表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第一章 召喚師の降臨と錬金術師の献身
20/258

20話 それぞれの想い SHARA 1

20話から24話にかけて、雰囲気作りのために句読点と改行を多用しています。

そういう文章が苦手な方はご注意ください。

 シャラ。

 それが、私の名前。

 ……両親からもらった、私の大切な名前。


 白魔導師の父。剣士の母。

 戦いを通じて信頼を築いたらしく、互いに信頼し合っていた。

 娘の私から見てもとても理想的な夫婦だったのを、今でもよく覚えている。


 そんな私の両親が亡くなったのは六年前。私が十二歳の頃。

 毎週行っている間引きが終わる頃。

 いつも夕刻ごろに返ってくる両親を、門の前で出迎えるのが日課だった。


 けれどその日、門へ行こうとしたころに、急に周りが騒然となった。

 ……たくさんのモンスターが、押し寄せてきたそうだ。

 まさにいつも両親が帰ってくる、あの方角から。


 私は居てもたってもいられなくて、いつもの門へと走った。

 大丈夫。

 お父さんとお母さんは、強いんだから。

 モンスターなんかに、絶対に負けないから。


 けれど、辿り着いた門の先にあったのは……

 赤い血。くすぶる煙。鉄の匂い。

 たくさんのモンスターを相手に、村人が必死に抗っているのが見えた。

 その中に……両親も居た。


 剣を取り落とし、膝をつく母。

 血を流す左手を押さえて、そんな母を助け起こそうとする父。

 ……その背後から突然迫る、黒い瘴気(オーラ)に覆われた牛頭の化け物。

 そして、金属の狼。巨大なコウモリの影。

 それらが、一斉に。


 あぶない、と私は叫ぼうとした。

 けれど凄惨な場の雰囲気に気圧され、私は声が出なかった。

 必死に両親に手を伸ばし、駆け寄ろうとした時。


 その牛頭の化け物が、手にした斧で。

 金属の狼が、その爪で。

 巨大なコウモリが、その牙で。

 ――両親の背から、鮮血を舞わせた――


 全てがスローモーションのようになって。

 ゆっくりと、血しぶきをあげながら。

 お父さんと、お母さんが。

 私の方を見ながら。

 倒れていく。


 ニゲテ。


 そう、口が動いているのがわかって。

 でも、倒れていくお父さんとお母さんが目に映って。

 私には、二人を放ってなんて行けなかった。


 泣き叫びながら、お父さんとお母さんの元へ駆け寄ろうとする。

 牛頭の化け物が、私の方を見て。

 私に向かって、斧を振りかぶってくる――


「【ライジング・ラクシャーサ】!!」


 その時。

 黒い影が私の前に躍り出た。

 下からすくい上げるように、剣を一気に振り上げる。


 牛頭の化け物は左右に半分に両断され、虚空に、消えた。

 その周りの化け物たちを巻き込んで。


 私は、ようやく両親の元へたどり着いた。

 必死に二人の体をゆすりながら、呼び掛けた。

 でも、二人の体はもう、動かなくて……

 二人の体から、温かさが無くなっていくのがわかって。


 私は、二人の体にすがりついて、号泣した。


「……すまない。間に合わなくて……本当にすまない」


 化け物を斬ってくれた黒髪の女剣士さん。

 彼女が私の元で、そう謝る声が聞こえた。



 ***



 両親を失った私は、孤児院に入れられそうになったけれど。

 両親の家を離れるのが嫌で、私は泣きわめいて必死に断った。


 お隣さんのテオの一家が見かねて、私の面倒を見てくれることになった。

 両親の家で眠りたいから、テオの家に引き取られるわけじゃない。

 でも食事の時とかはテオの家に招かれ、一緒に摂るようになった。


 幼馴染のテオが、私に気遣うように話しかけてきてくれた。

 お隣さんだったから、小さい頃から一緒だったテオ。

 彼は二つ年下だったから、お姉ちゃんのような気分で彼の面倒を見てきた。


 でも、テオのお母さんであるサマーさんは、片腕が無い人だったからか。

 テオは幼い頃から我侭(わがまま)は言わず、自分の事は自分でする子だった。

 お母さんに迷惑をかけたくないからだろう。とても優しい子だった。


 そんな一家に面倒を見てもらった私。

 弟のような存在であるテオの前でもあったから……

 テオの両親……スコットさんと、サマーさんに、心配をかけないように。

 弟のようなテオに、心配をかけないように。

 私はテオの一家の前では、しっかり者のように気丈に振舞った。


 夕食の時に、テオの一家と一緒に笑い合ったりしながら。

 両親を思い出して泣いてしまいそうになるのを、必死に我慢しながら。


 それでも……両親の家に帰って、一人になってしまうと。

 いつも、堰を切ったように、私は泣いていた。

 涙が枯れ果てるまで、泣いて。

 泣き疲れて、やっと眠ることができた。


 あの日も、そうだった。

 自分一人で家に帰った後。

 暗い部屋の中、私はまた涙が零れそうになっていた。


 すると、ドアがノックされて。

 私は流れそうになる涙を拭いて。

 開けると、テオが一人で私の家の前に立っていた。


 笑顔を作って、どうしたの、と問いかけると。

 ――泣いてたの?

