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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第三章 流血の純潔と女剣士の願い
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125話 三方の分断戦 殺意

 アシュリーが覚悟を決める、少し前。

 洞窟の中で、テナイアはひたすら皆に結界を張り続けていた。


「【ライシャスガード】」


 今また、結界が解けた騎士隊の一員に、再び結界を張り直す。

 しかし、張っても張ってもキリがない。精霊の攻撃で一方的に削られるばかり。反撃の糸口がない。


 洞窟を出なければ事態は好転しないが、塞いだ入り口の向こうにはまだ『レイス』が佇んでいる。


「……やむをえません。私が囮となって、レイスを引き離します」

「テナイア様!?」


 意を決したテナイアの言葉に、開拓村の村長代理も務めているアロマが目を剥いた。

 テナイアはそっと、懐から一つの錬金装飾(れんきんそうしょく)を取り出す。騎士隊の錬金術師から預かっていた、精神攻撃を無効化する『吸邪の宝珠』。


「私がこれを装着して、レイスを洞窟の入り口から遠ざけるよう誘導します。その間に、皆様は洞窟を出て反撃してください」

「そ、それならば私が囮になります!」


 と、顔面蒼白になりながらも女性剣士の一人が名乗り出た。開拓村に常駐している騎士隊の者なので、上級モンスターは恐ろしいが覚悟は決まったという目をしている。

 しかしテナイアは、精霊の攻撃で消滅する結界を張りなおしつつ首を横に振った。


「レイスを引き付けるために、前に出なければなりません。その間、精霊の攻撃に晒されることになります」

「で、ですからそれをテナイア様が引き受ける必要は無いと!」

「精霊の攻撃は、結界で防げます。ですが結界は、レイスの攻撃にも反応し消滅してしまいます。私がレイスの攻撃を至近距離で受ける役目でなければなりません」


 彼女の説明に、他の白魔導師達が悔しげに唇を噛んでいた。

 錬金装飾(れんきんそうしょく)によってレイスの攻撃のみ無視し、精霊の攻撃だけにタイミングを合わせて細かく結界を張らなければならない。王国直属騎士団の白魔導師副隊長であるテナイアの実力でなければ、そして彼女自身が至近距離でそれを目視しながらでなければ、できない。


「私がレイスをなんとかします。その間に、シルフの処理を皆さまにお願いしたいのです。よろしいですね?」

「……わかりました」


 名乗り出た女性剣士が、悔しそうにうなずいた。彼女を安心させるように微笑むテナイア。


「では、この被害者の女性を抱えて行って下さい。あとのことを、よろしく頼みます。【ライシャスガード】」


 結界を張りながらも下す彼女の指令に従い、女性剣士はガタガタと怯える被害者女性をそっと抱え上げた。


 ――と、その時。



〈……マナヤ。あんた一人にだけ、辛い思いはさせないから……!〉

〈アシュリーさんっ! ダメ、やめてっ!!〉



「っ!?」


 突然、テナイアの頭の中に採石場のような光景が思い浮かぶ。

 そこでアシュリーが、覚悟を決めたような顔で剣を構えていた。テオも、絶望的な表情で彼女を止めようとしている。


(これは一体……!? それに、まさかアシュリーさんは)


 そうこう考えている間にも、浮かんだイメージの中でアシュリーは、召喚師解放同盟と思しき者に剣を叩きつけていた。その眼差しは、ぞっとするほど冷たい。

 そして、血を流した肩で握る剣の、その刀身がさらに翻る。


〈――【スワローフラップ】〉


 いけない。

 彼女は、()()()だ。


「いけません、アシュリーさんっ!!」



 ***



 一方、ディロンと騎士隊本隊。


〈おやおや、どうなさいました? ディロン殿ともあろうお方が、ずいぶんと余裕がなさそうですねえ?〉

「くっ……」


 ボロを纏った霊体のような上級モンスター『レイス』を通して、煽るような言葉を吐いてくるダグロン。ディロンは歯噛みし、その亡霊のようなモンスターを睨みつけていた。


(この連中、モンスターを戻す度に位置取りを変えているのか)


