表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
224/258

224話 世界を救う方法

「ク……さっさと殺すがいい!」

「我らを殺したところで『異の貪神』さまはもはや止められはせん!」


 金属製のベルトで簀巻きにされている、瘴気を纏った聖騎士ふたり。彼らは身じろぎできないながらも、鋭い目つきでこちらを睨みつけている。


「【クルーエルウェイブ】」


 そんな聖騎士らへ、ディロンは容赦なく精神攻撃魔法を放った。僅かたりともマナを回復させない腹積もりだろう。

 シャラがディロンを気遣って、『魔力の御守』を手渡す。


「どうぞ、ディロンさん」

「助かる。さて、この二人を『千里眼』で聖都の者達に観せねばならんな」


 その『魔力の御守』を手首に着けながら、ディロンは改めてその聖騎士らを見下ろす。


「でもこいつら、話と違って普通に会話できるみたいなんだよな。ダグロンとも何か違うみてえだし、一体どうなってんだ?」


 マナヤはやや遠巻きに彼らを見つつ、首を傾げた。

 この者達の行動は狂気そのものだが、理性を完全に失っているというわけでもないようだ。自分のように、殺人を経験して狂ってしまったのとも何か違う。


「わからん。だが話ができるならば好都合だ。聖都へ報告ついでに尋問もしてみよう。テナイア」

「はい」


 難しい顔をしつつも、ディロンはテナイアと目くばせする。頷き合った二人は、そっと目を閉じた。


「【共鳴(レゾナンス)】――【千里眼(クレヤボヤンス)】」


 二人の体が虹色のオーラを発する。目を開けば、その瞳も同じ鮮やかな色彩へと変化していた。

 が、直後に二人が目を見開き、バッと神殿の壁面へと振り向く。


「――ヴァスケス! シェラド!」

「なに!?」


 そちらへと鋭く叫んだディロンの声に反応し、マナヤらもとっさに身構える。

 全員が睨みつけている先の、黒い壁面。その裏から二人の男が姿を現した。その姿を確認し、マナヤは憎しみに顔を歪める。


「……おまえら」

「やはり貴様が来たか、マナヤ」


 一人は、長い前髪で目元を隠した青髪の男ヴァスケス。相変わらず迷彩柄の深緑ローブを羽織っている。彼の隣にもう一人いるが、そちらはマナヤには見覚えがない。おそらく件の〝シェラド〟だろう。


「なるほど? この聖騎士さんたちも、あんた達のせいでこうなったってワケね」


 剣を正眼に構えたアシュリーが、いつでも飛び出せる体勢で指摘。

 が、そんなアシュリーをヴァスケスは鼻で笑った。


「誤解されては困るな。この件に関しては、我々はほとんど関わりがない」

「なんですって?」

「もう察しはついているだろうが、その聖騎士らの状態は瘴気による影響だ。彼らは、神殿中央にできたこのドームに入ってしまった」


 怪訝そうなアシュリーを黙殺し、ヴァスケスは自身らの背後を親指で指さす。『黒い神殿』の壁面が立ち並ぶ中心、濃い瘴気が渦巻くドームがそこにあった。


「お前たちも、今の状態で迂闊に近寄れば蝕まれる。自分たちの理性が惜しくば近寄らないことだ」

「何をいけしゃあしゃあと! お前らが仕組んだことじゃねえのか!」


 マナヤが激昂。

 聖騎士らを覆っている瘴気は、モンスターのフルコントロールを行っていた時のダグロンが纏っていたものに似ている。それと同じような影響を『核』とやらの力で与えているのではないか。


