表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第三章 流血の純潔と女剣士の願い
127/258

127話 三方の分断戦 遊戯

「【行け】、レイス!」


 トルーマンが先陣を切る。後方に控えさせていたレイスが、マナヤ目掛けて躍り出た。


「【ヴァルキリー】召喚! 【時流加速(クロノス・ドライヴ)】!」


 カッと目を見開いたマナヤは、即座にヴァルキリーを召喚。間髪入れず、その動きを加速させるべく『時流加速(クロノス・ドライヴ)』をかけた。


「【行け】! 【十三告死フィアフル・サーティーン】!」


 そのヴァルキリーを突撃させ、さらに追加で補助魔法『十三告死フィアフル・サーティーン』をかける。ヴァルキリーの額に、十三角の星型の痣が浮かび上がった。


「効くものか!」


 それをトルーマンが哄笑する。

 十三秒後にマナをゼロにする十三告死フィアフル・サーティーンは、生物にしか感染しない。ゆえに、霊体であるレイスには感染しない。

 トルーマンはそれを知っている。だからこそ、マナヤのミスだと考えているようだ。


「――い、いけません! 囮を!」


 そこにハッとして警告を飛ばしたのは、ヴァスケス。

 トルーマンがそれを聞いて訝しげな表情になった直後、ヴァルキリーは凄まじい移動速度でレイスに向かって突き進み……そして、()()()()()()()()()

 レイスが黒いモヤを放つが、間に合わない。既にヴァルキリーはその範囲外。長槍を構えたその戦乙女が向かっている先は、トルーマン。


「な――がぁッ!?」


 驚愕に目を見開いたその瞬間には、ヴァルキリーの槍がトルーマンの腹を突き刺していた。頑丈な召喚師だけあって、貫通まではしていない。

 トルーマンの左首筋に、十三角の星型の痣が出現した。十三告死フィアフル・サーティーンの病魔に感染したのだ。


 攻撃の効かない敵を無視する『判断速度』。その判断速度が最高レベルであるヴァルキリーは、全くダメージを通せない『レイス』をハナから相手にしない。『時流加速(クロノス・ドライヴ)』で加速させてやれば、レイスのモヤのような愚鈍な攻撃をすり抜け、敵召喚師を狙い打つことができる。



『要するに、適材適所だよ。判断が早いモンスターで、ダメージが通る敵をピンポイントに攻撃するか。あるいは判断は遅いがスペックの高いモンスターを補助魔法で援護して敵をすり潰すか。そういうのを瞬時に判断するのも、召喚師に必要な要素だぜ』



 開拓村での初戦の日、召喚師候補生達に解説した言葉。


(プレイヤーを直接狙う『召喚師狙い』……多勢に無勢のこういう時こそ、判断速度の速いモンスターの出番だ!)


 マナヤは、自分の頭の中で『スイッチ』を()()()()()()に切り替えたのだ。モンスターではなく、召喚師を殺すつもりで狙うことも、もう厭わない。

 この連中は、人間ではない。倒すべきプレイヤーだと、そう自分に言い聞かせて。かつて『サモナーズ・コロセウム』で、何人ものプレイヤー達を召喚師狙いで不意打ちしてきた経験を生かして。


「くっ、【粘獣ウーズキューブ】召喚、【強制誘引(コンペルド・ベイト)】、【行け】!」


 ヴァスケスが、立方体に形どった緑色のゼリー状モンスターを召喚。物理攻撃によるダメージを大幅に軽減するモンスターだ。物理完全無効のレイスと違い、物理攻撃を『無効化』とまではいかないこのモンスターならば、ヴァルキリーもスルーはしない。


 ヴァスケスが出した粘獣ウーズキューブへと、ヴァルキリーが向き直った。

 時間だけ稼げば良い、ヴァスケスはそういう顔をしている。『十三告死フィアフル・サーティーン』がかかっている以上、ヴァルキリーはもうすぐ死ぬ。


 するとマナヤは、シャラから預かっていた錬金装飾(れんきんそうしょく)を一つ取り出し、自分の首にかけた。


 ――【伸長(しんちょう)眼鏡(がんきょう)


