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180話 山奥の集落戦 集大成

 新たに二体の最上級モンスターが、ダグロンと立ち並んでいる。


(こいつも、普通の召喚師よりはマナ回復力が高いのか)


 もう既に、ダグロンはマナが満タンになっていたようだ。

 今のマナヤとアシュリーほどではないが、あの状態だとマナ回復力も高まっているのだろう。


 今、彼らがいる場所は木々も薙ぎ倒され、地も衝撃波の痕にまみれ、完全に拓けていた。アシュリーの立て続けのライジング・ラクシャーサによる影響だ。

 前方と左右を森に囲まれ、この場所だけ広場のようになってしまっている。左奥には、亜麻色の瓦礫の山が見えた。


「マナヤ、あたしはモンスターを中心に攻撃する。あんたはダグロン自身を狙って」

「おう」


 マナヤの隣へと並んできたアシュリーが小声でそう告げ、マナヤも頷く。

 そして、すぐさま手を前にかざした。召喚獣が奪われないならば、遠慮の必要もない。


「【ダーク・ヤング】召喚!」


 マナヤの目の前に、全高十メートルほどの巨大な体躯が現れる。

 禍々しい濃緑色の大木から、脚が生えたような姿。枝葉にあたる部分には無数の太い触手が生えており、幹には牙の生えた巨大な口が複数開いている。


「【ライジング・ラクシャーサ】!」


 一方のアシュリーは、ミノタウロスを斧ごと振るった。

 衝撃波はダグロンと、彼のドゥルガーと鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)をも呑み込む。


「くっ、その程度で!」


 ダグロンの最上級モンスター二種は後方へと押しやられるが、ダグロンは瘴気を纏ったまま両腕をクロスさせて耐えていた。

 あの瘴気バリアがある限り、ダグロンにダメージは行かない。本来は良いことではないが、逆に考えればアシュリーが彼を殺すことも無い。

 彼女が『流血の純潔』を汚してしまうことも無い、ということだ。


「【エヴィセレイション】!」


 一方アシュリーは、先ほどのライジング・ラクシャーサの時にダグロンの背後に回っていた。最上級モンスター二体を相手に、ミノタウロスの斧を振りかざし立ちまわっている。


 そんなアシュリーの様子に、ダグロンが嘲笑した。


「貴女一人で、私の最上級モンスター二体を相手など――」

「よそ見してる場合かよ! 【電撃獣与ブリッツ・ブースト】、【精神獣与(ブルータル・ブースト)】、【リミットブレイク】!」


 しかしその頃には、マナヤのダーク・ヤングがダグロンの元へとたどり着いていた。

 巨大な禍々しい触手が、精神攻撃力の強化された黒い稲妻を纏う。

 それがダグロンに叩きつけられると同時に、黒いエネルギーの渦も追加で発生。


「く、おおおおおっ!?」


 一気に、ダグロンを包んでいた瘴気のバリアが剥がれはじめた。


 ダーク・ヤングの『リミットブレイク』は、精神攻撃の巨大ブレスだ。横向きの竜巻のような精神攻撃の渦を、前方へ放射する。

 マナを一定時間削り続ける『魔叫』効果をも伴い、敵から大量のマナを一気に減らすことができる。マナヤがプレイしたゲーム『サモナーズ・コロセウム』でも、攻撃と同時に敵召喚師のMPを削らせる要員として重宝されていた。


