第40話:三人の美少女が僕を堕としにくる
最近、朝が弱い。二見さんと遅くまで電話していたり、メッセージを送りあったり、MMORPGしたり、色々忙しい。
もちろん、従来からのメンバーとも交流は欠かしていない。
最近だと、@ecomodeさん、@yaso0505さん、@isekitokasuki23さん、やまもとゆうさん、josickhijosickさん、@kashokunさん、@aki1977さん、こーたさん、@terry20さん、@sougetu31072さん、@MatsuKojiさん、@zacky06fzさんとかかな。
まぁ主に、二見さんとのやり取りが多いけど。
文化祭の後、益々仲良くなって我ながらラブラブだと思う。
ただ、そのせいで寝坊癖がついてきた。朝がどうしても起きられない。最近では、あまりにも僕がダメダメなので、天乃さんが起こしに来るようになってしまった。
「流くーん、寝てますかー?」
そーっとドアを開けて、そのヒソヒソ声。芸能人の寝起きレポートみたい。絶対起こす気ないヤツだろ。
でも、こっちも眠くて目が開かないんだよ。明日からはちゃんと早く寝る!(そう毎日思うけど)
「起きてますか?」じゃなくて、「寝てますか?」は寝ていることを確認しているし。
ぷにぷにと頬を触られている。
起きたいのに眠たくて動けない。
「起きないとキスしますよー」
僕は飛び起きて、壁に張り付く。
「はい、おはよー。顔洗ってきてね。朝食できてるよ」
にこっと笑って部屋のドアを出ていった。完全に揶揄われている。
はぁ~と力が抜けて、ベッドにへたり込んでしまった。
***
相変わらず五十嵐家の朝食は、旅館の朝食みたいに品数が多い。
ご飯に味噌汁、焼き魚、漬物、味海苔、納豆、玉子焼き、今日は明太子の小鉢もついている。
「「いただきます」」
朝しっかり食べるようになってから朝になるとお腹が減るようになってしまった。
「今日、鉄平さんは?」
「さっきまでいたけど、もう出ちゃったわよ?」
「明日こそちゃんと起きます」
「そうね。いたずらされちゃうしね」
なにこれ。超恥ずかしい。
天乃さんがいたずらっぽくニヤニヤしている。彼女の少しつり目気味の目はこういう表情が悪魔的に似合う。とても可愛くてよろしい。
「あ、お弁当、ちょっと少なくしといたよ?ホントに良かったの?」
「うん、ありがとう」
これは、僕がお願いしたものだ。昼休みになったらその理由が分かると思う。
***
天乃さんと二人で地下鉄の駅まで行く、改札のところで二見さんと合流し3人になるのが新しい日常になっている。
「おはよう」
「おはようございます♪」
二見さんはいつも元気で楽しそう。会うだけで気持ちが明るくなる彼女は最高だと思う。
「そろそろ朝の挨拶がキスになってもいいんじゃないですかね?」
「そんな高校生見たことないです」
相変わらずの二見さんは軽くスルーして、電車に乗り込む。
「流星くん、眠たいんじゃないですか?」
向かい合わせで立っている二見さんが、僕を少し見上げるようにして聞いてきた。この時の少し上目遣いの感じは正に天使。少したれ目気味の彼女には最高に合っている表情だろう。
「はい。二見さんも」
「昨日は、流星くんが寝かせてくれないから」
「言い方!」
「一緒に寝たじゃないですかぁ」
「同じタイミングでゲームをやめて睡眠に移行したって意味ですよね!?」
相変わらず、揶揄われてる気がする。このウザがらみは後輩キャラの副作用なのだろうか。そういう彼女はすごく可愛い容姿をしているので、いまだに一緒にいると少し気恥ずかしい。
「あ、流くん襟が曲がってる」
そう言って天乃さんが横から襟を直そうとする。
「あ、それは私の仕事では!?」
正面の二見さんが張り合う。
「古来から襟を直すのは姉の仕事と相場が決まってるでしょ!」
どこの相場か教えてくれ。
「彼女だけに許された聖域じゃないですか」
僕の襟はサンクチュアリだった。
朝から電車内が賑やかだ。普通騒がしいと周囲の目が痛いのだけれど、二人は美少女。それも飛び切りの美少女。周囲の目はホワホワしてる。世の中、美少女に優しすぎだろ!
「ほら、電車の中で騒ぐと迷惑になるし……」
「流星くん、女には引けない時があるんです!」
そうかもしれないけど、それは今じゃないよね!?
