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第19話:男女の好意か姉としての情か

昨日デートから帰ってきて、天乃さんには誤解がないように、ちゃんとデートしてきたこととか、ちょっとした失敗はあったけど、二見さんとは仲良くなれたことなどを話した。照れくさかったけれど。


ただ、どこでボタンを掛け違えたのか、誤解が生じたみたいで、僕は二見さんとケンカをして、一人ふてくされてネカフェでひとりオンラインゲーム祭りをして帰ってきたことになってしまったようだ。


誤解は解こうと頑張ったけど、「大丈夫、大丈夫、分かってるから」と取り付く島もない。まあ、あんまり害はないと思うけど……


今朝も弁当を渡されたので、いつもの様に天乃さんを先に出そうとするけれど、一緒に行くと言って頑として譲らない。しょうがないので一緒に出ることになった。ここから嫌な予感がし始めている。


駅までの道、歩道を歩く。すぐ横を天乃さんが歩く。



(りゅう)くん、朝だから元気出して行こうね!」


「いや、これが通常運転です」


「元気出してね。手つなぐ?」



子どもか。普通に過ごしているのに、僕は落ち込んでいるように見えるらしい。



とりあえず、地下鉄の駅に着く。例によって改札の向こう側に二見さんが待ってる。笑顔で胸のあたりで小さく手を振ってくれた。こちらは「やあ」的に右手を少し上げて挨拶した。


これで天乃さんの誤解も解けるはず。



「あれ?二見さん?」


「そ。ケンカしてないって言ったっしょ?」



近くの僕と、改札向こうの二見さんを交互に見る天乃さん。



「行こっか」



とりあえず、僕が言うことで天乃さんが我にかえったらしい。

改札にnimoca(ニモカ)をタッチすると、ピッ、という電子音がして改札が開く。



「さ、行こう」


「……うん」



まだ疑ってるっぽい天乃さん。どうも僕は信用がないらしい。

改札を通ると、二見さんが近づいて来てくれた。



「おはようございます」

「おはようございます」

「……おはよう…ございます」



僕と天乃さんを交互に見る二見さん。



「流星くん、朝からやきもち妬かせイベントですか?」


「どんな鬼畜イベントですか、それ」



二見さんがニヨニヨしながら冗談まじりで僕を責める。



「昨日が初デートで、私の秘密を全部知ってしまった翌日に、他の女の子と同伴出勤ですか、そうですか。私は遊びですか」


「誤解を生む言い方やめてもらっていいですか。あと、天乃さんは姉ですから」


「……ホントに仲良しなんだね」



意外そうにつぶやく天乃さん。



「まあ、色々ありまして……」


「そこ詳しく」



昨日の朝までカチンコチンだったのに、二見さんと普通に話しているのだからそう思うかも。天乃さんが真剣な顔で聞いてきた。



「まさか、(りゅう)くん、ジゴロ!?」



いつの時代の言葉なんだろう。なんとなく誉められていないのだけは分かる。ただ、改札近くで(スリー)スターズの二人がもめていると(もめてないけど)、周囲にどんな誤解をされるかは分からないけれど、結果的に僕が被害を被るのは確実。