 先ほどから敵は、『上級モンスターを突撃させては、危なくなる度に呼び戻す』という行為を、四方八方から続けてきていた。

 レイスのように一切の攻撃が効かないモンスターはもちろんだが、隊列を乱してくるフライング・ポリプの攻撃も、受けてしまえば厄介なことになる。かといって反撃しようとした時には、高速で後退させられ別方向から攻めてくる。上級モンスターを従える召喚師が多数集まっているのだろう。しかも補助魔法『時流加速(クロノス・ドライヴ)』をもかけて、モンスターの行動速度を倍加させているようだ。


 そしてモンスターを呼び戻す度、戻っていく方向が変わっていることにディロンは気づいていた。自分達の現在の位置を特定されぬよう、細かく移動を繰り返しているのだ。これでは、どの方角へと反撃すれば良いのか、判断ができない。

 強行突破しようとすれば、その方向に合獣キマエラなどを飛び込まされる。


「このっ……【封印(コンファインメント)】、【精神防御(グルーミング・ガード)】!」


 頼みの綱である、こちらの召喚師。しかし彼らは、倒れたスカルガードの封印や、敵レイスとフライング・ポリプからこちらを守るのに必死だ。囮となるモンスターに精神防御(グルーミング・ガード)をかけ続け、なんとか保たせている。

 人間が精神攻撃を受けてマナを削られてしまえば不利。ただでさえ現状でも、打開策が無いままダラダラとマナを浪費させられ続けているのだ。

 にも関わらず、上級モンスターを使っての敵が攻撃は、全く止む気配がない。召喚師のマナ回復速度が高いためだ。こちらにも召喚師はいるものの、モンスターの質の差はいかんともしがたい。


 頭数でもすらも負けているようだ。全方位から、新たなスカルガードが次から次へと湧いてくる。普段ならば御しやすい下級モンスターだが、囲まれて群れで襲ってくるとなれば別だ。

 おまけに位置取りをしようにも、透明なフライング・ポリプの竜巻がそれを邪魔する。フライング・ポリプを攻撃しようとすれば、透明化し戻されてスカルガードの中に紛れていく。


「……こうなっては仕方がない。私が活路を開く」


 ディロンはそう小さく呟くと、騎士隊の錬金術師に向かってこう命じた。


「私に『吸邪の宝珠』と『安定の海錨』を! 私がフライング・ポリプの懐に飛び込み、一体だけでも討ち取ってみせる!」

「ディロン様!?」


 その提案にまず錬金術師が、数瞬遅れて他の騎士隊も何事かとディロンに目を向ける。フライング・ポリプの攻撃は、極寒の真空で全てを吸い込む竜巻を作り上げ、対象を引き寄せると共にマナをも削るモンスターだ。懐に飛び込むなど自殺行為としか思えない。


「連中はフライング・ポリプを含めて、モンスターが危なくなったら撤退させていた! そうなる前に、私が飛び込んで逃がす前に倒しきる!」

「し、しかし危険が過ぎますディロン様!」


 既に掌に、魔力で膨大な冷気の塊を作り出そうとしているディロン。そんな彼に、剣士が反論した。


「同じ捨て身で突撃するならば、我々がいきます! 単体への瞬間火力ならば剣士の管轄!」

「高速で逃げる敵を追い詰めるには、剣士では仕留めそこなう可能性が高い! その点、私ならば懐に飛び込みさせすれば、逃げられても中距離までは魔法攻撃が届く!」


 それしかない、とディロンは考えていた。

 自分の魔法攻撃力ならば、白魔導師の『スペルアンプ』さえ受ければ最大火力の冷気魔法でフライング・ポリプを仕留めきれるだろう。近接特化の剣士では、時流加速(クロノス・ドライヴ)の効果で逃げるフライング・ポリプには追いつけない。


「活路を開き、フライング・ポリプの数を減らしてみせる! 一体でも減れば、敵の包囲陣に穴が空く!」

「ディロン様!」

「テナイアが洞窟で襲撃を受けているはず! 一刻も早く戻らねばならん! ……早く、錬金装飾(れんきんそうしょく)を!」


 ディロンの命に、錬金術師が嘆くように目を瞑り、錬金装飾(れんきんそうしょく)を投げつけた。


「【キャスティング】」


 ――【吸邪(きゅうじゃ)宝珠(ほうじゅ)】!

