20話 それぞれの想い SHARA 1
20話から24話にかけて、雰囲気作りのために句読点と改行を多用しています。
そういう文章が苦手な方はご注意ください。
シャラ。
それが、私の名前。
……両親からもらった、私の大切な名前。
白魔導師の父。剣士の母。
戦いを通じて信頼を築いたらしく、互いに信頼し合っていた。
娘の私から見てもとても理想的な夫婦だったのを、今でもよく覚えている。
そんな私の両親が亡くなったのは六年前。私が十二歳の頃。
毎週行っている間引きが終わる頃。
いつも夕刻ごろに返ってくる両親を、門の前で出迎えるのが日課だった。
けれどその日、門へ行こうとしたころに、急に周りが騒然となった。
……たくさんのモンスターが、押し寄せてきたそうだ。
まさにいつも両親が帰ってくる、あの方角から。
私は居てもたってもいられなくて、いつもの門へと走った。
大丈夫。
お父さんとお母さんは、強いんだから。
モンスターなんかに、絶対に負けないから。
けれど、辿り着いた門の先にあったのは……
赤い血。くすぶる煙。鉄の匂い。
たくさんのモンスターを相手に、村人が必死に抗っているのが見えた。
その中に……両親も居た。
剣を取り落とし、膝をつく母。
血を流す左手を押さえて、そんな母を助け起こそうとする父。
……その背後から突然迫る、黒い瘴気に覆われた牛頭の化け物。
そして、金属の狼。巨大なコウモリの影。
それらが、一斉に。
あぶない、と私は叫ぼうとした。
けれど凄惨な場の雰囲気に気圧され、私は声が出なかった。
必死に両親に手を伸ばし、駆け寄ろうとした時。
その牛頭の化け物が、手にした斧で。
金属の狼が、その爪で。
巨大なコウモリが、その牙で。
――両親の背から、鮮血を舞わせた――
全てがスローモーションのようになって。
ゆっくりと、血しぶきをあげながら。
お父さんと、お母さんが。
私の方を見ながら。
倒れていく。
ニゲテ。
そう、口が動いているのがわかって。
でも、倒れていくお父さんとお母さんが目に映って。
私には、二人を放ってなんて行けなかった。
泣き叫びながら、お父さんとお母さんの元へ駆け寄ろうとする。
牛頭の化け物が、私の方を見て。
私に向かって、斧を振りかぶってくる――
「【ライジング・ラクシャーサ】!!」
その時。
黒い影が私の前に躍り出た。
下からすくい上げるように、剣を一気に振り上げる。
牛頭の化け物は左右に半分に両断され、虚空に、消えた。
その周りの化け物たちを巻き込んで。
私は、ようやく両親の元へたどり着いた。
必死に二人の体をゆすりながら、呼び掛けた。
でも、二人の体はもう、動かなくて……
二人の体から、温かさが無くなっていくのがわかって。
私は、二人の体にすがりついて、号泣した。
「……すまない。間に合わなくて……本当にすまない」
化け物を斬ってくれた黒髪の女剣士さん。
彼女が私の元で、そう謝る声が聞こえた。
***
両親を失った私は、孤児院に入れられそうになったけれど。
両親の家を離れるのが嫌で、私は泣きわめいて必死に断った。
お隣さんのテオの一家が見かねて、私の面倒を見てくれることになった。
両親の家で眠りたいから、テオの家に引き取られるわけじゃない。
でも食事の時とかはテオの家に招かれ、一緒に摂るようになった。
幼馴染のテオが、私に気遣うように話しかけてきてくれた。
お隣さんだったから、小さい頃から一緒だったテオ。
彼は二つ年下だったから、お姉ちゃんのような気分で彼の面倒を見てきた。
でも、テオのお母さんであるサマーさんは、片腕が無い人だったからか。
テオは幼い頃から我侭は言わず、自分の事は自分でする子だった。
お母さんに迷惑をかけたくないからだろう。とても優しい子だった。
そんな一家に面倒を見てもらった私。
弟のような存在であるテオの前でもあったから……
テオの両親……スコットさんと、サマーさんに、心配をかけないように。
弟のようなテオに、心配をかけないように。
私はテオの一家の前では、しっかり者のように気丈に振舞った。
夕食の時に、テオの一家と一緒に笑い合ったりしながら。
両親を思い出して泣いてしまいそうになるのを、必死に我慢しながら。
それでも……両親の家に帰って、一人になってしまうと。
いつも、堰を切ったように、私は泣いていた。
涙が枯れ果てるまで、泣いて。
泣き疲れて、やっと眠ることができた。
あの日も、そうだった。
自分一人で家に帰った後。
暗い部屋の中、私はまた涙が零れそうになっていた。
すると、ドアがノックされて。
私は流れそうになる涙を拭いて。
開けると、テオが一人で私の家の前に立っていた。
笑顔を作って、どうしたの、と問いかけると。
――泣いてたの?
