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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第三章 流血の純潔と女剣士の願い
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114話 希望を失う恐怖 KORY

「よし、今日はこれで解散! みんな、今日もお疲れ!」

「お疲れさまでした!」


 いつも通りの、間引きを兼ねた漁を終えて、ボク達は岸で解散する。

 今日も、大漁だ。ボクのうちの取り分が入った網袋を抱えてみると、ずっしりと重い。きっと今晩の晩御飯もいっぱい食べられる。帰ったら、お母さんがまた大喜びするだろうな。


「コリィ君、今日もお疲れ様」

「あ、はい。お疲れ様です」


 騎士隊所属の召喚師さんに、ボクも挨拶を返す。

 もう顔見知りになってくれたこの召喚師さんも、とても明るい顔をするようになった。マナヤ教官のおかげだ。


 ……マナヤ教官。


 教官が出て来なくなって、『テオ』さんのまんまになってしまったって聞いた。

 もう、何日も会ってない。


 もちろん、テオさんだって悪い人じゃない。

 召喚師以外のみんなと、召喚師が連携する方法を指導しているらしい。だから最近は、召喚師じゃない村人や騎士隊の人と、にこやかに挨拶できることも多くなった。

 ボクや、ボクの家族が村人に忌み嫌われたり、怒鳴られたりすることもなくなった。


 ……でも。

 ボクにとっては、やっぱり本当の恩人はマナヤ教官なんだ。


 あの人は、召喚師とは思えないくらい自信に満ち溢れていた。

 モンスターを前に一歩も臆さず、召喚モンスターをまるで手足のように自在に操る。自分のモンスターを欠片も恐れず、あんなに大胆に扱うことができる人は初めて見た。


 あんな人がボク達を引っ張ってくれたから、今のボク達がある。

 彼がこの開拓村で真っ先に力を見せつけ、モンスターの群れに臆することなく突っ込んでいき、あっさり対処してしまった。襲われてた村人も救ってみせた。

 そんな彼の姿に惚れ込み、憧れた。あんな風に、堂々と戦えるような召喚師になりたいって。


 だから、ボク以外の召喚師候補生のみんなも、マナヤ教官を一番の目標にしてるんだ。


「ああ、コリィお帰り! うわあ、今日もたくさん獲れたんだねぇ」

「ただいま、お母さん! 今日もお願いね!」

「ああ、任せときな! これだけたくさん使えると、腕の振るい甲斐があるよ」


 お母さんが腕まくりしながら、いい笑顔で早速魚の鱗取りに取り掛かる。

 ボクも手伝わなくっちゃ。まずは、手を洗いに行こう。



 今の、ボクのお父さんとお母さん。

 この二人は、ボクの本当の両親じゃない。


 本当の父さんと母さんは……モンスターに、殺された。四年前、漁に出ている間に襲われたって聞いてる。

 壊れた舟と、ズタズタになった遺体が流れ着いてきたとか。その時、凄惨だからと言われて、ボクは二人の亡骸すら見ることができなかった。


 ボクの、今のお父さんとお母さん。

 本当の両親が死んだ時、その二人もすごく悲しんで、号泣してた。


 今のお父さんとお母さん。そしてボクの本当の父さんと母さんは、幼馴染だったらしい。ずっと四人一緒で、その時からこの組み合わせで夫婦になろうって子供の頃から決めてたんだそうだ。


