表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第三章 流血の純潔と女剣士の願い
132/258

Epilogue ~新しい朝~ SHARA

「お二人とも、できましたよ」


 ちょうど、料理の仕上げが終わった。さっそく、マナヤさんとアシュリーさんを呼ぶ。

 二人とも、気に入ってくれるかな。少しドキドキしてるけど、味見した限りでは出来も良い。きっと、大丈夫。


「お、おう、今行く」


 ……あ。

 マナヤさんとアシュリーさん、手を繋いできてる。


「ふふっ」


 微笑ましくて初々しくて、思わず笑い声が漏れちゃった。

 それが聞こえたのか、マナヤさんはパッと手を離して視線を背けちゃう。……アシュリーさん、ちょっと不満そう。


 あれ、アシュリーさんの、サイドテール……結び目に、素敵な髪飾りがついてる。

 無意識にか、それを指先で弄ってるアシュリーさん。


 きっと、マナヤさんからの贈り物だ。


「……お、おいシャラ、これ……」


 けど、マナヤさんがテーブルの上をみて、固まった。


「わぁ、良い香り……あ、ステーキ? へー、まんまるで可愛いじゃない!」


 アシュリーさんは、見た目が気に入ったみたい。子供みたいな目で、顔を輝かせてる。

 アシュリーさんは時々、こういう表情をする。きっと、だからマナヤさんも惹かれたんだろうな。


 ……私が作ったのは、『はんばーぐ』。味付けした端肉を、さらに小さく刻み、それを楕円形に丸めて焼いたもの。

 以前、マナヤさんの世界にあった料理を訊いてみたとき。マナヤさんの好物だって概要を教えられて、お義母さんと一緒に挑戦し、再現してみた料理だ。


 マナヤさん、ちょっと狼狽えた様子でアシュリーさんの方を見てる。

 当然だとは思う。細かく刻んだ端肉というのは、そのまま焼くにはあんまり向かない。焼いた時に独特のクセを感じるから。マナヤさんは大丈夫らしいんだけど、私も義両親も、テオですらも正直あまり好みじゃなかった。


「シャラ! お、お前、何もアシュリーがいる時に!」

「大丈夫ですよ、マナヤさん。アシュリーさん、どうぞ」

「ええ、いただくわね! わぁ、ピナのいい香りもするじゃない!」

「お、おい!」


 そんなに慌てなくてもいいんです、マナヤさん。今度はきっと、大丈夫。

 アシュリーさんは嬉々とした様子で、その肉にナイフを入れる。その感触に驚くように、目を見開いた。


「わ、柔らかい! 中身もきれいな赤ね」

「……赤?」


 切った肉の断面を見てのアシュリーさんの言葉に、マナヤさんが眉を顰めてる。当のアシュリーさんは、待ちきれないといった様子で『はんばーぐ』の一切れを口に入れた。


「ん、美味しい! んぐ……細かい肉を丸めてあるのね。口の中でほぐれるのに、ちゃんと弾力もあって噛み応えもいい!」

「……は?」

「なに呆けた顔してんの、マナヤ。あんたも食べてみなさいよ!」


 ふふっ、大成功みたい。ちょっと不安だったんだけど、やっぱりアシュリーさんには合う味だったんだ。


 ……あとは、マナヤさんだ。

 彼は、アシュリーさんの反応が意外だったみたい。私の方をちらちら見ながらも、ようやく『はんばーぐ』にナイフを入れる。


「……レアハンバーグ?」


 十分に赤みが残る断面の色合いをみて、なにかポツリと呟いていた。そして、恐る恐るといった様子で、切り分けた一切れを口に入れる。

 ばくばくと、私の心臓がうるさく鳴り響いてた。


「……美味い」


 しばし咀嚼した後、そう小さく呟いてた。マナヤさんが本当に気に入ったものを食べた時の、いつもの反応だ。


 ……よかった。

 安堵で、ため息が出ちゃった。


 アシュリーさんも、上品に食べてはいるけれど、はんばーぐが無くなるペースが速い。

 うん、私もようやく人心地ついたし、さっそく食べよう。そっとナイフとフォークを手に取り、切った端からトロリと溶けた牛の酪(チーズ)が垂れる一切れを、口に運ぶ。


「うん、やっぱりこれなら美味しい」


 焼けた端肉の臭みを、まったく感じない。代わりに薫ってくるのは、炒めたピナの風味と焼いた肉の豊かな香り、そして肉の間に入り込んでいる溶けた牛の酪(チーズ)の芳しさ。

