102話 家族の在り方
――コリィの家族、か?
コリィの呟きを拾ったマナヤが、首を傾げながらそう推測する。
妙なのは、目の前にいる彼の家族と思しき三人の容姿だ。父も母も、そしてこの兄らしき少年も全員が黒髪。対してコリィは銀髪だ。この家族達の中で、コリィだけ髪色が浮いている。
「コリィ……お前、召喚師に……?」
父親らしい男性が、やはり震え声でコリィへと向かって数歩近寄ってきた。差し伸べられたその手は、やや戸惑い気味に宙を彷徨っている。
「ごめん……な、さい……」
コリィはより一層震えを強くしながら、フードを被って縮こまってしまった。
(そうか、家族から怯えられることになるから……クソ、バカか俺は)
今さらながら気が付いた。
村人がほぼ全員、召喚師にこれだけの恐怖心を抱いているのだ。ならばコリィの家族からも怯えられるのは当たり前の話。そんな簡単なことにも気づかなかった自分自身を罵るマナヤ。
しかし。
「――なぁーに謝ってんだよ! コリィ!」
突然駆け寄るようにコリィの元へと近づいてきた、兄らしき少年がバンバンとコリィの背を親しげに叩く。その声も、場違いなほど明るい。
思わずマナヤがギョッとする中、コリィも驚いたようでフードからちらりと顔を出しながら、自分の横に来たその少年へと視線を向ける。
「で、デレック……兄ちゃん」
「お前が召喚師になったから、何なんだよ? そんなことでお前を避けるような男に見えたか? オレはお前の兄貴だぞ?」
ニッと歯を見せ、底抜けの笑顔を彼に向けるデレック。
その声に続くように、両親らしき二人がコリィへと近寄ってきた。そして、フード越しに彼の頭に手を置く彼の父親。
「デレックの言う通りだ。……お前が召喚師になろうが、父さんはコリィの父さんだ」
「ええ、そうだよコリィ。あたしも、あんたの母さんなんだからさ。だから余計な心配してんじゃないよ」
母親がコリィの正面でかがみ、彼の顔をフードの下から覗き込む。そして、その震える頬をそっと撫ぜた。
コリィが顔を上げ、三人の家族をゆっくり順番に見やる。
「で、でも……ボクが召喚師になっちゃったら……」
「大丈夫だ。父さんたちは、気にしないぞ」
「あんたが心配することじゃないさ、コリィ。……よく、戻ってきてくれたね」
と、ふくよかな母親がふわりとコリィの体を抱きしめる。母親の背後へと回り込むように移動したデレックが、抱きしめられたままのコリィの顔をまっすぐと見つめ、陽気に言い放った。
「心配しすぎなんだよ、コリィは。いつまでも遠慮なんかしてんな!」
瞳が揺れていたコリィが、掠れるような声で問いかける。
「……ボク、家族で、いいの? ……デレック兄ちゃんの弟で、いいの?」
「ったり前だろ!」
ピンッとコリィにデコピンするデレック。その瞬間、コリィの両目から一気に涙が溢れだした。
嗚咽を上げながら静かに泣き続けるコリィを、彼の家族が暖かく見守る。
(いい家族じゃねえか。”兄ちゃん”……か)
予想外の展開ながら、マナヤはそんな家族達を見て心が暖かくなるのを感じていた。傍らでもシャラがそっと目元を拭っている。
兄ちゃん、という言葉の響きに、マナヤはかつて自分が兄だと思っていた男の顔を思い出す。
いつの間にかまた、列の歩みが止まっていた。コリィの父親が列の先頭へと歩いていき、モール教官に問いかけてくる。
「教官の方。うちの息子は、この後何か予定はありますか」
「……えっ? いえ、この後は各々宿で休みを取るだけですが」
モール教官がやや戸惑いがちに答える。もうすでにだいぶ日が傾いてきていた。本格的に実習訓練を始めるのは、早くとも明日からになるだろう。
答えを聞いた父親が、真剣な表情でモール教官へと提案してくる。
「では、コリィはうちに帰宅させてやってはくれませんか」
「……え?」
「実習が始まる頃には、そちらへと向かわせます。コリィはうちに泊まらせて下さい」
と、手を胸に当てる礼を取る父親。モール教官はしばらく目を泳がせていたが、じきにゆっくりと頷いた。
