119話 シャラの覚悟
翌日。
シャラは、コリィの家でいつも通り錬金装飾の作成に勤しんでいた。
「シャラさん、一旦休憩にしたらどうだい? ずっと働きづけじゃないか。前にも倒れたって聞くし」
「ありがとうございます、モニカさん。そうですね、ちょっとだけ休憩します」
コリィの母親がシャラにお茶を持ってきた。やや憂い顔で微笑しつつ、彼女の厚意に甘える。
と、そこに母親の背からコリィもぴょこんと顔を出した。
「シャラさん、あの、この服ありがとうございました!」
おずおずと礼を言ってくるコリィ。治してもらったとはいえ昨日大怪我をして帰ってきたので、今日は大事を取って自宅待機しているのだ。
彼が着ているのは、昨日ボロボロになってしまったはずの服。シャラが錬金術で新品同様に修復したものである。
「ううん、大丈夫だよ。こういうのは、私達錬金術師の得意技だからね」
できるだけ明るく笑うようにしながら、返事をするシャラ。
(マナヤさん……大丈夫かな)
しかし、心中は穏やかではなかった。二人が台所へと去った後、窓の外を仰ぎ見る。
現在、この開拓村に駐留していた騎士隊の者達は出払っている。村長代理のアロマも同様だ。ディロンが彼らを率い、コリィを誘拐した者達の遺体検分へと向かったのである。
『私の部下たちだけでは人員不足だが、犯罪者の遺体検分だ。騎士隊ではない者を連れていくわけにもいかん』
とのディロンの言。そのため今この村に居るのは、騎士隊ではない一般の村人達のみ。
(マナヤさんがいつ目覚めてもいいように、アシュリーさんにもテオに同行してもらったけど)
シャラはお茶を一口含みながら、思いを馳せる。
テオとアシュリーは、森の中への間引きに行っている。海方面だけでなく、森のモンスターもちゃんと『間引き』しなければならない。村人達とも協力し、当番制で行っていた。
今日は、テオが森の間引きへと向かう日。アシュリーも特別に同行してもらうことにしたのだ。あんなことがあって早々だが、間引きを怠るわけにもいかない。それに、戦いになればマナヤが出てきてくれるかもしれないという、淡い期待もあった。
(人が人を殺したら……あんな風になっちゃうの?)
寒気を覚え、ぶるっと体を震わせてしまうシャラ。昨日マナヤが血走った目で、モール教官を襲おうとした時の様子を思い出したからだ。
以前、ディロンが召喚師解放同盟の者を無慈悲に殺したところを、シャラも見たことがある。その時、ディロンは実に平然としているように見えた。
彼が、王国直属騎士団の者だからだろうか。けれども、彼も人を殺めてしまうことの意味を強く理解しているようだった。
(ディロンさんは、どうして大丈夫なんだろう)
人を殺せば、あらゆる人間に対して『殺しのビジョン』が見えるという。
そんな中でも、ディロンは実に落ち着いているように見える。冷酷ではあったが、彼に人の心が無いようには見えなかった。
――コンコン
「うん? はーい、今行くよ」
シャラが考え込んでいると、扉をノックする音が響く。コリィの母が来客を出迎えに扉へと向かっていったようだ。
「――うあああっ!!」
突然、そんなコリィの母の悲鳴が聞こえる。
慌ててシャラは宛がわれた自室から出て、玄関と繋がっている居間へと向かった。
「モニカさん!?」
表玄関の手前で、苦しそうな顔で倒れていたのはコリィの母。肩口に矢が突き刺さっている。
「お、お母さん!」
台所からやってきたコリィも慌てて母親に駆け寄り、彼女の横に屈んで覗き込む。
「……おやおや。コリィもいましたか。これは好都合ですね」
開いたままの扉から声がする。
はっとシャラが振り返ると、弓を構えた白髪の女性が玄関前に立っており、そのまま居間の中につかつかと入ってくる。その後に茶髪の女性も続いた。
「こ、これは一体何のマネだい! カランさん、レズリーさん!」
矢の突き立った肩の痛みに呻きながら、頭だけ上げてその二人を睨みつけるモニカ。
入ってきた二人は、村長補佐のカラン、そしてその妹であるレズリーだった。