「何を企んでるか知らねえが、この場でお前らを殺して止めてやる! そこの聖騎士らを元に戻す方法も聞きだす!」

「無駄だマナヤ。そこの聖騎士は魂を食い尽くされ既に死んでいる。私を殺したところで治らぬし、この瘴気のドームも止められん」

「なんだと――」


 なおもヴァスケスへ問い詰めようとしたマナヤだが、すっとテナイアが手を前に差し出してそれを止めてきた。彼女もディロンも、『共鳴』を維持したままだ。

 尋問を代わるかのように、テナイアが淡々と口を開く。


「ヴァスケス。貴方は先ほど、この件にほとんど関りがないと言いました。では、なぜそこまでこの瘴気に詳しいのです」

「……」

「聖騎士様がたが、すでに魂を失くしていること。そしてその瘴気に入ってしまった結果こうなったことなどを、なぜ貴方が知っているのですか」

「……原因の一端は、トルーマン様が始めたことにあるためだ」


 重苦しい口調で、ようやくヴァスケスが返答する。


「我々が、召喚師の身体能力を高めるために使っている『核』……あれは、人を殺したモンスターが吸収した魂を回収するためのものだ」

「……魂を、回収?」

「そうだ。モンスターは殺した人間の魂の残骸を吸収する。『核』はその魂の残骸をエネルギーとして回収し、溜め込んでいるのだ」

「なんということを」


 テナイアが珍しく、瞳に怒気を宿している。

 が、ヴァスケスは臆した風もなく語り続けるのみ。


「『核』に力を溜め込むことで召喚師が力をつけ、世界を救うはずだった。召喚師が蔑ろにされ、封印がろくにできなくなったこの世界をな」

「……救うはずだった、というのは」

「我々もトルーマン様も、欺かれていたということだ。世界を救うどころではなかった。我々の行いは、世界の滅亡への手助けとなってしまっていた」

「世界の滅亡とは? そして、それを貴方がたはどうやって知ったのです」

「……その問いの答えを知りたいというなら、一つ条件がある」


 ヴァスケスはテナイアから視線を外し、横に流す。

 彼の視線が移動した先にいたのは、マナヤだ。


「マナヤ。この場で私と一騎討ちをしろ」

「なんだと?」

「貴様が私に勝てたならば、ここにいるシェラドが全てを話そう。この瘴気を止め、世界を救う方法をな」


 ヴァスケスがそう告げると、全員が一斉に殺気立つ。真っ先に噛みついたのは、アシュリーだ。


「ふざけないで! そんなこと言って、あんた達は最初から何も知らないんじゃないの!?」

「……」

「瘴気を止めて、世界を救う方法ですって!? あんた達はただ単に、マナヤを殺したいから出まかせ言ってるだけじゃない!」


 アシュリーは歯ぎしりして、少し腰を落とす。

 無言だったヴァスケスが、小さく息を吐いてシェラドへと顔を向けた。


「やむを得まい。ならば見せてやろう、我々が全てを知っているという証拠を。……シェラド」

「はい」


 進み出て、ヴァスケスと並び立ったシェラド。

 二人はそのまま、ゆっくりと目を閉じる。



「【共鳴(レゾナンス)】――【真実の瞳アイ・オブ・ヴェラシティ】」



 途端に、二人の全身から虹色のオーラが放たれる。


「な――」

「『共鳴』!? なぜ!」

「……っ!!」


 マナヤが瞠目し、ディロンも驚きの声を上げる。シャラに至っては、言葉にならず青褪めた顔で震えていた。

 ゆっくりと目を開いたシェラドの瞳は、虹色に怪しく揺らめいている。ヴァスケスも、揺らめいた前髪の奥から覗く瞳が同じ色になっていた。


「そうだ。私とシェラドも、こうやって『共鳴』に目覚めた。そうして、全てを知ったのだ」

「全てを知った、だと?」


 ディロンが問い返すと、ヴァスケスは無表情のまま自身の右手を見つめる。


「そうだ。この『真実の瞳アイ・オブ・ヴェラシティ』は、世界のありとあらゆる情報を――()()を知ることができる。私とシェラドが、真実を知りたいと強く望んだ結果だ」

「……」

「まだ信じられないか。では、例えば――」


 顔を上げたヴァスケスは、前髪の隙間からマナヤをじっと見つめる。


「マナヤ。お前は……いや、主人格であったテオは、神によって異世界の『ニホン』という場所へ連れられた。『トウキョウ』という地域で、『フミヤ』という男と共に生活していたようだな」


 思わず息を呑むマナヤ。

 全員の視線がマナヤに集中する中、ヴァスケスはなおも続ける。


「住居は二階建ての木造……いや、外壁など一部は『テッキンコンクリート』製の建築物。フミヤとやらは、先天的な重病を持つ子どもたちを支援する介護施設で働いている。そこで慰安のために、召喚師の戦いを模した『サモナーズ・コロセウム』という遊戯を子どもたちに――」

「て、てめえ! なんでそこまで知ってやがる!?」


 思わず叫ぶと、ディロンがヴァスケスから目だけは外さずにマナヤへ問いかけてくる。


「奴が言っていることは正しいのか、マナヤ」

「あ、ああ……どうして史也(ふみや)兄ちゃんの仕事まで」


 マナヤは戦慄する。

 こちらの世界に来てから、『日本』という国名くらいならまあ誰かに言ったかもしれない。だが『東京』という地名までは喋っていないし、住居のこともアシュリーにチラッと話した程度だ。鉄筋コンクリートなどこの世界の人間が知っているはずはないし、ましてや史也(ふみや)の職業など誰にも教えたことがないはず。


