21話 それぞれの想い SHARA 2
王都からテオが帰ってきて、一年。
私は、毎日の錬金術師としての仕事をこなしつつ。
テオの所へ通うことも、日課にしていた。
相変わらず、テオとは顔を合わせることもできなかったけれど。
毎日、その日の食事や、服などの日用品を届けた。
けれど、ある日。
錬金術師として、生活用の錬金装飾にマナを込めて回る仕事の最中。
スコットさんが、血相を変えて私に報告してきた。
スタンピードが迫ってきたと。
私は、血の気が引いた。
どうして。
こうならないようにするために、開拓村を作りにいったはず。
モンスターに殺された両親のことを思い出して。
私の体が恐怖に震えだした。
けれど続くスコットさんの言葉に、私は別の意味で血相を変えた。
テオが、先にスタンピードの前線へ向かったと。
私は半狂乱になって、南門へ向かおうとした。
けれど、テオの両親が二人がかりで私を止めにかかった。
離して。
テオが、死んじゃう。
こんなお別れなんて、嫌だ。
泣き叫びながら、私は二人を振りほどこうとしたけれど。
私は引き摺られるように、避難所へと連れていかれてしまった。
戦えない私は、邪魔になるだけだから。
テオが死ぬとは限らない、死ぬはずがないと。
そう、私を説得しながら。
でも、私はそんな楽観的にはなれなかった。
両親が亡くなった時のことがフラッシュバックして。
テオまで、そうなってしまうことが怖かった。
避難所で、私は震えながら祈った。
神様。
お願いします。
あなたを恨んでしまったことは、謝ります。
どんな償いでもします。私の命だって、差し出します。
だから、お願い。
テオを、連れて行かないで――
思いがけず。
スタンピードは、あっけないくらい早く終わった。
報告に来てくれた人から聞いた。
重傷者は多いけれど、死者は出なかったのだと。
以前までの襲撃より大規模な、れきとしたスタンピードだったにも関わらず。
けれど、その重傷者の中にテオが居たと聞いた。
しかも、今回のスタンピード最大の功労者だとも。
私はテオの両親と共に、急いで南門へと向かった。
南門では、重傷者が毛布の上に並べられ。
白魔導師さん達が、懸命に治療魔法を使っていた。
そんな重傷者たちの中に……テオがいた。
お腹に、大きな傷跡があって。
血が、いっぱい出ていた。
私は、真っ青になった。
赤毛の女剣士さんが、心配そうに彼を見下ろしていた。
白魔導師さんが、手のひらからの白い光で治療してくれていた。
けれど今の段階では、応急処置しかできないという。
他にも、放っておいたら命の危険がある重傷者が多くて。
命を取り留めるだけの治療をして回るのが、精一杯だそうだ。
なんとか、表面の傷口は塞がって。
白魔導師さんが他の重傷者の元へ駆けていく。
私とテオの両親は、テオの元に残って彼にすがりついた。
生きててくれて、良かった。
けれど、体の中に傷が残っているせいだろうか。
彼の体は、急に発熱しだした。
私たちは、火を消したピナの葉をテオの額に当てたり。
汗をかき始めたテオの体を拭いたり。
懸命に、看病した。
ほどなくして、騎士隊の人たちが駆け付けてくれた。
彼らの中にいた、白魔導師団の人たちが手分けして。
治療活動を手伝ってくれていた。
そうして、テオは……
やっと、傷をちゃんと治してもらうことができた。
傷が完治したテオを、スコットさんがおぶって。
私達は、意識の無いテオを家に連れて帰った。
体力を消耗しているので、しばらく眠り続けるかもしれないと。
そう、騎士隊の白魔導師さんに言われた。
その日の晩。
私はテオの両親に頼んで、二人の家に泊めてもらった。
二人は、一も二も無く受け入れてくれた。
テオは、生きて戻ってきてくれた。
彼の目が覚めた時に、ちゃんと傍に居たかった。
久しぶりに彼の顔を見て、ちゃんとお話しがしたかった。
彼が目覚めたのは、明くる日の昼過ぎ。
サマーさんが気づいて、私達はテオの寝室に駆け込んだ。
私はテオの寝具にすがりつくように、泣き崩れてしまった。
けれど、彼の様子がおかしい。
テオは、こんなに乱暴な口調だっただろうか。
こんなに、しかめっ面をしていただろうか。
こんなに……目つきが、鋭かったろうか。
「……聞きたいことがあるの、テオ」
「俺の正体、のことか?」
サマーさんの問いに、そう返した彼。
私は、背筋に冷水を浴びせられたような気がした。
彼は……テオじゃ、ない?
