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158話 河川調査 1

 すぐに、集落の中へと戻ったテオ。


「川を使った召喚獣による運搬業、だと?」


 ディロンが怪訝な顔でテオに問い返す。

 テオは、自身の発案である『召喚師の適職』を早速、ディロンとテナイアに相談してみたのだ。


「はい。この領に走ってる川は浅いですから、船は使えません。でも、泳げる召喚獣なら関係ないんです」


 テオが、自ら実験した結果を踏まえて説明した。


 水を泳ぐことができるモンスター、その代表例はリクガメのような『ゲンブ』と、巨大なカニである『ナイト・クラブ』の二種。よく出現するモンスターなので、召喚師ならばまず間違いなくこの二種を持っている。


 これらのモンスターは、水上で『跳躍爆風(バーストホッパー)』の魔法をかけた際、水面に沿って高速で滑るような挙動に変化する。

 コリィの故郷があった海沿いの開拓村では、これを利用して『モンスターに乗って高速移動』する方法をマナヤが提案していた。モンスターの上に大重量を乗せても、舟ほど沈み込むことがなかった。そのため、浅瀬でもモンスターに乗り、跳躍爆風(バーストホッパー)を連続でかければ一気に高速移動ができる。


「水上のモンスターは、水流に影響されません。ですから、流れに逆らって上流へ向かっていくこともできるんですよ」


 馬車を守る際に、発見したことだ。

 あの時、水中専用のボムロータスを流水に召喚したが、まったく流れに乗らなかった。


 この状態で跳躍爆風(バーストホッパー)を上流に向かって使えば、モンスターは高速で川を上っていくことができる。海上の時と同じように、跳躍爆風(バーストホッパー)を連打することで、川が続いている限りは馬車も上回るスピードでどこへでも移動できた。


「しかし、モンスターと遭遇した場合は? 結局そちらに足止めされてしまうのでは?」


 そこへ、テナイアが問いかけてくる。テオ自身が先ほど問題提起していたことだ。

 しかし、そこでテオは首を振る。


「普通なら、そうです。でも、水場で跳躍爆風(バーストホッパー)を使えば、きっと振り切れると思うんです」


 野良モンスターの射程圏内に入ったら、『待て』命令状態の召喚獣も野良モンスターの方向へと突っ込んでいってしまう。


 が、跳躍爆風(バーストホッパー)で水面を滑っている間は、川からはみ出ることがない。そのモンスター自身が移動しようとしている方向とは関わりなく、川に沿って強制的に高速移動ができる。

 それを利用すれば、野良モンスターに遭遇しても、強引に前進させて射程圏外へ押し流してしまえるのではないか。


「たしか、この先の山。ここが源泉となってる川の支流が、この国の各地に散っていっているんですよね」


 テオは、大まかな地図を広げる。この領地に来た時に配られたものだ。

 川の流れも記載されており、この流れが枝分かれしブライアーウッド王国の全土へと続いている。


「つまり、モンスターで川を運河のように使って、流通業を栄えさせることができれば……」

「川の源流が集約されているこの領こそ、その流通の中心地となる、ということか」


 テオの説明を、もう察しの付いたディロンが引き継いだ。それにテオは自信をもって頷く。


「もちろん、実際にモンスターに荷物を運ばせることができるか。川が安全な経路になっているか。そういうところも調べる必要がありますけど」


 川が全体的に比較的平坦ならば、問題はない。

 が、もし途中に滝などがあったりした場合はそこで止まってしまう。さすがに跳躍爆風(バーストホッパー)では滝を逆登ることはできない。経路の確認が急務だ。


「……しかし、根本的な問題があります」


 そこへ、浮かない顔のテナイアがおずおずと切り出す。テオがそちらへと顔を向けた。


「何ですか?」

「モンスターに荷物を運ばせたい、という者達が、果たして町に居るでしょうか?」

「う……」


 思わず言葉に詰まる。

 人殺しのモンスターを操る召喚師、だからこそ嫌われている。そのような先入観を持っている他『クラス』が、果たしてモンスターに荷物を載せることを良しとするか。そして、そんな荷物を受け取りたいと考えるのか。


「やっぱり、ダメ、でしょうか……?」


 急に自信が無くなり、しゅんとしてしまうテオ。

 が、ディロンはしばし考え込んだ後、目を見開いて言った。


「いや、まずはランシック様にお伺いを立ててみよう。我々よりも、貴族家の専門分野だ」


 と、ディロンはテナイアに目くばせする。それに彼女もこくりと頷き、テオへと向き直った。


「テオさん。まずは川を伝ってどこまで行けるか、どの程度の速さで移動できそうか、検証してみてください。ランシック様やフィルティング男爵様を納得させられるだけの材料が必要です」

「あ、はい! すぐに取り掛かります!」


 にわかに元気づき、ぐっと拳を握って気合を入れるテオ。


 ――ん、あ? どうしたテオ、何か良い事でもあったのか?

