ――》

《――瘴気を集めて凝縮し、より強力なモンスターを発生させやすく誘導する装置。および、死した人間の魂を集めて邪神の力を地上に再現する装置に分かれる――》


 マナヤが一度殺された時、神から直接聞いた話だ。

 シェラドも、あえて表情を殺して頷く。


「そうらしいな。最初にあの『核』を見出したのは、トルーマン様だったそうだ。村の者達に家族を殺され絶望した後、スレシス村南方の神殿で見つけ出したらしい」


 トルーマンは、家族を同郷の者達に殺されていたようだ。おそらく召喚師であることを疎まれ、家族も巻き添えになったのだろう。


「『核』を手にしたその時、その用途と指示がトルーマン様の頭に流れ込んできたという。人の魂を『核』に吸わせ、それを祭壇に捧げることで召喚師の戦闘能力を完全なものすることができる、とな」

「魂を『核』に吸わせる、とはどういうことだ」


 ディロンが油断なく警戒つつも、シェラドに問う。


「モンスターはそもそもが、邪神に人の魂を食わせるための存在だ。ゆえにモンスターが人を殺した際、その魂の破片がモンスターに取り込まれる」

「……それは、召喚獣も含めてか?」

「そうだ。『核』には、モンスターから魂の破片を吸い出し蓄える機能が備わっている」


 そこでシェラドは、ちらりと奥の瘴気ドームを見やった。正確には、そのドームがある神殿の黒い壁を。


「あの神殿に配置されている祭壇、あそこに魂を吸わせた『核』を安置する。そうすることで、神殿に蓄えられたエネルギーと『核』に取り込まれた魂を合成する」

「神殿に蓄えられたエネルギーだと?」

「そうだ。ブライアーウッド王国にあった神殿には、今もまだそのエネルギーが残存しているはずだ。確認すれば、壁面の紋様が光を残しているのがわかるだろう」


 ディロンが眉間にしわを寄せつつ、さらに質問を重ねる。


「その神殿のエネルギーと、魂を合成するというのは?」

「本来、神のような存在はこの地上に顕現することができない。それを可能とするためには『邪神の器』となる、この世界に適応する肉体が必要となる」

「つまり、その肉体を創るために必要な材料が神殿のエネルギー、そして人の魂というわけか」

「そうだ。神殿に置かれていた『核』は、人を殺したモンスターから魂を吸い出す機能を持つ。十分な人の魂を蓄えたところで、神殿のエネルギーと合成し『邪神の器』を創り出す」


 そこでシェラドは、自身を恥じるように顔を背けた。


「『核』は何もせずとも、近くにいるモンスターから人の魂を吸い出す機能がある。だが、人がそれを持ち出すことでより広域のモンスターから魂を吸い出せるようになるのだ」

「だからお前らは、『核』を持ち歩いてたってワケか。さっさと人の魂を集めるために」


 マナヤが殺気を露わにしてシェラドを睨みつけた。

 スレシス村はもちろん、彼らがセメイト村を襲った時もそのつもりだったのだろう。モンスターに人を殺させ、その近くに『核』を持ち込んだ。


「なんでお前らは、好き(この)んでそんなことをしてやがった」

「言ったはずだ、マナヤ。我々は『核』に……神殿の機能に騙されていた」


 顔を背けたまま、マナヤへの憎しみを口調にだけ押し出してシェラドは答える。


「『核』が死した人間の魂をモンスターから吸収し、それと神殿のエネルギーを合成させる。そうして生まれた新たなエネルギーを原動力として、二つの能力が『核』の持ち主に与えられる。トルーマン様は、『核』にそう教えられたらしい」

「二つの能力……瘴気を纏う力と、瘴気を集めてモンスターを生み出す力か」

「そういうことだ。『邪神の器』の素材となるエネルギーを生み出した後の〝残りカス〟のようなエネルギー。それが、『核』の持ち主に与えられる能力に使われる。邪な心を持つ者を騙し、利用するためのエサとしてな」