ほどなくして、赤毛の女剣士さん……アシュリーさんが来た。
その後には、騎士隊の人もやってきた。
突然、彼は上級モンスターを召喚した。
皆が騒然とする中。
突然現れたモンスターに、私は悲鳴を上げて逃げ出してしまった。
お父さんを、お母さんを殺した、モンスターが。
そう思うと、私は体の震えを止められなかった。
騎士隊の人が言ってくれて、ようやくモンスターが消えても……
私は、恐怖からの震えが止まらなかった。
騎士隊の人が彼に、色々な質問をしてきた。
――彼は、テオじゃなかった。
自分を『マナヤ』と名乗った。
神様に命じられて、別の世界からテオに転生してきたのだと。
……『死んでしまった』テオに、時間を巻き戻して宿ったと。
なら、本当のテオはどうなっちゃったの。
必死になってそう問いかけても、「わからない」と言われた。
テオを乗っ取ったのか、記憶を引き継いだのか、わからないと。
でも。
私はもう、確信してしまっていた。
彼の目つきが違う。
彼の表情の作り方が違う。
彼の立ち居振る舞いが、全く違う。
この人は……テオじゃない。
テオの記憶があっても……この人をテオだとは思えなかった。
そこからの話は、あまり頭に入ってこなかった。
いくつかテオに質問をして、騎士隊の人たちは帰っていった。
残されたテオの両親と私は、押し黙ってしまう。
「それから、マナヤをそんな目で見ないであげてくださいよ? 彼が望んでなったわけじゃないって、わかってますよね?」
そう、アシュリーさんが言ってきた。
……わかってる。
この人が、マナヤさんが、テオを消したわけじゃない。
だって。
神様は……テオを、連れて行ってしまったんだから。
私が、自分ではテオの力になれないのを棚に上げたから。
私が、神様を恨んだりしてしまったから。
……せめて生きてさえいてくれれば、それでよかったのに。
私はいたたまれなくなって、逃げるようにその場を後にした。
***
その日、私がどう過ごしたか、よく覚えていない。
努めて淡々と錬金術師の仕事をしていたのだと思う。
深く考えると、また後悔しそうだから。
夕食時が近くなり、私は食材を持ってテオの家へと向かった。
いつも通り、サマーさんの料理を手伝うために。
サマーさんは、少し吹っ切れた顔をしていた。
テオの記憶によれば、この村は滅びるはずだったのだと。
テオの両親も、私も、モンスターに殺されるはずだったのだと。
それを、彼が……マナヤさんが救ってくれたのだと。
私達に死んでほしくない、というテオの願い。
それをマナヤさんが、叶えてくれたのだと。
でも。
それを聞いても、私はそう簡単に割り切れなかった。
私は……テオにも、生きていて欲しかった。
夕食を食べ始めて。
炎包みステーキにやたらと驚いているのを見て。
私は、やはり彼がテオでなくなっている事を、思い知らされた。
彼は……マナヤさんは言った。
この村の召喚師さん達に戦い方を教えるのだと。
別の世界で学んだという、召喚師の戦い方を。
「俺の戦い方にゃ、かなり覚悟が要るからな。連中がついていけるかどうか……」
「……マナヤさんは」
その言葉を聞いて、思わず口をついて出てしまった。
「マナヤさんは、これからもあんな、無茶な戦い方を続けるつもりですか」
思い起こされるのは、スタンピードでボロボロになった姿。
……その体は、テオのものなのに。
