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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第一章 召喚師の降臨と錬金術師の献身
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17話 元人格の帰還

 ふ、と急に意識が浮上し、()が目を覚ました。


(……あれ、ここは……)


 ()は、自分がもう日がとっぷりと暮れた中、外で座り込んでいたことに気づいた。

 ここは村中心あたりにある、ピナの木の群生地。もしもモンスター襲撃などで火事になっても火が燃え移らないようにするために、他の建物などとも離した場所に植えている、ピナの木の栽培地だ。


(っ! そうだ! モンスターの襲撃!!)


 そこで()は唐突に思い出した。

 ()のこの村は、スタンピードに襲われて……炎に包まれたはずではなかったか。

 モンスター達によって火に包まれて、人が殺されて――


「……!! 父さん! 母さん! シャラっ!!」


 記憶の中で父親と母親、そして誰よりも大好きな幼馴染が殺されたことを思い出した。

 慌てて立ち上がり辺りを見渡すも、そこは自分が見慣れているセメイト村の光景にしか見えない。


 ――あれは、夢だったの?


 モンスターの襲撃で、燃えてしまったはずの故郷が。

 防壁を破壊され、モンスターが押し寄せて崩されてしまったはずの村が。

 なぜそのままの姿で、何事も無かったかのように?


「くっ!」


 ……けれど、()は自分の目で確かめたかった。

 父さんは、母さんは、シャラは。

 彼らは、本当に無事なのか。

 自分は、滅んだあとに復興しただけのセメイト村に居るだけなのではないか。


 ()は、自分の位置を確認して、走り出した。

 ()の……()の両親の家があった場所へと。

 あの、スタンピードの日のように。



 ***



「……あった! ()の家……!」


 ()は、いつも通りの場所に家が建っているのを見て希望を持った。

 ()の家は、何事も無かったかのように何一つ変わらずそこにあった。


 ……そして中で人が居ることを証明するように、明かりが灯り、煙突からゆらゆらと煙が出ていた。


「父さんっ! 母さんっ!」


 バン、と焦りから乱暴に扉を開け、中に居るはずの人に呼び掛ける。


「ま、マナヤ君!」

「マナヤさん! ……大丈夫だったの? 心配してたのよ」


 そこに居たのは、()が期待していた通りの人物。

 ()の父親と母親……スコットとサマーが、何事もなく元気にしていた。


「と、父さん……母さん……」


 安心から、思わずぼろぼろと涙が零れてしまうのを止められなかった。


「マナヤ君!?」

「どうしたのマナヤさん! 大丈夫?」


 二人が()に駆け寄ってきた。


「アシュリーさんから話を聞いて……思いつめてたって聞いてたから……」


 母であるサマーが不安げに()に話しかけてくる。


「うっ……ひぐっ……」


 だが、()の耳には入っていなかった。

 目の前で、モンスターに殺されてしまったはずの二人が。

 元気に、()に話しかけてきてくれている。

 また、今まで通りに二人が居てくれる。


 ――あのスタンピードは、夢だったんだ。


「父さん……母さんッ……よかったぁ……っ!」


 ()は号泣しながら、二人にすがりついた。

 泣きつかれた二人は、少し動揺しながら()の顔を覗き込んでくる。


「……マナヤ君?」

「本当に、どうしたの、マナヤさん?」


 と、そこで()はようやく呼び名が違うことに気が付く。


「……と、父さん、母さん……『マナヤ』って、誰?」


 泣きじゃくりながらも、今更不思議に思って()は二人に問いかけた。


「――な、なんだって?」


 その言葉を聞いて、父であるスコットが(おのの)いた。


「あ、あなた……まさか……!」


 母のサマーも口元に右手を当てて、震え始めた。


「と、父さん? 母さん? 僕だよ、テオだよ?」


 首を傾げながら、そう()は……『テオ』は、彼らに呼び掛けた。


 ……言ってしまってから、慌ててテオは自分の体を見下ろし、自分の体のあちこちを触って確かめる。

