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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第三章 流血の純潔と女剣士の願い
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107話 海上デモンストレーション

「わ、私は反対です! 沖に出て『間引き』をするなど!」


 翌日。

 早朝に舟を取り囲むように集まった村人達の中で、村長補佐をしていた白髪の女性カランが抗議の声を上げていた。

 海上での『間引き』をデモンストレーションすると聞いて、猛反対しているのだ。


「落ち着いて下さい、カラン。どの道、漁をする際に沖には出るのです。危険は変わりませんよ」


 そんな彼女を宥めようとしているのは、駐在の騎士隊である村長代理のアロマだ。しかしカランは譲ろうとしなかった。


「ですから、漁に出る際には察知のために弓術士が乗っていればいい! 万一の守りのために白魔導師がいればそれで十分です! 乗員の数を減らして、モンスターが出たらすぐに逃げれば良い! いつも通りで十分ではありませんか!」

「それで、昨日も危うく漁に出た者達が殺されそうになったのです。二度とそういう事を起こさないために、我々は改善する努力しなければならない。違いますか?」

「そっ、それはそうかもしれませんが! それでも、不安定な海の上で戦うのは危険すぎます!」


 二人はどちらも、譲ろうとしない。カランの妹であるレズリーは、そんな二人をハラハラした様子で不安げに見守っている。


「アロマ殿、カラン殿。少しよろしいか?」

「ディロン様……」

「っ……」


 そんな口論を見かねて、様子を見ていたディロンが口を挟む。明らかに身分の高そうな彼を前に、カランはたじたじとして押し黙った。

 ディロンがそちらに視線を移しつつ、周りの村人達にも聞こえるように話し始める。


「アロマ殿の言う通り、海上の安全は確保せねばならない。食糧事情が苦しいこの村では必要なことだ。それは何よりも貴方がた自身が一番実感をしておられるはずであろう」

「で、ですが」

「しかし、カラン殿の不安も理解できる。ゆえにこうやってまずは、我々が自ら海上での『間引き』を試してみると提案しているのだ。その上で、安全性を可能な限り高める方策をこちらで模索する。今すぐ貴方がたを危険に晒すと言っているのではない」


 言葉に詰まるカラン。ディロンはあくまで冷静に、諭すように淡々と話し続けた。


「我々の戦い方を、まずは村人の皆に見せておきたい。必要なら、村人達自身にも改善案を仰ぎたいとも考えている。それを確認した上で、村人達がなおも納得できぬと言うのであれば、その時にまた抗議すれば良い」

「……」

「とにもかくにも、戦い方を見せねば話にならん。まずはそこからだ」


 反論の糸口を失ったカランを尻目に、ディロンは押し黙っている村人達を見渡した。


「……さしあたって、他に異論はないようだな。それではデモンストレーションを始めたい。マナヤ」

「はい」


 波打ち際へと進み出たマナヤは、そちらへおもむろに手をかざす。


「【ナイト・クラブ】召喚、三体」


 ぱしゃ、と水飛沫を上げながら三体の巨蟹が着水する。その瞬間、集まっていた群衆が息を呑んで後ずさりした。


「まずやることは、単純です。このナイト・クラブの上に乗って間引きをします」

「な、何の冗談ですか! モンスターの上に、我々も乗ることになるとでも!?」


 マナヤの説明に、さきほどの村長補佐カランが金切り声を上げた。


「気持ちはわからんでもありませんがね、別にモンスターの上に乗るのは危険でも何でもありませんよ。……ほら」


 と、マナヤは最後尾のナイト・クラブにヒラリと飛び乗った。叫び声を上げかける村人達もいるが、当然ながら何事も起こらない。


「むしろ沖での間引きは、コイツに乗った方が安全ですらありますよ。電撃が効かないコイツの上なら、クリスタ・ジェルは恐れるに足りませんからね」


 したり顔で説明するマナヤ。

 電撃耐性を持つナイト・クラブに、敵クリスタ・ジェルの電撃は通らない。それが絶縁体となって、ナイト・クラブに騎乗している人間の安全も確保できる。舟に乗るよりよほど安全だ。