勝手に、テオの体で無茶しないで。
「……無茶な戦いをしなきゃ、間に合わねえ。それは召喚師に限った話じゃねえだろ?」
マナヤさんは、そう反論してきた。
無茶をしなければ、自分の命すら危ないと。
それが、戦場なのだと。
それが出来なかったから……テオは一度、死んだのだと。
それを聞いて、私は押し黙るしかなかった。
戦場に出たことも無い人間が、戦場を語るな。
そう、言われている気がして。
実際、一度も戦場に立ったことがない私は。
テオの力になれたことがない私は。
返す言葉が、見つからなかった。
***
私は気まずくて、マナヤさんとあまり会話ができなかった。
テオの顔で、全く違う人が話している。
それに一向に慣れなくて。
だから、私はマナヤさんとは極力距離を取った。
彼とどう接して良いかわからなかった。
マナヤさんが、アシュリーさんと意気投合していた。
でも、それを見ても何も感じない。
嫉妬心が、欠片もわかない。
びっくりするくらい、何の感情も湧かなかった。
私は、こんなに薄情な人間だっただろうか。
彼には、テオの記憶もあるのに。
彼の中のどこかに……テオが、残っているかもしれないのに。
「――そうか。じゃあ、召喚師たちのイメージも変えられそうなんだな?」
「ああ。思った以上に効果が大きくて助かったよ。明日もやるつもりだから、どんどん好印象になってくれりゃ助かる」
ある日、マナヤさんが言った。
村人の、召喚師さん達への印象が変わっていくと。
「村人もほぼ全員、間引きに一度は参加するだろうからね。きっと、すぐに召喚師の評判は広まるさ」
スコットさんが言う。
「……どう、して……」
思わず、ぽつりと口からこぼれてしまった。
咄嗟に誤魔化したけれど。
――どうして、テオが居る間にやってくれなかったの。
テオが居る時に、やってくれていたら。
テオは、あんなに一人ぼっちにならずに済んだのに。
テオは……あんな、絶望を抱えずに生きていけたのに。
わかってる。
テオが居る間になんて出来たわけがない。
これは、ただの八つ当たりだ。
……それでも、テオが居る間にやってくれたらと。
そう考えてしまう自分を、止められなかった。
その日の晩。
私は自室で、また声を殺して泣き通してしまった。
枯れた涙が、埋まることなく。
***
ある晩。
夕食時に、なかなかマナヤさんが帰ってこなかった。
しばらくするとアシュリーさんがやってきた。
マナヤは、帰っていないかと。
彼が、何か思いつめていたようだったと。
マナヤさんが、最近どこか不機嫌なのは知っていた。
昨晩も、求婚の作法を知らなかったことでトラブルに。
そのことで、何か思い悩んでいたのかもしれない。
闇雲に探し回っても仕方がない、と。
私達は、先に、夕食を済ませてしまうことにした。
マナヤさんの分の料理を残して。
夕食後、私が自分の家で明日の準備をしている時。
突然、スコットさんが泣き腫らした目で駆け込んできた。
テオが、帰ってきたと。
……マナヤさん、じゃなくて?
……『テオ』が、戻ってきた?
私は取るものもとりあえず、スコットさんについて家を飛び出した。
彼の家はすぐ隣。
早く。
早く、会いたい。
すると、彼の家から……
私のよく知っている人が現れた。
「……テオ!?」
……本当、なの?
マナヤさん、ではなく?
本当に、テオなの?
