166話 ガントレット
ヴァスケスとダグロンが、サンダードラゴンにのって仮拠点に戻った直後。
「一体どういうつもりだ、ダグロン!?」
ヴァスケスは、会議室の簡素なテーブルの上にあった地図を乱暴にぶちまける。
「あの『核』の力とやらで、マナヤらをあの場で一掃する事が出来たはずだ! なぜ退いてやる必要があった!?」
有利な状況で、わざわざサンダードラゴンに乗って撤退してしまった。それが、ヴァスケスには信じられない。
が、ダグロンは口髭を撫でながらニヤニヤと卑しい笑みを浮かべている。
「どういうつもりも何も、あの時、剣士の女が彼に疑念を抱きかけていたではありませんか。マナヤが、あの女剣士の父親の仇だった……経験上、ああいう問題は時が経てば経つほどこじれるものです」
「何が言いたい」
「つまり、あの場は一度退いて相手に考える時間を与えれば、いずれあの女剣士は勝手に離反するということです。なんなら、彼女のマナヤを始末してくれるかもしれないでしょう」
アシュリーを離反させ、勝手にマナヤらの戦力が削げるのを待つつもりだった。そう主張したいのだろう。召喚獣の制御を奪える今、あの場で一番厄介だった相手は、強力なモンスター少数に対し最大火力を出せる『剣士』であるアシュリーだ。
「では、あの報告は一体何だ! なぜ勝手に兵を西の町へ動かした!」
目の前のダグロンは、なおもそう激昂するヴァスケスを冷ややかな笑顔で見つめ返してくる。
「報告通りですよ。西の町を皆殺しにし、その時にこの核が私にこの力を授けてくださったのです。……『すべての召喚獣の入手』も併せて、ね」
と、黒い瘴気を今なお生み出している『核』をかかげ、あてつけるように嗤うダグロン。
どうやらモンスターを制御する能力のみならず、あらゆる召喚獣を入手した状態にすらなっているようだ。サンダードラゴンやワイアームも、そうやって入手したものだったのだろう。
だがその飄々とした態度が、ヴァスケスの怒りに油を注ぐ。
「西の町を襲えとは命じておらん! あまつさえ、町の召喚師や子どもまで皆殺しにするとは何事だ!」
「何をおっしゃいます。『襲うな』とも命じられておりませんし、一晩でことは済んだのです。北の町を今から襲いに行くことも可能ですよ。作戦には何も支障をきたしません」
「そのような屁理屈を問うているのではない!」
テーブルを拳で叩きながら、ヴァスケスはなおも叱責し続ける。
ふと、ダグロンが笑顔を消し去り、見下すような視線を向けてきた。
「……お言葉ですが、北の町へ偵察に行く道中で勝手にマナヤと遭遇し、勝手に負けかけたのはヴァスケス殿です。そんな貴方を救って差し上げたのは、誰でしたかな?」
「……ッ」
「私が西の町へ進軍しなければ、『核』はこの力を授けてはくださらなかった。つまりは、貴方を救うことはできなかったはずだったのですよ。感謝されこそすれ、叱責される筋合いはありませんね」
「貴様ッ!!」
思わず、ダグロンの胸倉を掴む。
「言ったはずだ! 召喚師達の人心を掴むには、道理をもって振舞わねばならん! さもなくば、召喚師達の心はマナヤへと移り行くばかりだ!」
「……やれやれ」
「命令違反で、貴様を降格させる! もはやダグロン、貴様に我らが同盟を率いる資格は無い! お前たち、こやつを捕らえろ!」
バッと片腕を広げ、幹部らにダグロンの捕縛を命じる。
……が。
「……何のつもりだ、お前たち」
幹部達はダグロンではなく、むしろヴァスケスへ向けて身構えてきた。
くつくつとダグロンが嗤う。
「残念ながら、見ての通りですよヴァスケス殿。我らが同盟を率いる資格がないのは、貴方の方だということです」
「何を……!」