 マナヤが目で合図するとアシュリーとディロンが、残る二体のナイト・クラブの上へと飛び乗った。


「さて、テナイアさんとアロマ村長代理は、そっちの舟に乗って下さい。漁を担当する人も」


 と、指で用意しておいた舟を指した。昨日も使っていた漁用の小舟だ。


 木製の舟だというのに、昨日のボムロータスの爆炎を受けても炎上しなかったこの舟。焦げ跡を錬金術で修復したシャラに話を聞くと、貴重な『燃えにくい木材』で造られているとのことだ。この世界の木はおおまかに、燃えやすい木、生木の状態ならば燃えにくい木、加工し乾いてもなお燃えにくい木、の三種類に大別されるらしい。

 思い出してみれば、セメイト村の戦いでも森が焼け落ちるようなことはなかった。


「……私は、モンスターに乗る必要は無いのですか?」

「弓術士なら、最前列じゃなくても十分に敵を察知できますよね? アロマ村長代理はまだモンスターに乗るのは慣れないでしょうし、今日のところは構いませんよ」


 戸惑いながらも、ほっとした様子でアロマが舟へと乗り込んだ。テナイアも、そして今日の漁当番に当たっている村人の男性もおどおどしつつ乗り込み、それを確認したマナヤが頷く。


「えーっと、んじゃ、あと一人……できれば、召喚師に舟に乗り込んでもらいたいんですが」


 と、人だかりの方へと顔を向けるマナヤ。


 ここからは召喚師の動きが重要となる。できれば一人くらいは、直接それを見て参考にしてもらうべく同乗させたい。だが、この開拓村に所属している召喚師達は、騎士隊所属の者達や召喚師候補生達も含めて困惑し顔を見合わせている。


「……ボクが行きます!」


 と、意を決したように進み出てきたのはコリィだった。


「おう、コリィか。できればこの村所属の奴らに来てもらいたかったが、まあいいだろ」

「す、すみません」

「謝んなよ。勇気を出して名乗り出てきたのは上出来だぜ。流石だな」


 と、マナヤが笑顔を見せてやると、コリィの表情もほころんだ。そして、アロマとテナイアが乗っている舟へと乗り込んでいく。

 彼が乗り込んでくるのを見て、漁当番の男性がビクッと身を震わせた。そんな彼をチラリと見たコリィが、悲しげに目を伏せる。


「……んじゃ、出発しましょうか。こっちは結構な速度で移動しますんで、舟の四人はなんとかついてきてください」

「え? は、はい」


 どういうことか今一理解していなさそうなアロマを尻目に、マナヤは先頭のナイト・クラブ二体におもむろに手をかざした。


「【跳躍爆風(バーストホッパー)】!」


 破裂音と共に、アシュリーが乗ったナイト・クラブが前方へと凄まじいスピードで滑り出す。バランスがとれるよう、彼女は屈んで手を甲羅に当てていた。

 同様にディロンのナイト・クラブにも跳躍爆風(バーストホッパー)を、続いてマナヤ自身のナイト・クラブにも同じ魔法をかけて一気に前進していく。


「あっ! お、お待ちください!」


 ようやく理解したアロマが、あわてて舟を漕ぎだした。この移動法は事前に説明はしておいたが、このスピードを失念していたようだ。

 漁担当の男も二つ目のオールを使って進んでいく。


(……あの舟も、ゲンブなりナイト・クラブなりに押させるべきか?)


 舟の後ろに水陸両用のモンスターを配置し、その状態で跳躍爆風(バーストホッパー)で押させて推進させるのもアリかもしれない。今後の課題として、頭の中にメモしておくマナヤ。


「よし、じゃあどんどん行きますからね! しっかりついてきて下さいよ!」

「しょ、承知しました!」


 追いついてきた舟に向かって声をかけつつ、再び跳躍爆風(バーストホッパー)でズンズン沖へと進んでいく。アシュリー、ディロン、そして自身といった順番でテンポよく跳躍爆風(バーストホッパー)を使い続けた。