 とテオが問い返してきた。


 どきりとしたけれど、私は気丈にふるまった。

 大丈夫だよ、気のせいだよ、って。

 でも、何故だろう。

 テオは、自分の方が泣きそうな顔になって。


 ぽす、と私に抱き着いてきた。


 もう十歳になるテオ。

 面倒を見ていた小さい頃より、ずっと背が伸びていた。


 久しぶりに感じた、人の体温。

 テオの両親に甘えるのも気が引けて、遠慮していた私。

 誰かに抱きしめられるのは、久しぶりだった。


 テオが頭だけ離して、私を見上げてきた。


「ひとりで、泣かないで」


 自分の方こそ、目に涙を浮かべながら。


「ぼくが、そばにいるから」


 そう言って、ぎゅっと私を強く抱きしめてきた。


 抑えていた、涙が溢れだして。

 独りで泣いていたのを、悟られたのが恥ずかしくて。

 でも……気づいてくれたのが、嬉しくて。

 人の温もりが、恋しくて。


 私は、テオにすがりついて、大声で泣いた。

 恥も外聞も捨てて。

 テオの温かさを感じながら、泣き通した。


 いつもだったら、泣き疲れるまで泣いて。

 涙が枯れて、ただそれだけ。

 ……でも。

 人のそばで泣くことは。

 テオの温かさを感じて、泣くことは。


 涙が枯れた後を……暖かいもので、埋めてくれた。


 その日、私はテオと一緒に眠った。

 こうやって、彼と同じ寝具で眠るのは、いつぶりだったろう。

 私達が大きくなってきてから、自然と一緒に寝なくなってしまった。

 久々に彼の傍で眠るのは……温かくて、安心できて、とても心地よくて。


 次の日の朝。

 私は、いつもより晴やかな気持ちで朝を迎えることができた。



 ***



 それからというもの。

 テオは、私がふと悲しい気分になってしまった時。

 すぐに、私に寄り添ってくるようになった。


 気づかれないように、頑張って隠しているのに。

 テオにはなぜか、私が悲しくなった時がわかってしまうようで。

 いつも、傍に来てくれた。

 僕が傍にいるから、という約束を守るように。


 ところかまわず寄り添ってくるから、少し恥ずかしかったけれど。

 私は遠慮なく、彼に甘えることにした。

 彼に寄り添うと、悲しい気持ちが薄らいでいくようで。


 彼が寄り添ってくるようになってから。

 私は夜、眠る前に泣きはらしてしまうことが無くなった。

 両親を思い出して、悲しみが溜まってきてしまった時。

 その時にはもうテオが、傍に寄り添ってくれて。

 悲しみを……そっと、拭き取ってくれた。


 それから一年。十三歳になって。

 私は、もう両親のことで泣きそうになることは無くなった。

 テオの両親の前でも、心からの笑顔が出せるようになった。

 そんな私を見て、テオもいっぱい笑ってくれた。


 でも、テオの体温が恋しくて。

 私は時折、自分からテオに寄り添うようになった。

 テオも、それを受け入れて寄り添ってくれた。


 そんな私達の関係を友達にからかわれることもあった。

 未来の夫婦、って。

 恥ずかしかったけれど、満更でもなかった。

 テオと夫婦になれたら、どんなに幸せだろう。

 いつも、悲しい時にはすぐに寄り添ってきてくれて。

 嬉しい時には、一緒に笑ってくれて。

 そんな人が傍に居てくれたら、どんなに心地よいだろう。


 彼の優しさに感謝する気持ち。

 それはもうすでに、恋心に変わっていたんだ。



 でも、その一方で私には不安もあった。

 テオは私の心を癒して、いっぱい救ってくれた。

 でも私はテオに、テオの一家に、何を返せるんだろう。


 テオの母であるサマーさんは、片腕がない。

 だから、私が家事を手伝うととても助かるとサマーさんは感謝してくれた。

 でも、私にできるのはそれくらいだ。

 テオはしっかり者だから、私が面倒を見るまでもない。