「小癪なッ――」

「【跳躍爆風(バーストホッパー)】!」


 ダグロンが瘴気の触手が絡みついた腕で、ダーク・ヤングを貫こうとする。

 が、その瞬間にマナヤが跳躍爆風(バーストホッパー)で跳ばした。

 ダグロンの腕は、跳んでいったダーク・ヤングの下で虚しく空を切る。


「ならばマナヤ、貴方を――」

「【ドロップ・エアレイド】!」

「ぐぅっ!?」


 ならばとマナヤを殴ろうとしたダグロンの頭上から、アシュリーが降ってくる。

 彼女が握っているのは、マナヤが先ほど跳ばしたダーク・ヤング。

 十メートルはあろう巨体を、軽々と振り回してダグロンに叩きつけていた。


 ダーク・ヤングの触手にまとわりついていた、黒い稲妻。

 それが、さらにダグロンの瘴気バリアを放散させていた。


 地上のマナヤと、ダーク・ヤングごと落下してきたアシュリー。

 二人の目が合って、互いにニッと唇に弧を描く。


「……く、なぜだ!」


 たまらずダグロンは、大きく後方へ跳び下がった。

 アシュリーも深追いはせず、ダーク・ヤングを放り出して彼を睨み据える。


「なぜだ! 私は、召喚獣を自在に制御する力を! 剣士など取るに足らぬ身体能力を! その両方を手にしているというのに!」


 自分に言い聞かせるように叫ぶダグロンの額には、脂汗が浮かんでいた。

 マナヤはそれを、鼻で笑う。


「へっ、簡単なことだろ。お前はその力を、()()()()にゃ使いこなせないんだよ」


 くいっと顎でダグロンの後方を指し示す。

 その先にいたダグロンのドゥルガーと鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)は、その場で棒立ちしていた。だからアシュリーも、こちらに助太刀する余裕があったのだ。


「な、なにを……!」

「当然だ。俺だって、剣と召喚獣を同時に使うのは無理だったんだぜ」


 マナヤも、かつては自分で挑戦してみたことだ。

 自分自身も剣を振るうことができないか。召喚獣と剣を両立して戦えば、ブライトンのような殺人鬼集団や、召喚師解放同盟の連中との戦いで有利になれるのではないか。そう考えて、アシュリーに頼んで剣を習ってみたことがあった。


 しかし、人間の頭で処理できる量には限界がある。

 ただでさえ複数のモンスターの位置と動向を管理し、補助魔法を適宜かけたりするなど、注意を払う要素が多い召喚師。そんな召喚師が自らも武器を振るうというのは、人間の脳ではキャパオーバーなのだ。

 結果、召喚獣の扱いも剣術も、どちらもがおざなりになってしまう。


「召喚獣の一挙手一投足を、自分で全部コントロールする。それだけだって大仕事だろうよ。なのに、お前自身まで戦うだと?」

「く……!」

「結局お前の頭じゃ、全部を管理はしきれねえってことだ。召喚師自身が力を振るうことに専念してた、ジェルクって奴の方がまだマシな使い方してたぜ」


 挑発するようにほくそ笑むマナヤ。

 ダグロンが青筋を立て、拳を握りしめる。背後の触手が、さらに激しく蠢き始めた。


「この、私を……これ以上、愚弄するのは許しません! 【ワイアーム】【ダーク・ヤング】召喚!」


 さらにダグロンが、最上級モンスター二体を追加で召喚した。

 巨大な空飛ぶヘビが、先ほどアシュリーが叩きつけたのと同じ禍々しい樹木の化け物が、ダグロンの傍らに出現する。


「【魔獣治癒(ビーストヒール)】【応急修理(メイクシフト)】」


 さらに後方へ手を向け、二種の回復魔法を使った。

 先ほどまでアシュリーと戦っていた、ドゥルガーと鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)の傷が治っていく。


 伝承系の最上級、『ドゥルガー』。

 機甲系の最上級、『鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)』。

 精霊系の最上級、『ワイアーム』。

 冒涜系の最上級、『ダーク・ヤング』。


 横に並ぶ、四体の最上級モンスター達。

 その威圧感溢れる光景に、しかしマナヤとアシュリーは笑みを崩さない。


「最上級モンスター、四体揃いってか。なかなか壮観だな」

「ならこっちも『全部乗せ』でいきましょ。マナヤ、いけるわね?」


 アシュリーが、自信に満ちた笑みでマナヤを見やる。

 無論マナヤも同じ表情を返した。


「当然だ。お前こそ、吹っ飛ばされるんじゃねえぞ?」

「上等!」


 すぐさま視線を前に戻した二人。

 しかしダグロンは、瘴気にまみれた両腕を大きく横に広げていた。


「無駄です! 相手は、私一人ではないのですよ!」


 と、そこへガサガサと左右の森から気配が飛び出してくる。

 無数の上級モンスター達。おそらく、召喚師解放同盟の者達が召喚したものだ。


「チッ」


 舌打ちしながら、素早く周囲の状況を確認するマナヤ。

 前方にはダグロン、左右は召喚師解放同盟に挟み撃ちされてしまっている。


 ……が、そこへ。


「……【リミットブレイク】」

「ぐあ!?」


 突如、左の森から悲鳴が上がる。森の中で、稲妻が弾けているのが見えた。

 おそらくヴァスケスだろう。彼が、鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)で召喚師達を倒している。


「く……つくづく、あの男は!」


 左方に目を向けたダグロンが顔を歪めている。


(……あいつが、こうも手助けしてくれるとはな)