「わかりました。それではコリィ君はご家族にお預けします」
「ありがとうございます」
ほっとした表情で父親が礼を言い、こちらに小走りで戻ってきた。コリィが吃驚眼でぱちくりと父親を見つけ返す。
「聞いての通りだ、コリィ。……帰ろう、うちへ」
「おう! 母さんの夕飯食ってけよ、久しぶりだろ?」
父親がコリィのフードを剥ぎ取って肩に手を置き、デレックも笑いながらコリィに肩を回す。
それを聞いて、母親がクスクスと笑いながらコリィの手を取った。
「そうだね。帰っておいで、コリィ。母さんたちのうちへ」
「……うん……!」
涙を繰り返し拭いながら、コリィが頷いた。
が、母親に手を引かれたところで、はたと思い出したように母親の顔を見上げる。
「――そうだ! お母さん、お父さん、ボクが教わってる教官も一緒に誘ったらダメかな?」
と言って、くるりとマナヤの方へと振り向いてきた。
***
「すみません、私達の分までごちそうになっちゃって」
シャラが恐縮するように謝罪し、コリィの母親から器を受け取る。
「いえいえ。一時的とはいえ、まさかコリィが戻ってきてくれるなんてね。そのお祝いみたいなもんですから、皆さんも遠慮なさらずに」
と、朗らかに笑いながら全員に料理を手渡しているのは、コリィの母親だ。
結局、マナヤ、シャラ、そしてアシュリーもまとめてコリィの家にお世話になることになった。食事どころか、寝床まで提供してくれるという。思いのほか大きい家で、寝室も余っているらしい。コリィの教官とその関係者なら喜んで、と二つ返事で受け入れてくれたのだ。
「おっ? これって、生魚か? 刺身か!?」
と、マナヤが食卓中央に置いてある大皿の中身を見て、身を乗り出した。その皿には、彼には見覚えのある魚の切り身が並べられている。赤身と白身の二種類の刺身だ。王都で見た『闇煮』なる料理と違い、調理痕が残っていない。
マナヤの嬉しそうな反応に、コリィの父親が意外そうな顔を向けた。
「うん? ええと……マナヤさん、でしたか。生魚を食べたことがあるのですか?」
「敬語は結構ですよ。ええ、俺は生魚をそのまま切り身で食べるのが好きでして。あっこっちは、これか海藻のスープって! サールとか言いましたっけ?」
「ええ。これは珍しい、外からのお客さんは、生魚や海藻が苦手だと聞いていたんだけどね」
父親が笑顔を見せる。そして興奮気味のマナヤを同じく嬉しそうに見ているのはコリィだ。
サールという海藻は、昆布やワカメとは全く違う形をしていた。例えるなら、ヤシの葉をローズマリー程度のサイズまで小さくしたようなものだ。ごく細い茎にびっしりと薄く長い緑の葉が並んでいる。その海藻サールがスープの中に入っていた。顔を近づければ、仄かに磯の香りが広がる。
「な、生魚に海藻、ですか……」
「え、魚、生で食べるの……?」
一方、やや引け腰になっているのはシャラとアシュリーだ。火どころか闇撃での調理すらされていない魚に怯えている。シャラは海藻の方にも戸惑っているようだ。
それを見たコリィの兄であるデレックが、豪快に笑い飛ばした。
「なんだ、そっちの人達は生魚がダメなんだ? だらしねー」
「こら、デレック。仕方がないだろうさ、外からの人には見慣れないものなんだから。すみませんね、お二人とも」
そんなデレックの態度を叱る母親。「すんません」と素直にシャラとアシュリーに謝罪し、二人は戸惑いながらも謝罪を受け入れている。
「さあ、召し上がれ」
母親の言葉と共に食事が始まると、マナヤは真っ先に刺身へと手を付けた。醤油は無いようだが、代わりに赤みがかった液体が漬け汁として用意されている。
その汁を刺身にちょんちょんと漬け、口に入れてみた。すると、レモンと大葉のあいのこのような、不思議な風味が広がる。そういう香草をすり潰して液状にしたものが、あの漬け汁であったらしい。
刺身自体の味は、マナヤの予想通りのものだった。白身は歯ごたえがあり、それでいてどこか強い魚の脂を感じる。赤身の方は逆に身が柔らかく、だがどっしりと構えるような重厚な味わいを感じた。この赤身の方はおそらく、王都の食事処でも出た『クコ』という魚だろう。