 つまりは、『邪神の器』を作ったあとに残った不要なエネルギーを、召喚師解放同盟をそそのかすための褒美として与えていたということだ。

 ディロンが顎に手を当て、考え込むように呟く。


「……コリンス王国の解析によれば、神殿の祭壇には〝二種のエネルギーを取り込み、三種のエネルギーを出力する〟機能があるという話だった。『邪神の器』の素材となるエネルギーが一種。残り二種は、『核』を持つ召喚師に与えられる力だったということか」


 シェラドは彼の言葉にうなずき、なおも説明を続ける。


「そしてトルーマン様やダグロンの死後に『核』が飛来していったのは、魂や神殿のエネルギーを他の神殿へ移すための機能だ」

「他の神殿に移す、だと?」


 ディロンが眉をひそめた。『核』が勝手に飛んでいったりするのは、彼も気になっていたのだろう。


「そう。任務に失敗した召喚師のもとを離れ、『核』に残った魂やエネルギーを他の神殿に置かれた『核』へと流し込む。そうすることで各地から吸収した魂を集め、最終的に四つある神殿のどれか一つで『邪神の器』が顕現できるようにな」

「待て。では、あのドームは!」


 ディロンが瘴気ドームの方へバッと振り向く。シェラドもそちらへと視線を移した。



「あの瘴気のドームは、『核』が十分に人の魂を集め終わったことを意味する。『邪神の器』が創り出される準備が整い、それを妨害しようとする者を排除するためのシステムだ」



 全員が息を呑み、ドームを凝視する。

 それを尻目に、シェラドは淡々と言葉を続けた。


「この国は、モンスターによる被害が多すぎた。召喚師が多数モンスターに殺され、そしてその魂が神殿の『核』に吸収されてしまったのだ。だから急速に魂が必要量まで溜まってしまった」


 この国の方針が、『邪神の器』完成を速めてしまったということか。

 マナヤがドームを睨みつけながら歯噛みする。


「ならあの中に、『邪神の器』ってのが?」


 アシュリーが思わず身震いしつつも、顔をしかめそのドームを睨みつけていた。


「そうだ。モンスターがこの地域で溢れだし始めているのもその兆候だろう」

「排除するためのシステムって、モンスターを大量に生み出すだけなの?」

「いや。あの高濃度の瘴気そのものが、人の魂を汚染し破壊する効果を持っている」

「人の魂を、汚染ですって?」


 アシュリーが油断なくドームを見据えつつも、確認するよう問いかける。シェラドは暗澹たる様子で俯いた。


「ああ。あのドームに入った者の魂に、瘴気が入り込む。そして魂を壊し、その者達をシステムの思い通りに操作する」

「思い通りに、操作……では、襲ってきたあの聖騎士さま方は」


 テナイアはちらりと、後方で拘束されている聖騎士を見やる。シャラが錫杖を使ってこちらにも連れてきたのだ。


「奴らは神殿を発見した際、瘴気ドームが現れたのに巻き込まれたか、あるいはドームを調査しようと迂闊に入ってしまったのだろう。瘴気に汚染されモンスターと同様の存在となり、ただ人を襲うだけの意思なき怪物と化したのだ」


 レヴィラが戦ったという聖騎士達八名は、完全に判断力を失った狂戦士のようだったらしい。つまりモンスターらと同じ、攻撃一辺倒しか考えない単純な操り人形と化していたということだ。ゾンビのようなものなのだろう。


「……で、でもこの人達には、なにかしら意思らしいものを感じました」


 戸惑いつつ、シャラが拘束された聖騎士達を見やる。

 テオとマナヤが戦った聖騎士二人も、ちゃんと喋っていたし考えながら戦っていたように思えた。おそらくディロンやテナイア、アシュリーが戦った聖騎士たちも同様だろう。


 頭を上げてその聖騎士を見つめたシェラドは、呟くように説明する。


「瘴気にある程度は耐えられる、魂の強い者達だったのだろうな」

「瘴気に、耐えた……?」

「そうだ、錬金術師。瘴気に魂を侵食されても、完全には破壊されず原型が残る者がいる。そういった者達はただの操り人形ではなく、人間への強い悪意を持たせた者として意識を作り変えられる。その方が複雑な思考能力を残したまま戦えるからな」