(あ、マナヤ! 起きたんだ)


 そんな中、テオの中でマナヤが目を醒ます。


(聞いてマナヤ! 実はね――)



 ***



 ――なるほどな。浅い川でも、水陸両用モンスターに乗って行きゃあ荷運びができるってワケか。やるじゃねーかテオ。


 頭の中でマナヤが褒めてきて、照れ臭くなり頬を掻くテオ。


(えへへ……。あ、そういえば、あっちの世界にあった遊戯(ゲーム)だと、流水でモンスターは流れていったりしたの?)

 ――いや、『サモナーズ・コロセウム』にゃ、流水があるフィールド自体が無かったんだよ。だからそんな挙動は、俺も初耳だな。


 心の中で訊ねてみると、マナヤが少し悔しそうにそう伝えてくる。


「【跳躍爆風(バーストホッパー)】」


 テオが、自分が乗っている『ゲンブ』に跳躍爆風(バーストホッパー)をかける。途端、一気に川を伝うようにしてゲンブが上流へと登っていった。


 今、テオは山の中、ゲンブに乗って川を上っている。支流の一つを選び、さっそくどこまで上流へ移動できるか検証しているのだ。

 川は凍り付いていないが、周囲は雪景色の中。岸も一部は真っ白い雪が積もっており、木々が揺れる度に枝に積もった雪が零れ落ちていく。


「シャラ、どう?」

「今のところは、敵は出てきてないよ。大丈夫」


 テオの右肩に手を当てて掴まっているシャラに問うと、目を瞑ったまま安心させるように答えてきた。吐いている息が、白い。

 ゲンブに乗っているのは、テオ一人ではない。シャラとアシュリーも一緒だ。


「ねえ、テオ」

「な、何ですかアシュリーさん? 【跳躍爆風(バーストホッパー)】」


 同じく、左肩に掴まっているアシュリーが、ゲンブの甲羅の上にしゃがみこんでいる体勢のまま話しかけてきた。

 テオとシャラも、彼女と同じ体勢で乗っている。長時間の移動なら、この体勢が一番楽なのだ。冷たい風も吹きつけてくるので、この方が体温を保てる。


(……ごめんなさい、アシュリーさん)


 まだ、ズキズキと心が痛む。

 結局いまだに、彼女の父親について真実を打ち明けることができていない。


 そんなテオの内心をよそに、アシュリーはこてんと首を傾げながら問う。


「こんな移動するんだったらさ、いっそ跳躍爆風(バーストホッパー)を空中で連射して飛んでいったほうがいいんじゃない?」


 そう訊ねるアシュリーのサイドテールが、風を受けてふわりと揺れる。白い息も、風に流れて後方へと溶けていった。


 地上での跳躍爆風(バーストホッパー)は、モンスターを大ジャンプさせるというもの。滞空中に連射することで、再び高度を戻し飛距離を伸ばすこともできる。

 それで長距離を移動し、最後の着地だけ反重力床(アンチグラビトン)の補助魔法をクッションにするという空中移動法は、マナヤもよくやっていた。


「荷物を載せたままで、しかも領をまたがるくらいの距離をその方法で移動し続けるのは無茶ですよ。タイミングだって大変ですし、飛行モンスターが襲ってきたら大変です」


 苦笑いしながらそう答える。


 跳躍爆風(バーストホッパー)を連射して空中の高度を維持し続けるとなると、激しく上下移動されながらシビアなタイミングで連射しなければならない。荷物の重さによって、タイミングもズレる。

 またこの方法だと、野良の飛行モンスターが飛び込んできた時、急すぎて対応しきれない。シビアな跳躍爆風(バーストホッパー)連射をしながら野良の飛行モンスター対策にも気を配るなど、とても人間業ではない。


