22話 それぞれの想い THEO
まだ僕が、十歳の頃。
「テオ? どうしたの?」
夕食後。
僕は、意を決して母さんに提案をした。
「母さん……ぼく、シャラのところに、いきたい」
僕の幼馴染の、シャラ。
二つ年上で、昔はよく僕の面倒を見てくれた。
僕にとっては姉のような人だった。
しっかり者で、かわいらしい姉。
そんな彼女に憧れて、僕もがんばるようになった。
片腕がない母親のためにも。
できることは全部、自分でやるようになった。
そんなシャラだったけど。
数日前……彼女は両親を、モンスターに殺されて。
僕は……シャラがあんなに泣く所を、初めて見た。
両親の家から離れたくない、孤児院に行きたくないと。
そんな風に泣き喚くシャラ。
それを見た僕の両親は、彼女の面倒を見ることを申し出た。
シャラは食事の時などは、一緒に食べるようになった。
そんなシャラは、僕たちの前ではいつも笑顔。
突然両親が亡くなったのに、毅然としているのがわかった。
でも。
僕はすぐに、それが空元気だとわかった。
だって……シャラは、心の中で泣いていたから。
僕は、昔から人の感情がよくわかった。
誰かが、悲しいのに無理に笑おうとしている時。
怖がっているのに、それを隠し通そうとしている時。
僕にはなぜか、全部わかってしまった。
だから、シャラが僕らの前で笑顔を作る時。
泣きそうになっているのを、我慢している時。
僕には、すぐに見分けがついた。
夕食後に、シャラが自分の家に帰る時も。
帰った後に泣いているのだろうと、僕にはわかった。
シャラは、誰にも気づかれないように……
独りぼっちで、泣いているのかな。
毎晩そう考えてしまい、僕は落ち着かなかった。
だから、それに耐えかねたあの日。
僕は母さんに言って、夜だけどシャラの家に行きたいとお願いした。
母さんは快く送り出してくれた。
シャラの家で、扉をノックする。
シャラが出てきたら、その顔でわかった。
もう、シャラは泣きそうになっているって。
それでも、シャラは誤魔化そうとしてきた。
大丈夫だよ、気のせいだよって。
きっと僕や、両親に心配をかけないように。
だから、僕は。
思わずシャラに、ぎゅっと抱き着いた。
昔、僕が辛かった時。
父さんが、母さんがしてくれた。
こうやって、僕を抱きしめて慰めてくれた。
シャラにはもう、抱きしめてくれる両親が居ない。
なのに、僕にだけ抱きしめてくれる両親が居る。
それで、シャラが独りぼっちになってしまうのが、悲しくて。
僕は、シャラの両親の分まで。
シャラをぎゅ、と抱き締めた。
僕の両親がやってくれたように。
両親からもらった暖かさを、シャラに分けてあげたかった。
「ひとりで、泣かないで」
気づけば、シャラの顔を見上げてそう言っていた。
「ぼくが、そばにいるから」
僕は、シャラの両親にはなれないけれど。
せめて、ずっと傍にいることはできるから。
シャラの目が、見る見る涙を溜めていった。
僕に抱き着きながら、思いっきり泣き通した。
孤児院に行きたくない、親の家から離れたくない。
そう言って泣いていた時よりも、ずっと沢山。
僕はシャラの背中をさすりながら、シャラを支えた。
僕の両親がやってくれたように。
少しでも、シャラの悲しみが薄れてくれるように。
少しでも、シャラの寂しさを癒してあげられるように。
その後。
僕は、シャラと一緒にいったん家に戻った。
そして両親に、今日はシャラの家に泊まると、申し出た。
シャラを見て両親は何かを察したらしい。
シャラを頼んだ、と僕に任せてきた。
シャラと一緒に眠るのは、久しぶりだった。
もっと小さい頃は、時々一緒に寝ることもあった。
隣同士で、親ともども気心が知れていたというのもある。
シャラは、僕にぎゅっと抱き着いて眠っていた。
寂しさを埋めるように。
僕も、少しでも温もりを分けてあげられるように。
せめて、シャラが独りにならないように。
シャラを起こさないように、彼女を抱きしめて眠った。
***
それからというもの。