「カランさん、レズリーさん、どういうことですか! どうしてあなたたちがモニカさんを……!」
「おっと、下手な動きはしないでください。確か、シャラさんといいましたか」
抗議の声を上げたシャラに、今度はカランの構えた矢じりがシャラへと向いた。咄嗟に『治療の香水』をコリィの母につけようとしたのだが、先手を取られてしまいシャラは動けない。
カランの傍らにいるレズリーは構えてこそいないが、同じく弓を携えている。顔をしかめて、コリィを睨みつけていた。
「……あの召喚師の仲間とはいえ、錬金術師を無暗に殺すつもりはありません。下がってください、シャラさん。私達が用があるのは、ここの一家だけです」
と、憎々しげな表情になったカランは、やや目尻にしわの増えた顔をキッとコリィへと向ける。コリィは母親を心配しながらも、向けられた視線にビクッと怯えた。
「モンスターを操る『召喚師』などを一般人の家に匿い、のうのうと暮らしている。そんな所業を、この村で許すわけにはいきません」
と、ちらりとカランがレズリーにアイコンタクトする。レズリーも降ろしていた弓を構え、矢筒から矢を取り出してコリィへと引き絞った。見上げるコリィの顔が、恐怖に引き攣る。
「あ、あ……」
「お二人とも、辞めてください! アロマ村長代理にも、召喚師の存在は認められたはずです!」
身動きこそ取れないながらも、シャラは必死になって二人を説得しようとする。
そんな彼女に、カランが強い意志を込めた瞳を向けた。そこに燃えているのは、強い怒り。
「それがおかしいというのです! 今まで何人の村人が、モンスターに殺されたか! 私の夫も、息子たちも!」
「っ……」
カランは、今は独り身だと聞いている。彼女の夫や子供たちはみな、モンスターに殺されたということだろうか。
ちらりとカランの視線が、傍らのレズリーに一瞬向く。
「妹のレズリーもそうです! この子の旦那は、急に海から襲ってきたモンスターから子供たちを庇って、命を失った!」
「……」
レズリーは何も語らない。ただただ、憎しみの目でコリィを睨み続けるのみだ。
そこへ、まだ立ち上がれそうにないモニカが、痛みに片目をつぶったまま叫ぶ。
「だ、だからうちのコリィ達が今、がんばってるんじゃないか! 召喚師としての力を使って、この村をモンスターから守るために!」
「そのためにモンスターを使うなど、言語道断です! 我々を襲い続けたモンスターの力に頼るなど、虫唾が走る!」
だが、カランは一切譲らない。そんなカランとレズリーの態度に、シャラは違和感を覚える。
(この人達、村に来たときはあんなに召喚師に怯えていたのに……)
召喚師の教官であるモール女史に対して、近づくだけで後ずさるほど怯えていた。家族や同胞達を殺し続けてきたモンスターへの、怖れ。召喚師に敵意を向けるような真似はせず、コリィの母が孤立していた所へ糾弾してくる程度が精いっぱいだったはず。
なのに今、こうやって召喚師であるコリィを前にしてなお、こうもあっさり弓を引き絞っている。
「や、やめろっ! お母さんに、手を出すなぁっ!」
「こ、コリィ! ダメだよ、逃げな!」
と、そこへコリィが母を庇うように腕を広げ、立ちふさがった。慌てたのはコリィの母だ。
しかしコリィは涙目ながらもカランを睨みつける。
「おや、私達に歯向かいますか、コリィ? モンスターを召喚して?」
「っ……」
カランにそう追及されると、コリィの表情が凍り付いた。
それを見たカランが、彼を見下すように嫌な笑みを向ける。
「やはり、召喚師はモンスターと同じなのですね。村人を守るために使うなどと言っておいて、結局モンスターを私たち村人へと差し向けるつもりですか」
「う……」
勝ち誇るように言うカラン。その言葉を受けたコリィはがくがくと震え、顔が青ざめてしまう。
(……まさか)
そんなカラン達の様子に、シャラは嫌な結論に思い至ってしまった。