 細かく刻まれた肉だけど、噛みしめればギュッと詰まったような、心地よい弾力が歯に返ってくる。それを咀嚼する度、中から瑞々しい肉汁が溢れ、飲み物が無くても食べ続けていられそう。


 ……我ながら、これは本当に良い出来だ。


「シャラ、お前コレどうやって?」


 いつの間にか、私が食べる様子をマナヤさんにもじっと見られていたらしい。

 ちょっと恥ずかしい……けど、きっと私が以前のように怖々じゃなく、ちゃんと食べ進められてるのを見て、不思議に思ったんだろう。以前『はんばーぐ』を一緒に食べた時、私は匂いが気になってたからだ。あの時は臭みを我慢しつつ、凄く小さく切った一切れを少しずつ食べていくことしか、できなかった。


 と、そこへ閃いたようにアシュリーさんが指を鳴らした。


「あっ、わかった! これ、『闇煮』にしたんでしょ!」

「はい、正解ですアシュリーさん」


 そう、これはただ焼いたんじゃない。丸めた端肉の『闇煮』だ。

 もっと言うと、闇煮にした端肉に牛の酪(チーズ)と炒めたピナの葉を混ぜて丸め、表面だけ火で焼き色をつけたもの。


「闇煮にすると、魚料理も臭みが消えますから。だから、普通に焼いたら匂いが際立つ細かい端肉なんかも、臭みが消えるんじゃないかと思ったんです」


 以前、マナヤさんが王都の食事処で『クコ魚の闇煮』を、喜んで食べてた時。アシュリーさんが闇煮の説明をしている所を聞いて、閃いた。

 だから、ちょっと高くつきはしたけど、闇煮の魔導具を購入して試してみたんだ。


 もちろん、試行錯誤はした。学園の錬金術師候補生達に、召喚師との連携を教えている期間に。宿で隙間時間を見つけては、色々試していた。

 最初から肉と具材を混ぜたものを闇煮にしたら、牛の酪(チーズ)の部分に強い苦みが生じてしまった。闇煮は、どうにも牛の酪(チーズ)と相性が悪いみたい。

 だから、先に端肉だけを闇煮にして、まず肉単体の臭みを消し弾力を付けた。その後、炒めて風味を出したピナの香辛料と、細かくした牛の酪(チーズ)を混ぜ込む。それを丸めて形を整え、軽く表面だけ焼いた。


 そうしたら、端肉の臭みが消えただけじゃない。細かくなった肉で口当たりが柔らかいのに、しっかり弾力も感じる。軽く表面を焼く過程で、適度に牛の酪(チーズ)もとろけている。闇煮特有の『瑞々しさを保つ』という効果のおかげで、豊かな肉汁もたっぷり残るようにもなった。