「――! テオ、十時方向!」

「いた!? 今度はなに?」


 と、シャラから飛んでくる警告。野良モンスターを発見したのだろう。

 彼女には、周囲の敵の気配を察知できる錬金装飾(れんきんそうしょく)森林(しんりん)守手(もりて)』を装着してもらっている。


 ――ん、ありゃまた『隠機HIDEL-2(ハイデルツー)』じゃねーか。ストラングラーヴァインといい、この二種はマジでよく見るな。


 その方向を見た時、マナヤが心の中から呟いてきた。

 椅子程度の大きさの、やや不自然な岩の塊が森の中に佇んでいたからだ。雪に地面や木々が覆われている白一面の中、不自然なくらい雪を被っていない灰色の岩の塊。


 隠機HIDEL-2(ハイデルツー)。パッと見はただの岩の塊のようだが、れっきとした機甲系の中級モンスターである。

 近づくと、突然岩の胴体の中に隠していた巨大なブレードを展開し、切り裂いてくるのだ。そのブレードは威力はもちろん、毒も付着しているためかなりの脅威となる。


「また、アイツなの? もう何体目よ」

「六体目、ですかね。ストラングラーヴァインもここまでで七体見ましたし、本当に多いなぁ」


 愚痴のように呻くアシュリーに、テオが律義に答える。

 いったん跳躍爆風(バーストホッパー)()め、ゲンブを岸へと寄せた。


「そういえば、集落の人達が言ってましたね。隠機HIDEL-2(ハイデルツー)とストラングラーヴァインは、近寄りさえしなければ実害は無いから放っておいてあるって」


 ゲンブの上から岸へと降りながら、シャラも苦笑い。


 隠機HIDEL-2(ハイデルツー)とストラングラーヴァイン、この二種は岩や樹木に擬態しているモンスターである。隣接しなければ攻撃してこないし、そもそも移動もできない。なので、近寄りさえしなければ安全なのだ。

 おまけに、この二種は中級モンスターでありながら、上級モンスターにも迫るくらいのパワーがある。普通の召喚師なら、まともに相手をしたくないのも理解はできる。


「まあでも、僕達は放っておくわけにもいかないもんね。【粘獣ウーズキューブ】召喚、【撃機VANE-7(ヴェインセヴン)】召喚」


 同じく岸に降りたテオは、安全な距離からまず緑色のゼリーのようなものでできた直方体型のモンスターを。そして次に、尖った短い杭の上端に回転翼がついたような、飛んでいる赤い機械モンスターを召喚する。


「粘獣ウーズキューブ、【行け】」


 テオが命令すると、一抱えほどの大きさがある直方体のゼリーが、コロコロと転がるようにゆっくり移動していく。向かう先は、野良の隠機HIDEL-2(ハイデルツー)だ。


(視点変更)


 次に目を瞑り、視点を撃機VANE-7(ヴェインセヴン)へと移す。その待機先を隠機HIDEL-2(ハイデルツー)の真上へと指定した。回転翼を鳴らしながら、粘獣ウーズキューブとさほど変わらぬ程度の速度で移動を始める。


 まずは、粘獣ウーズキューブが接敵。

 その瞬間、岩のような姿の隠機HIDEL-2(ハイデルツー)がパカッと開き、中から巨大な金属製のブレードが現れた。

 それが勢いよく、粘獣ウーズキューブへと叩きつけられる。


 真っ二つに両断された緑色のゼリー。

 しかしそれは、すぐにピタッと接着して元の状態に戻った。

 粘獣ウーズキューブは何事もなかったかのように、じゅるじゅると強酸を隠機HIDEL-2(ハイデルツー)へと浴びせる。


 粘獣ウーズキューブは、このゼリー状の肉体で物理攻撃ではほぼダメージを受けない。

 また、構造的に生物とは違うので、あのブレードに塗られている毒も通用しない。隠機HIDEL-2(ハイデルツー)の攻撃を受け止めるには最適だ。


 次の瞬間、その真上で回転翼を回しながら待機していた撃機VANE-7(ヴェインセヴン)が落下。

 その金属製の杭のような胴体が隠機HIDEL-2(ハイデルツー)に突き刺さり、バキッと音がしてその岩の体を砕く。


 粘獣ウーズキューブが食い止めている間に、撃機VANE-7(ヴェインセヴン)で破壊。攻撃力、耐久力ともに厄介な隠機HIDEL-2(ハイデルツー)を、もっとも安全に倒せる攻略法だ。


 撃機VANE-7(ヴェインセヴン)による数回の攻撃で、あえなく隠機HIDEL-2(ハイデルツー)は瘴気紋に還る。


「【封印(コンファインメント)】。シャラ、他には?」


 その瘴気紋をすかさず封印。そして念のためシャラに他のモンスターがいないか確認する。


「ううん、この一体だけみたい――えっ!」


 目を閉じて集中していたシャラは、突然目を見開いて森の奥を見据える。


「いたの!?」


 その様子から察しがついたか、アシュリーが剣の柄に手をかけた。


「は、はい。……この気配は、たぶん『レン・スパイダー』です。もう、こっちに気づかれてるみたい」


 もう一度、少しの間だけ目を瞑って確認したシャラは、気配の主を特定した。


「……丁度いいね。いったんそれで試してみよう。二人とも、ゲンブに乗って!」



22時過ぎ頃にもう一話投稿します。

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