僕は、シャラが寂しそうにしているのを見つけた時。
すぐに、シャラの傍に寄り添うことにした。
意識してみれば、シャラはずっと、寂しそうにしていた。
だから僕は、そういう気配を察した時。
所かまわず、シャラにスキンシップをした。
時には隣に座って。時には膝枕をして。
時には隣に寄りかかって。時には後ろから抱き着いて。
恥ずかしそうにしながらも、喜んでいるのがわかった。
そうして喜んでくれた時のシャラの笑顔は、とても可愛かった。
シャラにくっついていることを、友達にからかわれたりもした。
でも、何が悪いんだって言い返してやった。
人が悲しんでいるときに、慰めてあげる。
それが悪いことだなんて、あるはずがない。
未来の夫婦、だなんてからかわれたりもしたけど。
それでも良い、と僕は思っていた。
僕が傍に居るって、約束したのだから。
それがシャラにとって迷惑じゃないなら。
シャラを僕のお嫁さんにするのも、良いと思った。
だって。
最近のシャラは、寂しそうにすることが減った。
それでも、シャラの方から寄り添ってくることもあった。
それで、抱きしめ返した時。
とても……可愛らしくて、愛おしい顔をするようになった。
姉のような存在だったシャラ。
時が経つにつれ、どんどん可愛らしくなっていく、僕の幼馴染。
きっと、僕がシャラのことが大好きだから。
だからこんなにも、シャラの力になってあげたいと思っていたんだ。
ある日、成人の儀を受けるために王都へ向かう馬車。
今年で十四歳になる子達をいっぱい乗せた馬車を、見送った。
彼らが来年、この村に戻ってきた時。
彼らは、この村の正式な一員として認められる。
つまり、モンスターと戦い、村を守るための力を得て。
シャラの両親は、モンスターに殺されてしまった。
だから、僕も早く成人の儀を迎えたかった。
もっと、強くなるために。
僕とシャラが、いつか夫婦になった時に。
みんなまとめて守るための力を得るために。
自分達の身を、自分達の間に生まれるであろう子供を守るために。
私達はどんなクラスを得るんだろうね、とシャラが訊いてきた。
僕がこんなクラスになったなら、シャラはあのクラスが良い。
シャラがあんなクラスになったなら、僕がこのクラスならどうだろう。
そんな事を考え合いながら、僕は言った。
「どんな『クラス』になっても、一緒に支え合って、村を守って行こうね!」
どんなクラスだって、いいじゃないか。
シャラと一緒に、ずっとこの村を守っていくことができれば。
僕は、それで構わないんだ。
「たとえ私が、『召喚師』になっちゃっても?」
冗談めかして、シャラが言ってくる。
「『召喚師』になっちゃっても!」
だから僕は、自身たっぷりに言い放った。
召喚師は、嫌われている。
嫌われているけれど、必要なクラスだ。
だからシャラが召喚師になったって、僕は絶対嫌ったりしない。
「ふふっ、ありがとう。……私も、もしテオが召喚師になっちゃっても、一緒にいるよ」
そう、約束しあって。
***
シャラはなんと、錬金術師になって帰ってきた。
錬金術師になれる人は、そうそう居ない。
この村にも三人しか居なかったから、とても喜ばれた。
シャラ自身も嬉しそうにしていた。
本当に嬉しそうに、笑っているのがわかった。
だから僕もとても嬉しくなって、目いっぱいの笑顔になった。
それからのシャラは、忙しそうにしていた。
昼間は、担当区画の錬金装飾のマナ補充や、素材の補充。
夜は、応用の錬金術を学ぶために本で勉強するようになった。
そんなシャラに、僕ができることと言えば。
飲み物や果物を差し入れしたり。
疲れていそうな時には、昔のように寄り添ったりして。
シャラを応援するくらいだ。
王都に居た一年間で、シャラはとても綺麗になった。
だから、そんなシャラに膝枕をしたりする時。
膝から感じる体温や、ふと香ってきた髪の香り。
それらに、思わず心臓が跳ねてしまうことが多くなった。
シャラはもう、成人として村の一員になっている。