「どうでしょうか? マナヤさん」

「いや、これはマジで美味いよ。専門店で出てくる、高級な牛タンハンバーグって感じだ。文句なく美味い」


 少し興奮した様子で、ガツガツと『はんばーぐ』を頬張っている。前まで作ってた『はんばーぐ』の時よりも、嬉しそう。

 自分の顔も、ほころんでしまうのがわかった。


「……こういうことなんですよ、マナヤさん」


 いったんナイフとフォークを置いて、じっとマナヤさんを見据えた。彼は口の中の肉を呑み下しながら、不思議そうにこちらを見返してくる。


「こういうこと……?」

「私達と、マナヤさん。両方が美味しく食べられる料理を、作ればよかっただけだったんです」


 同居する家族で、まったく同じ献立を食すること。セメイト村の伝統だ。

 だから私は、マナヤさんと同じものを食べたかった。テオの弟である、私にとっても家族の一員であるマナヤさんと。


「どっちかが、我慢をするんじゃダメなんです。両方ともが、納得しなきゃだめなんですよ」


 マナヤさんが我慢して、私達の食べれるものだけを食べるのでは、ダメ。

 私達が我慢して、マナヤさんの好きなものだけ食べるのも、ダメ。


 だから、どちらも我慢せず美味しく食べられる、この料理が必要だった。


「マナヤさんも、テオや、私達のために我慢しないでください。みんなが、一緒に幸せになれる方法を、考えたいんです」


 マナヤさんが消えることもなく、テオが消えることもなく。アシュリーさんも含めて、みんなで一緒に幸せになれる方法を。


「……シャラ」


 湿っぽい声になってしまったマナヤさんが、急に顔を背けた。

 それを見たアシュリーさんが、クスッと小さく笑って目を瞑る。


「シャ、シャラ。ちょっとテオに替わるぞ。あいつにも、この料理を食わせてやりてぇからな」

「はい」


 もちろん、頷く。


 わかってる。きっとこれは、マナヤさんの()()だ。

 私は、あえてマナヤさんの顔が見えないように、目を閉じた。


「……あはは、ごめんね二人とも。うわぁ、美味しそうな匂い」


 聞き慣れたトーンの声に、目を開ける。柔らかい表情の、『テオ』が苦笑しながら料理を見下ろしていた。


「いただくね、シャラ」

「うん、どうぞ」


 ちょっぴりドキドキしながら、テオにも『はんばーぐ』を勧める。


「……うん! 凄く美味しいよ、シャラ!」

「えへへ。よかった」


 テオの、心からの満面の笑み。私の心も暖かくなって、弾むような気持ちでまたナイフとフォークを取る。


「ホント、王都の食事処に出てきてもおかしくない出来よ、コレ。あーあ、テオとマナヤが羨ましいわ」

「あ、アシュリーさん!?」


 そ、そんな急に持ち上げられても!


「だってさ、一緒に住んでるテオとマナヤは、この料理を定期的に食べれるってコトでしょ? 羨ましくもなるわよ」


 あ……。


 笑いながらそう言ってくるアシュリーさんに、思わずテオに目くばせする。

 テオもこっちを見てきてて、微笑みながら小さく頷いてくれた。……考えることは、一緒だったんだね。


「アシュリーさん」

「ん? どしたの、シャラ」


 改めてアシュリーさんに向き直る。


「もし、良かったら。セメイト村に帰ったら、私達と一緒に住みませんか?」

「へ?」


 目をまんまるにして驚くアシュリーさんが、ちょっとかわいい。


「アシュリーさんがテオの……私達の家に、一緒に住めばいいんです。そうしたら、アシュリーさんにもご馳走できますよ」

「うん、それがいいよ。アシュリーさんが一緒にいれば、マナヤだっていつでも出て来れるからね。今なら、僕がマナヤを呼び出すことだってできるし」


 テオも、うまく合わせてくれる。

 アシュリーさんが目を白黒させながら、私とテオを交互に見比べてきた。


「ちょ、ちょっと待ってよ。でも、あたしは、マナヤと結婚してるわけじゃ、ないし……」


 ……私とテオの生活の、邪魔になると思ってるのかな?

 フォローするように、私は口を開く。


「……それに」


 ……当時の気分を思い出して、少し声が暗くなっちゃったかもしれない。


「それに、私達の、あの家。テオと二人だけで暮らすには……少し広すぎて、静かすぎるんです」

「あ……」


 そんな顔しないで、アシュリーさん。


「だから、アシュリーさんが一緒にいてくれれば、楽しく過ごせると思うんです」


 今は、まだいい。

 段々慣れてきたけれど、新しい環境で新しい仕事。目まぐるしく動いていて、あまり悲しみに沈む時間がない。義両親のことを思い出して、深く涙してしまうこともあまりない。


 けど。

 あの家に戻ったら。義両親との賑やかな時間を過ごした、あの家に帰った時には。

 朝起きたら、あの二人がよく座っていたダイニングのテーブルに、誰も居ないところを、また目の当りにしたら。


 また、哀しくて、寂しい気持ちが甦ってしまうかもしれないから。


「……ふーん?」


 あ、あれ?