 ――【安定(あんてい)海錨(かいびょう)】!


 それぞれ、ディロンの両手首に装着される。


「あとのことは、頼んだぞ! ……白魔導師隊!」


 ディロンが、背後から襲ってきたフライング・ポリプへと突撃する。白魔導師隊が「【スペルアンプ】」と唱え、ディロンの魔法攻撃力を一発分増幅した。


 ――その時。



〈……マナヤ。あんた一人にだけ、辛い思いはさせないから……!〉

〈アシュリーさんっ! ダメ、やめてっ!!〉



「な、にっ!?」


 突然、頭の中に別の場所の光景が映った。

 森に面している、採石場。そこで、アシュリーが覚悟を決めた顔でテオを見つめている。そして、召喚師解放同盟の者達へと突っ込んでいく光景。


「待て、早まるなアシュリー!」


 思わずディロンもそう叫んでいた。

 しかし当然、声は届かない。肩から血を流したアシュリーは、空中から敵召喚師の一人へと飛び込み、剣を容赦なく叩きつける。そして、冷たい憎悪を燃やした目で、敵を睨みつけていた。


〈――【スワローフラップ】〉


 剣が翻る。狙いは、相手の首筋。



「やめろ、アシュリーッ!!」



 ***



「……マナヤ。あんた一人にだけ、辛い思いはさせないから……!」


 テオに向かいそう言って、彼女は懐から、オレンジ色の宝珠がはまったブレスレットを取り出し、それを右手首にはめる。


 ――【吸邪(きゅうじゃ)宝珠(ほうじゅ)


 精神攻撃を無効化する錬金装飾(れんきんそうしょく)。シャラから持たされたものの一つだ。

 それをはめたアシュリーは、敵陣に突撃していく。


「待って、アシュリーさんっ!!」


 慌ててテオは、その背に声をかける。

 彼女は……()()気だ。それを察してしまった。


「ライジング・フラップッ!」


 いきなりアシュリーは前方に急加速し、一気にトルーマンの懐へと飛び込む。


「――ぐァッ!? き、貴様ッ……!」


 下からすくい上げるような一撃が、トルーマンの胸元を逆袈裟斬りにしていた。さらに彼が操っていたレイスが、アシュリーへと黒いモヤを吐き出す。


「ぐうッ!?」

「うああああっ!?」

「く、くそぉっ!」


 その黒いモヤにトルーマン、そして彼の周囲にいた何人かの召喚師も巻き込まれる。アシュリーも黒いモヤに呑まれたが、『吸邪の宝珠』のおかげで影響はない。


「トルーマン様、レイスを『戻し』てください! 【精神防御(グルーミング・ガード)】、ギュスターヴ【行け】!」


 精神攻撃を防ぐ紫の防御膜に覆われた巨大なワニへ、突撃命令を下したヴァスケス。そのギュスターヴが一気にアシュリー目掛けて走り寄り、その下顎に生えた牙を振り上げようとしてくる。


「ふっ!」


 しかし、振り上げられたその牙を、アシュリーは再び『ライジング・フラップ』で回避。そのまま、逆方向にいた召喚師へと斬りかかっていた。


「ぎゃあっ!? こ、このッ! 【行け】!」


 斬られた召喚師が目を血走らせてモンスターに攻撃命令を下す。同時に周りの召喚モンスター達もアシュリーへと殺到した。


「【ライジング――くぅっ!?」


 上空に跳んで逃れようとしたアシュリーだが、後方から白い塊が彼女の背中に着弾。

 背後にいたオレンジ色の人間サイズの蜘蛛、『レンの蜘蛛(レン・スパイダー)』の攻撃だ。アシュリーの背に当たった塊は蜘蛛糸に分解し、彼女にまとわりつく。


「アシュリーさん、やめてっ! 【猫機FEL-9(フェルナイン)】召喚、【行け】っ!」


 慌ててテオは、囮になる猫機FEL-9(フェルナイン)を召喚して突撃させた。敵召喚師のモンスター達の大半が、そちらへと狙いを変える。

 しかし、何体かはアシュリーを狙ったままだ。


「この……あぐっ!」


 体にへばりつく蜘蛛糸を断ち切ろうとしたアシュリーだが、側面からヘルハウンドが飛び掛かってくる。咄嗟に体をねじるが、蜘蛛糸のせいで反応が遅れ、鉤爪で肩口を切り裂かれた。