とテオが問い返してきた。
どきりとしたけれど、私は気丈にふるまった。
大丈夫だよ、気のせいだよ、って。
でも、何故だろう。
テオは、自分の方が泣きそうな顔になって。
ぽす、と私に抱き着いてきた。
もう十歳になるテオ。
面倒を見ていた小さい頃より、ずっと背が伸びていた。
久しぶりに感じた、人の体温。
テオの両親に甘えるのも気が引けて、遠慮していた私。
誰かに抱きしめられるのは、久しぶりだった。
テオが頭だけ離して、私を見上げてきた。
「ひとりで、泣かないで」
自分の方こそ、目に涙を浮かべながら。
「ぼくが、そばにいるから」
そう言って、ぎゅっと私を強く抱きしめてきた。
抑えていた、涙が溢れだして。
独りで泣いていたのを、悟られたのが恥ずかしくて。
でも……気づいてくれたのが、嬉しくて。
人の温もりが、恋しくて。
私は、テオにすがりついて、大声で泣いた。
恥も外聞も捨てて。
テオの温かさを感じながら、泣き通した。
いつもだったら、泣き疲れるまで泣いて。
涙が枯れて、ただそれだけ。
……でも。
人のそばで泣くことは。
テオの温かさを感じて、泣くことは。
涙が枯れた後を……暖かいもので、埋めてくれた。
その日、私はテオと一緒に眠った。
こうやって、彼と同じ寝具で眠るのは、いつぶりだったろう。
私達が大きくなってきてから、自然と一緒に寝なくなってしまった。
久々に彼の傍で眠るのは……温かくて、安心できて、とても心地よくて。
次の日の朝。
私は、いつもより晴やかな気持ちで朝を迎えることができた。
***
それからというもの。
テオは、私がふと悲しい気分になってしまった時。
すぐに、私に寄り添ってくるようになった。
気づかれないように、頑張って隠しているのに。
テオにはなぜか、私が悲しくなった時がわかってしまうようで。
いつも、傍に来てくれた。
僕が傍にいるから、という約束を守るように。
ところかまわず寄り添ってくるから、少し恥ずかしかったけれど。
私は遠慮なく、彼に甘えることにした。
彼に寄り添うと、悲しい気持ちが薄らいでいくようで。
彼が寄り添ってくるようになってから。
私は夜、眠る前に泣きはらしてしまうことが無くなった。
両親を思い出して、悲しみが溜まってきてしまった時。
その時にはもうテオが、傍に寄り添ってくれて。
悲しみを……そっと、拭き取ってくれた。
それから一年。十三歳になって。
私は、もう両親のことで泣きそうになることは無くなった。
テオの両親の前でも、心からの笑顔が出せるようになった。
そんな私を見て、テオもいっぱい笑ってくれた。
でも、テオの体温が恋しくて。
私は時折、自分からテオに寄り添うようになった。
テオも、それを受け入れて寄り添ってくれた。
そんな私達の関係を友達にからかわれることもあった。
未来の夫婦、って。
恥ずかしかったけれど、満更でもなかった。
テオと夫婦になれたら、どんなに幸せだろう。
いつも、悲しい時にはすぐに寄り添ってきてくれて。
嬉しい時には、一緒に笑ってくれて。
そんな人が傍に居てくれたら、どんなに心地よいだろう。
彼の優しさに感謝する気持ち。
それはもうすでに、恋心に変わっていたんだ。
でも、その一方で私には不安もあった。
テオは私の心を癒して、いっぱい救ってくれた。
でも私はテオに、テオの一家に、何を返せるんだろう。
テオの母であるサマーさんは、片腕がない。
だから、私が家事を手伝うととても助かるとサマーさんは感謝してくれた。
でも、私にできるのはそれくらいだ。
テオはしっかり者だから、私が面倒を見るまでもない。
そんな私がテオのお嫁さんになって、テオを支えられるだろうか。
貰ってばっかりの私は、テオに相応しいのだろうか。
他の子と一緒になった方が、テオは幸せになれるんじゃないのか。
そんな不安が、切って離せなかった。
あの日、私とテオは、成人の儀を迎える子達を乗せた馬車を見送っていた。
その中に赤毛のサイドテールを垂らした子もいた。
アシュリーという子。成人の儀を受ける前から、剣士の修行をしてたそうだ。
今年、成人の儀で送る子達の中でも一番の期待株だって聞いた。
来年には、私も十四歳になって、王都で成人の儀を受ける。
その後得た『クラス』に沿って、王都の学園で一年間みっちり学ぶ。