「流くん、いま、流くんと添い寝できるかどうかの瀬戸際だから、ちょっと後にして」
そういうのは、本人不在で話し合うのやめてもらっていいですか!?天乃さんの添い寝とか考えただけでも大変だ。事故が起こる未来しか思いつかない。
地下鉄内でもワイワイ過ごすのが僕の日常になってきていた。
***
教室に着けば、最近はすごく教室内の雰囲気がいい。文化祭が終わってからだろうか、益々調子がいい。クラス内の結束が固くなったというか、一度みんなで何かを作り上げた連帯感みたいなものが生まれた。
クラス内であまりよろしくない雰囲気を出していた猪原も心を入れ替えたのか、その後、変なことはしていない。多少思い込みが激しいだけで元々そんな嫌なやつという訳ではないのかもしれない。
僕たちは授業という苦行の末、昼休みという束の間の休息の時を得る。
ところが、僕の最近の日常では、昼休みもHPを削られる。
「流星、飯食おうぜ」
「うい」
いつもの様に貴行が机を付けてくる。この時日葵は、すでに待ちの態勢。日葵の分も貴行が机を準備するのが当たり前になっている。
「お邪魔します」
僕の左側は昼休みの二見さんの指定席になっている。
徐に僕が弁当を取り出す。
「今日も天乃さんのお弁当豪華ですね」
二見さんが僕の弁当を覗き込む。
「今日は負けてないですよ!彼女の底力を見せつけてやります!」
そういうと、彼女は自分の弁当箱から玉子焼きを箸で摘み持ち上げた。
「さあ!流星くん!あーんを!」
あーんってそんなに力の籠ったものでしたっけ!?
こうして、天乃さんに対抗して、二見さんが僕におかずを食べさせようとするので、天乃さんのお弁当の量を少し減らしてもらっているという訳。
「甘いわね!二見さん!」
遅れて僕の席の右側に登場したのは、隣のクラスの天乃さん。自分のクラスはよかったのか分からないけれど、最近は毎日こちらに来て一緒に昼食を取る。
「どういうことですか?」
「流くんの家はだし巻き玉子だったのよ。二見さんの甘い玉子焼きより、私がお弁当に入れた出汁巻きの方が流くんの口に合うわ!」
「なん……ですって!?」
二見さんがショックを受けている。確かに言ってなかったけど……
「確かに、母さんの玉子焼きは出汁巻きだったけど、僕両方好きだし」
「なん……ですって!?」
今度は天乃さんがショックを受けている。
僕的には、甘い玉子焼きと出汁巻き玉子は別の料理と考えていて、どちらも好きだ。美味しいし。
「流星、両方を立てようとして両方に容赦ねーな」
全くだ。貴行が言う通り。どこか両方に良い顔しようと思っていたのかもしれない。
「じゃあ、別の料理として、どっちが好きか決めてもらおうじゃないの!流くん、あーんして!」
天乃さん、なぜ常に競うんですか!?
「望むところです!どちらが真の料理上手か決める時が来ました!流星くん、あーんしてください!」
その後、それぞれから「あーん」されて、甘い玉子焼きと出汁巻きをそれぞれ食べた。教室で。貴行と日葵の前で。どんな羞恥プレイなのか。僕のHPがガリガリ削られていく。
「いいなあ、流星。3スターズの二人から弁当あーんしてもらえて!あ、日葵さん脇腹つねったら痛いです!痛い痛い痛いっ!俺には日葵がいるから全然羨ましくないです!」
貴行がのたうち回っていた。日葵の満面の笑顔は、最高に怖かった。
「そだ、流星、この間の文化祭の動画再生回数が60万回超えたらしいぜ」
復活した貴行が教えてくれた。
そうなのか。全然チェックしてなかった。広告とか付けてないから全然意識していない。みんなが観れればいいと思っていたし、一応100万回を目指すって当初言ってたから、できるだけ叶えたいと思っただけだ。
「配信してくれてる人にお礼とか言った方がいいんじゃないか?」
「分かった。伝えとく」
「流星くん、そろそろ言った方がいいんじゃないですか?」
二見さんが提案してきた。でも、僕は目立つのは苦手だ。出来るだけ内緒にしておきたい。
僕の「欠点」の部分じゃないだろうか。「欠陥」と言ってもいい。目立つと何か悪いことが起きると思って、表に出ないことだ。姫香さんからも成人するまではあまり目立たない方がいいと言われていて、それを守っているというのもある。
動画配信もゲーム配信で登録者数が100万人に達したので配信をやめた。
別アカウントの音楽配信で登録者が100万人に達した時点のでこちらもやめた。
本は1冊だけ出版して10万部売れた。5万部でヒットというから多い方と言える。でも、そこで執筆をやめた。
現在はゲームを楽しんでいるけど、こちらは協力プレイができないので、特に目立つ功績は上げられていない。これは続けられる。あえて言うなら「えんじょう」とリアルで出会ったこと。ある意味一番大きな成果だけど。
***
「ちょっと、この部室部員以外が多くなっていると思うのだけど」
放課後に姫香さんが不満気につぶやいた。
読書部には、幽霊部員である僕と、天乃さん、二見さん、貴行に日葵も来ている。
「部員は僕と姫香さんだけですしね。いっそのこと全員入部してもらうとか」
「静かな読書スペースが失われるじゃない」
姫香さんはご不満のようだ。静かなところが好きだし、読書の邪魔をされるのは好きじゃないらしい。
「部員が増えたら、部費が増えますよ?新しい本を買う事ができるようになります」
「早く入部届を配って」
「はい!」
これでみんな合法的に読書部に集まることができるらしい。
「それで、伊万里先輩、週末ですけど、待ち合わせの場所は駅でいいですか?」
「いいわよ」
二見さんと姫香さんが話していた。二人は週末出かけるらしい。いつの間にそんなに仲良くなったのか。女子はそのあたりの感覚が男子と違うのかもしれない。
「五十嵐さんは、流星くんと一緒に合流して私にやきもち妬かせる感じですか?」
「ふっふっふっ、そうなるわね!」
天乃さんも一緒に……ん?それだと僕も一緒に出かけることになってない!?