「じゃあ、邪神に洗脳されたみたいな状態になったんですか?」

「ああ。もっとも、魂はすでに壊れているからな。死んだまま思考能力だけを利用されたのだ」


 シャラが痛ましい目で、拘束された聖騎士たちを見下ろす。

 この者達は意思を持って動いているように見えるのだが、実際はもう死んだまま動いているようなものなのだ。


「でもよ。なら結局、あのドームを消すにゃどうすればいいってんだ」


 マナヤがシェラドを睨みつけながら問い詰める。

 この瘴気を放っておけないのももちろんだが、野良モンスターが溢れかえっているのもこれの影響だということだ。であれば、このドームをどうにかしなければ解決はしない。


 しかしシェラドは無表情でマナヤを見上げる。


「あのドームは、『邪神の器』を守るためのもの。よって消し去るには、あの中に入り『邪神の器』を滅ぼすしかない」

「はぁ!? いや、あの中に入ったら魂が汚染されちまうんだろ!? お前が自分で言ったじゃねえか!」

「方法はある」


 食って掛かるマナヤに、シェラドはあくまで冷静に口を開いた。


「『共鳴(レゾナンス)』だ」

「なんだと?」

「共鳴はこの世界の正当な神が人に与えた、二つの魂を繋げることで神力を宿す能力。そのプロセスで魂を繋げる(パス)が作られ、結果的に瘴気が魂に入り込む侵入口をその(パス)が塞ぐことになる」

「……つまり?」

共鳴(レゾナンス)を発動中の状態であれば、ドームの中に入っても瘴気に冒されることはない」

「!」

「だが気をつけろ。すでに魂に瘴気が入り込んでしまった後に共鳴(レゾナンス)を使っても意味はない。瘴気の侵入を防ぐことはできるが、魂に既に入り込んでしまった瘴気を祓うことはできんらしいからな」


 説明を聞いて、思わずマナヤがアシュリーと顔を見合わせる。ディロンとテナイアも同様にお互いを見つめ合っていた。


(そうか、『共鳴』には瘴気による操作を防ぐ効果が! だからダグロンの時も……!)


 マナヤは、ダグロンを倒した時からずっと気になっていた。なぜ急に、マナヤの召喚獣がダグロンの支配を受け付けなくなったのか。

 おそらく、マナヤとアシュリーが『共鳴』に覚醒したからだったのだ。その『共鳴』によって、マナヤの召喚獣もダグロンの瘴気から守られていたのだろう。


 共鳴(レゾナンス)を使いながらであれば、ドームに入り邪神を倒せる。つまり、このメンバーなら……


「あ……」


 そこへ、一人だけ小さく声を漏らした。

 一斉に振り向けば、シャラが哀しそうな目でマナヤ達を見渡している。


「……私だけ、お手伝いできないんですね」


 ……シャラ一人だけ、『共鳴』を使えない。

 寂しそうに、というより悔しそうにそう呟き、俯いている。思わず残り全員も眉を下げてしまった。


 ――よかった。

(は? おいテオ、どういう意味だよ)

 ――あっ、ご、ごめん。でも、シャラが危険な目に遭わずに済むし……


 この期に及んで、マナヤの頭の中で妙に安心したようなことを言い出すテオ。


(お前な、状況考えろ! 戦力が一人減るってことなんだぞ!)