「【秩序獣与(ブレスド・ブースト)】、【血清(セラム)】!」


 補助魔法の射程が伸びたことで、遠隔からヴァルキリーに神聖属性の攻撃力を付加し、モンスターの状態異常を治癒する魔法『血清(セラム)』をも使用。ヴァルキリーの額に浮かんでいた、星型の痣がすうっと消えていく。


「な……十三告死フィアフル・サーティーンを解除などできたのか!?」


 それを見たヴァスケスが慄いた。『仮にも上位の補助魔法である十三告死フィアフル・サーティーンの病魔を、単なる血清(セラム)で解除できるわけがない』。そういう先入観に囚われていたようだ。ゲーム『サモナーズ・コロセウム』でも、初心者によく見られた見落としだ。


「【トリケラザード】召喚!」


 間髪入れず、マナヤは自分の真横にトリケラトプスに似た恐竜、中級モンスター『トリケラザード』を召喚。大の大人が数人は乗れそうな巨躯が、彼の横に出現する。


「おのれマナヤァッ! 【岩機――」

「トルーマン様、落ち着いて下さい! そろそろです!」


 激昂するトルーマンに、落ち着きを取り戻したヴァスケスがレイスを指さして諫める。

 もうすぐ、トルーマンのレイスにかかっている精神防御(グルーミング・ガード)が切れる。それを指摘しているのだ。


「ちっ、【精神(グルーミング)……ぐぅッ!?」


 が、その途端にトルーマンの全身が一瞬、黒い光に覆われる。ふらついたトルーマンは、手のひらをレイスに向けたまま歯ぎしりした。

 十三秒経過し、十三告死フィアフル・サーティーンの病魔が発動してしまったのだ。トルーマンはマナがゼロになり、精神防御(グルーミング・ガード)をかけることができなくなる。

 直後、レイスを覆う紫色の防御膜が掻き消えた。


「マナヤ貴様! まさか、このタイミングを!?」


 トルーマンがマナヤを睨みつける。

 モンスターにかかった十三告死フィアフル・サーティーンの病魔は、血清(セラム)で簡単に解除されてしまう。ゆえに十三告死フィアフル・サーティーンの本当の使い道は、解除手段に乏しい人間(敵召喚師)に感染させることだ。


「【サーヴァント・ラルヴァ】召喚、【跳躍爆風(バーストホッパー)】!」


 マナヤはそのチャンスを逃さない。

 ホラ貝を把持した無数の触手が生えた、醜悪なタコのようなモンスターを召喚。それを即座に跳躍爆風(バーストホッパー)で跳ばし、敵陣の只中へと放り込んだ。ヴァルキリーと粘獣ウーズキューブの間に割り込むように着地する。

 サーヴァント・ラルヴァがホラ貝を吹き鳴らす。


 ――バシュウ


 精神攻撃を伴う音波を受け、レイスはあっさりと消滅してしまった。


「【封印(コンファインメント)】」


 マナヤはすぐさま、魔紋へと変化した『レイス』を封印する。空中に浮かび上がった金色の魔紋が、マナヤの手のひらへと吸い込まれていった。

 トルーマンのレイスを、奪い取れた。サーヴァント・ラルヴァは、トルーマンとヴァルキリーのすぐ近くで笛を吹き鳴らす。


「ぐ……貴様! だが、悪手だぞ!」


 追撃の精神攻撃を受けて頭を手で押さえながらも、トルーマンは牙を剥くように嗤う。その視線の先にいるのは、マナヤのヴァルキリー。

 サーヴァント・ラルヴァは、周囲に笛の音を発し『混乱』効果がある精神攻撃を撒き散らすモンスターである。ヴァルキリーがいる只中に放り込めば、ヴァルキリーも『混乱』し同士討ちを始めてしまう。


「アシュリー俺を放り込め! 早く!」


 直後、マナヤは敵陣の只中を指さし、アシュリーにそう叫んだ。一瞬躊躇するが、マナヤの真剣な表情にすぐに頷き、彼の腕を掴むアシュリー。


「はあああっ!」


 そのままハンマー投げのごとく彼を振り回し、一気に指さされた方向へとマナヤの体ごと投げ込んだ。


 その時、案の定サーヴァント・ラルヴァの笛の音により、戦乙女は『混乱』していた。しかもよりにもよって、すぐ近くにいるマナヤのサーヴァント・ラルヴァへと長槍を突き出す。神聖な光を纏った槍で、サーヴァント・ラルヴァのぶよぶよとした体が半壊。