 複雑な思いになるが、すぐに気持ちを切り替えたマナヤ。

 まずは、右に手をかざす。


「【フロストドラゴン】召喚! 【跳躍爆風(バーストホッパー)】!」


 ヴァスケスがいない右方に、巨大な氷竜を召喚。それを跳躍爆風(バーストホッパー)で放り込んだ。

 右側に、フロストドラゴンの天敵となる機械モンスターが居ないことは確認済みだ。


 森の中に氷のブレスが吹き荒れ、敵召喚師達の悲鳴が届いてくる。


「【サンダードラゴン】召喚! 【時流加速(クロノス・ドライヴ)】!」


 さらに左方に手を伸ばし、今度は空飛ぶ雷竜を召喚。

 加速魔法がかかったサンダードラゴンは、森の上を飛び回り、何度も何度もモンスターらに雷のブレスを叩きつけていく。

 雷の攻撃範囲は狭い分、ヴァスケスを巻き込んでしまうこともないはずだ。


「させませんよ!」


 が、ダグロンが思いきりこちらへと突っ込んできた。

 最上級モンスター四体も横並びになって、同時に。


「――今だよシャラ!」


 一瞬だけ、マナヤの目つきが柔らかくなった。

 交替したテオが、後方へと呼び掛ける。


「【シフトディフェンサー】」


 ――【安定(あんてい)海錨(かいびょう)】!


 シャラが、手にした『衝撃の錫杖』の先端に、錨のようなチャームがついた錬金装飾(れんきんそうしょく)を装着していた。


「【リベレイション】!」

「ぐっ!?」


 シャラが、『衝撃の錫杖』を振りぬく。

 半透明の衝撃波がダグロンとモンスター達を捕らえ、後方へと圧し飛ばした。


 彼女は集落の中に隠れ、今まで機を伺っていたのだ。テオを信じ、テオが完璧なタイミングを合図してくるのを待ち続けていた。

 ダグロンの意識が彼女から逸れ、最大の効果を発揮する、最高のタイミングを。


「シャラ、ありがとう!」


 シャラへ向けてテオが微笑みかけた。シャラがこくりと頷いてくる。

 すっと目を閉じ、テオは即座にマナヤにバトンタッチした。


 その間に起き上がり、また距離を詰めようとしたダグロン。


「なにをっ……こ、これは!?」


 しかし彼の足が、動かない。

 先ほどの半透明の衝撃波が、ダグロンの足をその場にガッチリと固定していた。『安定の海錨』と『衝撃の錫杖』のコンボだ。

 ドゥルガーや鎚機SLOG-333(スロッグデルタ)、ダーク・ヤングも同様に動けない。


 唯一、翼を持っているワイアームだけが、羽ばたきながら再度飛来しようとしてきたが……


 ――ドキュウッ


 その片翼が、突然降ってきた矢に貫かれる。

 押されるようにワイアームは落下し、左奥の瓦礫の山へと墜落。


(まさか、レヴィラさんか!)


 交替したマナヤは、降ってきた矢を見てそう推測する。

 弓術士は、敵の位置などを遠距離からでも把握し、狙撃できる。森の奥から、こちらへ助太刀してくれたのだろうか。


(それに、あの瓦礫!)


 瓦礫に目を戻すと、ワイアームが飛び立とうともがいていた。

 崩れていた瓦礫が偶然、ワイアームの翼に積み重なっていたため、飛び立てなくなっている。


 ランシックが援軍を運んできた後、崩れ去った大きな岩波でできた瓦礫だ。

 バリトンボイスの高笑いが聴こえてきたような気がする。


 苦笑したマナヤは、最後に正面へ手を。


「【ドゥルガー】召喚!」


 現れたのは、ダグロンの横にもいる『ドゥルガー』。

 伝承系の最上級モンスター。大量の腕それぞれに様々な剣を持った、白虎に跨る女性戦士だ。


「じゃ、コレで!」


 無数の腕、そのそれぞれに握られている形状の違う剣。

 その中からアシュリーは、最も巨大な剣を選んでその柄を握る。

 そして、チラリとこちらへ視線を。


 目くばせを受けたマナヤは、すぐにドゥルガーへ手を差し伸べた。


「【跳躍爆風(バーストホッパー)】!」


 ドゥルガーが、真っ暗な空へと跳び上がる。その背に、アシュリーを乗せて。

 橙色の救難信号が淡く周囲を照らしている中、二人の女戦士が闇空を翔けた。


「シャラ、(いち)ッ!」

「【キャスティング】」


 その隙に、マナヤがシャラに合図。すぐに、番号『一番』の錬金装飾(れんきんそうしょく)がマナヤと空中のアシュリーに投擲される。


 ――【増幅(ぞうふく)書物(しょもつ)】!