 テオの跳ばした猫機FEL-9(フェルナイン)も、早々に破壊されてしまう。


「今だ、ギュスターヴ! 【時流加速(クロノス・ドライヴ)】」


 ヴァスケスの声。巨大なワニが、下顎の牙を向けながらアシュリーに突進してくる。時計のような魔法陣がギュスターヴに吸い込まれ、突進速度が加速した。


「アシュリーさん、危ないっ!」


 テオは無我夢中で駆け、アシュリーの下へと走った。もう、下級モンスター一体召喚分くらいのマナしか無い。


「【ガルウルフ】召喚!」


 アシュリーとギュスターヴの間に、ギリギリで割り込んだテオ。咄嗟にギュスターヴに向けて召喚を行い、その紋章でギュスターヴの一撃を受け止める。破裂音と共に、ギュスターヴは己の勢いで弾かれ後方へと吹き飛んだ。

 が、側面から別の敵召喚師の声が届く。


「【電撃獣与(ブリッツ・ブースト)】、【時流加速(クロノス・ドライヴ)】」

「うあっ!」

「くうっ!」


 突然、人間の頭ほどの大きさを持つ黄色い甲虫が、電撃をも纏って凄まじい速度で突進。テオとアシュリーをまとめて突き飛ばす。中級モンスター『イス・ビートル』だ。

 突進を食らったと同時に電撃をも浴び、苦痛に呻く二人。だが、イス・ビートルは止まらない。何度も跳ねるように突進攻撃を繰り返す。


「か、はっ……」


 テオが身を挺して、その攻撃からアシュリーを守っていた。ようやく蜘蛛糸を振りほどいたアシュリーが、一気に剣にオーラを纏わせる。


「【シフト・スマッシュ】!」


 剣のオーラが斧状に変化。『打撃』へと変換された剣の横凪ぎが、『イス・ビートル』を一撃で粉砕した。


「ぐ……【ナイト・クラブ】召喚、【竜巻防御(ゲイル・ガード)】!」


 打撲と電撃の火傷でボロボロのテオは、なんとか巨蟹のモンスターを召喚。さらに、遠距離攻撃を逸らす補助魔法をかける。レン・スパイダーの攻撃が、ナイト・クラブに纏われている旋風によって側面へと逸らされた。


 追撃のように、ギュスターヴが下顎の牙で突き上げてくる。が、ナイト・クラブはその一撃に何とか耐え抜いた。

 ヴァスケスは、その様子を油断なく見据えている。野生之力ワイルド・ファランクスをかけてくる気配はない。こちらが上級モンスターを出してきた場合に備えているのだろうか。


「【魔獣治癒(ビーストヒール)】!」


 即座にテオは、崩れ落ちかけたナイト・クラブの傷を治癒する。

 シャラから受け取っていた『増命(ぞうめい)双月(そうげつ)』のおかげで、テオ自身もなんとか耐え抜けている。先の攻撃を受けたことで、『ドMP』でマナも溜まっていた。いざとなれば、いつでもこのナイト・クラブに乗って跳躍爆風(バーストホッパー)で避難できる。