 自分は、あのスタンピードで殺されて別人になってしまったのではないか。

 そんな不安を感じてしまったからだ。


 だが、自分の体を見ても触っても、使い慣れた自分の体であるとしか思えない。


「――テオ! テオなのか!!」

「テオッ! ああっ、テオッ……!」


 今度は、二人が泣き崩れる番だった。

 涙を零しながらテオの体に抱き着き、もみくちゃにする。


「わっ!? と、父さん? 母さん?」

「テオ! よく……よく、戻って、きてくれたな……っ!」

「良かった……! テオ、ありがとう……戻って、きてくれて……!」


 テオはわけがわからないも、まるで生き別れた人に会えたかのように泣きついてくる両親を受け入れる。

 久々に……本当に久々に感じる、両親のぬくもり。

 成人の儀を受けてから、このように人のぬくもりを感じるのは、初めてだった。


「……う……」


 号泣する二人に、釣られて。

 テオも、二人にすがりついて、一緒になってまた泣きじゃくった。

 これまでの寂しさを、埋めるように。




「そ、そうだわ! シャラちゃんにも伝えないと!」


 ひとしきり泣きついた後、サマーは涙を拭き慌ててそう言い出す。


「ああ、今、急いで連れてくる!!」


 スコットが慌てて家を飛び出していった。


「っ! シャラ! シャラも無事なの!?」


 大好きな幼馴染の名を聞いて、テオも居てもたってもいられなくなり残った母に問いかける。


「ええ、シャラちゃんも無事よ。あなたの……いえ、『マナヤ』さんのおかげでね」


 その母の返答を聞いて、テオは再び眉をひそめた。


「あの、母さん……『マナヤ』って、誰?」


 そう。父も母も、先ほどからずっとその名を口にしていた。

 そして自分のことをそう呼んでいた。


「……そうね、私にも、よくわからないのだけど……」



 そうして、サマーはテオに語ってきた。


 自分はつい先ほどまで、『マナヤ』という別人であったのだと。

 彼が自分の体を使い、この村に起こったスタンピードを収めたのだと。

 彼がこの村の召喚師達に戦い方を指導していたのだと。

 ……彼が『英雄』となり、召喚師達の立場を大きく変えたのだと。


(……僕、いつの間に英雄に?)



 ***



「……オ! テオ……!」


 母から話を聞いていると突如、家の外から声がした。

 テオが、ずっと聞きたかった声。

 スタンピードの後から、ずっと無事を確かめたかった声。


「この、声……まさか……!」


 その声を聴いて、居ても立っても居られなくなったテオは、自ら外へと飛び出す。


 早く。

 早く、会いたい。

 早く、無事を確かめたい。


「――っ!」


 すると、暗がりの表通りの先。

 スコットと、その後ろに連れられたもう一人。

 金髪のセミロングを揺らして、足早にこちらに駆けてくるもう一人。


「……テオ!?」


 テオの大好きな、幼馴染。

 彼女が涙を含み、期待に満ちた目で。

 テオをまっすぐ見つめ返してきた。



「――シャラ! シャラぁっ!!」


 

 大きな声で、力いっぱい彼女の名を叫んだ。

 たった十数歩程度の距離を、一秒でも早く縮めるように走り。

 彼女の元に一気に駆け寄って。


「――テオ!!」


 そんなテオの顔を見て。

 シャラの顔にも花が開いたかのように、笑顔が咲き。

 そして決壊したかのように、綺麗な両の瞳から涙が溢れだした。


「シャラッ!!」


 そして、テオは。

 思わず、彼女の体を力いっぱい抱きしめる。


 シャラの体温を感じる。

 シャラの鼓動が響いてくる。


『テオ……せめ、て……あなただけは……生き……て……』


 記憶の中のシャラ、その最後の言葉と表情がよぎる。

 でも、そんなものは存在しなかった。

 シャラは、ちゃんとこの腕の中に居る。

 ……自分の腕の中で、ちゃんと生きている。


「シャラ……良かった……生きてて、くれた……っ!」


 テオは、自分の目からも滝のように涙が溢れだすのを止めようともせず。

 ただぎゅっと、シャラの体を精一杯抱きしめた。


 ――良かった。君だけは……絶対に、失いたくなかったから――


「……テオ……」


 耳元で、シャラが自分を名を呼ぶ声が聞こえた。

 ふわっ、と、彼女の腕が、テオの体を包もうとしているのを感じる。



 ――!!!!