「理解したか。私達の『共鳴』は、真実の全てを観通すことができるのだ。だからこそ聖騎士らやこの国の状況も知っている。この瘴気の対処法もな」


 ヴァスケスはそれを誇るでもなく、ただただ淡々と説明していた。


「これでもまだ信じないならばそれは貴様らの勝手だが、断言しておこう。そこの聖騎士らを尋問したところで、連中は対処法など知らん。この瘴気のドームをどうにかしたければ、私達から聞きだすしかないぞ」

「……マナヤが勝てば、シェラドが本当にそれを話す。そのような保証が、どこにある?」

「私とて、召喚師として最後の『誇り』というものがあるのだ、ディロン。だからこそダグロンの所業に際し貴様らを手助けした」


 そこまで語ると、すうっとヴァスケスとシェラドのオーラが消えた。『共鳴』を解除したようだ。


「マナヤ。私もトルーマン様も、貴様に負け続けた。召喚師解放同盟も崩壊し私とシェラドしか残っていない今、もはや私達を待つものは死しかない」

「だから、俺と一騎討ちってか。そうするしか、お前は復讐を果たす方法が()ぇもんな」

「そうだ。安心しろ、貴様との一騎討ちでこの『共鳴』は使わん。元よりこれは戦闘向きの能力ではない。それに、純粋に『召喚師』として貴様に勝たねば意味がないからな」


 殺気を立ち昇らせ、マナヤを睨みつけてくる。前髪の奥から覗く視線は、虚ろながらも酷く険しい。


 しかし、そこへ唐突に。



「――ふざけないでくださいっ!!」



 シャラが、悲鳴に近い声で叫んだ。その鬼気迫るほどの剣幕に、マナヤがぎょっと振り向く。


「シャラ!?」

「何が一騎討ちですか! そんな、マナヤさんが……テオが死んでしまうかもしれないような条件、誰が呑むんですか!!」


 瞳に涙を湛えながら、今までで一番感情的になってシャラが泣き叫んでいる。


「先にお義父さんとお義母さんを殺したのだって、あなたたちじゃないですか! それなのに仲間を殺されたからって、逆恨みしないでくださいっ!」

「テオの妻……シャラ、といったか」


 ヴァスケスが無感動にそちらへ顔を向ける。が、対照的にシャラはひたすら激昂するように言葉をぶつけ続けた。


「その上、世界を救う方法って何を言ってるんですか! そんな方法を知ってるなら、どうしてあなたたちが自分でやらないんですか!」

「……」

「さっきあなただって言ったじゃないですか、こうなったのはあなたたちのせいだって! 世界を狂わせてきたのは、あなたたちじゃないですか! なのに世界を救う方法なんて、今さら何を――」

「――わかっているのだッ!!」


 だが突如、シャラをも上回る声量でヴァスケスが吼えた。シャラも反射的に口を噤んでしまう。


「そんなことは言われずともわかっているのだッ! 我々がやってきたことが無意味だったことも! 我々こそが世界を滅ぼす原因を作り出してしまったことも!」


 声が震えながらも激昂し続けるヴァスケス。わずかに俯いていて、もはや表情は見えない。


「……トルーマン様が、召喚師のためを思ってではなくッ……ただ復讐のためだけに、我々を利用していたことも……ッ」


 何の感情からか、彼が握りしめている拳が震えていた。


 ヴァスケスは、トルーマンの本心を知ったのだろう。

 彼の心が、召喚師を虐げる他『クラス』への復讐心だけで染まっていたことを。召喚師を助ける、というのはただの名目だったことを。自分の復讐のためだけに召喚師を『手駒』にすることだけを考えていたことを。

 ……『召喚師を救う』という表向きの目的に、救世主願望に、ただ自己陶酔していただけだったことを。


 が、そこでヴァスケスは顔を跳ね上げキッとマナヤを睨んだ。


「だが! それでもトルーマン様は、私を殺そうとした父に罰を下してくださった方だったのだ! 私達召喚師に希望を与え、召喚師が存在していても良いと言ってくださった方だった! 私にとっては、実の父よりも父親らしい方だったのだッ!」