どちらも、鮮魚特有の生臭さは多少感じる。が、大葉にも似た香草の漬け汁がそれを緩和していた。
「……あ、あれ? これ、案外普通に食べれる……?」
白身の端っこをちょこっと齧ったアシュリーから意外そうな声が漏れた。その一切れを今度はたっぷりと漬け汁に浸し、まるごと口に入れる。咀嚼していくうちに、アシュリーの目が驚きに見開かれた。
そんな彼女の様子に、コリィの母が微笑みかける。
「うまいだろう? 生の魚は、健康にも良いんですよ」
「んくっ……そうなの? いえその、魚に限らず生肉とかもお腹を壊すって聞いたことあるんですけど」
「一度、黒魔導師さんに凍らせて貰えば大丈夫なんですよ。一度冷凍させた魚でお腹を壊した人は、この村にゃ居ないんですから」
やや戸惑いがちに訊ねるアシュリーに、コリィの母は恰幅の良い腹を揺らしながら笑った。
へー、とそれに相槌を打つアシュリーは、さらにもう一切れを口に入れた。
「……うん、美味しいかも! ちょっと匂うけど、うん、普通にイケるわ。ほら、シャラも食べて見なさい」
「い、いえ、私はいいです」
今度は赤身の方も汁をつけながら、シャラにも勧めてみるアシュリー。しかし、シャラは生魚はどうしても口に入れる気にならないのか、無難に塩焼きを口にしている。
そんな二人のやり取りを尻目に、マナヤは今度は海藻のスープに口をつける。まずは汁だけ啜ると、予想通り一気に磯の香りが口の中いっぱいになる。味付けは塩の他、マナヤには食べたことのない独特の風味を感じる。海藻から出た出汁だろうか。
そしてスプーンでその海藻を拾い上げ、それに噛り付く。コリュ、というキクラゲのような強い食感が返ってきた。海藻そのものには強い塩気を感じるが、それ以外には特筆した味を感じない。が、やはり汁にも多少あった風味が強く口に広がった。
(うん、昆布でもワカメでもないが、これはこれで美味い)
と、そこでふと気になったマナヤは、一旦漬け汁をつけた刺身を一切れ口に入れる。それを口に残したまま、海藻のスープをも啜ってみた。
(お、やっぱり)
予想通り、刺身と漬け汁、そして海藻の風味が合わさると絶妙な味わいになる。色々な香りが混じり合い、ちょっとした和風出汁のような風味だ。
「あ、ほらマナヤ教官! こっちの煮物も食べてみて下さい!」
「お、ありがとよコリィ。……ん、うまい! というかなんだコリャ、骨まで食えそうだぞ」
「柔らかいでしょう? この魚はちゃんと煮ると骨までホロホロになるんですよ」
マナヤの隣に座っているコリィが、すっかり明るい笑顔になってマナヤに料理を勧めてくる。すると彼の兄であるデレックも乗ってきた。
「おし、じゃあマナヤさん! 生魚とスープの同時喰いなんてどうです!」
「あっ、ちょっとデレック兄ちゃん! 罠な食べ合わせを勧めないで!」
「あ? それダメな食い合わせなのか? さっきやったけど普通に美味かったぞ」
事も無げにマナヤが答えると、驚きの表情を浮かべた二人が微妙に顔を引き攣らせている。
「……え? マナヤさん、あんたホントにやったのかそれ」
「ま、マナヤ教官、それ美味しかったですか? すごく臭くなると思うんですけど……」
「いや、ソレが良いんじゃねーか」
と、もう一度刺身とスープを同時に口に入れてみせるマナヤ。
そこではたと気が付いた。そういえばこの世界の住人は、複雑な味や香りが得意ではなかったはずだ。日本食は複雑な味がデフォルトだったし、この村の料理がかなりそれに近い食材が使われている。なのですっかりあちらの世界の感性に戻ってしまっていた。
「……えーと、うん。ごめんマナヤ、これは無いわ」
スープをすすったアシュリーが顔をしかめていた。刺身の直後にスープを飲んだので、口の中で匂いが混ざったようだ。
どうやら彼女にもその組み合わせは受けなかったらしい。お茶のような飲み物で流し込んでいた。
「え? でも、だったら何で刺身とスープを一緒に食卓に並べてるんだ?」