 だから、本当の父さんと母さんが生きてた頃から、ボクも今のお父さんとお母さんのことを知ってる。デレック兄ちゃんのことも知ってて、当時からボクの面倒をみてくれてた。


 本当の両親が亡くなって……ボクは、ひとりぼっちになっちゃった。

 その時、真っ先にお父さんとお母さんがボクを引き取ってくれた。あの二人の一粒種だから、きっと大事にするって。本当の息子にしてあげるって。


 だから……ボクは、この二人のことも、すんなり「お父さん」「お母さん」と呼べるようになった。



 あ……この、部屋。

 前は倉庫代わりにしてたけど……今は、テオさんとシャラさんが使ってる部屋、だ。


「マナヤ、教官……」


 思わず、ぽつりと口から漏れてしまった。

 ちょっと前までは、マナヤ教官がこの部屋からボクに朝の挨拶をしてきてくれてたんだ。


 ボクが成人の儀を受けることになって。でも、ボクの開拓村から召喚師の犠牲者が出たからと、ボクが新しい召喚師に選ばれてしまった。

 その時、ボクは絶望した。

 どうして、両親を殺したモンスターを操る『召喚師』なんかに。どうして、よりによってボクが。


 でも……そんな不安を、マナヤ教官が吹き飛ばしてくれた。

 モンスターは生き物じゃない、道具なんだって。剣や弓と同じようなものなんだって。


 そんなマナヤ教官が……どうして、出て来なくなっちゃったんだろう。



「……の努力は、一体何だったのよ……」


 その時、その部屋から女の人の声が聞こえた。

 思わず、部屋の入口脇の壁に隠れるようにして、聞き耳を立ててしまう。今の声は確か、アシュリーさん。マナヤ教官と仲の良かった赤毛の女剣士さんだ。


「すみません、アシュリーさん。せめて僕が、マナヤと交替さえできたら……」

「テオ、自分を責めないで」


 すぐに、もう二人の声も聞こえてきた。テオさんと、シャラさんだ。

 ……マナヤ教官の話?


「まさかアイツ、このまま消えちゃうつもりじゃないでしょうね……?」


 ――!!

 ど、どういうこと? マナヤ教官が……消える?


「そ、そんな! どうして今になって!」

「だってテオ、アイツだって言ってたのよ。記憶をあんたに移して、自分が消えちゃえば解決だって」

「アシュリーさん! 私は、マナヤさんが今さらアシュリーさんを放って消えちゃうなんて、思えません!」


 記憶を移して……消える?

 どうして? マナヤ教官は、異世界から来た人なんじゃなかったの? 異世界人であるマナヤ教官の魂が、テオさんに宿ったんだって……


「……結局、あたしは失敗しちゃったの? あたしはアイツを……繋ぎとめておけなかったの?」


 マナヤ教官は……居なくなっちゃうの?


「っ!!」


 ……気づけば。

 ボクは家を飛び出して、防壁沿いに我武者羅に走り出していた。



 ***



 どれだけ、走ったんだろう。

 息が切れて、ぜえぜえしながら防壁に手をつきもたれかかった時。既に日が落ちて、辺りが暗くなり始めてた。


 ……どうして、飛び出してきちゃったんだろう。

 ボクが飛び出したところで、マナヤ教官が見つかるわけでもない。何が解決するわけでもない。

 ただ、とにかくじっとしていられなかった。体を動かしてないと、ボクの心がどうにかなってしまいそうだった。


 防壁にもたれかかりながら、ふとそのまま上を見る。

 赤らみはじめた空と、防壁が見えた。


 ……あ、防壁の壁にある、あの凹み。

 まだ本当の両親が生きていた頃、デレック兄ちゃんと遊んでた時に偶然見つけた。防壁の隠し通路の入り口だ。


 懐かしいな。

 あの時、ボクとデレック兄ちゃんは、偶然見つけたあの凹みを押して、通路があったことにはしゃいでた。防壁の外から開くには複雑な操作が要るらしいけど、内側から開くのは簡単だった。


 探検するつもりで、二人で人目を忍んで入っていったんだよね。防壁の外に繋がってるのを見て、慌てて引き返してきて。そして大人たちにこってり叱られたんだ。

 防壁の外にある、森。

 モンスターに溢れる森を見たら、さしものボク達も怖くて引き返すしかなかった。モンスターで沢山の人が死んでるところを、小さかったあの頃のボク達も見てきたから。


 今、ボクが防壁の外に出たら。

 あの時みたいに、みんながボクを探しにきてくれるかな。


 マナヤ教官も……出てきてくれないかな。


「……何考えてるんだろう」


 思わずため息をつく。

 わかってる。そんなことをしたくらいで、マナヤ教官が戻ってきてくれるわけがない。

 アシュリーさんだって無理だったのに、ボクが出ていった程度で戻ってきてくれるなら、苦労はしない。


「……帰ろう」


 きっと今、お父さんとお母さんも……デレック兄ちゃんも、心配してるはずだ。


「……あれ?」


 ふと、脚が止まる。


 どうして、隠し通路の入り口が見えてるんだろう。

 あの通路は、子ども達が簡単に見つけてしまわないように、普段はあんな風に凹んでいなかったはず。

 小さかったボク達も、あそこを押したら凹むことを偶然見つけてしまったから、通路のことを知ったのに。


 振り返って、もう一度通路の入り口を見つめる。

 やっぱり、わかりやすく凹んでる。……どうして?


