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【改稿前作品】別人格は異世界ゲーマー 召喚師再教育記  作者: 星々導々
第一章 召喚師の降臨と錬金術師の献身
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10話 指導の開始

「……う」


 窓から差し込む日の光と、風に運ばれた土の匂いで、マナヤは目覚めた。

 置時計のような道具を確認する。朝の六時。地球ならばまだ寝こけていた時間だ。


「……うーん」


 だが、慣れない世界、慣れない寝具であったせいか、すっかり目が覚めてしまった。

 二度寝したくても何故かできない、というのは、マナヤにとっては初めての体験だ。

 仕方なく寝具から降り、身支度を始めることにする。


(ちょうどいいか、今日は忙しくなんだしな)


 慣れない異世界で無駄に生活リズムを狂わされるよりは、早寝早起きの健康的な生活ができるに越したことはない。

 マナヤは扉の付いていない自室を出て、顔を洗うために、水の錬金装飾を取りに行った。



 ***



「さて、召喚師のお仲間は揃ったんだろーな」


 テオの家で身支度し、朝食を摂ったマナヤは、さっそく召喚師用の集会場に足を運んだ。

 集会場はほとんど使われたことがなかったらしく、昨日訪れた時は埃だらけだったので、集会場の体裁を整えるために大変だったのだ。

 掃除用の錬金装飾があって本当に良かった。マナヤはそう実感していた。


 キイ、と音を立てて、木の匂いを強く感じる扉を開く。

 既にそこには、このセメイト村に所属する十一名の召喚師が揃っていた。マナヤ自身を含めれば十二名だ。

 会議用に、四角く並べられた長机の周りに座っている。さらに最後方では、騎士隊に所属した先日の召喚師長が予備の椅子に座っていた。


 このセメイト村は正十二角形の防壁に囲われており、その頂点それぞれに召喚師用の宿舎がある。どの方角からモンスターの襲撃があっても、誰かがすぐに現場に駆けつけて『封印』できるようにするための措置だ。

 マナヤが目覚めたのも、テオに割り当てられた宿舎の中だった。


 千人もの人口が居るこのセメイト村に、たった十二人しか召喚師が居ないというのが、どうにも信じがたいマナヤであった。何しろ、モンスターを封印して再発生を封じることができるのは、召喚師だけのはずなのだ。


「……って、揃いも揃ってなんですその顔は」


 集会場に揃った緑ローブの召喚師達。その顔ぶれを見回し、マナヤは思わず呆けてしまう。

 全員、どんよりとした顔で俯いているからだ。まるで部屋全体が一段階と暗く、空気すら重くなったように感じる気さえしてくる。


「テオくん……いや、ええと……マナヤさんでしたか」


 白い髪をした中年の男性召喚師が、顔を上げてマナヤに話しかけてきた。


「私達に指導するとのことですが……私達に、”英雄”とまで言われた貴方ほどの活躍は無理ですよ」


 代表するようにそう言って、大きなため息を吐く。


 彼らが卑屈になる理由も、マナヤはなんとなく理解できた。

 英雄となったマナヤに嫉妬しているわけではない。ただ単に今まで、召喚師に選ばれてしまった時点で”貧乏くじを引いてしまった”という認識が、彼らの間にはずっとあったのだろう。


 無理もない。

 人には避けられるか腫れ物扱いされる。戦いの場に出向けば、ただひたすら適当なモンスターを肉壁として突撃させるしか手がない。なのに周囲からは『モンスターの影に隠れているだけの臆病者』扱い。場合によっては『封印(コンファインメント)』だけしていれば良いとすら言われる。他のクラスと違って、まともに花形として活躍することなど夢のまた夢。そのように()()されてきたのだ。