 そんな私がテオのお嫁さんになって、テオを支えられるだろうか。

 貰ってばっかりの私は、テオに相応しいのだろうか。

 他の子と一緒になった方が、テオは幸せになれるんじゃないのか。

 そんな不安が、切って離せなかった。



 あの日、私とテオは、成人の儀を迎える子達を乗せた馬車を見送っていた。

 その中に赤毛のサイドテールを垂らした子もいた。

 アシュリーという子。成人の儀を受ける前から、剣士の修行をしてたそうだ。

 今年、成人の儀で送る子達の中でも一番の期待株だって聞いた。


 来年には、私も十四歳になって、王都で成人の儀を受ける。

 その後得た『クラス』に沿って、王都の学園で一年間みっちり学ぶ。

 そうして帰ってくれば、立派に村の一員になれる。

 村を守るために、戦えるようになる。


 両親を殺したモンスター。

 今でも、モンスターの事はとても怖いけれど。

 テオが一緒に居てくれれば、私は頑張れると思った。


 テオと一緒に馬車を見送りながら、彼とお話しした。

 私達はどんなクラスになるんだろうって。

 私とテオなら、どんなクラスになれば一緒に戦えるかなって。


「どんな『クラス』になっても、一緒に支え合って、村を守って行こうね!」


 そんな風に元気いっぱい、テオは言ってくれた。

 この一年で、また急に背が伸びたテオ。

 正面から抱きしめた時に、近くなった顔にドキドキするようになった。

 もう少ししたら、背が追いつかれてしまうかもしれない。


 たとえ『召喚師』になっちゃっても? って、冗談めかして言ってみたら。

 テオは笑いながら、召喚師になっちゃっても! と、元気よく言ってくれた。

 だから、私も約束した。

 もしテオが召喚師になっちゃっても、一緒にいるよ、って。



 ***



 そして、その一年後。

 十四歳になった私は成人の儀を迎えることになり、王都へ向かう馬車に乗った。


 テオと、テオの両親が見送りに来てくれた。

 彼らと一年離れるのは、寂しかったけれど。

 でもテオとの約束があれば、私は頑張れる。



 王都についた私は成人の儀を受けた。

 そして牧師さんに、『錬金術師』が候補にある、と言われた。


 錬金術師は貴重なクラスで、二百人か三百人に一人しか候補に現れない。

 だから候補が出た人は、ほぼ例外なく成るように命じられる。

 けれど私は命じられるまでもなく、一も二も無く錬金術師を選んだ。


 錬金術師は、素材から色々な物資や道具を生み出せるクラスだ。

 裁縫糸、建材、金属、調味料、塗料。

 他にも、マナを使って動く特殊な道具など。

 何より、村の生活に無くてはならない『錬金装飾(れんきんそうしょく)』。


 生活を楽にすることができる錬金術師は、身内に居るととても喜ばれる。

 錬金術師を子に持つ、あるいは錬金術師と結婚する。

 そういうのは、村では一種のステータスになっていた。


 やっと、テオの一家に恩を返すことができる。

 私が錬金術師になれば、きっとスコットさんもサマーさんも喜ぶだろう。

 錬金術師なら、テオを支えてあげることもできる。

 やっと、私はテオと釣り合う人になれる。


 錬金術師のクラスを得て、私は王都の学園で死に物狂いで勉強した。

 テオの一家に、恩を返すために。

 錬金の方法。必要な素材。マナを込める精度。覚えることはたくさんあった。


 けれど、私はがむしゃらにがんばった。

 その甲斐あって、私は通常の材料の調合や、生活用の錬金装飾(れんきんそうしょく)

 それらの作成については、天才とまで言われるほどになった。

 私自身の保有マナの総量も、同年代ではトップクラスになれたみたい。

 教官の人もとても驚いて、とても喜んでいた。


 でも。

 錬金術師が戦いで使える、戦闘用の錬金装飾(れんきんそうしょく)