錬金術師としても、この村に貢献する人になっている。
二つ年下の僕が成人になれるのは、来年。
まだ、シャラに並び立つことができない年の差。
僕はそれを、ちょっと恨めしく思った。
そして、とうとう僕が成人の儀を受ける日がやってきた。
僕はようやっと、身長でシャラを追い抜くことができた。
自分の方が目線が上になり、僕がシャラを見下ろす。
シャラをちゃんと支えられるようになったと、喜んだ。
シャラが、王都へ向かう僕を見送りにきてくれた。
来年には、一緒に並んで村を守れるようになるね、と。
手を振るシャラに、大声でそう約束した。
王都に着いたら、さっそく成人の儀を受けた。
どのようなクラスの候補があるのかな、とドキドキしていた時。
突然、文官の人が入ってきて牧師さんに耳打ちした。
そして僕たちのクラス決定は、少し延期されることになった。
数日後。
僕は個別に呼び出され、宣言された。
僕は、『召喚師』に成るよう命じられたと。
その瞬間、僕の目の前が真っ暗になった。
召喚師。
モンスターを召喚して戦う戦士。
モンスターを呼ぶこと、モンスターを封印すること。
それ以外の取り柄がない、裏方の戦士。
そして何よりも、モンスターを呼ぶ力。
モンスターを操るという能力から、召喚師は疎まれていた。
モンスターによって、近しい人が殺されている人が少なくないからだ。
そう……シャラも。
シャラもモンスターに、両親を殺されている。
だからシャラも、モンスターを……
ひいては、召喚師を憎んでいるはずだ。
目の前の文官さんが何か言っていた。
けれど僕の頭の中には、入ってこなかった。
それでも僕は、懸命に頑張ろうとした。
『どんな「クラス」になっても、一緒に支え合って、村を守って行こうね!』
そう、約束したから。
『私も、もしテオが召喚師になっちゃっても、一緒にいるよ』
シャラもそう言ってくれていたのを、覚えていたから。
だから、僕が召喚師になっても、大丈夫。
頑張れば、きっとシャラと一緒に村を守る力にできる。
けれど、召喚師を担当する教官に言われた。
召喚師に選ばれた以上は、他の人とは距離を置くようにしなさいと。
召喚師は周りにいるだけで、嫌われる存在なのだからと。
そう、口酸っぱく言われ続けた。
それでも僕は諦めなかった。
教官から、必要なありとあらゆることを吸収した。
覚えるべきことは全部覚えるようにして。
めげずに、頑張った。
きっと、実力さえつけば大丈夫。
少なくともシャラは、僕を認めてくれる。
そう信じて。
けれど、学園でのある日。
お昼休みに、中庭が騒がしいことに気が付いた。
見ると、複数の女子学生が集まっていた。
一人の女子学生に寄ってたかって、いじめているのが見えた。
僕は慌てて、その間に割って入った。
すると彼女らは、狼を象った僕の校証を見た。
「しょ、召喚師!?」
「や、やだ、近づかないでよ!」
「い、行きましょ……」
そういって、いじめていた女子学生たちはそさくさと去っていった。
大丈夫? といじめられていた女子学生を助け起こそうとすると。
「ち、近づかないで!」
恐怖に満ちた目で、僕を見返してきた。
「え、いや……」
「召喚師なんて来ないで! モンスターが、私の両親を殺したのよ!」
「……!」
怯えと怒りが入り混じったような、引き攣った表情。
彼女のその言葉と表情が……突然、シャラとダブった。
「助けてくれなんて言ってない! ありがた迷惑だってわからないの!?」
そう言い放つ彼女の言葉。
何故か……シャラが、同じ言葉を。
同じ表情で言い放つところを、幻視してしまった。
その女子学生は、ひるんだ僕を置いて走り去る。
僕は、その場に茫然と立ち尽くしていた。
(ありがた、迷惑……)
そうだ。
シャラも、モンスターに両親を殺されてる。
たとえ、シャラが大丈夫と言ってくれていても。
モンスターを恐れる感情を、そう簡単に切り離せるものじゃない。
僕は……シャラのそばに居ても何にもならないんじゃないか?