そうして帰ってくれば、立派に村の一員になれる。
村を守るために、戦えるようになる。
両親を殺したモンスター。
今でも、モンスターの事はとても怖いけれど。
テオが一緒に居てくれれば、私は頑張れると思った。
テオと一緒に馬車を見送りながら、彼とお話しした。
私達はどんなクラスになるんだろうって。
私とテオなら、どんなクラスになれば一緒に戦えるかなって。
「どんな『クラス』になっても、一緒に支え合って、村を守って行こうね!」
そんな風に元気いっぱい、テオは言ってくれた。
この一年で、また急に背が伸びたテオ。
正面から抱きしめた時に、近くなった顔にドキドキするようになった。
もう少ししたら、背が追いつかれてしまうかもしれない。
たとえ『召喚師』になっちゃっても? って、冗談めかして言ってみたら。
テオは笑いながら、召喚師になっちゃっても! と、元気よく言ってくれた。
だから、私も約束した。
もしテオが召喚師になっちゃっても、一緒にいるよ、って。
***
そして、その一年後。
十四歳になった私は成人の儀を迎えることになり、王都へ向かう馬車に乗った。
テオと、テオの両親が見送りに来てくれた。
彼らと一年離れるのは、寂しかったけれど。
でもテオとの約束があれば、私は頑張れる。
王都についた私は成人の儀を受けた。
そして牧師さんに、『錬金術師』が候補にある、と言われた。
錬金術師は貴重なクラスで、二百人か三百人に一人しか候補に現れない。
だから候補が出た人は、ほぼ例外なく成るように命じられる。
けれど私は命じられるまでもなく、一も二も無く錬金術師を選んだ。
錬金術師は、素材から色々な物資や道具を生み出せるクラスだ。
裁縫糸、建材、金属、調味料、塗料。
他にも、マナを使って動く特殊な道具など。
何より、村の生活に無くてはならない『錬金装飾』。
生活を楽にすることができる錬金術師は、身内に居るととても喜ばれる。
錬金術師を子に持つ、あるいは錬金術師と結婚する。
そういうのは、村では一種のステータスになっていた。
やっと、テオの一家に恩を返すことができる。
私が錬金術師になれば、きっとスコットさんもサマーさんも喜ぶだろう。
錬金術師なら、テオを支えてあげることもできる。
やっと、私はテオと釣り合う人になれる。
錬金術師のクラスを得て、私は王都の学園で死に物狂いで勉強した。
テオの一家に、恩を返すために。
錬金の方法。必要な素材。マナを込める精度。覚えることはたくさんあった。
けれど、私はがむしゃらにがんばった。
その甲斐あって、私は通常の材料の調合や、生活用の錬金装飾。
それらの作成については、天才とまで言われるほどになった。
私自身の保有マナの総量も、同年代ではトップクラスになれたみたい。
教官の人もとても驚いて、とても喜んでいた。
でも。
錬金術師が戦いで使える、戦闘用の錬金装飾。
これだけは、どれだけ頑張っても……
作ることも、マナを充填することもできなかった。
珍しくないことだ、と教官は気遣ってくれた。
戦闘用の錬金装飾を扱えない錬金術師は、少なくないらしい。
実際、私を含めて七人しか居ない今年の錬金術師の学生。
その内の一人は、私と同じように、戦闘用の錬金装飾が扱えなかった。
仲間同士ということで、仲良くなったりもした。
一年間、学園で勉強して。
十五歳になった私が、セメイト村に帰る日が来た。
教官の人が私に鞄を一つ、餞別にと譲ってくれた。
その鞄の中には、戦闘用の錬金装飾が一通り入っていた。
マナは全くこもっていないけれど。
必要だと思ったら、これを参考にして作る練習をしてみなさい。
いざという時には、これを使って身を守りなさい。
そう教官が言って、私に授けてくれた。
私はその教官に感謝して、村へと帰る馬車に乗った。
***
村に帰った私は、出迎えてくれたテオの一家に伝えた。
私は、錬金術師になれたよ、って。
テオの一家はもちろん、村の人たちが一斉に大喜びしてくれた。
今まで、この村には三人しか錬金術師が居なかった。
だから、千人近いこの村の人たち全員の素材や錬金装飾を賄うのは大変で。
一人増えるだけでも、村の生活が一気に楽になるからだ。
テオの両親が、私の頭を撫でながら喜んでくれた。