「マナヤさん、アシュリーさん。生魚を食べた後はこっちで口直しをするんだよ」
と、父親が指さしたのは真っ黄色の煮豆のような料理だ。それを口に入れてみると、予想外にガツンという酸味が来た。刺身の漬け汁とは質の違う強烈な酸味。まさか豆からそんな味がするとは思わず、目を白黒させる。
しかしその酸味は、すっと一瞬で口の中から抜けていった。その後、爽やかな後味だけが残る。すっかり口の中をリセットされた気分だ。
「――ん! あ、これなら食べられるわ。面白い歯ごたえね」
その豆を食べた後、再び海藻のスープを恐る恐る口にしたアシュリーが、何度か咀嚼を繰り返してからそう感想を漏らす。口の中をリセットさえすれば、彼女はこの海藻の方も気に入ったようだ。
一方のシャラは、やはりというかなんというか海藻のスープにも戸惑っていた。一口啜って顔をしかめている。どうやら豆を使っても好みには合わなかったらしい。
そんな様子を見て、マナヤはふと閃いてコリィの父に訊いてみた。
「へー、面白いですね。あ、じゃあこの豆をスープに入れちゃダメなんです?」
「いやいや、それじゃあスープが豆の味一色になっちゃうだろう」
「あーなるほど。じゃあ、漬け汁の方に入れるってわけには?」
「マナヤさん、どうしてそんなに食材を混ぜたがるんだい?」
と、マナヤと父親の間で広がる会話。そんなやり取りをシャラが何故かハラハラしたような様子で見守っている。
「も、もう、マナヤさん! この世界じゃ味を混ぜるのは恥ずかしいことなんですから、やめてくださいっ」
「お、おう、悪ぃ」
しまいには真っ赤になったシャラに怒られてしまい、すごすごと引き下がるマナヤ。
「あら? 今さら気づいたけど、この器すっごく綺麗ね」
と、大分空きができた刺身の皿を覗き込み感嘆の声を上げるアシュリー。
食器に使われている、やや半透明に近い真っ白の石。中に青い文様のような色が入り込んでいる石だ。赤身の刺身が盛り付けてあると、そのコントラストが美しい。
「ん? あ、確かに。陶器……いや大理石か? いや、それもちょっと違うな」
「ダイリセキ?」
「ああ、前の世界にゃそういう石があったんだが」
首を傾げるアシュリーに、軽くマナヤが説明する。実際大理石に似ているが、マナヤの知る限り『青』の混じった大理石など無いはずだ。
コリィの母が、少し誇らしそうな顔になって説明してくる。
「綺麗だろう? 海曜岩っていってね、村の北の方に、その採石場があるんだよ。そこの石を、建築士さんが加工して作ってくれるのさ」
「あ、そうか、石だから建築士さんでいいんですね。塗装じゃなくて、元々の石の模様なんだ」
と、シャラが自身の小皿をそっと持ち上げて眺めていた。皿や日用品の塗装なども、錬金術師の管轄だからだろう。青い文様が、石そのものの色であることに気づいて感心している。
そのような、和やかで暖かな夕食が続いた。
***
「……ん?」
その日の晩。
食事を終えたマナヤは窓の外を見て、コリィが地面に座り込み空を見上げているのを見つけた。
「どうした、コリィ」
そっとマナヤも外に出て、コリィに背後から声をかける。コリィの家は防壁のすぐ傍にあり、彼は防壁と家の隙間から月を見上げていた。
ゆっくり振り向いた彼は、泣きそうな顔をこちらへと向ける。
「マナヤ、教官」
「どうした、そんな顔して。せっかく家族にも受け入れて貰えたんじゃねーか」
どっかりとコリィの横にあぐらをかいて座り込む。久々に海産物を堪能したマナヤは上機嫌で、いつもよりお節介をかけてやりたい気分になっていた。
遠くに波の音が聞こえる。沈黙を続けるコリィを見て苦笑したマナヤは、波の音が聞こえる方向へと目を向けて口を開いた。
「この波の音と潮の香り。昔、異世界で海辺に連れて行ってもらった時のことを思い出すよ」
史也がマナヤを連れ出し、海水浴場へと連れて行ってもらったことがある。異世界に渡って三年目のことだ。