 ――そ、そうは言ったって……


 が、頭の中で言い争っている間に。


「……錬金術師。シャラ、といったか」

「えっ?」


 シェラドがふいに声をかけてきた。

 弾けるようにシャラが振り向くと、シェラドはヴァスケスの遺体を地面に横たえ立ち上がっている。そして懐から何か封筒のようなものを取り出した。


「ヴァスケス様との『共鳴』で、これを調べ上げておいた。受け取れ」


 と、その封筒らしいものを放る。

 ビクッと思わず一歩後ずさったシャラの足元に落ちた。


「待て」


 拾い上げようとしたシャラを制し、まずディロンがその封筒を手に取る。罠を警戒しているのだろうか。

 中身を開け、案外枚数の多い紙束を取り出したディロン。それにさっと目を通した後、眉をひそめてシャラへと顔を向けた。


「……シャラ、これがわかるか」


 と、その紙束をそっとシャラへ差し出す。

 おずおずと受け取った彼女は、紙面を見つめて驚きに目を見開いた。次々と紙束をめくり、中身を読み通していく。


「これは……錬金装飾(れんきんそうしょく)の、製作法(レシピ)? 一体どういう効果の……」


 読み進めながら、独り言のようにつぶやくシャラ。どうやら彼女も知らないレシピのようだ。

 一同が訝しむ中、シェラドが目を閉じてこう告げる。


「魂と肉体に瘴気が入り込むのを防ぐ錬金装飾(れんきんそうしょく)のレシピだ。それを装着した者は、あの瘴気のドームに入っても汚染はされない」

「えっ!?」


 シャラが紙束を二度見する。

 マナヤらも仰天して一斉にシャラの傍らへと駆け寄った。彼女の肩越しに紙面を見つめるが、錬金術師ではないマナヤには内容がさっぱりわからない。


「じゃあ、それをそこの聖騎士さんに装着すれば!」


 名案とばかりに、アシュリーがポンと拳で自分の手のひらを叩く。

 しかしシェラドは首を横に振る。


「無駄だ。言ったはずだ、そこの聖騎士どもは既に魂を破壊されているとな」

「あ……」

「それにその錬金装飾(れんきんそうしょく)は『共鳴』と同様、あくまで瘴気が()()()()のを防ぐものだ。すでに体や魂に入り込んでしまった瘴気を祓う効果はない」


 アシュリーは少ししょげてしまうが、気を取り直すように顔を上げた。


「まあでも、とりあえずその錬金装飾(れんきんそうしょく)を量産すれば、何人でも『邪神の器』を倒すために入り込めるってことよね?」


 が、その意見にディロンは難しい顔でシャラへと振った。


「どうだ、シャラ」

「……これを量産するのは、難しいかもしれません。作り方がすごく複雑ですし失敗もしてしまうかもしれませんから、一つ作るのも何日かかるか……素材もたくさん必要です」


 当のシャラは、紙束をめくりながら真剣な目でそう答える。

 少し考え込んでいたディロンは、念を押すようにシェラドへと尋ねる。


「その錬金装飾(れんきんそうしょく)ならば、確実に瘴気による侵食を防げるのだな?」

「そうだ。さきも言ったとおり、既に侵食されてしまっている場合は意味がないがな」

「侵食された者を救う方法は?」

「ない。強いて言えば、魂が壊れる前に治癒魔法を使い続けるくらいだな」

「治癒魔法だと?」

「瘴気は、魂の前に肉体を侵食する。治癒魔法を使い続けることで、侵食の進行を遅らせることは可能だ。それ以上はせいぜい、瘴気が魂を食らい尽くす前に『邪神の器』を倒すくらいしかないだろう」


 魂が壊れる前であれば、救うことができなくもないということだ。


「本当ならば、今すぐにでも行きたいところだが……」


 ディロンがちらりと全員を見渡す。

 ディロンもテナイアも、今は『千里眼』の使用でかなり消耗している。アシュリーも先ほどの戦いでかなりマナを失い、負担がかかっているのは同じ。今のコンディションで『邪神の器』と戦うのは少々心もとない。


 ふとテナイアが、シェラドへと問いかけた。


「シェラド。あの瘴気のドームを放っておいたら、どうなるのです」

「何か勘違いをしているようだが、今はどの道なにもできん。言ったはずだ、『邪神の器』はまだ完成の準備が整っただけにすぎない。今あのドームに入ったところで『邪神の器』はまだ実体が無いので破壊はできん」