テオは満面の笑みで、私に抱き着くように喜んでくれた。
テオは、僕も負けていられない、と気合を入れるように言った。
会えなかった一年で、テオはまた背が伸びて。
もう、かなり身長が追いつかれてしまった。
向かい合った時に、目線がほとんど同じ高さにあってドキドキした。
村では、錬金術師が四人になったことで区画分けが見直された。
三方に分けて錬金術師が担当していた区画が、東西南北の四方に分けられた。
私は、私とテオ一家の家がある南区画を担当することになった。
私は、教官から渡された調合書などを読み返しながら、勉強し続けた。
素材を調合するだけじゃなく、服を織ったり、道具を作ったり。
そういう方向にも、錬金術は使えるからだ。
昼間は生活用の錬金装飾のマナ充填に家屋を回り。
夜は、応用の錬金術や、戦闘用の錬金装飾のために夜通し勉強した。
テオが勉強に励む私に、飲み物や果物を差し入れしたりもしてくれた。
疲れた時には、昔みたいに寄り添ってくれた。
来年には、テオも成人の儀を迎える。
また一年、テオとはお別れすることになる。
でも、帰ってきたテオをあっと言わせるためにも、私はがんばることにした。
***
そしてまた一年がたって。
今度はテオが十四歳。成人の儀で王都へ向かう馬車に乗った。
もうテオの身長は、私を追い越していて。
正面からテオを見た時に、目線が上になっているのが気恥ずかしくて。
でも、また少し精悍になったテオにドキドキしたりした。
馬車を見送る私に、テオが言ってきた。
来年には、一緒に並んで村を守れるようになるねって。
来年、テオが戻ってくれば、私もテオも二人とも成人だ。
村人として立派に勤めを果たせる人間になる。
走り去る馬車を見送りながら。
私は、心に決めた。
テオが帰ってきたら、求婚しよう。
同じ成人になれた、暁に。
けれど、テオが成人の儀に出立して間もなく。
ここセメイト村は、もう一度大量のモンスター襲撃に遭うことになった。
以前と同じ、南門が襲われたらしい。
かつて、両親が帰ってくるのをそこで待っていた私。
あの日の記憶がフラッシュバックして。
私は、恐怖で動けなくなってしまった。
幸いにも、といって良いのかはわからないけれど。
戦闘用の錬金装飾が扱えない私は、戦力には成り得なくて。
サマーさんのような、同じく戦闘要員にならない人達と一緒に避難できた。
スコットさんは、サマーさんを守るためにと。
また、非戦闘要員が奇襲された時の防衛のためにと、一緒に居て守ってくれた。
成人の儀を終えて、クラスを得ても。
私はいまだに、戦えないまんまだ。
テオの両親に連れられ、避難所でガタガタと震えていることしかできなかった。
その日の戦いで、また数人が亡くなったらしい。
村の中央広場で葬儀が執り行われた。
ここセメイト村では、良く燃えるピナの葉を使って死者を弔う。
遺体をピナの葉で被せて覆い、一晩燃やし続ける。
魂がちゃんと浄化され、一人残らず迷うことなく天国へ召されるように。
あの日の私と同じように、親族や近しい人を亡くして、号泣している人も居た。
どうして、この世にモンスターなんか存在するんだろう。
モンスターなんか居て、良いことなんて何もないのに。
ただただ、人が死んで人が悲しむだけなのに。
葬儀の後、近場の駐屯地から騎士隊の人たちが来た。
四年前もそれなりの数で襲撃があったばかりなので、調査に来たらしい。
同じ方向から、短いスパンで襲撃があった。
そのため、南門の方角へ進軍し、開拓村が作られることになった。
良かった、と私は安堵した。
これでもう、モンスターが大挙してこの村を襲うことは無くなる。
もう、人が死んで悲しむことは無くなるんだ、って。
――僅か二年で、その期待が早くも裏切られることも知らずに。
***
一年後。私は十七歳になった。
テオが王都から帰ってくる日が来た。
その日、私は嬉しさと緊張で、心臓がばくばくしていた。
テオは、どんなクラスになったんだろう。
この一年で、またどれだけ逞しくなっているんだろう。
どんな瞳で、私を見つめ返してくれるだろう。
馬車が村に入り、止まった。
続々と、成人の儀を終えた人たちが降りてくる。
一年ぶりに会った仲が良かった子も居て、久々の再開を手を合わせて喜んだ。