「遅くなると混むし、早く行こう」



そろそろ次の電車が来る頃。数分後には次の電車が来るにしても無駄な時間は省きたい。あと、混んでくると三人でいるところを見られる可能性が上がる。



「あー、私、急いで行かないと行けなかったぁ!後は若いお二人にして……」



訳の分からない事を棒読みで言って天乃さんが階段を走ってホームに駆け下りた。


どうせ同じ電車なのに急ぐも何もないと思うのだけど、ケンカが誤解と分かって僕を二見さんと二人にしてくれたのかもしれない。



「よかったんですか?」



二見さんが僕に訊ねた。僕らもエスカレーターでホームに向かう。



「天乃さんに関してはちょっと言動が読めなくて……」


「あ、流星くん、ラノベ主人公的体質の朴念仁ですか?好意ですよ好意!分かりやすい『男女の好意』じゃないですか!」


「でも、僕らは姉弟(きょうだい)です。しかも、半分血がつながっています。『姉としての情』だと思います」


「でも1か月前までは他人だったんでしょ?あだち充でも、吉住 渉でも散々擦られまくっている設定では?」


「『設定』とか言わないでください。ガチなので」



どうやら、二見さんは少年漫画も少女漫画もいけるクチらしい。



「禁じられているからこそ燃え上がる的な……」


「燃え上がりませんから。僕は静かに過ごしたいだけです」


「で、私は何を流星くんに差し出せば、心をつなぎ止めておけるのですか?」


「僕は十分二見さんに惚れているので、いつも通りニコニコしていてください。ゲージはカンストしてますから」



僕はちょっと頭痛のジェスチャーで額に手を当てて見せた。



「嬉しい言葉が聞けたので、いじめるのはこれくらいにしておきます♪」



うちの彼女様は可愛いだけじゃない。本当ならば、こんな可愛い子が僕を好きになってくれるはずがない。


たまたまネットで知り合っていたからと言える。彼女の心をつなぎとめておかないといけないのは、きっと僕の方だ。


僕たちがホームに着いた頃、ちょうど電車も着いたので、それに乗って学校に向かった。その後、天乃さんは見かけなかった。


電車の中は比較的空いていた。時間が早いのが良いらしい。ただ、席が空いているほどではないので、二見さんがドアを背にして立ち、僕がその前に立つ状態で乗ることにした。


東京のように朝ならいつでも満員電車みたいじゃないのが福岡の地下鉄の良いところではないだろうか。混んでいると言っても限度がある。


二見さんは僕より頭一つ分背が低いので、こうして電車で向かい合わせになると、彼女が僕を見上げる形になる。この上目遣いは悪魔的に可愛い。


長い睫毛(まつ毛)は瞬きのたびに上に下にと動く。睫毛まで恋しいと思う僕は相当重症だ。ヤバい、距離的にも近いし、抱きしめたくなる。そんな大胆なことは当然できないけど。


彼女が小さい口の両脇に手を当てて、こそこそ話のポーズをした。何か小さい声で伝えたいらしい。僕は少しだけ腰をかがめて彼女の口に耳を近づける。



「あの時みたいですね」



あの時とは、彼女を痴漢から救った(?)時のことだろう。あの時は、二見さんに睨まれていると思い込んで視線を逸らし続けたのだけれど、本当は今日みたいにずっと見つめてくれていたのかもしれない。


こんな潤んだ瞳で見つめられていたら、男なら誰でも勘違いするだろう。まあ、僕の場合は彼女と付き合ってますけど?


学校の最寄り駅まで着いた。ここからが問題だ。



「『世界先輩』彼女が手をつないでもらえなくて寂しそうスよ?」



出たよ「えんじょう」。二見さんは巧みに二見さんと「えんじょう」を使い分ける。僕ももう少し諦めていた。隠し通せるはずがないのだ。


デート前の二見さんとなら静かに秘めた感じで付き合うこともできたかもしれない。でも、実際の彼女を知ってしまったら、そんな付き合いはできなさそうだ。


……結果、何ともなかった。


駅から学校まで二見さんと手をつないで歩いてみたのだけど、誰からも話しかけられないし、周囲もザワザワしていない。


いつぞやもそうだったけど肩透かし?原因の一つは早く登校しているからというのが一つかもしれない。要するに目撃者が少ない。少ない目撃者からジワジワとヒソヒソ伝わる感じだろうか。あまりいいイメージはない。


そして、昼休み。



「さー飯飯!」



貴行はいつも元気。何も言わず、僕の机の横に自分の机を移動させた。さすが爽やかイケメン。この「気の遣わなさ」が心地いい。


日葵は貴行の目の前の机を180度回転させて、自分用に付ける。この「当たり前」感も凄い。これでも貴行と日葵は付き合っていないというのだからちょっとしたラノベ主人公だ。



「お邪魔します……」



なぜ、この人が自信なさげなのか。二見さんも僕の向かいの席に来た。



「あ、いらっしゃーい♪」



日葵がにこやかに招き入れる。やっぱりこいつは最強だ。机4個が付けられ、横並びに僕と貴行、その向かいに日葵と二見さんが並んだ。



「…あれ?席替えが要るんじゃない?」



日葵の提案(?)だ。何を言い始めたのかと僕はきょとん顔だっただろう。



「貴行と二見さんが入れ替わった方がいいんじゃない?」


「ん?」



席替え(?)すると、僕の目の前に貴行、その左に日葵になった。僕の左隣は貴行から二見さんに変わった。にっこりこちらを見る二見さん。これでよかったのか!?さすがに騒ぎになるのではないだろうか。


一瞬そう思ったけれど、それは杞憂に終わった。日葵が貴行の方にだいぶ近づいて弁当を食べ始めた。よく見ると、二人の弁当のおかずが同じだ。もしかして……僕は二見さんの方を見た。



「そうみたいですよ」



僕は何も言っていないのに肯定されてしまった。要するに、この二人はいつの間にか付き合い始めたという事だろう。



「貴行、水臭いじゃないか。教えてくれたらよかったのに」


「え!?ええ!?ほら、あれだろ?」



挙動がおかしい。テレているらしい。まあいいか。幸せそうでなによりだ。



「流星くんが後押ししてくれたって聞いたよ?」



日葵がそう言ってくれたけど、実際は全然違う。僕は貴行を無責任に焚きつけて僕と同じ悩みを持たせて一緒に考えさせようと思っただけなのだから。土日で何かあったらしい。



「世界先輩、いつの間に?やるっスね」



二見さんがこっそり「えんじょう」口調で言った。いや、全然他人(ひと)のことを思ってとかじゃないから。恥ずかしくなるから言わないで……



「あれ?」



今度はなに?教室のドアから頭だけ出している人物がいた。それは天乃さんだった。

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