「……時が経てば『邪神の器』が実体化し、破壊できるようになるのですね」

「そうだ。実体化したところで侵入し、叩くしかない。だが……」

「だが、何です」

「ある程度まで実体化すれば、その瞬間より峡谷から大量のモンスターが溢れだすだろう。おそらく、無限にな」


 テナイアがすっと目を細める。マナヤも内心で舌打ちした。


(『邪神の器』が実体化するまで待つしかない。だが、実体化したらしたでモンスターの大軍勢が襲ってくるってわけか)


 考えていると、テナイアはさらに追及。


「なぜ、そのようなことになるのです。マナヤさんの『神託』によれば、邪神そのものはとうに滅されているはずです」

「そうだ。だが邪神の最終目的は、『器』を使って地上に顕現し人の魂を直接食らうこと。そしてその後、残った地上を破壊しつくすことだ。『邪神の器』にもその本能だけは残っている」

「……では」

「邪神本体が宿らずとも、器に残った仮初の意識がその本能に従い、世界を滅ぼすべく地上を蹂躙するだろう」

「そうなるまでの猶予は? 侵攻が開始されるまでの日数は?」

「そこまではわからん。どのような姿で実体化するかによるのだ。ヴァスケス様との『共鳴』でもそこは絞りこみきれなかった」


 となると、今のうちにチーム分けも考えねばならないようだ。『邪神の器』を叩くチームと、外のモンスターを鎮圧するチーム。どの程度の人員を振り分けるか。戦力がなるべく多く必要だ。

 が、そこでふとマナヤはあることに気づき、シェラドに問い詰めた。


「ちょ、ちょっと待てよシェラド。『共鳴』が使える奴なら戦力になるって言ってたよな」

「ああ」

「じゃあなんでお前らは俺達に突っかかってきた!」


 マナヤはずかずかと大股でシェラドに近寄り、その胸倉を掴む。


「お前とヴァスケスだって、『共鳴』を発動すりゃ『邪神の器』と戦えたはずじゃねえか! なのになんで俺達と戦った!? 俺が死ぬにせよヴァスケスが死ぬにせよ、『邪神の器』と戦える人員が減ることにゃ変わりねえじゃねえか!」

「……」

「トルーマンの仇を取るなんてこたあ、『邪神の器』を倒した後で考えても良かっただろ! なのになんで俺との決着を急いだ!?」

「……」

「シェラド!!」


 至近距離からシェラドを睨みつけるマナヤ。

 怒りで腹が煮えくり返っていた。『邪神の器』が一体どのように歯向かってくるか知れたものではないし、錬金装飾(れんきんそうしょく)もいくつ用意できるかもわからない。なのに、邪神と戦える貴重な戦力をここで失うつもりで、ヴァスケスとシェラドは戦いを挑んできたのだ。


 が、シェラドは胸倉を掴まれたまま無抵抗にマナヤを見返す。その瞳には、ただただ苦渋が満ちていた。


「……私やヴァスケス様では、おそらく『邪神の器』と戦えなかっただろう」

「なんだと!?」

「マナヤ、貴様は我々と共闘できるとでもいうのか。貴様の両親を殺した我々と」

「この……ッ」


 胸の中にドロドロとした怒りが渦巻きながらも、マナヤは振り払うようにシェラドを解放した。

 実のところマナヤも、事前にこの話をされたところでヴァスケスらとの共闘ができたか怪しい。互いに殺気をそう抑えられないだろうから、同士討ちしてしまう可能性もあったかもしれない。

 そしてそれはヴァスケスらも同じことだ。マナヤはトルーマンの仇なのだから。


「……これで、私に語れることは全てだ」


 そう言ってシェラドは起き上がり、数歩後ずさりする。

 彼は完全に目が据わっていた。だが、最後の悪あがきをするという風ではない。



「――私を殺せ、マナヤ」



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