 あっという間に陸地から離れていく一行。

 後方を振り返ると、もう村人達の姿が粒のようにしか見えなくなる。だが、弓術士ならばこの位置からでも同行を確認することはできるはずだ。


「じゃあアロマさん! 野良モンスターの感知を頼みますよ!」

「了解!」


 追いついてきた舟に向かって叫ぶと、やや息を切らし気味のアロマが慌てて集中しはじめた。すると、同乗していた漁当番の男がおずおずと問いかけてくる。


「あの、私は何もしなくて良いので?」

「確かあなたも弓術士でしたっけ? たまたま感知できたなら教えていただけると助かりますが、今日はとりあえずアロマ村長代理が索敵担当です」

「は、はぁ……」

「なんで、あなたは漁に専念して頂いて構いませんよ。そのかわり漁のポイント案内はよろしく」

「わかりました。では、あちらに」


 との、マナヤの返答にぎこちなく笑っていた。

 そして彼が指示する方向へと、まずはマナヤが跳躍爆風(バーストホッパー)でナイト・クラブに乗っている者達を先行させ、舟がその後についてくる形で移動していく。


「……! 十時方向と一時方向の海中! 距離はそれぞれ九〇〇ケルスに一二〇〇ケルス! 共にクリスタ・ジェルと思われます!」


 その時、アロマが両手でそれぞれを方向を指さす。


 ケルス、というのはこの世界での距離の単位だ。この世界で『肘』を意味する『ケール』という単語から来たもので、手首から肘先までの長さ、すなわち三十センチメートルほどの長さを指す。

 すなわち、敵は約二七〇メートル先と三六〇メートル先にいるということ。


「よし、なら誘い出した方が良さそうだな」

「さ、誘い出す!?」

「え、ええっ!?」


 その提案に目を剥くアロマと漁当番の男。しかし、マナヤは彼女らの方を振り向いて安心させるようにニッと笑ってみせた。


「大丈夫ですよ、仕上がりを特と御覧(ごろう)じろってね。……アシュリー、頼んだぞ!」

「ええ!」


 先頭にいるアシュリーが頼もしく応え、さっそく剣を抜いて身構えた。

 マナヤは手をかざし、新たにモンスターを召喚する。


「コリィ、よく見とけよ! 【魚機CYP-79サイプセヴンティナイン】召喚」


 召喚紋から出現した金属製の魚が着水する。日の光を反射する背びれに向かい、マナヤが一気に補助魔法を唱えた。


「【強制誘引(コンペルド・ベイト)】、【電撃防御(ガルバナイズ・ガード)】、【跳躍爆風(バーストホッパー)】、【行け】!」


 敵に狙われやすくする魔法『強制誘引(コンペルド・ベイト)』がかかった魚機CYP-79サイプセヴンティナインが、水を蹴立てて前方へと一気に飛び出していく。

 すると停止した先で、魚機CYP-79が左側に向かって砲撃を開始した。


「いいかコリィ、これでCYP-79サイプセヴンティナインが攻撃を開始したら呼び戻すんだ。【戻れ】!」


 コリィへと解説しながら、突出した魚機CYP-79サイプセヴンティナインを呼び寄せるマナヤ。アロマもコリィも、身震いをしながら固唾を飲んで見守っている。


 金属の背びれがこちらへと泳いでくるのが見えた。そしてアシュリーが乗っているナイト・クラブの元へとたどり着くと……


「【待て】! 先頭にいる仲間の元に辿り着いたら、そこでCYP-79サイプセヴンティナインを止める!」


 後半は、コリィへの解説だ。

 アシュリーのナイト・クラブに並びながら、その金属製の背びれは来た方向へと向き直る。そして、再び砲撃を開始した。


「――来たな! アシュリー、位置はわかるな!」

「……! そういうことね!」


 声をかけた数瞬後、水面に電撃の渦が広がったのを見て納得顔になるアシュリー。魚機CYP-79サイプセヴンティナインに向け、敵クリスタ・ジェルが電撃を放ち始めたのだ。