鋭い殺気をこちらへ叩きつけてくる幹部らを前に、ヴァスケスは気丈にダグロンを睨みつける。そんな彼を、ダグロンは小馬鹿にするように唇の端をゆがめた。
「お気付きになりませんか? あれだけ豪語しておいて、貴方はまたしてもマナヤに敗れた。奴を下したのは、私の方です。彼らは、そんな私をこそ評価して下さっているのですよ」
「ぐ……」
「確かに、召喚師としての貴方はお強かった。ですが、もう貴方の時代は終わりなのです。なんなら、試してみますか?」
そう言ってダグロンは、再び『核』を掲げる。
召喚獣を完全に制御する能力。他者の召喚獣まで支配下に置くことができる。そんな能力を前に、召喚師であるヴァスケスにはなす術がない。
余裕を見せるダグロンは、再び喉を鳴らして嗤い始める。
「ですが、このような反則の力を使って貴方を上回ったところで、貴方は納得しないでしょうからね。せっかくです、もっと公平な形で決着をつけましょう」
「公平な形、だと?」
訝しむヴァスケスに、ダグロンは思いを馳せるように天井へと目を向ける。
「ええ。トルーマン様を崇拝していた貴方なら、よくご存じのはずです。我らが同盟に相応しい者であるか確認する、あの儀式のことを」
「……『ガントレット』か」
当然、ヴァスケスは知っている。他ならぬトルーマンが、新人や規律違反者を組織の一員として受け入れられるかの確認のために編み出した儀式だ。
不敵な笑みで頷いたダグロンが、手を差し出してくる。
「他ならぬ、トルーマン様が取り決めた掟です。よもや、貴方がそれを拒否はしますまい?」
***
夜半。
ヴァスケスは、両脇を幹部に固められた状態で後ろ手に拘束されていた。
彼の目の前には、縦二列に並んだ召喚師解放同盟の戦士達。右列と左列の間には、人の身長二人分ほどの幅が空いている。
ヴァスケスは、列の最後尾、その二列の中間に連れてこられた。
「【ケンタウロス】召喚」
すると列に並んでいる召喚師達が、全員おもむろにケンタウロスを召喚。
大量のケンタウロスが二列で向かい合わせに並び、その間にヴァスケスがやっと通れる通り道のようなものを作っている状態となった。
幹部の一人が、その通り道の終着点の地面に線を引く。
それを確認し頷いたダグロンは、ヴァスケスへとおもむろに声をかけた。
「ヴァスケス殿。今さら、説明するまでもないとは思いますが……」
「わかっている。この列の間を通り、生き延びてあの線までたどり着け、だろう」
この儀式のことをもちろん知っているヴァスケスが、ダグロンの言葉を遮った。
ガントレット、そう名付けられたこの儀式は、いわば『裁判』だ。
二列に並んだ召喚師が、皆ケンタウロスを召喚する。裁判を受ける者は、そうやって形成されたケンタウロスの道を歩いて突き進んでいくのだ。
召喚モンスターは、殺意を抱いている対象に対しては自動的に攻撃する。
このケンタウロスの道を歩く者が、同盟の戦士達から『同胞としてふさわしくない』と判断している時、殺意が溢れる。ケンタウロス達は、道を通ろうとしている者を容赦なく射抜いていくのだ。
殺意がない場合、つまり同胞として皆に認められているならば、ケンタウロス達が矢を射かけることはない。そういう、皆からの信頼を確認するための儀式。
「たとえ射かけられても、あの線まで生きて辿り着くことができれば、まあ追放まではせずにおきましょう。……皆からの信頼を失っているため、下っ端からやり直しては頂きますがね」
嫌味のようにそう確認するダグロンを、忌々しげに睨みつけるヴァスケス。
ふと、わざとらしく何かを思い出すような仕草をしたダグロンが懐に手を入れる。