 魔法や技能の効果を高める錬金装飾(れんきんそうしょく)。それが、『人魚の宝冠』と入れ替わるように装着された。これでマナヤの補助魔法、特に獣与(ブースト)魔法の威力は五割増しになる。


「全部乗せだ! 【秩序獣与(ブレスド・ブースト)】、【火炎獣与(ブレイズ・ブースト)】、【電撃獣与(ブリッツ・ブースト)】、【野生之力ワイルド・ファランクス】!」


 ドゥルガーの全ての剣が、煌びやかな光を帯びる。


 神聖な、青白い光を。

 灼熱の、紅蓮の炎を。

 弾け散る、黄金色の轟雷を。

 輝くような、緑の閃光を。


野生之力ワイルド・ファランクスは、俺の生物モンスターのHP合計に応じて威力を増す!)


 ミノタウロス、シャドウサーペント、フロストドラゴン、サンダードラゴン。

 それらの力も緑色の光となり、空中のドゥルガーへ加算されていく。

 むろん、ドゥルガー自身のHP分も含めて。


「【イフィシェントアタック】【スペルアンプ】」

「【インスティル・セイント】」


 さらに、テナイアによる物理攻撃威力増幅。

 魔法増幅の方はディロンへとかけられ、そのディロンが神聖な付与魔法を放つ。


 イフィシェントアタックと、インスティル・セイント。

 その二つの増幅魔法も、アシュリーの手を介してドゥルガーの大剣へと流れ込んでいく。


「これで――」


 そのドゥルガーの剣を把持し、アシュリーが眼下のダグロンを見据える。

 空中で、ドゥルガーの腕ごと大剣を構えた。


 ――1st(ライジング・アサルト)――

 ――2nd(ドロップ・エアレイド)――

 ――3rd(スワローフラップ)――

 ――4th(エヴィセレイション)――


 限界を超え、全ての力がドゥルガーの大剣へ凝縮。

 シャラから受け取った『増幅の書物』の効果により、技能一つ一つの威力も上がっていた。

 ビリビリと、地上にまでそのプレッシャーが伝わってくる。


「――決める!!」


 最後の力を、全力で注ぎこむアシュリー。



 ――FINAL(ラクシャーサ)!!