 間髪入れず第二撃を繰り出すヴァルキリー。


 ……が。


「この角度なら! 【跳躍爆風(バーストホッパー)】!」


 投げ込まれたマナヤは、ヴァルキリーの槍に狙われている『サーヴァント・ラルヴァ』へ向け、跳躍爆風(バーストホッパー)を放つ。バシュ、という破裂音を立ててサーヴァント・ラルヴァが一気に跳んでいった。

 それに伴い……ヴァルキリーも()()()()()()()()一緒に跳んでいく。


「ヴァ、ヴァルキリーが!? 跳躍爆風(バーストホッパー)は使えぬはず!」


 ヴァスケスが目を剥く。

 ヴァルキリーのような浮遊移動するモンスターは、跳躍爆風(バーストホッパー)の対象にはならないはずだからだ。


(ホッパーキャリーだ!)


 投げ込まれたことで地面をゴロゴロと転がりつつも、ほくそ笑むマナヤ。


 ヴァルキリーは攻撃モーション中、攻撃対象が跳躍爆風(バーストホッパー)で跳んでいった場合、しつこく追いかけて一緒に跳んでいく習性がある。ゲームで『ホッパーキャリー』と呼ばれていた現象だ。マナヤがこの世界に来たばかりの時、同じ手段で敵ヴァルキリーを引き離したことがあった。

 それを、ヴァルキリーを『混乱』させることで()()()ヴァルキリーに対して発動。混乱したヴァルキリーが自分の『サーヴァント・ラルヴァ』を狙った所を見計らい、そのモーション中にサーヴァント・ラルヴァを跳ばす。これにより、疑似的にヴァルキリーも一緒に跳ばすことができる。


 ヴァルキリーが跳んでいった先は……採石場の上。


「【精神防御(グルーミング・ガード)】」


 サーヴァント・ラルヴァともども採石場の上端に着地したヴァルキリーに、改めて精神耐性を付加する魔法をかける。


「ま、まさか最初から!?」


 ヴァルキリーが採石場の上に放り込まれた様を目で追っていたヴァスケスが、驚愕の表情でマナヤへ振り返る。

 採石場の上で、ヴァルキリーの槍がちょうどサーヴァント・ラルヴァにトドメを刺していた。そのままヴァルキリーは採石場の奥へと進み、岩壁に隠れて見えなくなる。


 今だ『混乱』しているヴァルキリーだが、攻撃の矛先は『最寄り』の敵へと向かう。すなわち、同じ採石場の上にいる、敵のシルフとノームへと。


「そういうこった! ナイト・クラブ程度ならともかく、加速したヴァルキリーに対処できるか!?」


 すぐさま体を起こしながら、マナヤはトルーマンらを煽る。

 先ほど採石場の上に跳ばされたナイト・クラブは、移動速度の遅さゆえにシルフやノームに接敵する前に倒された。が、時流加速(クロノス・ドライヴ)がかかったヴァルキリーともなると、そうはいかない。


 有利地形を陣取るのは、()()()()基本。

 敵に高台を取られている時は、強力なモンスターを高台に送り込んで一気に取り返すのが定石だ。


 トルーマンが、まだ僅かにしかマナが回復していないことに苛立ちつつ、周囲に指示を出す。


「構うものか! この場で小僧を仕留めろ!」

「ッ……」


 召喚師達が、自分を包囲するように退路を塞ぐ。そして、こちらへと手のひらを向けてきた。


 とっさに後方へと振り返る。確認したその視線の先に立っているのは、アシュリー。


(なッ!?)


 アシュリーのすぐそばに、『倒すべき相手』の気配が四つ。


 ――そコにイるトリケラザードで、アシュリーを救エ――


 すぐさま浮かぶ、殺しのビジョン。反射的に、四つの反応に敵意を向ける。


(このッ……)

 ――落ち着いて、マナヤ! その人達は、仲間だよ!