「そうそう、一応『反則の力』による不正を疑われても困るので、一旦これは手放しておきましょう。せめてもの誠意ですよ」
と、懐から『核』を取り出し、それを無造作に放る。
瘴気をかすかに沸き立たせているそれが、地面に転がった。
「――ヴァスケス様!?」
そこへ、奥から一人の人物が慌てた様子で駆け寄ってくる。
「……シェラド」
「ヴァスケス様、これは……まさかガントレット!? なぜヴァスケス様が!」
ヴァスケスの腹心、シェラドだ。心配そうにヴァスケスに駆け寄り、周囲の状況を見渡して目を剥いている。
そこへダグロンがスッと進み出た。
「ヴァスケス殿はマナヤにまたしても敗れ、それを私が救った。もう、ヴァスケス殿は皆の信頼を勝ち取れていないということです」
「何を……! お前たち、ヴァスケス様から受けた恩を忘れたか!」
ダグロンの説明に、シェラドは列をなしている者達を睥睨する。
「――むしろ、せいせいするじゃないか」
そんなシェラドに、無慈悲な意見が列の方から飛んできた。
「そもそもヴァスケス様の戦術訓練で、何人も殺されてるんだぞ」
「あんな命懸けな訓練をやらされて、同胞が死んでも涼しい顔をされて……」
「町を襲う時だって、そうではありませんか。無駄に厄介な戦いをするように誘導されて、いつ殺されるかわかったもんじゃない」
口々に、ヴァスケスへの不平を漏らす召喚師解放同盟の戦士達。
そんな彼らを、シェラドは信じられない者を見る目で見つめる。
「くくく……そういうことです。どうやらあの模擬戦、皆も相当に不満だったようですね?」
「……」
ダグロンがあてこするようにヴァスケスを見下ろすと、ヴァスケスは黙ったまま俯いた。
ヴァスケスは召喚戦の訓練として、召喚師同士で模擬戦を幾度となく行っていたのだ。
しかし召喚獣同士を戦わせるには、互いに強烈な殺意を抱く必要がある。そんな殺意を抱いた状態での模擬戦は、ふとした事故で訓練中の召喚師が本当に殺されてしまう凄惨なものとなる。事実、何名も犠牲者が出た。
それでもヴァスケスは、『必要な犠牲』『無駄死ににはさせない』などと言って、そんな危険な訓練を続けてきた。それが彼らの反感を買っていたのだろう。
「ちょうど良い。シェラド、貴方が私と共に審判をなさい」
「な――!?」
ダグロンの命令に、弾けるように振り返るシェラド。
「私一人が審判では、私情による不正を疑われる可能性があります。ヴァスケス殿を信頼する貴方も加われば、文句の付け所はなくなるでしょう?」
「く……」
ぎり、と歯ぎしりしながら拳を握りしめている。
そんなシェラドに、ヴァスケスが静かにこう指示を出した。
「……シェラド、おとなしく審判をやっていろ」
「ヴァスケス様!?」
シェラドは不安そうな顔でヴァスケスへと振り返る。
「私は、死なん。そこで落ち着いて見ていればいい」
「……っ」
安心させるようにそう紡いだ言葉に、シェラドは唇を引き結んだ。
「話はまとまりましたね? ではヴァスケス殿、準備のほどは?」
ダグロンが手を叩いて場を纏め、ヴァスケスへと伺う。
無言のまま、ヴァスケスが頷いた。ダグロンが列の方に目くばせをすると、二列になったケンタウロスをその場に残したまま、召喚師達は後方へと下がる。
あとには残ったのは二列のケンタウロス、そしてその列で作られた道を前にしたヴァスケス。
それを確認し、シェラドの肩に手を乗せてダグロンは叫んだ。
「――始め!」
その声と共に、ヴァスケスはケンタウロスの間にできた道を、ゆっくり歩き始める。
駆け抜けることは認められていない。また、当然ながら裁判にかけられる者が反撃することも認められていない。
一歩、また一歩と歩を進めるヴァスケス。