 実際テオの記憶の中にある学園でも、徹底的に「人との関わりは避けるように」と厳命されていたようだ。


「……あー、(わり)ぃけどこっちの口調で行かせてもらうぞ」


 敬語を使おうかとも思っていたマナヤだったが、そんな考えは窓から投げ捨てることに決めた。

 彼らは学園での間違った理屈に()()されている。今の彼らに必要なのは上品な教師などではない。考えを根底から無理やり改めさせる鬼教官だ。


「まず聞きたいんだが、お前ら普段はどんな訓練をしてる?」


 学園での教育方法は一応テオの記憶にあったが、これは全くアテにならないことが既に判明している。どうせ村で日常的に行われている訓練もツッコミどころだらけに違いない。

 マナヤはとくに、テオが訓練していたような記憶は掘り出せなかった。きっとテオはショックから引きこもってしまい、訓練をサボっていたのだろう。


 ……と、そう思っていたのだが。


「訓練……? 訓練なんて何もしていませんよ」

「は?」


 白髪の中年から返ってきた言葉に、マナヤの目が点になる。


「ちょっと待て。じゃあお前らは普段、出撃がない時は何やってるってんだ?」

「そりゃ、宿舎に篭ってじっとしているんですよ。下手に外に出ても、住民に迷惑がられるだけですからね」


 などと他人事のような顔をして語る中年。マナヤは思わず、机をダァンと叩いて憤慨する。


「ふざけんじゃねぇ! お前ら、命が懸かった実戦だってあるってのに、何の備えもしてねえのかよ!!」

「ならば聞きますがね!!」


 ところが、中年はマナヤよりも大きな声を張り上げ反論してきた。


「訓練などと言っても! 一体何をどう訓練しろというのですか!」



 ***



「……あー」


 マナヤは、中年の召喚師から一通りの話を聞いて頭を抱えた。


 ――この世界の召喚師、(しつ)が悪い理由の一端が見えちまった。


 そう心の中で毒づきながら、頭をバリバリとかきむしる。


 結論から言うと、この世界の召喚師は訓練や演習などのほぼ一切ができない。というより、()()()()が無いのだ。

 それは召喚師、ひいては召喚師が召喚するモンスターの性質によるものだった。


 そもそも召喚師が呼び出した召喚獣は、原則としてたった三種類の命令しか下すことができない。

 すなわち、【行け】【待て】【戻れ】の三種類。

 【行け】は、一定範囲内で最も近い位置に居る敵を感知して、攻撃しに行く。

 【待て】は、その場で待機する。その際、敵の攻撃射程圏に入った場合、もしくは自分の攻撃射程圏に敵が入り込んだ場合のみ攻撃する。

 【戻れ】は、一切の攻撃をやめて召喚師の元へと集合する。


 ……つまるところ、モンスターは明確に『敵』にしか攻撃できない。だから、模擬戦を行うことができない。


 やろうと思ったら、模擬戦の相手に『殺意』に近い敵意を向けるか、あるいは逆に模擬戦の相手に自分へ殺意を向けてもらうしかない。たかが模擬戦でそんな殺意を向けることはまず不可能だ。