「え?週末出かけるの?僕も!?聞いてないけど」
「あら、これから言うのよ。流星、週末買い物に行くから付き合って」
「はい」
姫香さんの言葉は絶対だ。僕に拒否権などない。
「あ、私、服を買いたいから、流くんに選んでもらおうかな。流くんが一番見る人だと思うし」
僕に服のセンスを求めないで……
「じゃあ、私は下着を買うので流星くんに選んでもらいます。一番よく見ると思うので」
そこで変に張り合わないで。
「いつ見せるっていうのよ!」
「私は、これから学校帰りにでも構いませんけど?」
「そんなコンビニ感覚でうちの流くんに下着を見せないでほしいんだけど!」
「いいえ、ガチの本気で堕としに行きます!」
「学校帰りにどこで何するつもり!?」
これは仲が良いのか、悪いのか……
「流星、お前割と気苦労多いんじゃないか?」
「まあね」
ガッチリ肩を組んで貴行が同情してくれた。
「でも、週末はお前、3スターズの三人とデートとか考えたら割と敵だった」
「いや、どう考えても僕は荷物持ちだろ」
貴行に僕の正しい立場を主張する。
「お前、分かってねーな」
「ないわね」
なぜここで、貴行と日葵がニヨニヨしながら生暖かい目で見るのか。
「買い物が終わったら、五十嵐さんの家にお邪魔して、流星の部屋を見せてもらうかしら」
「はい!え!?」
「みんなで遊びに行くって言ってるのよ」
恐ろしいことになった。部屋を片付けないと!散らかる物はないけれど、整理整頓しないと!
「あのー、なんでまた姫香さんが僕の部屋に……」
「私が誘ったの!仲のいい先輩がうちに来ても全然変じゃないでしょ?」
天乃さんが何故か自慢気だ。
「それはそうですけど、なぜ僕の部屋!?広さならリビングの方が広いじゃないですか」
「流くんの部屋にはゲームがあるわ」
「そんなのリビングに持って行きますから……」
「お姉ちゃんのいう事が聞けないっての!?」
ああ、同級生なのに姉を主張する姉君が段々横暴になってきた。素直に従います。
「流星くん、帰りにちょっと寄り道しませんか?新しいソフトクリーム屋さんができたらしいので」
「あ、はい」
「じゃあ、私もー。流くん違う味にして途中で交換しようね♪」
「五十嵐さん!そういうのは彼女の仕事だと、あれほど言ったじゃないですか!」
「姉は家族だから?彼女とだとなんかいやらしさが出てくるじゃない?」
いや、知らんけど。
「流星、私は1個食べられないから、残りを食べて」
姫香さんも行く気になってるぅーーー!
3スターズと賞される三人の美少女に囲まれた生活が僕の日常になってしまった。
恋人の様な姉、後輩の様な恋人、姉の様な先輩。それぞれに魅力的だ。
そんな彼女たちが近くにいる生活を続けたら、きっと僕はダメになってしまうだろう。なんだかんだ言って三人ともが僕を甘やかしてくるのだから。
あの時、天乃さんが僕に弁当を作ってくれなかったら、それを見て二見さんがやきもちを妬いてくれなかったら……そうでなければ、姫香さんに相談に行くこともなかっただろう。何か一つでも欠けたら今に至らなかった。
でも、これが僕の新しい日常だ。
言ってみれば、彼女たち三人の美少女が僕を堕としにくる……
---END---
 