「アシュリーさん、乗って!」

「あんたは先に避難なさい!」


 それを見て取ったアシュリーは、テオの避難提案を一蹴。肩口から血を流しながらも、表情を険しくして再び刀身にオーラを展開する。


「【ライジング・アサルト】」


 一気にアシュリーは空中へと跳び上がった。背後から襲わんとしていたモンスターの攻撃が、空を切る。


「【ドロップ・エアレイド】!」


 一転、急降下。彼女が落下していく先に居たのは、先ほどギュスターヴを避けた拍子にライジング・フラップで斬りつけていた召喚師だ。


「が、フっ」


 上空から凄まじい勢いで剣を叩きつけられ、地面に叩きつけられながら血を吐く召喚師。

 しかし、頑丈な彼はまだ生きている。肩の骨を砕かれるような衝撃にも関わらず、彼は起き上がる。至近距離に立つアシュリーに、掌を向けようとしていた。


 そんな召喚師の様子を見つめるアシュリーの目は……

 底知れぬほど、冷たい。


「アシュリーさんっ! ダメ、やめてっ!!」


 何をするつもりか、テオにもわかってしまった。慌てて止めようと声を振り絞る。


 けれども……彼女の動きは、もう止まらなかった。

 放つのは、剣士の代名詞とも言うべき技能。一度攻撃した相手を、慣性や物理法則を無視して再び斬りつける技。



「――【スワローフラップ】」



 振りぬいた剣が生き物のように翻り、召喚師の喉元へと吸い込まれていく。


「アシュリーさんっ!!」


 テオの叫びも、虚しく。

 剣筋は全く緩まず、一気に召喚師の喉を――



〈いけません、アシュリーさんっ!!〉

〈やめろ、アシュリーッ!!〉



 突然、頭の中に響いた声。

 必死な、テナイアとディロンの叫びだ。


 次の瞬間――



 ――ドシュウッ



「……え?」


 アシュリーの剣が、空を切る。


 突然、横から飛んできた氷の槍。

 それが、アシュリーが斬らんとしていた召喚師の脇腹に突き刺さり、彼を横っ飛びに吹き飛ばしていた。



 ***



「……な、に?」


 手を前方に突き出したままのディロンが、思わずつぶやく。咄嗟に『アイスジャベリン』を放った自身の手を、茫然と見つめた。


 なぜ自分は、テオやアシュリーの状況がわかった?

 なぜ自分は、彼らの場所を把握できた?

 なぜ自分は、届きもしないはずのアイスジャベリンを放った?


 そして、届かないはずのアイスジャベリンがなぜ、アシュリーが斬りかからんとした召喚師に突き刺さっている?


 ディロンが自問していたのは、ほんの一瞬の間に過ぎない。

 が、その一瞬の後。


 ――ピチュ……ン


 頭の中で、水面に雫が落ちたような感覚。

 その雫から広がった波紋が、一気に自分の意識全体に繋がるような気がした。


 そして……離れた位置にいるはずのテナイアが、全く同じ感覚を受けていることを、実感していた。


「……テナイア?」



 ***



 ――ピチュ……ン


「これ、は?」


 頭の中で、アシュリーが斬りかからんとした男に氷の槍が突き刺さった光景を見たテナイア。

 ディロンのアイスジャベリンだ、と直観的に確信したテナイアは、頭の中に波紋が広がるのを感じていた。


 一滴の雫、それが水面に落ちたような感覚。

 そこから広がった波紋を通して、自身がディロンと『繋がっている』こと。

 そして、遠く離れているはずのディロンが、自分と全く同じ感覚を味わっていることがわかる。


 ――……テナイア?


「ディロン」


 心の中で、彼が自分に呼び掛けているのがわかった。

 それに呼応するように答え、そして確信する。

 今の自分達ならば、できると。


「――【共鳴(レゾナンス)】!」



 ***



「――【共鳴(レゾナンス)】!」


 遠く離れたテナイアと呼応するように、ディロンも叫び放つ。

 途端に、ディロンの全身が虹色の閃光に包まれた。


「ディロン様!?」

「まさか!?」


 その美しい閃光、そしてディロンの発した言葉に、彼の部下たちが驚きと期待に満ちた目で彼を見やる。

 共鳴(レゾナンス)。真に心を通じ合わせた二人の人間が発動させることができると言われる、今では伝承となった力。


 ディロンはテナイアと心が繋がり、お互いの状況がありありとわかる。

 いや、お互いだけではない。遠く離れた場所にいるテオとアシュリー、果てにはシャラの状態まで手に取るように『観る』ことができる。


 そして、『観えた』場所であれば、どんなに遠く離れている場所にも、自分達の魔法が届くだろうと。


 二人は確信する。この能力の、名は。



「【千里眼(クレヤボヤンス)】!」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 目醒めたのか、共鳴に…。 [気になる点] 今章で発覚したディロンとテナイアのいい感じの関係といい、スコットサマーといい、共鳴は最低でも熟年夫婦くらいの絆がないと無理っぽいですね。 果たして…
2023/01/09 21:30 退会済み
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