 心の奥底から絞り出すような声。

 その感情をそのままぶつけるように、なおもマナヤを睨みつける。


「マナヤ、貴様はそんなトルーマン様を殺した! 仇を取らねば、召喚師として貴様を上回らねば、私は終われんのだ!!」


 そう言い放ったヴァスケスの瞳は、怒りで燃え滾っていた。

 その瞳を見て、マナヤは覚悟を決める。


「……へっ、いいじゃねーか。受けて立ってやるよ、一騎討ち」

「マナヤさん!? 何を!」


 マナヤが不敵な笑みを浮かべ、進み出る。シャラが目を剥いて叫んだ。

 ディロンとテナイアも慌ててマナヤの肩を掴んできた。


「待てマナヤ! 相手の狙いがわからぬ以上、下手に勝負を受けるのは危険だ!」

「ディロンの言う通りです、マナヤさん! この場所で戦うということが、そもそも計略である可能性も――」

「――シャラ、受け取れ」


 二人を黙殺したマナヤは、懐から取り出したものをシャラに放った。

 バラバラと降ってくるそれを、シャラはわたわたとしながらも何とか全て受け止める。が、腕全体で受け止めたそれらを目にした彼女は、戦慄。


「えっ!?」


 マナヤに……正確には、テオとマナヤに預けていた錬金装飾(れんきんそうしょく)の全てだ。


「ヴァスケス、どうせお前は錬金装飾(れんきんそうしょく)なんか持ってねえだろ?」

「……なんの真似だ、マナヤ」

「俺が勝てたのは錬金装飾(れんきんそうしょく)のおかげだ、なんて言われちゃたまらねえからな。俺もお前と同じ条件で勝負してやる」


 やや訝しんでいるヴァスケスだが、マナヤは自信たっぷりに見つめ返す。


「言い訳の余地は残さねえ。ヴァスケス、俺はお前から完璧な勝利をもぎ取る」

「……貴様」

「召喚師として俺に勝ちたいと言ったな? 無理だな。お前は一度たりとも俺に勝てねえまま、死んでいくんだよ」


 それが、マナヤにとっての最後の復讐だ。


 自身の破滅が確定している今、トルーマンを殺したマナヤを仇とするヴァスケスは、こう望んだ。せめて最後だけはマナヤに勝って終わりたい、と。

 ならばその望みを、潰す。それこそが両親を殺された召喚師解放同盟への、マナヤなりの復讐だ。


「マナヤ、冷静になれ! 仮に勝ったとして、こやつらが素直に真相を話すと思うか!?」

「早まってはいけません、マナヤさん! 勝った後に、シェラドが逆上して襲ってくる可能性もあるのです!」


 必死に引き留めようとするディロンとテナイアを、マナヤは振り払った。


「マナヤさんっ! テオ!!」


 その背中に、シャラが悲痛な叫びをぶつける。ぴくり、とマナヤの足が止まった。


「こんな勝負、受けることありません! 今から私達で真相を探れば、解決する方法だってきっと――」

「――シャラ」


 シャラの言葉を遮り、振り向く。

 その柔和な視線に、シャラも皆もあっと気づいた。


「……テオ」


 シャラが皆を代表して、名を呼ぶ。

 テオが表に出てきたのだ。


「テオ、テオからもマナヤさんに言って! こんな一騎討ちなんて――」

「シャラ、ごめん」


 しかしテオは、寂しげな表情でシャラを正面から見つめ返した。


「ここは、マナヤに任せてあげて欲しいんだ」

「て、テオ!?」


 裏切られたような顔になったシャラ。

 躊躇するように一瞬息を呑むテオだが、しかし踏みとどまって訴えかけた。


「ヴァスケスさんは、たぶん本当のことを言ってる。そこのシェラドって人も、覚悟を決めてる。わかるんだ」


 テオは二人の表情からそう判断していた。

 ヴァスケスが負けたら、シェラドは本当に真実を話すつもりだ。ただの策略ではない。彼らは彼らなりの誇りを持って勝負を挑んでいる。それがなんとなくわかった。


「……その通りだ。ダグロンが暴走し姑息な手を使っていたのを見て、我々は同じことはするまいと心に誓っている」


 幾分か冷静になったらしいヴァスケスが言う。

 そちらへと向き直りながら、テオはなおも背後の皆へと言葉をつづった。


「この人達は、自分達の責任を感じてるんだ。だからこの問題を、召喚師の未来を、僕たちに託そうとしてる」

「……テオ」