「――シャラ! シャラぁっ!!」
彼が大きな声で、私の名を呼ぶ。
その瞬間、私にはわかった。
彼の目つきが、柔らかくなっている。
彼の表情が、とても暖かなものになっている。
彼の立ち居振る舞いが、穏やかになっている。
彼が、私を見る目が。
彼が、私を呼ぶ声色が。
彼が、私に向けるその表情が。
私の知っている……テオのものだ。
「――テオ!!」
……本当に、帰ってきた。
帰ってきてくれた。
テオが、帰ってきてくれたんだ。
その瞬間。
熱いものが私の両目から一気にあふれ出た。
もう、二度と会えないんだと思っていた。
私の大切な……幼馴染。
私の、一番大好きな人。
テオが私に駆け寄って。
ぎゅっ、と、私を抱きしめてきた。
彼の方から抱きしめてきてくれた。
それに私は、頬が紅潮するのがわかった。
……『マナヤさん』だった時には、気づかなかった。
テオは、また一段と背が伸びていた。
一段と、逞しくなっていた。
実質テオに会えなかった、この二年の間。
もう、頭一つ分近い身長差をつけられていた。
その広い胸板が、とても頼もしくなっていた。
私はそっと、テオの体を抱き返そうとした。
でも、その瞬間。
テオは私を突き飛ばしかねない勢いで、私から離れた。
見ると、テオの目がまた虚ろになりかかっていた。
そして私から、不安そうに目を逸らしてしまう。
――一年前、テオが王都から戻ってきた日の光景がよぎった。
あの時と同じ。私に嫌われてしまうと思っているかのように。
一歩、テオが私から後ずさりするのがわかった。
「待って! テオ!!」
私は必死になって、テオに追いすがった。
彼の腕を掴んで、必死にテオを繋ぎとめる。
「しゃ、シャラ……僕は」
「お願いテオ! 話を聞いて! お願い!!」
なおも目を逸らし、逃げようとするテオ。
私は形振りも構わず、必死にテオを押し止めた。
もう、大丈夫なんだよ。
召喚師だからって、誰も嫌ったりしない。
私も……テオを怖がったりしないよ。
「テオ……私、私ね……テオが、顔を見せてくれなくなって……すごく、寂しかったん、だよ……?」
話しながら、涙声になってしまうのを止められなかった。
でも、それでも私は、必死に言葉を紡いだ。
テオが、離れて行ってしまう前に。
「シャラ……ごめんね。でも、僕は『召喚師』だから――」
「そんなの関係ない!!」
テオの言葉を遮り、私は叫ぶ。
今度はこちらからテオに抱き着き、必死に私は訴える。
「約束、したじゃない……! どんな、クラスに、なったって……っ! 一緒に、支え合って、村を、守っていこうって……!」
――そう。
『どんな「クラス」になっても、一緒に支え合って、村を守って行こうね!』
五年前。
彼が言い出した、あの約束。
たとえどちらかが召喚師になっても、ずっと一緒にいようと。
「お願いっ……テオ……っ」
そして、あの日からずっとしていた、私の自責の念。
スタンピードの日での悔み。
ずっと……後悔していた。
「私、テオが、居なくなるのはっ……もう、嫌だぁ……っ!!」
マナヤさんになってしまって。
テオは、居なくなってしまったのだと思った。
もう、テオは帰ってきてはくれないんだと。
神様が連れて行ってしまったんだと。
『あの時、私は思ったんだ。……いつ、サマーがモンスターにやられて居なくなってしまうか、わからないと』
『そう考えたら、居ても立っても居られなくなってね。後悔する前に、サマーに求婚しなければならないと思ったのさ』
……スコットさん。
今なら私も、貴方の気持ちがわかります。
伝えられるときに、伝えないと。
私は、一生後悔する。
テオが戻ってきてくれなかったら……一生、後悔していた。
私はいったん、そっとテオから離れて。
彼の右手を、取った。
そして……私の両手で包み込もうとして――
――ふわっ
「っ!」
びっくりした。
私が、彼の手を包み込む前に……
テオの方から……私の手を、両手で包み込んできた。
「……テオ……」
相手の手を自分の両掌で包み込む。
この世界での……求婚の、作法。
……テオの方から、してくれた。
「……シャラ……僕も……」
テオの顔をおずおずと見上げる。
彼の目から、澱みが消えていて。
「僕、も……シャラが、居なくなるのは……」
ぱたり、ぱたり。
テオの手ごしに……彼の涙のつぶてが、落ちてくるのがわかった。