 仮にできたとして、そうなれば訓練どころか、凄惨な殺し合いが始まることになるだろう。

 なぜなら、モンスターは『手加減ができない』からだ。剣士による模擬戦などと違い、モンスターには『寸止め』などという器用なことはできない。


 弓術士がやるような木の人形などをマトにする練習も、まず不可能だろう。『木の人形に本気の殺意を向ける』ことができるような人間が居たら、それは間違いなく狂人だ。


 つまり、召喚師が練習らしい練習をしようと思ったなら、その方法はただ一つ。野良のモンスターを見つけて文字通り実戦で経験を積む、それしかない。

 そして、命がけの実戦で『新しい戦術の実験』などやっている余裕はまず無いだろう。野良のモンスターに出会ったら見敵必殺。それがこの世界の常識だ。

 それに召喚師には封印(コンファインメント)という重要な役割もある。そんな中で、確かめられてもいない新戦術を試したい、などと言われて誰が了承するだろうか。


「よしわかった」


 マナヤはパン、と手を叩いて言った。

 やることは変わらない。最初から、ロクでもない訓練だったら辞めさせるつもりだった。今日やらせることはもう決めてある。


 マナヤは長机の周りをまわって、各人の間に紙を配っていった。


(わり)ぃが、六枚しか書き上げられなかったんでな。二人一組で見ながら使ってくれ。……召喚師長さんも、よければどうぞ」


 困惑した顔をする召喚師達を見回しながらそう伝えると、彼らはおずおずとその紙を見る。同席している召喚師長も椅子を机に寄せ、覗き込んできた。


「――ま、マナヤさん!? これって……!」


 突然、緑髪のおかっぱ女性が声を張り上げた。その姿と声には覚えがある。スタンピードの際、封印(コンファインメント)を任せた女召喚師だ。


「ああ、モンスター達のステータス――ええとまあ、能力を数値化したようなもんだと思ってくれ」

「ちょ、ちょっと待って頂きたい!」


 一応の説明をしたところ、騎士隊の召喚師長が急に立ち上がって声を張り上げた。


「何ですかこれは!? 能力の数値化……い、いや、それはまだいい、ですが上級モンスターや最上級モンスター全ての能力や耐性ですって!?」


 召喚師長が目の色を変えてマナヤに問い詰めてくる。マナヤは努めて冷静に答えた。


「言ったでしょう? 俺は異世界から来たんです。モンスター達の能力は、こういった形で全て数値化されていたんですよ」

「で、ですが最上級モンスターなどそう何体も確認されていないのですよ! それをこんな、事細かな数字で……!」

「あー、やっぱこっちじゃレア扱いなんスね」


 ぽりぽりと頭を掻きながら、事も無げに答えるマナヤ。

 実際『サモナーズ・コロセウム』では攻略本や攻略サイトなどで、モンスターのステータスは全て閲覧することができた。マナヤは当然ながらその全てを暗記していたので、何の支障も無くこの世界にも持ち込むことができている。

 それに別に最上級モンスターだからといって、ゲーム上ではそこまでレアと言えるほど出現率は低くなかった。対人戦は、最上級モンスター含め全種類のモンスターを揃えてから。それが大前提になっていたくらいだ。


(となると、こっちで全モンスターを揃えるってのは骨が折れそうだな)