「きゃっ!?」


 唐突に()()()()()テオは、慌てて彼女の体を離す。


 恥ずかしくなったわけではない。

 思い出した。

 思い出してしまった。


 自分が、シャラにとって()()()()()()()()()のかを。


「……っ」


 急にテオは、シャラを直視することができなくなった。

 もしも、シャラが。

 自分を、怯えた目で見つめてきたとしたら。


 きっと、自分は耐えられないから。


 テオは彼女から目を逸らし、一歩二歩と彼女から距離を取るように後ずさりする。


「待って! テオ!!」


 けれど、それを見たシャラは一気にテオに駆け寄る。至近距離からテオの手を掴み、必死な声でテオを呼び止めた。


「しゃ、シャラ……僕は」

「お願いテオ! 話を聞いて! お願い!!」


 目を合わせられないながらも、絞り出すような声で彼女に言葉を紡ごうとするテオ。それを、シャラは本当に叫びだすように止めてきた。


「テオ……私、私ね……テオが、顔を見せてくれなくなって……すごく、寂しかったん、だよ……?」


 シャラの声に、再び涙が混じり始める。


「シャラ……ごめんね。でも、僕は『召喚師』だから――」

「そんなの関係ない!!」


 おぞましいクラスになってしまった自分だからと、断ろうとするテオ。

 だがシャラはその言葉を遮り、テオに抱き着いてきた。


 彼女の体温に、鼓動に、いまさら自分の顔が熱くなってしまうのを感じる。


「約束、したじゃない……! どんな、クラスに、なったって……っ! 一緒に、支え合って、村を、守っていこうって……!」


 ぼろぼろと涙を零し、たどたどしくなってしまった言葉で、シャラは必死に語り掛けてきた。


「……シャラ……」

「お願いっ……テオ……っ」


 昔の約束。

 自分が召喚師になってしまって、もう守れないと思っていた約束。

 それでも、シャラは心の底から絞り出すように、言葉を続けた。


「私、テオが、居なくなるのはっ……もう、嫌だぁ……っ!!」


(――!!)


 テオの、最後の記憶がフラッシュバックする。


 目の前で、父が、母が。

 ……シャラが、命を落とした光景を。


 ――またシャラが、居なくなる?


 ぞくり。

 あの時の、悲しさと……恐れが、テオの背筋を凍らせた。


 ――嫌だ。


 テオの心が、泣き出し始める。

 ずっとシャラのためと思って、凍り付かせてきた思いを溢れ出させて。


「……テオ」


 シャラがテオから体を離した。

 そして……彼女が、テオの右手を取る。


(……!)


 テオの脳裏に、あの光景が再び浮かんだ。

 彼女がその死の間際に、テオの手を。

 ……両掌で包み込んできた、あの光景が。


 シャラが涙を湛えた目を閉じて。

 もう片方の手で、()()()()()()()()()()()()()()()()


 ――ふわっ


「っ!」


 途端に、シャラが驚きに目を瞬かせた。

 シャラがテオの手を包むより、早く。


 テオの両手が、()()()()()()()()()()()()()()()


「……テオ……」


 目を潤ませ、頬を紅潮させたシャラが、おずおずとテオの目を見上げてくる。

 いつの間にか、自分の方が高くなってしまった目線。

 いつの間にか、とてもかわいらしく感じるようになってしまった、彼女の手。

 いつの間にか、……とても、綺麗になった幼馴染。


「……シャラ……僕も……」


 今までずっと、怖かった。

 シャラに、拒絶されたらどうしようと。

 シャラが、怯えた目で自分を見てきたら、どうしようと。

 ……召喚師になった自分を、ずっと呪ってきた。


「僕、も……シャラが、居なくなるのは……」


 ぱたり、ぱたり。

 シャラの手を包む自分の手に、自分の涙が落ちるのを感じる。


「シャラに、だけは……居なくなって、欲しく、ないから……」


 もはや自分の声をまともに出せない。


「だから……僕、なんかで……本当に、いい、なら……」


 それでも、必死になって。

 涙が零れる目で、精一杯の笑顔を作って。



「シャラ……僕、の、お嫁さんに……なって、ください……っ!」



 もう二度と、あんな目には合わせない。

 もう二度と、彼女を傷つけさせたりはしない。

 きっと、自分が彼女を守り切ってみせる。


 ――だから、傍に居ることを……許してください――



 ふわっ



「……はい……っ」



 テオの手が、包み込み返されるのを感じて。

 泣きじゃくりながらのシャラの返事が聞こえた。


「テオ……私を、テオのっ、お嫁さんに……してくださいっ……!」


 久しぶりに、顔を見つめ合った。

 ずっと大好きで、ずっと一緒に居たいと思っていた幼馴染。

 もう絶対に直視することはできないだろうと思っていた、最愛の人。


 その瞳に……テオが恐れていたような怯えの色は、全く無かった。


 互いに涙で、ぐしゃぐしゃになってしまった顔。

 嬉しさで、はにかませ。


 お互いの体をもう一度力いっぱい抱きしめた。

 二度と、離さないように。

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