でも、肝心のテオが降りてこない。
不思議に思っていると、もう一台小さい馬車が村に入ってきた。
人が一人二人乗るのが精いっぱいくらいの、小さな馬車。
その馬車から、一人の男の子が降りてきた。
間違いない。
テオだ。
私は喜んで、急いでその馬車へと走り寄った。
やっと、テオに会える。
けれど、降りてきたテオの顔を見て、私は思わず足を止めた。
一年ぶりに会ったテオは、元気いっぱいのテオとは思えない暗い表情で。
その目は虚ろで、光を宿していなかった。
私は戸惑って、恐る恐るテオに声をかけた。
テオが、私と目が合った。
けれどその瞬間テオは、ばっと私から目を逸らしてしまう。
まるで……私に嫌われる、と思っているかのように。
不安になった私は、もう一歩だけテオに近づいて、彼に呼び掛けたけど。
「シャラ、ごめん……僕……『召喚師』に、なっちゃった……」
掠れるようなその言葉に、思わず私は息を呑んだ。
もしかしたらなるかもしれない、という話は以前した。
けれど、本当になってしまうとは思っていなかった。
でも、約束したんだ。
召喚師になっちゃったとしても、ずっと一緒に居るって。
たとえ召喚師になっても、テオはテオだ。
「テオ、大丈夫だよ、私――」
「――ごめんっ!!」
「て、テオっ! 待って!!」
大丈夫だよ、と声をかけようとしたら。
テオは、突然走って逃げだしてしまった。
私は必死に追いかけた。
待って。
置いて行かないで。
私は、テオを怖がったりしないよ。
けれど、テオの足に私は追いつけなくて。
その背中が、どんどん離されてしまって。
「開けて、テオ! 私、大丈夫だから! テオが召喚師でも、大丈夫だから!」
召喚師用の宿舎に入って、鍵をかけて閉じこもってしまったテオ。
私は扉を叩きながら、必死になって彼に呼び掛け続けた。
せっかく、テオと一緒に村を守れる一員になれたのに。
こんな悲しい再会なんて、嫌だ。
「シャラ……ごめん。今は、一人に……して欲しいんだ」
扉の向こうから、小さくそんなテオの声が聞こえた。
その響きに混じった、絶望の音色。
私は、言葉を返すことができなくなってしまった。
「……テオ。テオの、新しい服。……ここに、置いとくね」
そう言って私は、手に持っていた手提げ袋を扉の脇に立てかけて。
涙を零しながらも、そっと宿舎を後にした。
……私が、錬金術で編んだ、テオの服。
素材から全て、一から全部作って織った服。
練習し続けて、やっと納得できる仕上がりになった、最初の一着。
この一着は、絶対にテオにあげるんだって、決めていた。
この服に、テオが初めて袖を通したところを……
一番に……見たかった。
***
それからというもの。
私は毎日のように、テオの宿舎へと足を運んだ。
その日の食事や、洗濯した衣服、その他必要な日用品などを持って。
宿舎の前で、顔だけでも見せて、と毎日懇願した。
けれど、テオは頑なに私と顔を合わせてくれなくて。
結局、手提げ袋に入れた日用品を置いて、私は去るしかなかった。
テオの両親も来て、顔を見せるようにテオを説得しようとしてくれたけど。
テオの意思はあまりにも固すぎて。
テオの孤独が、あまりにも強固すぎて。
私達は、どうすることもできなかった。
友人や近しい人には、テオにはもう関わらない方がいいとまで言われた。
召喚師と関わって良いことなんてない、って。
でも、召喚師になってしまったからといって、そんなことはしたくなかった。
足繁くテオの宿舎に通って、テオを励まそうと頑張った。
けれど……彼はどうしても、顔を見せてくれない。
私の言葉は、彼には届かない。
錬金術師になって、ようやく自分に自信を持てるようになっていた私は。
また、自分の無力さを呪った。
テオは、あんなにも簡単に私の心を癒してくれたのに。
私では、テオの心を癒してあげることが、できない。
その日から。
私は毎晩、両親を失った時のように、涙が枯れるまで泣き腫らした。
でも。
もう、あの時と違って。
枯れた涙の後を、埋めてくれる人は……居ない。
――神様。
どうして、テオを召喚師になんてしてしまったのですか。
こんなこと言ってしまったら、罰当たりだけれど。
私、今だけは、あなたを、恨みます――




