第29話:彼女を輝かせる
完全にやらかしたし、これから進む道の全てが行き止まりの迷路に迷い込んだ状態の僕は、読書部の姫香さんに泣きつこうと思った。でも、それは結局、丸投げ。僕がされて困っていること。それを他人にそのまましてはいけない。
考えるんだ。僕は放課後、机に突っ伏したまま考えていた。何とかできないか、と。
二見さんだけじゃなくて、貴行と日葵も心配してくれている。
曲はあるけど、歌う人がいない。
振り付けはできてるけど、ダンス自慢の女子3人以外が間に合わない。一応、三人には動画の場所を教えたので、彼女らは黙ってても練習するだろう。
そして、なにより「テーマ」がない!
何を目指して、何をするのか!?途方に暮れていた。
「今回ばかりは困りましたね」
僕の席の隣に二見さんが座って僕を心配してくれている。二見さんは僕と同じくゲーマーだし、都合よく昔からダンスやってました、みたいなのはなかった。むしろ、ほとんど踊れない、と。
僕もこれまで曲を作ったことはあったけれど、全部ボーカロイドに歌わせていた。今回もそれで行くか……と思った矢先、僕は二見さんとうまい歌を聞いたことがあることを思い出した。
「流くんー、そろそろ帰るー?」
天乃さんが教室に顔を出した。それをきっかけに歌っている人のことを思い出した!
「貴行と日葵!」
「うわっ!なんだよ急に!」
貴行が急に名前を呼ばれて驚いていた。
「二人は歌ってくれないかな?クラスの何人かにも歌ってもらうけど、ベースとなる人は歌が上手い必要がある!ぜひ、二人に!」
「俺は別にそんなに歌は……」
「え?貴行、歌上手よ」
日葵が当然のように言った。
「そんなことは、日葵の方が……」
譲り合う二人。イチャイチャは家に帰ってからやってほしい。
「ぜひ、二人に頼みたい!!」
「そこまで言うなら……わかった」
「いいよん♪」
二人が引き受けてくれた!助かった。メインのボーカルだけでも決まっただけで、少し気が楽になった。
「私も歌おうか?」
天乃さんが提案してくれた。
「天乃さんも歌は上手だったけど、隣のクラスなのでダメです」
「ぶーっ、最近、流くん私にだけ冷たいよね!?」
「そんなことないです。隣のクラスなのは本当じゃないですか」
「まあ、そうだけど?ぷいっ」
不満そうな姉上様。口で「ぷいっ」って言ったし。帰ったら何か、埋め合わせが必要そうだ。
■ 翌日 帰りのSHR
翌日の朝、みんなに頼んだことがある。「テーマ」の決定だ。
一番の問題は僕がこの文化祭に|全く興味を持っていないこと《・・・・・・・・・・・・・》だった。
「みんなで何かをする」とか「目立つ」とか僕が苦手なことと嫌いなこと。何一つワクワクしないのだ。そんな興味が無い事柄に作業が進むはずもない。
帰りまでに意見を出してもらうことにしていた。僕は、前の教壇にあがり、黒板に大きく「テーマ」と書いてみんなに聞いた。
「テーマ考えてくれた?ぜひ、意見を頼むよ!」
藁にもすがる思いだった。文化祭の取りまとめをしてあげるのに、テーマも無ければ、何をしていいのか分からない。
「行け!」と言われてどこに向かって、行けばいいのか分からないのと同じだった。「急げ」と言われても、目的地が分からないと走ったらいいものか、自転車が必要なのか、新幹線や飛行機まで必要なのか、判断がつかない。
何かを決める時に「テーマ」というのは意外なほど重要なのだ。
「テーマって言われても……」
「文化祭に積極的に参加したい訳じゃないし……」
「まあ、無難な感じで?」
ボソボソ出る言葉はどれも意見ではないし、前向きな物はなかった。そんな中、ダンス自慢女子の一人、山田さんがぽつりと言った。
「二見さんが輝くみたいに……」
その言葉を僕の耳が聞き逃さなかった。
「二見さん好きなの!?」
「え?うん、可愛いし、綺麗だし……」
最早、教壇とそれ以外の雑談。意見が出やすいと言えば出やすいけど、ザワザワなりやすい環境。
「二見さんはダンスそんなに得意じゃないみたいだけど、目だってもいいのかな?」
「私たち三人は同じダンス教室に通ってるから、どっちかって言うと、初めてダンスする人が主役の方が嬉しいかも」
山田さんは一緒にダンス教室に通っているという平松さん、筒井さんに視線を送った。彼女らも「うん、うん」と同意していた。
見た目ギャルっぽい三人なので、僕は少し敬遠していたところがあった。また勘違いをしていたようだ。彼女たちはこれまでの練習の成果を見せびらかしたいんじゃない。みんなでダンスをして楽しみたいんだ。新しくダンスを始めた人が楽しめることを望んでいる。
「僕は二見さんをめちゃくちゃ贔屓するけどいいのかな?」
「ぷっ、それ先に言っちゃう?高幡くんっていおもしろね」
「「「はははははは」」」
ヤバい、なんか教室中が笑いに包まれた。二見さんは真っ赤になって下を向いてしまった。そうだ。我がクラスには3スターズの一人がいる。これは立派な特徴だ。
『二見さんを最大限輝かせる』
僕は黒板に書いた。
「これでどうかな!?」
真剣な顔をして、ダンス自慢女子の三人に聞いてみた。
「……」
「……」
「……」
「ぷっ!最高!それいいね!それいこう!」
「私も二見さんを最高に輝かせる!何したらいい!?」
「私はロケットブースターのように切り離されても、二見さんを宇宙に打ち上げるよ!!」
なんか一人独特の感性を持っているみたいだけど、大まかなテーマが決まりそうだ。
「みんなはどうかな!?」
今度はクラスのみんなに投げかけてみた。
「俺、賛成ー!」
「二見さんの可愛さを学校中に知らしめようぜ!」
「面白そう!私やりたい!」
ノリだけで動けるのは高校生の特権だ。ノープランだったけれど、僕の興味がある「二見さん」をテーマにするなら、僕も「誰かのお手伝い」としてやってあげるじゃなく、自分のこととして文化祭のことに取り組める!
多分、僕はこの時、本当の意味でやる気になったと思う。
ダンス自慢の三人は、山田愛、平松舞、筒井美衣というらしい。とても覚えられないので、愛、舞、美衣、つまり、「一人称代名詞トリオ」として覚えることにした。そうなると、「マイン」がいなかったことが悔やまれる。
放課後には、早速覚えたての振付を披露してくれた。確かにまだ三人バラバラだし、何とか振りを覚えただけという印象は否めないけど、一日でここまでできるならなんとかなる。
僕は、歌を一緒に歌ってくれるメンバーを募った。貴行と日葵がメインを務めると知らせたら、すごく参加希望者が名乗り出てくれた。普段、貴行と日葵は一緒にいることが多いから、これをチャンスと思ってお近づきになりたい人が多かったみたいだ。
貴行と日葵の間にそう簡単に割って入れるとは思わないけど、目的は達成されなくても話したり、一緒に笑ったりできればいいのかもしれない。