 その瞬間、テオの声が聞こえた。

 ハッとよく見ると、アシュリーのすぐ近くにいる四つの反応は、村人達だ。


 危うく、彼らを攻撃してしまうところだった。自分を見張ってくれているテオが、頼もしい。


「ありがとよ、テオ。 ――アシュリー!」


 小声で礼を言ったマナヤは、アシュリーに呼び掛ける。


「準備できてるわ!」


 当のアシュリーは、先ほどマナヤが呼んだトリケラザードの上に、村人四人を乗せていた。その四人は状況があまり呑み込めない様子ながらも、大人しくトリケラザードに並んで跨っている。

 ひらりと、アシュリー自身もそのトリケラザードの頭部の上に飛び乗った。


「【ナイト・クラブ】召喚、【跳躍爆風(バーストホッパー)】!」


 一方のマナヤは、新たにナイト・クラブを召喚直後、その上に飛び乗って即跳躍爆風(バーストホッパー)。召喚師解放同盟の包囲陣から抜け出し、アシュリーらの元へと跳んでいく。

 着地前に、空中でマナヤは地上のトリケラザードに掌を向けた。


「しっかり捕まってろ! 【重量軽減(ウェイトリダクター)】、【跳躍爆風(バーストホッパー)】!」

「うわあああああっ!?」

「きゃあああっ!」

「ひゃっ!?」


 トリケラザードが、アシュリーと村人達の計五人を乗せて大ジャンプ。一時的にモンスターを軽くする魔法『重量軽減(ウェイトリダクター)』がかかっていることにより、人を乗せていない状態と遜色ない高度まで跳び上がる。

 悲鳴を上げる五人が採石場の上端へと、トリケラザードごと一気に跳ばされた。


「なっ、奴らを逃が――」

「【跳躍爆風(バーストホッパー)】!」


 トルーマンが怒号のように指示を出すより早く、マナヤは着地したナイト・クラブにしがみつくような形で、再び跳躍爆風(バーストホッパー)。マナヤ自身もナイト・クラブと一緒に、採石場の上端へと跳び上がる。


 着地した衝撃で、マナヤもナイト・クラブからずり落ちて地面に叩きつけられる。この採石場の上端は、真っ平になっていた。まるで機械で測量されたかのように滑らかで、一様に水平な円形の上端。


 脇には、同様に着地時にトリケラザードから転がり落ちてしまったらしい五人も、頭を押さえながら起き上がろうとしていた。


「ちょ、ちょっとマナヤ、着地くらい考えてよ!」

(わり)ぃ! それよりお前ら、奥に走れ!」


 文句を言うアシュリーだが、マナヤはこの採石場上端の中央を指して叫んだ。それを聞いて、慌てながらもマナヤ以外の全員がそちらへと走る。

 が、そこにいる人影を見てギョッと足を止めた。


「ぐァ……」


 その中央部では、ちょうど一人の召喚師がヴァルキリーの槍に胴体を刺し貫かれ、崩れ落ちるところだった。召喚師解放同盟の召喚師だ。

 倒れた彼の周囲に、三つの魔紋が岩肌の地面に残っている。シルフとノーム、そして彼がヴァルキリーを見て護衛用に出したモンスターのものだろうか。だが、加速したヴァルキリーには対応しきれなかったらしい。


「【封印(コンファインメント)】」


 それを確認したマナヤが、無慈悲にその魔紋を封印。三体のモンスターの魔紋が、マナヤの手のへらに吸い込まれていく。

 倒れた召喚師は、そのまま絶命したようだ。ヴァルキリーが用済みと言わんばかりに、その男から視線を逸らしていた。


「……」


 無言でそれを見つめるマナヤ。人殺しの罪悪感はなく、『敵を減らした』というゲーム的な歓喜しか感じない。


「【跳躍爆風(バーストホッパー)】!」


 後方から聞こえた声に振り向く。

 召喚師解放同盟の者達が、自身らのモンスターを跳躍爆風(バーストホッパー)で跳ばし、マナヤらのいる採石場上端へと放り込んできていた。


 十数体にも及ぶモンスター達が一斉に、マナヤの頭の高さに迫ってくる。

 マナヤはそれらを、手ごたえのある敵プレイヤーに出会えた子供かのように、嗤いながら睨みつけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