「【ペンタクル・ラクシャーサ】ぁぁぁぁ!!」



 ドゥルガーごと、アシュリーが地上へ神速の突撃。


 共鳴と同じ、虹色の閃光。

 一身にそれを纏っているアシュリーが、瞬きの間にダグロンの目の前へと迫り――


「な――」


 反応できず絶句するダグロンの頭上を……

 一瞬で、通り抜けた。


 彼の最上級モンスター四体、その背後にそれぞれ一本ずつ地割れが走る。

 未だ無音のまま、アシュリーが彼らの背後で足が地に触れた、その瞬間……



 ――爆音と、虹色の閃光が破裂した。



「――くぅっ!?」


 一瞬でその場を、昼というのも生ぬるい明るさに変えた一撃。

 マナヤは反射的に腕で顔を庇い、直後に暴風が吹き荒れる。


 遅れて届いてきた、無数の衝撃波が次々と地を叩き割る連続音。

 まるでこの山をまるごと削り取るかのように、次から次へと風圧が届いてきた。

 嵐の中、目も開けていられなくなる。


「【ライシャスガード】!」


 テナイアが各人に結界を張る。

 マナヤ達のみならず、集落の者達や、騎士達に至るまで一人一人白い防御膜で覆っていた。


「ッ……」


 マナヤもなんとか、吹き飛ばされずに済んだ。

 徐々に暴風も収まり、大地の轟きも鳴りを潜めていく。


「く、う……」


 マグマのように赤熱した、四本の巨大な地割れ。

 衝撃波の全てを、四体の最上級モンスターに集中させた影響だ。

 融けた地割れの中には、魔紋しか残っていなかった。


 その地割れの合間、ダグロンが呻きながら地面に転がっている。

 が、彼の瘴気はまだ消え去っていなかった。精神攻撃でなければ、あの瘴気のバリアは砕けない。


「――マナヤっ!」


 さらにそこへ、奥からアシュリーの声が。

 着地した彼女は、真っすぐマナヤを見据えていた。

 その手は、ドゥルガーの腰のあたりを掴んでいる。


「【精神獣与(ブルータル・ブースト)】!」


 何をしたいかは、すぐに察した。

 マナヤは、精神攻撃を加える獣与(ブースト)魔法をドゥルガーにかける。ドゥルガーの剣にまだ残っている黄金色の雷撃が、黒く変色した。


「セイッ!!」


 アシュリーは、ドゥルガーを思いっきり投擲する。

 その着地点には、横たわるダグロンが。


 空中で、白虎に跨ったドゥルガーがダグロンを睨みつける。

 その白虎が、彼の目の前にひらりと着地。同時に……


 ――ザシュッ


 ドゥルガーが、黒い稲妻を纏った無数の剣を振り切った。


「――ぐぅッ!?」


 ダグロンに残っていた瘴気のバリアが、バリンとガラスのような音を立てて砕け散る。

 背から生えた触手も、切り刻まれるように消し飛んだ。


「【リミットブレイク】!!」


 その瞬間、ドゥルガーに視点変更したマナヤは『リミットブレイク』を発動。

 ドゥルガーの全身から、赤紫色の光が弾けた。無数の剣、その全てから大量の『暗黒属性』の衝撃波が発されたのだ。


 ドゥルガーのリミットブレイクは、ドゥルガー自身の全マナを消費して発動される。

 その威力は、消費したマナの量に比例。


 大地が破裂するような衝撃と共に、爆発する。

 削られる地面に、飛び散るマグマ。


「がはああああああッ!」


 瘴気のバリアを失っていたダグロンは、全身を切り刻まれた挙句吹き飛ばされた。

 地に露出した大岩に背中からぶつかり、止まる。


「がッ……ぐ」


 まだ、ダグロンには息があるようだ。

 全身から血を流しながら、ぴくりと指先を動かす。


「はああああっ!」


 そこへアシュリーが、ダグロンに向かって跳躍していた。

 自前の剣を抜き、上段に振りかぶっている。

 一直線に、地に伏した彼へ向かい落下。


「な――」


 ようやく起き上がったダグロンが、血まみれの顔を上げた時。

 アシュリーはもう、すぐ目の前まで迫っていた。

 ダグロンの顔が、恐怖に引き攣る。


「待っ、アシュ――」


 マナヤが止めようと、声をかけた瞬間。



 ――アシュリーの剣が、轟音を立てて叩きつけられた。



「……」


 ダグロンの頭の、()()に。


 彼がもたれかかっていた岩に、びしびしと亀裂が入り、砕け散る。

 崩れ去った岩の中に、ダグロンの背中が落ちた。


「……は……」


 ようやく状況を理解したダグロンが、思わず安堵の息を吐いたその時。


「――ディロンさんっ!」


 ディロンの名を叫んだアシュリーが、すぐさまその場から飛び退く。


「【プラズマキャノン】!!」


 直後、ダグロンの頭上に、電撃を纏った巨大な氷のツララが出現した。

 それは、目を見張るダグロンへ向けて一気に落下し――



 ――ドシュウッ



 満身創痍のダグロンの胸元を、深々と貫く。

 バリバリと電撃をその体に叩き込み、ダグロンの腕が痙攣していた。


「……かはッ」


 最後に、咳とともに血を吐く。

 そのままダグロンは、息をしなくなり……

 両腕が、力なく地に落ちた。


「……」


 その場の、ほぼ全員が茫然とそれを見送る。


 周りにはもう、召喚師解放同盟の生き残りはいない。

 ヴァスケスこそ姿が見えないが、他全員が地に伏していた。

 フロストドラゴンとサンダードラゴンも、マナヤのもとへと戻ってくる。


 このダグロンが、最後の一人だったようだ。


「……マナヤ」


 アシュリーが、ふらふらとマナヤへ歩み寄る。

 その足取りはおぼつかない。かなりの体力を消耗したのだろう。いつの間にか虹色のオーラは消え、二人の『共鳴(レゾナンス)』も解除されていた。


「……アシュリー」

「えへへ。あたしの手で、アイツに最後の一泡くらいは吹かせてやりたくってね」


 体の痛みに顔を歪める彼女に、マナヤは気遣うような目を向ける。


「けど、約束、守ったわよ。……あたし、まだ人間のままだよ」


 そう言ってアシュリーは、やや力なく微笑んだ。


 土埃に汚れ、橙色の光に照らされたアシュリーの顔が……

 妙に美しく、清らかに見えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 召喚師解放同盟との戦いは終わったか…
2023/04/17 22:19 退会済み
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