 円形状に広がる電撃、その中心にクリスタ・ジェルがいるということ。


「【エヴィセレイション】!」


 掛け声と共に、光に包まれた剣を水面めがけ振り下ろすアシュリー。途端に水面が爆ぜ、一瞬海面が真っ二つに裂ける。

 斬った対象を断裂させる技能『エヴィセレイション』。水面に当たれば水を切り裂き、その先にいるクリスタ・ジェルをも一緒に斬り落とすことができる。


 水が移動する勢いでナイト・クラブが揺れ、なんとか屈んで甲羅に捕まるようにバランスを取るアシュリー。

 水面の電撃はすでに止まっている。代わりに、水面に瘴気紋が浮き出てきた。


「倒したな。コリィ!」

「はっ、はい! 【封印(コンファンメント)】!」


 後方に舟に声をかけると、コリィがすぐさま瘴気紋を封印した。空中に浮きあがった黒い瘴気紋が金色に変化し、粒子と化してキラキラとコリィの手の平に吸い込まれていく。


「マナヤさん、もう一体が来ます!」


 と、そこでアロマが鋭く声を上げた。右前方を指さしている。一時方向のクリスタ・ジェルも反応してやってきたようだ。

 モンスターは、敵の射程圏内に自分が入り込んだと感じた時、そちらへと突撃していく性質がある。射撃攻撃を行う魚機CYP-79サイプセヴンティナインの射程圏に入ったことで、クリスタ・ジェルが誘い出されてきたのだ。


「問題ねえよ、想定通りだ! アロマさん、敵が来る位置に矢を打ち込んでくれ!」


 指示を飛ばすと、すぐさまアロマが矢をつがえて放つ。

 その矢はディロンの見据える先へと着水した。矢は水面で勢いを失い浮かび上がる。クリスタ・ジェルには命中しなかったろうが、目的はそれではない。


「【ダークスフィア】!」


 着水と同時に、既にその方向へ手を向けていたディロンが魔法を放つ。途端、矢が着水した辺りに、巨大な黒いエネルギーの球体が出現。

 闇撃の範囲攻撃を行う攻撃魔法、『ダークスフィア』。


「……倒した、んですか?」


 コリィが驚いたように手を口元に当てる。黒い球体が消えた後に、また瘴気紋が浮かんできたからだ。


「そういうこった。大まかな位置を弓術士に指示してもらえりゃ、黒魔導師の範囲魔法で対処できるだろ? ま、これはこの開拓村では定番の戦術だって聞いてるが、召喚師がこうやってモンスターを引き寄せればもっと楽にハマるのさ」

「な、なるほど!」


 不敵な笑みを向けるマナヤに、感心顔で目を輝かせるコリィ。


 弓術士は海中の敵の位置を把握できるが、攻撃は通らない。黒魔導師は水中にも攻撃できるが、海中を見通すことはできない。お互いが巧く協力すれば、こうやって短所を補い合うことができる。

 そしてそれを誘導するのが、召喚師が呼び出す召喚モンスターの囮作戦だ。囮に向かって一直線にモンスターが向かってくる、それがわかっていれば軌道を読みやすく、黒魔導師も準備がしやすい。


(『森林の守手』が行き渡ってりゃ、こんな苦労も要らねぇんだけどな)


 錬金装飾(れんきんそうしょく)森林(しんりん)守手(もりて)』。これを使えば、弓術士以外でも敵の位置を把握できるようになる。

 だが錬金装飾(れんきんそうしょく)を量産するのは難しいし、錬金術師でなければマナの補充もできない。錬金術師が一人しかいないこの開拓村では、『間引き』参加者全員に行き渡らせるのは難しい。仮にできたとして、マナの補充も間に合わないだろう。


「さて、そこの人。漁は普段、どの辺でやってるんです?」

「……えっ? あ、は、はい、この少し左、岩礁の辺りにきっと……あ、ありました!」


 マナヤが舟で茫然としていた漁当番に話を振る。すると彼は左の方向を見やり、そして何かを見つけたようだ。そちらへとオールを漕いでいく。


 到着した先の海面に、何かオレンジ色の『浮き』のようなものがいくつか直線状に並んで浮かんでいた。マナヤが眉を顰める。


「これは?」

「この並んだ浮きに沿って、海中に網が張ってあるんです。で、こいつを引き揚げれば……っ!」


 マナヤの問いに説明しながら、その浮きを一つ掴んで思いっきり持ち上げる。その下にくっついていた、網がざばっと姿を現した。かなり広い網のようだ。透明に近い水色の紐を結って作られているらしい。