 これだけは、どれだけ頑張っても……

 作ることも、マナを充填することもできなかった。


 珍しくないことだ、と教官は気遣ってくれた。

 戦闘用の錬金装飾(れんきんそうしょく)を扱えない錬金術師は、少なくないらしい。

 実際、私を含めて七人しか居ない今年の錬金術師の学生。

 その内の一人は、私と同じように、戦闘用の錬金装飾(れんきんそうしょく)が扱えなかった。

 仲間同士ということで、仲良くなったりもした。



 一年間、学園で勉強して。

 十五歳になった私が、セメイト村に帰る日が来た。


 教官の人が私に鞄を一つ、餞別にと譲ってくれた。

 その鞄の中には、戦闘用の錬金装飾(れんきんそうしょく)が一通り入っていた。

 マナは全くこもっていないけれど。

 必要だと思ったら、これを参考にして作る練習をしてみなさい。

 いざという時には、これを使って身を守りなさい。

 そう教官が言って、私に授けてくれた。

 私はその教官に感謝して、村へと帰る馬車に乗った。



 ***



 村に帰った私は、出迎えてくれたテオの一家に伝えた。

 私は、錬金術師になれたよ、って。


 テオの一家はもちろん、村の人たちが一斉に大喜びしてくれた。

 今まで、この村には三人しか錬金術師が居なかった。

 だから、千人近いこの村の人たち全員の素材や錬金装飾(れんきんそうしょく)を賄うのは大変で。

 一人増えるだけでも、村の生活が一気に楽になるからだ。


 テオの両親が、私の頭を撫でながら喜んでくれた。

 テオは満面の笑みで、私に抱き着くように喜んでくれた。

 テオは、僕も負けていられない、と気合を入れるように言った。


 会えなかった一年で、テオはまた背が伸びて。

 もう、かなり身長が追いつかれてしまった。

 向かい合った時に、目線がほとんど同じ高さにあってドキドキした。


 村では、錬金術師が四人になったことで区画分けが見直された。

 三方に分けて錬金術師が担当していた区画が、東西南北の四方に分けられた。

 私は、私とテオ一家の家がある南区画を担当することになった。


 私は、教官から渡された調合書などを読み返しながら、勉強し続けた。

 素材を調合するだけじゃなく、服を織ったり、道具を作ったり。

 そういう方向にも、錬金術は使えるからだ。


 昼間は生活用の錬金装飾(れんきんそうしょく)のマナ充填に家屋を回り。

 夜は、応用の錬金術や、戦闘用の錬金装飾(れんきんそうしょく)のために夜通し勉強した。

 テオが勉強に励む私に、飲み物や果物を差し入れしたりもしてくれた。

 疲れた時には、昔みたいに寄り添ってくれた。


 来年には、テオも成人の儀を迎える。

 また一年、テオとはお別れすることになる。

 でも、帰ってきたテオをあっと言わせるためにも、私はがんばることにした。



 ***



 そしてまた一年がたって。

 今度はテオが十四歳。成人の儀で王都へ向かう馬車に乗った。


 もうテオの身長は、私を追い越していて。

 正面からテオを見た時に、目線が上になっているのが気恥ずかしくて。

 でも、また少し精悍になったテオにドキドキしたりした。


 馬車を見送る私に、テオが言ってきた。

 来年には、一緒に並んで村を守れるようになるねって。


 来年、テオが戻ってくれば、私もテオも二人とも成人だ。

 村人として立派に勤めを果たせる人間になる。

 走り去る馬車を見送りながら。

 私は、心に決めた。


 テオが帰ってきたら、求婚しよう。

 同じ成人になれた、暁に。



 けれど、テオが成人の儀に出立して間もなく。