「シャラに、だけは……居なくなって、欲しく、ないから……」
……さっきの私と、同じように。
涙で掠れる声で、必死に言葉を紡ぎながら。
「だから……僕、なんかで……本当に、いい、なら……」
そうして、涙まみれの目で。
私に、最高の笑顔を作って向けてきて。
「シャラ……僕、の、お嫁さんに……なって、ください……っ!」
……二年前、テオが成人の儀を受けに行った時。
あの時、私は決心した。
テオが王都から帰ってきたら、求婚しようと。
テオが帰ってきた時。
彼は、もう召喚師になってしまって、ふさぎ込んで。
結局、私はその時の決心を、叶えることができなかった。
ふわっ
「……はい……っ」
私の手を包んでいるテオの手。
私は自分の両手で、包み返す。
「テオ……私を、テオのっ、お嫁さんに……してくださいっ……!」
……ようやく、叶った。
久しぶりに、顔を見つめ合った。
ずっと大好きで、ずっと一緒に居たいと思っていた幼馴染。
もう、絶対に直視することはできないだろうと思っていた、最愛の人。
久しぶりに見つめた、その瞳に。
いつも私に寄り添ってくれた時の、あの優しい瞳に。
私はようやく、テオの元に戻ってこれた実感がわいた。
その日、流した涙の後。
久しぶりに、暖かいものが埋めてくれた。
***
「……」
夜中、私はふと目が覚めた。
開いた目の前には、テオの顔があった。
テオは……私の隣で、眠っている。
(……テオ)
テオは、本当にとてもかっこよくなった。
もう男の子じゃない、ちゃんとした男の人になっていた。
彼の『お姉さん』のつもりでいた日が、懐かしい。
さきほどテオは夕食の場で、何か思いつめていた。
何でも無いと言っていたけど、空元気なのがわかった。
だから……夜、外に出たテオを追いかけた。
中央広場で、月を見上げながら……
テオが、ぽつぽつと話してくれた。
怖い、って。
『僕の中に……僕じゃない「何か」がありそうな気がして』
もしかしたら。
マナヤさんの記憶が、テオの中に残っているのかもしれない。
マナヤさんに、自分が食いつぶされはしないかと。
テオは、自分がテオでなくなってしまうことを、恐れている。
だから、私は言ってあげた。
テオじゃないなら、私が一番わかるはずだから。
だから、大丈夫だよ、って。
そうして、笑顔を見せてくれたテオ。
私は、少し安心した。
私は、ちゃんとテオを支えられる。
テオが私にしてくれたことに返せてる。
ちゃんと、私は彼に報いることができているんだって。
……でも。
テオはきっと、まだ何かを恐れている。
そして……それを、私に打ち明けてくれない。
だから、私はテオに言った。
今晩は一緒に眠りたいって。
……私の両親が亡くなった時、テオがしてくれたように。
一緒に眠れば、ちゃんとテオの心を癒せるかもしれないと願って。
「……」
まだ、少し不安そうに眠る、テオの顔を見上げる。
ぎゅ、と私は胸の前で両手を握った。
……マナヤさんは、すごい人だった。
召喚師なのに、”英雄”として名を立てて。
評判の悪い召喚師の印象を、一気に塗り替えて。
現状を変えるために、凄い奮闘をしていた。
それなのに。
私は、どうだろう。
錬金術師とはいえ、戦うことができない。
戦闘用の錬金装飾だって、いまだに使えない。
それにかまけて、戦いに出ることができない。
戦えない自分を嘆きながらも、変えることができない。
……テオの戦いを、助けてあげることができない。
こんな、弱い私に。
テオのそばに居る資格が、あるの?
思い起こすのは、私の両親。
そして、テオの両親であるスコットさんとサマーさん。
互いに互いを強く信頼し合い、支え合っていた二人。
私にとって、理想の夫婦像だった。
彼らのように、私はなれるの?
あんな風にお互いを支え合う関係に、私はなれているの?
一度も……テオと、戦場に出たことが無い、私が。
特に、スコットさんとサマーさん。
サマーさんが片腕を無くして、戦えなくなっても。
それでも二人とも、お互いをちゃんと支え合っている。
お互いに寄りかかりあっているという信頼感が、二人の間にはあった。
――私は、あの二人のように、テオを支えることができてるの?
隣に居るはずの、テオが……遠い。
「……っ」
私はそっと、テオを起こさないように。
彼の胸元に顔を寄せ、目を閉じた。
この胸のもやもやを、誤魔化したくて。
次回、テオ君視点。