 漁当番の男が、その網をどんどん手繰り寄せながら舟の上に引っ張り上げる。


「おー……え、魚が網に突き刺さって……いや、絡まってるのか」


 そんな様子を観察していたマナヤが、引き揚げた網に何匹か魚が絡まりついているのに気づいた。


「ええ。この網は魚に絡みつきやすくできているんです。これを海中に漂わせて、魚を獲っていくんですよ」


 少し顔をほころばせながら、どんどん網を引き揚げていく漁当番。最初はマナヤ達が乗っているナイト・クラブにややビクついていた彼だが、慣れてきたようだ。むしろ、複数の戦士に守られているという安心感すら伝わってくる。


「なるほど。その網はそこだけですか?」

「えっ……と、いえ、確かもう少し先にも網を降ろしたはずです。モンスター群を回避しないといけないので、予備用として複数張ってますから」

「なるほど。じゃ、後でそっちにも行ってみましょうかね。モンスターが出てきても、これだけ人数がいりゃあ撃退できますよ」


 と、マナヤが伝えると男は心なしか嬉しそうにほほ笑む。食糧事情が厳しいこの村では、網を全て引き揚げられるならむしろ大歓迎なのだろう。


 この場の網を引き揚げ終わった漁当番が、新たに網を降ろしていく。


「コリィ、俺達は封印だ! 終わったら、漁当番さんの言う先に向かうぞ!」

「は、はい!」


 コリィに二体目のクリスタ・ジェルを封印させ、改めて漁当番が差していた方向へと視線を向ける。

 マナヤとアロマに促され、漁当番が舟を漕ぎだした。



 そして、辿り着いたポイントで新たな網を引き揚げる。

 舟には、すでに漁当番が揚げた網から獲れた魚が大量に積まれていた。魚のみならず、貝類や甲殻類も一緒に獲れている。


「――マナヤさん! 奥に敵影を確認! 十二時方向、距離一五〇〇ケルス! ボムロータスです!」


 そこに突然アロマが前方を指さして警告。漁師がビクッと身を震わせていた。

 マナヤはすぐさまそちらへと向き直り、その方向を仰ぎ見ながら指示を出す。


「了解! じゃ、跳躍爆風(バーストホッパー)一回分の距離だけ近づくか」

「えっ? あの、私はまだ攻撃しないのですか?」


 アロマが困惑して声をかけてくる。

 弓術士のアロマが感知できたということは、すなわち弓術士の射程圏内だ。水上に浮かんでいるボムロータスなら、弓術士の遠距離射撃で一方的に倒すこともできる。


「まずは少し近寄ってみます! 他にも敵が居るようならすぐ教えてください!」


 だが、マナヤには一つ考えがあった。もしかしたら、それをここで巧く披露できるかもしれない。

 跳躍爆風(バーストホッパー)を一回使って、十二時方向へと進み出るアシュリー、ディロン、マナヤ。アロマ達が乗っている舟もそれを追って近づいてきた。


「……! マナヤさん、奥に追加の敵影が!」

「種別と数は!」

「先ほどのボムロータス後方に、ナイト・クラブ一体、魚機CYP-79サイプセヴンティナイン一体、それから……空にも鷲機JOV-3(ジョウヴスリー)!」


 鷲機JOV-3(ジョウヴスリー)とは、文字通り鷲を象ったロボット型の飛行モンスターだ。『機甲系』の中級モンスターに属する。


 ――完璧な布陣じゃねえか!


 アロマの報告に思わずほくそ笑んでしまった。これは、ちょうどいい()()になる。


「コリィ!」

「は、はい!」

「今の、聞いてたな! この場合どうすればいいと思う?」

「え、えっ!?」


 まだ安全圏なので、この際コリィにも訊ねてみる。自分に振られるとは思っても居なかったのか、慌てた様子で考え始める。


「えっと、どれも水面に出てるモンスターですから、弓術士の遠距離射撃で一方的に倒せるはずです!」

「ま、模範解答だな。お前が召喚師じゃなけりゃ、だが」

「……え?」


 目をぱちくりさせるコリィ。前方を見続けていたマナヤは、ニンマリ顔になってコリィへと振り返る。


「一つ、教えといてやるよ。召喚師らしい戦い方って奴をな」

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