 ここセメイト村は、もう一度大量のモンスター襲撃に遭うことになった。


 以前と同じ、南門が襲われたらしい。

 かつて、両親が帰ってくるのをそこで待っていた私。

 あの日の記憶がフラッシュバックして。

 私は、恐怖で動けなくなってしまった。


 幸いにも、といって良いのかはわからないけれど。

 戦闘用の錬金装飾(れんきんそうしょく)が扱えない私は、戦力には成り得なくて。

 サマーさんのような、同じく戦闘要員にならない人達と一緒に避難できた。

 スコットさんは、サマーさんを守るためにと。

 また、非戦闘要員が奇襲された時の防衛のためにと、一緒に居て守ってくれた。


 成人の儀を終えて、クラスを得ても。

 私はいまだに、戦えないまんまだ。

 テオの両親に連れられ、避難所でガタガタと震えていることしかできなかった。


 その日の戦いで、また数人が亡くなったらしい。

 村の中央広場で葬儀が執り行われた。

 ここセメイト村では、良く燃えるピナの葉を使って死者を弔う。

 遺体をピナの葉で被せて覆い、一晩燃やし続ける。

 魂がちゃんと浄化され、一人残らず迷うことなく天国へ召されるように。


 あの日の私と同じように、親族や近しい人を亡くして、号泣している人も居た。

 どうして、この世にモンスターなんか存在するんだろう。

 モンスターなんか居て、良いことなんて何もないのに。

 ただただ、人が死んで人が悲しむだけなのに。


 葬儀の後、近場の駐屯地から騎士隊の人たちが来た。

 四年前もそれなりの数で襲撃があったばかりなので、調査に来たらしい。

 同じ方向から、短いスパンで襲撃があった。

 そのため、南門の方角へ進軍し、開拓村が作られることになった。


 良かった、と私は安堵した。

 これでもう、モンスターが大挙してこの村を襲うことは無くなる。

 もう、人が死んで悲しむことは無くなるんだ、って。

 ――僅か二年で、その期待が早くも裏切られることも知らずに。



 ***



 一年後。私は十七歳になった。

 テオが王都から帰ってくる日が来た。


 その日、私は嬉しさと緊張で、心臓がばくばくしていた。

 テオは、どんなクラスになったんだろう。

 この一年で、またどれだけ逞しくなっているんだろう。

 どんな瞳で、私を見つめ返してくれるだろう。


 馬車が村に入り、止まった。

 続々と、成人の儀を終えた人たちが降りてくる。

 一年ぶりに会った仲が良かった子も居て、久々の再開を手を合わせて喜んだ。


 でも、肝心のテオが降りてこない。

 不思議に思っていると、もう一台小さい馬車が村に入ってきた。

 人が一人二人乗るのが精いっぱいくらいの、小さな馬車。

 その馬車から、一人の男の子が降りてきた。


 間違いない。

 テオだ。


 私は喜んで、急いでその馬車へと走り寄った。

 やっと、テオに会える。

 けれど、降りてきたテオの顔を見て、私は思わず足を止めた。


 一年ぶりに会ったテオは、元気いっぱいのテオとは思えない暗い表情で。

 その目は虚ろで、光を宿していなかった。

 私は戸惑って、恐る恐るテオに声をかけた。


 テオが、私と目が合った。

 けれどその瞬間テオは、ばっと私から目を逸らしてしまう。

 まるで……()()()()()()、と思っているかのように。

 不安になった私は、もう一歩だけテオに近づいて、彼に呼び掛けたけど。


「シャラ、ごめん……僕……『召喚師』に、なっちゃった……」


 掠れるようなその言葉に、思わず私は息を呑んだ。