マナヤやアシュリーがやっていた、召喚モンスターへの忌避感を取り払う活動。それが裏目に出てしまったのだろうか。
カラン達からモンスターや召喚師への恐怖が消え、家族を殺された憎しみだけを募らせてしまったのだろうか。
(コリィ君はきっと、人に召喚モンスターを差し向けたりできない。だって、彼の両親も……)
自分と同じだ。コリィはモンスターに実の両親を殺されている。
きゅ、とシャラは唇を引き絞った。
「やはり召喚師など、人に害をなす存在でしかないのですよ! アロマ村長代理がいない、今がチャンスです! 人の天敵、そしてその天敵を庇う愚かな者達を、私が駆除して差し上げましょう!」
カランが目を血走らせながら、弓をさらに引き絞る。その矢じりの先を、シャラからコリィへと移して。
「――ダメですっ!」
シャラはその瞬間、コリィを後方へ突き飛ばして自ら前に躍り出た。コリィが母親の傍らに尻餅をつく。
「どきなさい、シャラさん! 言ったはずです、私達の狙いはあくまでもそこの二人!」
「どきません! この人達を殺したって、あなたがたの家族は戻ってきません!」
矢じりを向けられつつも、シャラは毅然と言い返した。
「召喚師とモンスターは、別物です! コリィ君たちがあなたの家族や、村人達を殺したわけじゃないじゃないですか!」
「だから何だと言うのです! 夫と子たちを、義弟を殺したモンスターが我が物顔で村に居座ることを、認めろというのですか!」
「そうじゃありません! マナヤさんが言ってました、召喚師はモンスターを『利用』してやるものだって!」
「戯言を……っ」
互いに平行線。シャラは全く譲らず、両腕を広げてコリィとモニカを庇い続ける。
「……いい加減にしなさい、シャラさん。これ以上邪魔をするなら、錬金術師であろうと容赦はしませんよ」
「絶対に、どきません」
間髪入れず即答するシャラに、カランが舌打ちした。
「仕方がありません。……少し、静かにしていてもらいましょう」
カランがいよいよ矢を放たんとする。
「シャラさんっ!!」
「だめコリィ君! 【キャスティング】!」
コリィが耐えかねたように手を前に出すが、シャラが声で押しとめ、呪文を唱える。すると、テオとシャラに割り当てられた部屋から、光の筋が二本走る。
「このっ!」
シャラが動きを見せたため、容赦なくカランが矢を放った。が。
――ガァンッ
「こ、これは!?」
突然、シャラの左手首から伸びた金属製のベルトが、カランの矢を弾いた。
――【防刃の帷子】!
シャラの左手へと伸びた光は、鎖が連なったチャームのついたブレスレットとして、左手首に装着されていたのだ。
もう一つの光の筋は、床に倒れていたモニカの首元へと伸び、碧の小瓶がついたネックレスとして装着される。
――【治療の香水】!
「えっ……?」
自身の肩が碧の燐光に包まれ、困惑の表情を浮かべるコリィの母。
「あなたは、そこまで……」
呻くように、そう呟くカラン。シャラがそんな彼女を凛と真っすぐに見返していると、カランが顔を醜く歪めた。
「ならば、これならどうです!」
と、新たな矢をつがえると再びシャラに向かって引き絞る。その矢に覆われる、黄色いオーラ。
同じ弓術士であるモニカが、ハッとしてシャラへと叫んだ。
「い、いけない! シャラさん、逃げ――」
「【ブレイクアロー】!」
が、すぐさま放たれるカランの矢。
シャラの手首から再び金属ベルトが出現しそれを受け止めようとする。が、あっさりとベルトを貫き、シャラの右肩口に命中した。
「あぐっ……」
矢とは思えぬ衝撃に吹き飛ばされ、床を転がり奥の壁に激突するシャラ。転がった拍子に矢が傷口を抉り、肩から血が滲み出した。
「しゃ、シャラさん!」
コリィの母が、なんとか肩だけ起き上がってシャラの方を向く。それを見てカランは、再びコリィへと新たな矢を引き絞った。
「さて、もう邪魔は入らな――」
「【キャスティング】!」
そこへ再びシャラが叫ぶ。新たに四つの光がシャラへと伸び、右手首と両足首、首元に装着された。
――【治療の香水】!