 自らの先行きが少し不安になって、マナヤはげんなりとため息を吐く。


「この表が、正しい情報であるという保証は?」


 冷や汗を流している召喚師長が、探るようにマナヤに訊いてきた。


「俺の知る”遊戯(ゲーム)”とこの世界のモンスターの性能は『同じもの』だと、転生した時に神サマから言質を取ってる。それじゃあ不足ですかね?」

「……」


 マナヤの返答を聞いて、とりあえずは押し黙る召喚師長。


「よし、じゃあまず、このステータスについて何か質問はあるか?」


 周囲に向けそう言い放つと、当然のように皆が口々に質問をしてくる。


「この、HPというのは何ですか?」

「それは要するに、モンスターの耐久力だ。どの程度の攻撃を加えたら死ぬか、ってやつだな」

「じゃ、じゃあこの”攻撃力”というのが……」

「そうだ。一撃の攻撃で、そのHPをどの程度減らせるかっていう指標と思え」

「このHPって、俺たち召喚師だとどの程度なんだ?」

「そうだな、この世界でも召喚師は個体差が無いようだから、三百くらいだと思ってくれ」


 ちなみに、この世界にも”英語のアルファベット”に相当するような文字が存在する。この世界では「古代文字」と呼ばれているようだ。

 モンスター名にアルファベットが混在している、例えば猫機FEL-9(フェルナイン)のようなモンスター名も、この世界ではその古代文字を使って表現されている。


「……なるほど、モンスターの見た目での種別ごとに『系統』を配分しているのか……」


 召喚師長が、何かに納得するようにつぶやいた。


 この世界のモンスター、そして『サモナーズ・コロセウム』でも同様だったが、モンスターには四種類の『系統』があった。

 【伝承系】【機甲系】【精霊系】【冒涜系】の四種類。

 伝承系というのは、ミノタウロスやヴァルキリーのような、地球で言う神話に出てくるようなモンスター。

 機甲系は言わずもがな、猫機FEL-9(フェルナイン)に代表されるロボット系である。ただ一部、人造生命体の類もこちらに分類される。

 精霊系は動物の姿を模した精霊のモンスター達だ。ガルウルフやコボルドなどが該当する。

 冒涜系は、虫やら水生生物、果てにはうぞうぞした気持ちの悪い姿のモンスターが多い。レン・スパイダーやエルダー・ワンなどだ。

 これらの四種類の系統それぞれに、十六種ずつのモンスターが存在している。


「じゃあお前ら全員、そのステータス表を自分用に書き写せ」


 一通りのステータスの解説をするだけで、結構時間が経ってしまった今回の指導。マナヤはそう締めくくる。

 マナヤ一人では、一晩近くかけて六枚しかステータス表を書ききれなかった。なので、こうなったら各人の分を各々に書かせてやろうということだ。


「……私も書き写させて頂いて構いませんな?」

「もちろん」


 召喚師長もうかがってくるが、当然オーケーを出す。むしろ騎士隊の召喚師達にも広めて欲しいくらいだ。


「そいつを書き写したら、明日までにお前らがやってくることはただ一つ。一晩でそれを丸暗記してこい!」


 ぴしい、とその場の空気が凍り付く音がした。


「……ええと、マナヤさん? 明日までに、これ、全部を?」


 ここの召喚師達を代表していた、中年の召喚師が恐々と訊ねてきた。


「そうだ。なんせ、この指導にゃ十日間しか時間がねぇ。明日ここに来た時、ちゃんと覚えてるかテストさせてもらうかんな。サボるんじゃねーぞ」


 召喚師達が絶句する。六四種のモンスター全てにつき、それぞれ二十数項目ずつのステータスがある。これを全てたった一日で丸暗記しろと言われたのだ。

 もちろんモンスターの名前くらいは全員頭に入っている。モンスターの攻撃属性や耐性属性なども、ある程度は知っていた。だがこの表には、学園では習わなかった耐性を持っているモンスターもいくつか表記されている。隠れ攻撃属性を持っているモンスターもあった。そのため、学園で学習した物とこの表とでは微妙に剥離がある。これまで誤った知識が、逆に彼らの脚を引っ張るかもしれない。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! そもそもどうしてアンタの言うことなんか聞かなきゃならないんだ!」


 文句を言ったのは、若めの男性召喚師。


「なんか不満か? この指導は騎士隊の隊長サマからも許可をもらったことなんだ。それに文句があんなら騎士隊長に言うこったな」


 と、騎士隊長に責任を押し付けるマナヤ。先ほどの男性召喚師は、ぐっと詰まった。

 チラ、とマナヤは後方に座っている召喚師長を見る。が、彼は黙ってこちらを見ているだけだ。騎士隊長の名を出したことには、とりあえずお許しが出たと考えていいだろう。


「第一、今のお前らはそもそも基礎からしてなっちゃいねえんだ。俺の世界じゃな、この程度を覚えるのは基礎の基礎だったんだよ。俺がスタンピードで英雄になれたのも、そのおかげだ。これを覚える程度で、それだけのことができるんだぞ?」


 マナヤも自身が初級者だったころを思い返す。あの頃は自分も兄に言われて、まず全モンスターのステータスを必死に暗記していたものだ。

 ゲームでは、プレイしながら体で覚えていくという手ももちろんある。が、上達スピードを上げるには最初に暗記してしまうのが一番だ。それに戦闘が文字通り命懸けなこの世界では、体で覚えさせるなど危険極まりない。


「さっきも言ったが明日チェックをする。もし間違っている部分があったら、罰としてそのステータス表を十枚書き取りしてもらうから覚悟しとけ!」


 集会場が、阿鼻叫喚に包まれた。

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