 アシュリーさん、なんでそんな、悪そうな笑顔に?


「なるほど? あんた達は、あたしを『賑やかし』に使おうってワケね?」


 えっ!?


「ごっ、ごめんなさい! そんなつもりは――」

「あはは、わかってる。冗談よ」


 一転して、とても柔らかい笑顔に変わったアシュリーさん。


「そうね。わかったわ。そういうことなら、お邪魔させてもらおうかしら。別に今の家に、特に思い入れがあるわけでもないしね」

「……アシュリーさん」


 ……よかった。


「じゃあ、そうね。今のうちに、シャラのこと『義姉さん』って呼ぶようにした方が、いい?」

「え、えっ!? い、いえ、そんな!」


 わ、私が義姉さんなんて、似合わないよ!


「へ、あ、わっ――」


 その時。

 突然テオが目を白黒させたかと思ったら、目尻が鋭く変わった。


「――冗談言うな! シャラが義姉ってコトは、俺はテオの弟だなんて言うつもりかよ!?」

「あら、違うの? だってその体、先に居たのはテオの方なんでしょ?」


 突然交替したマナヤさんが、叫びながら立ち上がる。それを、アシュリーさんがからかうように笑ってた。


「馬鹿言え! 俺の兄貴はあくまでも『史也(ふみや)兄ちゃん』一人だ! 兄貴分はテオじゃねえ、俺の方だぞ!」

「そんなこと言ったって、あんたは『後発』なんだから仕方ないでしょ?」

「あいにくだがな! 俺の世界じゃ双子が生まれた時、後から生まれた方が兄扱いなんだよ!」

「ざんねーん、こっちの世界じゃ先に生まれた方が兄扱いなの。この世界のルールには従っておきなさい」


 ……いつだったかみたいに、軽口を叩き合ってる二人。

 さっきまでの、甘い雰囲気は忘れちゃったのかな。


「……あはは」


 でも、思わず笑いが零れてた。

 きっとこれが、この二人にお似合いの関係なんだ。



 これこそが、この二人の一番大切な日常なんだ。



 ***



 ふわふわとした、感覚の中。

 私の隣に、テオ。向かいには、見覚えのある四人の姿が見えた。


 私のお父さんと、お母さん。

 そして、スコットさんとサマーさん……お義父さんとお義母さんもいる。みんなで一緒に、同じテーブルで笑い合ってる。



 そうか。

 これは、夢だ。それが、すぐにわかった。


 ……時々見る、みんなが一緒にいる夢。

 この夢をみた時は、目覚めた時に決まって、泣いてしまう。

 みんなが居なくなってしまった、こっちが現実なんだと思い知って、涙が零れてしまう。



 でも。

 今回の夢は、少し違った。


 私の逆隣には、アシュリーさんがいる。

 そのアシュリーさんの向こうには……マナヤさんも、いる。


 私達の側は、四人が並んで笑い合っている。

 対面の四人も、それを見て笑っている。


 ……私も、目いっぱいの笑顔を見せた。

 目の前の四人に、見せるように。



 ……お父さん、お母さん。

 それに、お義父さんとお義母さん。


 私達は、生きていきます。

 笑い合いながら、幸せに。

 ……()()()、一緒に。


 だから……

 どうか、私達を見守っていてください。

 いつもの、あの空の上から、いつまでも。



 白い光が、その場に満ちていく。


 光の中に、みんなの姿が溶けていく中――



 目の前の四人が、満足そうに頷いた気がした。



 ***



 覚醒する、意識。

 すぐ近くに見える、大好きな人の顔。


「……おはよう、シャラ」


 憂いのない、心からの笑みを見せてくる、テオの顔。

 いつも、私の心を、暖かいもので埋めてくれる、私の一番大事な人。



「おはよう、テオ」



 晴れ晴れとした気持ちで、新しい朝を迎えた。



第三章はここまでです。


次話は四章の下書きを書き終わるまでしばらくお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 三章終了おめでとうございます。 [一言] 双子って後から生まれた方が兄だったの知らなかった…。いやでもマナヤってまだ3とか4才くらい?だから、結局弟なんじゃ…。
2023/01/16 22:55 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