「――【ロストフォーチュン】」


 ……!?

 なに、この、緑の霧……?

 急に、体から、力が抜けて……


「【エーテルアナイアレーション】」

「か、はっ……!?」


 ――苦しい!

 体に黒い塊が叩きつけられて……頭から、何かが、絞り出される!!


「く、あっ……」


 喉は悲鳴を上げたがってる。でも、さっきの緑の霧で力が抜けて、喉から大きな声が出せない。

 いつの間にか、ボクは地面に転がっていた。立ち上がることができない。


「……っう」


 緑の霧が、晴れた。

 でも、いまだにボクの体は力が入らない。


「兄貴、こいつじゃありやせんかい?」


 数人の、足音。

 ボクを取り囲むように、数人の大人が近づいてきた。


「……銀の髪、髪型、そして歳も確かに十四歳ほど、さらには召喚師の緑ローブか。おい小僧、名前は?」


 痛いっ!

 乱暴に髪の毛を掴まれて、顔を上げさせられた。


 赤髪を後ろで束ねた、無精ヒゲの男の顔が目に飛び込んでくる。村の人じゃ、ない。

 誰かもわからない人に、名乗ってやる必要なんかない!


「っ……」

「チッ、おい」

「【エーテルアナイアレーション】」


 ――また、背後から黒い塊が……っ!


「あぐっ……あっ……」

「喋れるのはわかってんだ。さっさと答えねえと、まだまだ続くぜ」


 頭が、ガンガンする。限界まで無理やり絞り出されるような苦痛が、意識の中を駆け巡る。

 マナが、減ってる! 無くなる前に、モンスターを召喚して、対抗を!


「……しょ、召喚……っ」

「【エーテルアナイアレーション】」

「あぐぅっ!」


 けど、召喚しようとした瞬間にまた黒い塊を背中に叩きつけられた。

 頭を締め付けられるような痛みと、猛烈な吐き気。胸から空気も絞り出されるような感じがする。


「余計な真似をしてみろ、この場で殺しちまってもいいんだぞ? アァ?」


 髪を掴まれるだけじゃなく、喉にまで手をかけられた。


「う、ぐ……」

「もう一度聞くぞ。名前は?」

「こ……コリィ……」


 必死に名前だけ告げると、喉にかけられた手が外れる。

 髪は掴まれたままだけど、掴む腕の力は抜けた。


「確定だな。まさか、侵入して早々に見つけるとは思わなかったぜ」


 ボクの頭を掴んでる男が、取り囲んでる人達に向けて言い放った。


「で、どうしやす。連れてくんですかい?」

「罠を警戒してたが、隠し通路に待ち伏せされてたわけでもねえ。ならまあ、書置きの主に多少の義理立てくらいしてやってもいいだろ」


 書置き……? 何の、話?


「ま、残念でもありますがね。別人だったらこいつを、この場で縊り殺すのを楽しめたんですが」

「騒ぎにならずにひっ捕らえられたのは、良しとしておきましょうかね。どうせ、後でいくらでも村人は殺せるでしょう」


 別の二人の声も、別方向から聞こえてきた。

 ……村人を、殺す?


「な、にを……」

「テメェが知る必要はねぇよ。さ、ズラかるぜ。おっと、その前に一発ブチこんでやれ」

「へい。【クルーエルスカージ】」


 応じたのは、さっきから黒魔導師の呪文を唱えてる男の声。


 ――ドンッ


「かはっ……」


 ボクの頭に黒い球体が叩きつけられた。また、マナを搾り取られる。


「召喚師は、こういう時に面倒だな。ま、しゃあねえ」


 ……抵抗したら、また苦しいことをされる。動けない。まだ、声も戻らない。

 ボクは、赤髪の男の肩に乱暴に担がれた。


「無駄だとは思うが、余計なことをしてみろ。その瞬間に殺してやる」


 ――助けて――


「よし、脱出するぞ」


 ボクを背負った男が、他の大人たちと一緒に防壁をよじ登り、隠し通路の入り口に手をかけた。


 ――誰か、助けて――




 ――マナヤ、教官……!




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