ケンタウロスは、弓を構えずに佇んでいた。と、思いきや――
――ズドッ
「ぐッ」
どこかから矢が飛んできて、ヴァスケスの左肩口に突き立つ。ケンタウロスの一体が、ついにヴァスケスへと矢を放ったのだ。
「ヴァスケス様ッ!」
悲痛なシェラドの叫び声が聞こえる。
が、皮肉にもそれが合図になったかのように、他のケンタウロス達も次々とヴァスケスへと射かけ始めた。
「がッ、ぐあ……!!」
脇腹に、腕に、脚に……次々と、ケンタウロスの矢がヴァスケスに突き刺さっていく。
頭部と首は、腕を回してガードしている。が、それでも次々と容赦なく放たれる矢の数々に、ヴァスケスは徐々にハリネズミのようになっていく。
「ヴァスケス様!」
「シェラド、貴方は審判です。手出しは無用ですよ」
「ぐ……!」
思わず飛び出そうとしたシェラドを、ダグロンが不敵な笑みを浮かべて止める。
歯噛みしたシェラドは、祈るような気持ちでヴァスケスへと視線を戻した。
「あ、グ……」
矢を突き立てられ続けながらも、ようやく道の半分まで来た。
全身から血を流し、胃にも矢が突き刺さったか口の端からも血を滴らせ始めるヴァスケス。
そんな中……
「ぐあッ……ぐ、ふッ」
太ももを、矢が貫通。
立っていられなくなったヴァスケスは、前のめりに倒れ込んでしまった。
「ヴァスケス様ッ!!」
シェラドが喉から絞り出すように叫ぶ。
地に倒れ伏したまま、ヴァスケスは次々と矢を射かけられ続けていた。そんな彼の様子を、ほくそ笑みながら見つめているダグロン。
「ぎ……ッ」
しかしヴァスケスは、腕とまだ動く膝下を使って、懸命に道を這って進んでいく。
道を通り抜ける際、立っていなければならないという規定はない。走ってさえいなければ、這いつくばって移動しても認められる。
が、この状況ではそれも拷問のようなものだ。
ヴァスケスが投了することは認められない。ケンタウロスの矢を一方的に受け続ける地獄から抜ける方法は、ゴールまでたどり着くか、死ぬかの二択だ。
「……! ……!!」
もはや息すらろくにできず、這いつくばって懸命に進み続けるヴァスケス。
そして、そんな彼を容赦なく狙って矢を射かけ続けるケンタウロス達。
それでも、少しずつヴァスケスは進んでいき、ようやく道の終わりが近づいてきた。
あと、人間の身長半分ほどの距離。
そこに手をつくことができれば、この拷問から解放される。
「ヴァスケス、様……ッ」
残虐非道なその光景に、シェラドは目を背けてしまいそうになる。
だが、見届けねばならない。尊敬した上司を、最期まで目を逸らさず見守らねばならない。
「が、はっ……」
這う速度すら遅くなる。
腕を前に伸ばす距離がだんだん短くなり、動きも鈍重になっていく。
あと、半歩。
その半歩が、果てしなく遠い。
それでもヴァスケスは、矢が何本も貫通している腕を、必死に持ち上げ……
伸ばした右手が、ようやく線の上に辿り着く。
「――止め! そこまでだッ!!」
それを確認したシェラドが、すぐさま声を張り上げる。
召喚師達が『戻れ』指示を出し、ケンタウロスは弓を下ろして退いていった。
「ヴァスケス様ッ!」
すぐさま駆け寄るシェラド。
地に這いつくばったままのヴァスケスのものに跪き、彼の状態を確認しようとする。
「ヴァスケス……様……」
しかし、先ほどまで確かに動いていた手足は、もうぴくりとも動かず。
微かに呼吸で上下していたはずの背も、冷たく静かに横たわっている。
「……残念です、ヴァスケス殿」
ダグロンが口調だけは残念そうに、しかし口元は喜びに歪めてそう言い放った。
「ぐ……」
跪いたまま俯き、唇を血が出るほど噛みしめるシェラド。