――【増命の双月】!
――【俊足の連環】!
――【安定の海錨】!
「くっ……」
左足首にはまった、リングの連なったチャームがついた錬金装飾『俊足の連環』により、一気に加速して飛び出したシャラ。一瞬にして再びコリィの前へとたどり着き、またしても両腕を広げて庇う。
「しょ、性懲りもなく! 【ブレイクアロー】!」
再び『ブレイクアロー』を放つカラン。それは、『防刃の帷子』から飛び出した金属のベルトを再び貫通し、シャラの左脚へと命中した。
「……っ!!」
「な、なぜ!?」
それを小さな呻き声だけで耐え抜いたシャラ。カランが驚愕の表情を見せる。
シャラは、先ほどのように吹き飛ばされはしなかった。衝撃の伴う『ブレイクアロー』を受けてなお、コリィ達の前で両腕を広げて立ちふさがっている。
錬金装飾『安定の海錨』は、装着者が吹き飛ばされたりするのを防ぐ効果がある。これにより、シャラは『ブレイクアロー』を受けてもその場で持ちこたえてみせた。
しかし、ダメージが軽減されるわけではない。傷を受けた左脚がよろめくも、シャラは決意に満ちた顔で気丈にカランを見つめる。
――あっちの世界で学んだことでな。『非暴力不服従』ってヤツさ――
シャラの脳裏に、王都で語ったマナヤの台詞、そして彼が三人の男たちに殴られるがまま耐え抜いていた光景が浮かんだ。
(マナヤさん。やっぱりあなたは、この世界に必要なんです)
シャラはマナヤにならって、カランの矢を甘んじて受け続ける手段を選んだのだ。
右手首の『治療の香水』から放たれる燐光で右肩の傷が癒されはじめ、ぽろりと矢が抜け落ちる。
「意地を張るのも、たいがいにしなさい! 【ブレイクアロー】!」
「く……ぅっ」
再び放たれた矢が、今度は左肩に命中。けれど今度は、シャラは目を閉じすらせずにそれを耐え抜いた。視線をカランから外さず、正面からひたすら見据え続けている。
「こ……のっ、その目をやめなさいっ! 【ブレイクアロー】!」
今度は脇腹に突き立つ矢。けれども体を少し揺らしたくらいで、シャラの視線は途切れない。苦痛に瞼を歪めつつも、食らいつくように真っすぐカランを見据えていた。
「も、もうやめてシャラさん! シャラさんは逃げて!」
「そ、そうだよシャラさん! あんたがそこまであたしらを庇う必要はないんだ! あたしが――」
「ダメ! 動かないで!」
コリィの彼の母親が必死にシャラに呼び掛ける。しかしシャラが鋭く指示すると、二人とも悲痛な目で彼女を見上げた。
シャラはくぎを刺したのだ。コリィの母が這って行こうとした、すぐ脇の棚。そこに弓をしまってあることを、シャラは知っている。
「村人同士で争うなんて、絶対にだめ……」
「っ、シャラさん、あんたなんでそこまで……っ」
シャラの言葉に、コリィの母が涙ぐんで嘆いた。
「れ、錬金術師であるあなたが、なぜそこまでしてこのような者達を庇うのです! 彼らは召喚師の家族ですよ!」
「召喚師、だって……っ、人間、じゃないですかっ!」
苦痛に顔を歪めながらも、毅然と言い返すシャラ。しかしその返答にカランはかえって逆上する。
「あなたに何がわかるのです! 私達は、家族をモンスターに――」
「私だって! 両親をモンスターに殺されてますっ!」
最後まで言わせず、シャラが精いっぱいの声で叫ぶ。カランが思わず口をつぐみ、レズリーは息を呑んだ。
「実の両親を、モンスターに、殺されて……義理の両親も、もう、この世の人じゃありません」
徐々に癒えていく体で息を整えながら、シャラは悲しげに顔を歪ませる。