――ありがた迷惑に、なるだけなんじゃないか?
シャラのために、と思っても何もできないんじゃないか?
召喚師になってしまった、今の僕じゃダメなんじゃないか?
シャラにとっては……悪夢でしか、なくなるんじゃないか?
そう考えてしまった、瞬間。
僕は、目の前が絶望に閉ざされる感覚を味わった。
***
学園で一年が経過した。
僕は、セメイト村に帰ることになった。
……召喚師が着ける、緑のローブを渡されて。
けれど……僕の心は一向に晴れなった。
召喚師になってしまったこと。
両親に、シャラに。
どう、報告すれば良いんだろう。
『召喚師なんて来ないで! モンスターが、私の両親を殺したのよ!』
頭の中でこの言葉が、シャラの声で響き渡る。
召喚師と近づきたがらない人は多い。
僕は他の子達とは別の、一人用の馬車に乗って帰ることになった。
やがて、セメイト村に辿り着いてしまう。
僕は、最後にセメイト村へと入った最後尾の小さい馬車から……
久しぶりに、故郷の土を踏んだ。
「……テ、テオ?」
と、その時。
懐かしい、愛しい人の声が聞こえた。
少し戸惑ったような表情。
僕を、見つめ返してくる。
「っ!!」
慌てて、目を逸らした。
僕には、シャラの感情が見えてしまう。
もしシャラの目に、拒絶の色が見えたら。
あの女子学生のような、怯えと怒りが混じった表情が見えたら――
――僕はきっと、耐えられない。
「て、テオ? どうしたの、大丈夫?」
気遣うような声で、シャラが呼び掛けてきた。
「シャラ、ごめん……僕……『召喚師』に、なっちゃった……」
意を決して、そう絞り出す。
シャラが息を呑む音が聞こえた。
ああ、やっぱり。
僕は、シャラのそばにはいられないんだ。
召喚師じゃ……シャラのそばにいることは、できないんだ。
「テオ、大丈夫だよ、私――」
「――ごめんっ!!」
「て、テオっ! 待って!!」
僕は、シャラの言葉を最後まで聞きたくなくて。
シャラの声に、恐怖が混じりだしてしまうのが怖くて。
シャラから逃げるように、その場を立ち去った。
召喚師用の宿舎があることは、知っていたから。
その宿舎へ、一直線に。
「開けて、テオ! 私、大丈夫だから! テオが召喚師でも、大丈夫だから!」
シャラが、鍵のかかった宿舎の扉を叩きながら言ってくる。
……ありがとう、シャラ。
でも、きっと、召喚師として僕を見たら。
モンスターと共に戦う、僕の姿を見たら。
きっと、君は怯えてしまう。
「シャラ……ごめん。今は、一人に……して欲しいんだ」
シャラに怯えられてしまうのは……
僕にとって、一番つらいんだ。
だから、ごめんね。
約束を守れない僕を、許してください。
「……テオ。テオの、新しい服。……ここに、置いとくね」
そう言って、外の壁に何かを立てかける音が聞こえた。
シャラの足音が遠ざかるのを待った。
その後に僕は恐る恐る、扉を開いた。
扉の脇に、手提げ袋が立てかけてあった。
「……っ、シャラ……っ!」
袋の中には、綺麗な服が上下一着分ずつ。
……おそらく、成長した僕の身長に合わせたであろう。
シャラが作ったらしい、服が入っていた。
「ありがとう……シャラ……ごめんね……」
僕は、それを大切に手提げにしまって……
洋服棚の中に、仕舞い込んだ。
***
「……ん」
そして、現在。
朝日が目に入って、僕は目を覚ました。
(……わっ!?)