そんなシェラドとヴァスケスの前から、召喚師達はぞろぞろと立ち去り始める。
最後に残ったのは、ダグロン。
「さようなら、ヴァスケス殿。……貴方は、我々の指導者には相応しくなかった」
そう言い捨てたダグロンは『核』を拾い上げ、くつくつと嗤いながら召喚師達と同じ方向へ歩き去っていった。
「……ヴァスケス様」
その場に取り残されたシェラドは、ヴァスケスの体のもとで絶望に打ちひしがれる。
――ピクリ
「っ!?」
突然、ヴァスケスの手が微かに動く。
慌てて顔を上げたシェラドの前で、矢が何本も突き立ったヴァスケスが、徐々にその身を起こし始めた。
「ぐ、う……」
「ヴァスケス様!!」
慌てて、彼を助け起こそうとする。
何本も突き立っている矢が妨げにならないように、彼の前面に手を差し伸べ、慎重にヴァスケスの体重を支えた。
「シェ、ラド……」
「ヴァスケス様、よくぞ生きておいでで……!」
ゆっくりと頭を上げ、こちらを見上げたヴァスケスに、シェラドは安堵の息を漏らす。
だが、危険な状態には変わりない。早急に手当てが必要だ。
「少々お待ちください、今、人を呼んで――」
「辞めろ……!」
すぐに召喚師達を呼ぼうとしたシェラドを、ヴァスケスが腕を掴んで止める。
「私が、生きていたと、なれば……ッ、また、殺される、だけだ……!」
「……それは」
「ダグロンの奴は、もちろん……他の、者達も、もう……」
それに関しては、シェラドも同意するしかない。
彼らは、今までヴァスケスがトルーマンの右腕として同盟を支えてきた恩を、完全に忘れている。トルーマンが一番信頼していた彼に、いともたやすく殺気をぶつけたのだ。ヴァスケスが下っ端になったとて、誰も彼のことを一員と認めはしないだろう。
おそらくダグロンも、最初からヴァスケスを殺すことが目的でガントレットを提案したのだ。ヴァスケスが生き延びていたと知れば、素直に生かしておくはずがない。
「私は、ここから、去る。同盟は、もう、駄目だ……」
ヴァスケスはゆっくりとシェラドの手を払い、矢を全身に突き立てたまま森の奥へと一歩一歩進み始める。
「お待ちください! では、私も連れて行っていただきたい!」
「シェラ、ド……?」
「私も、今の召喚師解放同盟に見切りをつけました」
不思議そうにこちらを見つめてくるヴァスケスの体を、もう一度支える。
「トルーマン様が生きていたころの同盟は、召喚師のための未来を築くという確たる信念がありました。皆がその方針と誇りに賛同し、一丸となってまとまっておりました」
「……」
「今のあの同盟には、あの頃の信念はありません。他『クラス』を殺すこと、嗜好品を略奪することだけが目的になっている。あのような堕落した者達に、召喚師の未来を背負うことなどできましょうか」
シェラドの本心だった。
彼も、なんとなく気づいていたのだ。召喚獣で直接町を叩くようになってから、ヴァスケス以外の者達の目に宿る狂気に。泣き叫ぶ町民たちの姿を、愉悦の表情で見つめている同胞達の、誇りの欠片も無い姿に。
「かつての召喚師解放同盟の姿は、もうヴァスケス様のもとにしかありません」
「……そう、か」
「お供させてください、ヴァスケス様。最期まで私は、貴方と共にあります」
「……感謝する」
安心するように呟いたヴァスケスを、改めてシェラドがしっかりと支える。
「まずは、もう少し奥へ。その傷を手当せねばなりません。動けますか」
「……ああ」
この先に行けば、シェラドが目を付けていた薬草の群生地がある。
あの辺りは岩に囲まれており、地形を使って野良モンスターから身を守るにもちょうどいい場所だ。
こうして人知れず、ヴァスケスとシェラドは闇夜に消えた。