今思えば、マナヤのために思い出作りをしようとしてくれたのかもしれない。ふとそんなことを考えてしまいつつ、自嘲気味に笑った。
(結局俺は、史也兄ちゃん……史也さんの弟でも何でも無かったってのにな)
などと心の中で自分自身に呆れていると、ぽつりとコリィが呟いた。
「……違うんです」
「あ? 違うって?」
意味がわからず、思わず聞き返してしまう。するとコリィは、さらに顔を俯かせて語り始めた。
「あの三人は……ボクの、本当の家族じゃないんです」
何を言えばいいかわからず、そのままコリィの言葉を待つ。
「マナヤ教官。ボクだけ髪の色が違うの、気づきましたか?」
「……ああ」
「ボクの、本当の両親。……四年前、モンスターに殺されたんです」
瞬間、マナヤはシャラのことを思い出す。彼女もまた、実の両親を殺され、テオの家族に引き取られた。
「そうか。それで、今の家族に迎え入れられたんだな」
「はい。この村には、孤児院はありませんから。ただボクも最初は、みんなとどう接していいかわかりませんでした」
座ったまま、ぎゅっと自身の脚を両手で抱えるコリィ。
「でもみんなは、ボクを実の家族みたいに扱ってくれました。呼び方も……他人行儀じゃなく、ちゃんと『お父さん』『お母さん』『兄ちゃん』って呼べ、って」
「……」
「特に、デレック兄ちゃんは……本当にいつも、ボクのことを気遣ってくれて。面倒もしっかり見てくれて……本当の兄弟じゃないはずなのに、自分の面倒だって増えるはずなのに。それでも、ちゃんと兄弟として接してくれたんです」
――本当の兄弟じゃないはずなのに?
再び史也の顔が浮かぶ。
彼も同じだ。マナヤのことは弟でも何でもないはずだったのに、ちゃんと兄として接してくれた。赤の他人であるはずの自分を受け入れ、生活の一切の面倒を見てくれた。
コリィが顔を上げる。その頬に、一筋の涙が伝っていた。
「だから、ボクが召喚師になっちゃって。そして、この村に戻ってくることになって……」
「……」
「すごく、怖かったんです。……召喚師になっちゃったボクは、もうみんなに家族として受け入れて貰えないんじゃないか、って」
「……そうか」
ポンポンと、コリィの頭を撫でるように叩く。
(こいつは、俺と同じだったんだな)
本当の家族でない人達にも、本当の家族として接してもらった。兄ではないはずの人間にも、ちゃんと肉親と同じように接してもらった。
そして今、自分が『受け入れられないんじゃないか』という劣等感に怯えている。
「良かったじゃねーか。お前の家族は、召喚師になっちまったお前も、ちゃんと受け入れてくれてる」
「はい。……でも」
「でも?」
「家族から、『召喚師』が出ちゃったら……きっと、迷惑がかかる」
思わず、頭を撫でるマナヤの手が止まる。
「知って、ますか、マナヤ教官。この村……モンスターに襲われて、死んじゃった人が多いんです」
「……だろうな」
「だから、モンスターを操る『召喚師』は……たとえ必要だったとしても、歓迎されません」
抱えた膝に、頭をうずめるコリィ。
「『召喚師』に選ばれた人、はっ……家族、も、村人達に、嫌われるんです……っ」
「ッ!」
「だからっ……ボク、みんなに、迷惑、かけたくっ、ない……っ」
それほどまでに、コリィは思い悩んでいたのか。
マナヤは、彼が村に帰ってきた時に怯えていた本当の理由に気が付いた。
彼の今の家族。彼らが、『召喚師』になってしまったコリィを拒絶する可能性もあった。本当の家族でもないのに、『召喚師』を受け入れてくれるか、わからなかった。
そして、何より。本当の家族でもないのに『召喚師』を迎え入れてしまって、村人に家族ごと拒絶されたら。
自分のせいで、嫌われる必要が無かった家族まで村人達に嫌われてしまったら。
コリィは今もなお戦い続けているのだ。その罪悪感と、怖れに。
「……大丈夫だ」
だからマナヤは、元気づけるように言ってやった。
「俺が、召喚師を変えてみせる。お前にも、お前の家族達にも、辛い思いはさせねえよ。約束だ」
コリィが膝に顔をうずめたまま、小さく頷くのがわかった。