すると、僕の隣で眠るシャラが目に入った。
僕の胸元に顔を寄せて、寝息を立てていた。
近すぎる距離と髪から香ってくる匂いに、ドキドキする。
昨日の晩。
僕が、知らないはずの記憶に悩まされ、怖がっていたこと。
それをシャラに、悟られてしまった。
夜の中央広場で一緒に座って、シャラが僕を励ましてくれた。
けれど、まだ何かを恐れている僕に気づいたのか。
今晩は一緒に眠りたい、と言ってきた。
(……シャラ)
――シャラは、本当に綺麗になった。
艶のある金髪は、もっとさらさらに。
白い肌は、滑らかになって。
顔立ちも、可愛いというより、綺麗と呼べるようになって。
(……僕は)
僕は確かに、恐れていた。
自分の知らない何かに、自分が侵されそうな感覚に。
自分の人格が、『マナヤ』に乗っ取られそうな感覚に。
でも。
僕が一番、恐れているのは、違う。
そんな、未知の記憶による感覚じゃないんだ。
僕が一番、怖いのは――
シャラにも知られたくない、僕の恐怖の正体は――
(――僕は、本当に、シャラを守れるのか?)
昨日、召喚師の集会場での出来事。
そしてその後の『間引き』で、思い知った。
僕は……弱い。
僕が前よりも戦えていると思えたのは、僕じゃない。
全部、『ヴァルキリー』のおかげだ。
そして、その上級モンスターを手に入れることができたのもそう。
『マナヤ』さんの、おかげだ。
僕はヴァルキリーの強さに頼り切っているだけ。
そんなヴァルキリーを、普通のモンスターだけで……
単独で倒して封印したのは、マナヤさんだ。
僕は、ヴァルキリーの強さに……
ひいては、マナヤさんの功績に、あぐらをかいているだけ。
きっと、ヴァルキリーが無い僕は弱い。
マナヤさんどころじゃない。
この村の、どの召喚師より……ずっと、弱い。
マナヤさんに鍛えられた、この村の召喚師。
彼らが討論していた内容。
僕よりも遥か『上』の話をしていた。
おそらくは、マナヤさんの指導によって。
(そんな僕が、シャラを守って、支えることはできるの?)
僕なんかがシャラの傍に居るより……
せめて僕が、『マナヤ』さんのままだった方が……
シャラは、幸せになれたんじゃないのか?
僕は、あの記憶を思い出す。
この村にスタンピードが起きて。
この村が、炎に包まれて。
両親が。
シャラが。
僕の目の前で死んでいく。
僕では、彼らを守れない。
なのに、マナヤさんはどうだ。
そんな状況を、たった一人でひっくり返して。
僕の両親も。シャラも。村の人たちも。
全部ひっくるめて、守り切ってしまった。
(僕は……シャラを、犠牲にしただけだ)
シャラは、僕を庇って死んだ。
僕のせいで……シャラは、命を落とした。
僕のそばにいたら、シャラが危険に陥るかもしれない。
――嫌だ。
僕は、シャラの近くに居ないほうが良いんじゃないのか。
僕のせいで、シャラが死んでしまったら。
……それが一番、耐えられない。
(僕は……まるで、燃えるピナの木だ)
あのスタンピードの記憶でもそうだ。
ピナの木は、ごうごうと燃え盛っていた。
ピナの葉は、一度火が付くとずっと燃え続ける。
ずっと燃え続けて。近づくものを傷つける。
ずっと村を、周りのものを、焼き続ける。
(……シャラ)
目の前で無防備に眠るシャラ。
彼女を起こさないように、そっと髪を撫ぜる。
シャラにだけは、絶対に、犠牲になって欲しくない。
自分のせいで犠牲になることだけは、絶対に。
(……ごめんね)
僕は、再び目を閉じた。
――僕のせいで死んだ、記憶の中のシャラにも謝りながら。
次回、アシュリー視点。