「シャラ。僕たちは、向き合わないといけないんだ。同じ召喚師であるこの人達と」


 テオはずっと、考えていた。

 なぜ召喚師解放同盟は、共存を放棄してしまったのか。

 自分達と召喚師解放同盟の違いは、一体何だったのか。

 自分達が同じ過ちをしないために、何をすべきなのか。


「それが、これからの召喚師達を担う、僕たちの責任なんだ」


 トルーマンの思惑はどうあれ。ヴァスケスらは、召喚師に人間らしい生き方ができる世界を望んだ。やり方に問題はあっても、召喚師達の現状に真剣に向き合っていた。

 その覚悟だけは、自分達も継がねばならない。


「……テオ」

「ごめんね、シャラ」


 震える声で背後から呼びかけるシャラに、背を向けたまま再度ぽつりと謝る。

 泣き崩れる声が聞こえて、しかし振り向かずにテオはまっすぐヴァスケスを見据えた。


「……マナヤ!!」


 と、今度は背中から別の声が。

 ここまでずっと黙っていた、アシュリーだ。


 瞬間、テオが引っ込んでマナヤが表に出てくる。


「……アシュリー」

「マナヤ、絶対に大丈夫なのね?」


 同じく彼女には背を向けたまま応じるマナヤに、アシュリーはただそう問いかける。


「ああ」


 自信たっぷりに、そう返した。


「わかった。負けたら承知しないからね。絶対に勝ちなさいよ!」

「任せとけ」


 振り向き、ニッとニヒルな笑みをアシュリーに向けてみせる。やや硬い表情ながら、アシュリーも同じ笑みを返してくれた。

 メラメラと自信が湧き、マナヤはヴァスケスへ向き直って進み出る。


 ヴァスケスが、隣のシェラドをちらりと見た。


「……わかっているなシェラド。手出しは無用だ。後を頼んだぞ」

「……はい。ご武運を、ヴァスケス様」

「ディロン、テナイア。お前たちもだ。私とマナヤの勝負に手出しをすれば、仮にマナヤが勝ったとしてもシェラドは真実を話しはしない。覚えておけ」


 彼はこちらに対しても釘を刺してくる。ディロンとテナイアが唇を噛んでいた。


 二人とも、納得しているという表情ではない。

 だが、テオが言うにはヴァスケスとシェラドは本気であるようだ。レヴィラを救えるなら、本当に世界を救うことができるなら、情報は欲しい。


「……頼んだぞ、マナヤ」

「ご武運を」

「ええ、任せてください。……それから、俺達からなるべく離れるんだ」


 涙を呑むような様子で、ディロンとテナイアもマナヤに託した。力強くそれに応える。

 ヴァスケスとマナヤは、一定の距離を保ったまま皆から離れ始めた。場所を変えて、最上級モンスターなどの攻撃にシャラ達を巻き込まないようにするためだ。


「……アシュリー、シャラ」

「え?」


 ディロンが二人に声をかける。すると、二人の戸惑うような声が聞こえた。


「私とテナイアの『千里眼』で、マナヤとヴァスケスの戦いを君達にも観せよう。マナヤを見守ってやれ」

「……はい。ありがとうございます、ディロンさん。テナイアさん」

「……ありがとう、ございます」


 ディロンとテナイアは、『千里眼』を発動しっぱなしにしていた。どうやら、マナヤとヴァスケスの戦いを安全距離から見守ってくれるらしい。

 自嘲気味に笑ったマナヤは、一旦足を止めて声を張り上げた。


「――アシュリー! 開始の掛け声をお前に任せる!」

「えっ!?」

「『例のアレ』で頼む! その方が俺も雰囲気出るからよ!」


 そう伝えて、マナヤは駆け出した。ヴァスケスもそれに続く。




 それなりの距離を取り、周囲を小さな台地に囲まれた谷間まで移動した。ヴァスケスがマナヤと目を合わせ、頷き合う。


「覚悟はいいな、マナヤ」

「こっちの台詞だ」


 張り詰める緊張感の中、二人が軽口を叩く。

 足元をサラサラと砂が流れていく音がした。じゃり、と地を踏みしめる足の音も良く聞こえる。


 そのまま、数秒ほど睨み合いが続き……



「――勝負開始(コンバット・コメンス)!!」



 アシュリーの叫び声が聞こえる。

 直後、弾けるようにマナヤとヴァスケスが飛び出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