 もしかしたらなるかもしれない、という話は以前した。

 けれど、本当になってしまうとは思っていなかった。


 でも、約束したんだ。

 召喚師になっちゃったとしても、ずっと一緒に居るって。

 たとえ召喚師になっても、テオはテオだ。


「テオ、大丈夫だよ、私――」

「――ごめんっ!!」

「て、テオっ! 待って!!」


 大丈夫だよ、と声をかけようとしたら。

 テオは、突然走って逃げだしてしまった。


 私は必死に追いかけた。

 待って。

 置いて行かないで。

 私は、テオを怖がったりしないよ。


 けれど、テオの足に私は追いつけなくて。

 その背中が、どんどん離されてしまって。


「開けて、テオ! 私、大丈夫だから! テオが召喚師でも、大丈夫だから!」


 召喚師用の宿舎に入って、鍵をかけて閉じこもってしまったテオ。

 私は扉を叩きながら、必死になって彼に呼び掛け続けた。

 せっかく、テオと一緒に村を守れる一員になれたのに。

 こんな悲しい再会なんて、嫌だ。


「シャラ……ごめん。今は、一人に……して欲しいんだ」


 扉の向こうから、小さくそんなテオの声が聞こえた。

 その響きに混じった、絶望の音色。

 私は、言葉を返すことができなくなってしまった。


「……テオ。テオの、新しい服。……ここに、置いとくね」


 そう言って私は、手に持っていた手提げ袋を扉の脇に立てかけて。

 涙を零しながらも、そっと宿舎を後にした。


 ……私が、錬金術で編んだ、テオの服。

 素材から全て、一から全部作って織った服。

 練習し続けて、やっと納得できる仕上がりになった、最初の一着。

 この一着は、絶対にテオにあげるんだって、決めていた。


 この服に、テオが初めて袖を通したところを……

 一番に……見たかった。



 ***



 それからというもの。

 私は毎日のように、テオの宿舎へと足を運んだ。

 その日の食事や、洗濯した衣服、その他必要な日用品などを持って。


 宿舎の前で、顔だけでも見せて、と毎日懇願した。

 けれど、テオは頑なに私と顔を合わせてくれなくて。

 結局、手提げ袋に入れた日用品を置いて、私は去るしかなかった。


 テオの両親も来て、顔を見せるようにテオを説得しようとしてくれたけど。

 テオの意思はあまりにも固すぎて。

 テオの孤独が、あまりにも強固すぎて。

 私達は、どうすることもできなかった。


 友人や近しい人には、テオにはもう関わらない方がいいとまで言われた。

 召喚師と関わって良いことなんてない、って。

 でも、召喚師になってしまったからといって、そんなことはしたくなかった。


 足繁くテオの宿舎に通って、テオを励まそうと頑張った。

 けれど……彼はどうしても、顔を見せてくれない。

 私の言葉は、彼には届かない。


 錬金術師になって、ようやく自分に自信を持てるようになっていた私は。

 また、自分の無力さを呪った。



 テオは、あんなにも簡単に私の心を癒してくれたのに。

 私では、テオの心を癒してあげることが、できない。



 その日から。

 私は毎晩、両親を失った時のように、涙が枯れるまで泣き腫らした。


 でも。

 もう、あの時と違って。

 枯れた涙の後を、埋めてくれる人は……居ない。


 ――神様。

 どうして、テオを召喚師になんてしてしまったのですか。


 こんなこと言ってしまったら、罰当たりだけれど。

 私、今だけは、あなたを、恨みます――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