「それでも……それでも、私はテオを、マナヤさんを、召喚師の人達を信じてる! 彼らは、ちゃんと人の心を持った人間ですっ!」
「じ、自分の両親を殺されておきながら、なぜそこまで! 海からのモンスターが、何人もの村人を殺しているのですよ!」
「そのためにコリィ君が、村の召喚師の皆さんが戦っているんじゃありませんか!」
叫ぶシャラの瞳が、悲しみをも湛え始める。
「コリィ君だって、実の両親をモンスターに殺されてる! それでも、そんなモンスター達を使ってでも、村を守るためにできることを一生懸命学んでるんです!」
「シャラ、さん……」
コリィの目に涙が浮かぶ。狼狽えつつもカランはすぐに怒りの表情に戻った。
「冗談ではないわ! モンスターを操るなど、人の所業とは思えません!」
「じゃあ、あなたがたが今やってる事は、人間の所業だと言うんですか!!」
「な……!」
続いたシャラの指摘に、カランが言葉に詰まる。なおもシャラの勢いは止まらない。
「村のために必死になってるコリィ君や、召喚師ですらないモニカさんにまで弓を向ける! そんなことが、人として正しい行いだって言うんですか! ふざけないでください!!」
シャラらしからぬ剣幕。コリィと彼の母は、涙ぐみながら言葉を無くす。
「くっ……レズリー! あなたも撃ちなさい!」
次の矢をつがえながら、痺れを切らしたように傍らのレズリーへと怒鳴るカラン。
けれどもレズリーは揺れる瞳で、構えていた弓をすっと降ろした。
「ね、姉さん……もう、やめよう?」
「な……何言ってるの、レズリー! あなたの旦那さんだって、モンスターに!」
「でも、シャラさんの言う通りよ。無抵抗のシャラさんに、こんな一方的に矢を撃ち続けるなんて……」
レズリーが悲しげな目で、カランを見つめ返した。
「これじゃ、私達の方がモンスターみたいじゃない」
「っ!」
レズリーの指摘に、カランがビクリと体を震わせた。血走っていた目が、徐々に落ち着いていく。
「……カランさん」
シャラが、悲しげに彼女を見つめる。
カランは無言のまま弓を降ろし、俯いてしまう。
「……」
コリィも、彼の母親も、そんなカランを黙って見つめていた。
……その時。
――ドウッ
「えっ!?」
その場の全員が、開きっぱなしの扉の方へ振り向く。
聞き慣れた音。救難信号が上がる音だ。突き立った矢は既にほとんど抜け落ちていたシャラが駆け出し、海岸の方を見やる。
「う、海からモンスターが来たぞ! し、しかも、なんてデカさだ!」
「な、何よアレ!? あんなのどうしろっていうの!」
海岸の方向から、陸地側へバタバタと走ってくる人だかりが見えた。その奥から、橙色の巨大な光の柱が上がっている。
(橙色……準スタンピード級の信号!?)
シャラは慌てて走ってくる男の一人を捕まえて問いかける。
「何があったんですか!?」
「れ、錬金術師の子か!? 早く逃げろ! デカい水龍が出たんだ!」
(水龍!? まさか!)
それを聞いたシャラが青ざめる。そして、『俊足の連環』の効果を使って駆け、海岸が見えるとこまでやってきた。
「……あれ、が……!?」
水平線の方に、黒く長細い何かが首を出して水面を泳いでいるのが見えた。
比較的小さな頭だが、それだけでも目測でシャラの身長ほどありそうだ。その後ろに、長くにょろにょろした胴体がついてくる。ただでさえ黒い全身に、さらに黒いモヤのような瘴気がまとわりついていた。
(あれが、マナヤさんの教本にも載ってた……)
伝承系の、最上級モンスターの一角。
闇撃のブレスを放つ黒い水龍、『シャドウサーペント』だ。




