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第18話:デートの帰り

二見さんは「えんじょう」だった。いや、「エンジェル」だった。名前的にも存在的にも。……言っている僕がもう、意味が分からないので、きっと今、僕から説明を受けた人がいたとしたら、何がなんだか分からないだろう。


でも、分かることはある。

学校では「クールビューティー」なんて言われている彼女だけど、実は人見知りであまり人と話せないだけ。


「昼休みはご飯どうしてるの?」と聞いたら、教室でボッチ飯が恥ずかしいから校庭の体育倉庫と校舎の狭い隙間で隠れて一人弁当を食べていた、と答えてくれた。


いや、聞きたくなかった事実だよ!クラスの3スターズが校庭の陰でボッチ飯とか……今後からは、貴行と日葵を巻き込んで四人で食べることにした。貴行と日葵にはあとで話しておけば大丈夫だろう。


まぁ、僕とは中学の時からボイチャ(ボイスチャット)してたからある程度慣れているみたいだった。あのカラオケに行った日に珍しくいっぱい話してくれていた理由がやっとわかった。彼女は、本当は色んな人と仲良くしたいのだ。


僕に「本名で呼んでほしい」なんて言っていたこともある。あれは「天使(てんし)」じゃなくて、「天使(エンジェル)」の方だったのかもしれない。


ただ、彼女にとって「エンジェル」という名前は、小学生時代にいじめられたトラウマがあるもの。


多分、今なら可愛い可愛いと言われるに違いないけど、勇気も必要だろう。僕はそのあたり何とかしてあげたい。クラスのモブである僕にできる事なのか分からないけれど。


ネカフェの「6時間パック」は、長いと思ったけど、振り返ると一瞬だった。二見さんとの時間は最高過ぎた。これまでのボイチャも楽しいけれど、すぐ横にいるのって最高。


オンラインゲーム内において、ここ一番の勝負の時は、チラリと横を向くと、ニヤリと笑う二見さん。何も言わなくても視線だけでタイミングが分かる。いつも以上に調子よくイベントをこなしていった。


ゲーム中もカレー、ポップコーン、フライドポテト、パフェとお互い好きなものを注文して、二人で分けて食べた。今朝までの二見さんとだったら恥ずかしくてできなかっただろう。


でも、相手は「えんじょう」でもある。初めて会えた嬉しさもある。オンラインで気が合うやつが、リアルの友達にもなった嬉しさもある。そして、それが、めちゃくちゃ可愛い彼女でもあるというのが最高に嬉しい。



「世界先輩、めちゃくちゃメッセージ着てましたよ?ちゃんとチェックしてるんスか?」


「なんか最近忙しくて……」



せめて、誰から着たかだけでもチェックしておくか。

「axia」さん、@4326kawa」さん、「@Colime」さん、「@tata17」さん、「@toroponf-t」さん、「ねこうらら」さん、「@ryubouya」さん、「@3412」さん、「@yoshi113」さん、「@Haru1730」さん、「@4326kawa」さん、「@Colime」さん、「@anchi」さん、「さしすせそーす」さん、多い!多い!多い!


ネカフェにいる6時間だけでこんなにメッセージをもらってしまった。そろそろ全部返さないと不義理になるな……


ネカフェを出るとき、二見さんが訊ねた。



「ずっと『えんじょう』だったことを内緒にしていたの怒ってません?」



オンラインで出会った人にリアルで会うこと自体レアケースだ。僕の好みを聞き出したことは驚いたけど、それを実現してくれた彼女には感謝している。全然気にしなくていいと伝えた。むしろありがとう、と。



「ただ、僕は全然スペック高くないからね?あまり期待したらダメだよ?」



二見さんと並んで駅に向かい歩きながら、事前にハードルだけは下げておいた。



「流星くん、キスしておかなくてよかったんですか?この先二人きりになれる場所はありませんよ?地下鉄の中で、とか言われたら善処しますけど、まだ恥ずかしくて……」



一回でも僕がそんなことを頼んだだろうか。「キスしておかなくてよかったんですか?」と問われて、「あ、じゃあ、お願いします」とキスできるほど僕のメンタルは強くない。思春期を甘く見ないでほしい。苦笑いしか出なかった。



「Excuse me」



ふいに、目の前の外国人に声をかけられた。大きな荷物を持っている男性だ。



「What is the easiest way how to get to Fukuoka Airport?」



Google翻訳カモーン!プリーズ!

目の前で質問されるとスマホを取り出しての対応ってなんとなく難しい。


「イージストウェイ」と「フクオカエアポート」だけ聞き取れたから、「福岡空港に行く簡単な方法」を訪ねているのだろう。大きな荷物も持ってるし。



「|Its the subway. 《地下鉄ですね。》|It takes 2 stations 《博多駅から2駅です》from Hakata station.」


「Thanks!」



僕が、博多駅の方向を指さすと、外国人は大きな荷物を持って駅の方に向かっていった。



「流星くん、英語できたんですね!」



二見さんが驚いている。



「いえ、まったく。昔、教育テレビを見ていたくらいで」


「やっぱりスペック高いですね!」



いや、買い被りだから。さっきのだって合っていたのかすら分からないのだから。


僕は道で声をかけられることはよくあるのだ。道を聞かれたり、時間を聞かれたり。すごい時には、知らない人から天気の話をされることもある。


話しかけやすい顔をしているのかもしれない。もっともそれがどんな顔なのかは分からないけれど。



「これから益々よろしくお願いしますね、流星くん」



二見さんが、僕の腕に両手で掴まって腕を組んできた。腕には二見さんの胸の感触が伝わってきた。ラブコメのマンガとかで見たことがあるやつだ。


僕にこんな日が来るなんて……気恥ずかしいやら、単に恥ずかしいやら。明日からの学校生活が益々楽しみになっていた。


ちなみに、少し遅くなったので、二見さんはちゃんと家まで送ってから僕は帰った。博多駅から二見さんの家の最寄り駅、箱崎宮前までは北上する形で、五十嵐家の最寄り駅へは、一旦博多駅に戻りつつ西に進まないといけない。つまり、だいぶ遠回りだった。


家に帰り着いたら9時を過ぎていた。もちろん、遅くなるとは事前に天乃さんにメッセージしておいた。



「流くん!一体何時だと思ってるの!」



玄関に入ると、天乃さんが仁王立ちで待っていた。腰に手を当ててお(むずか)りのご様子。女子中学生の帰りが遅かったお父さん的な?まだ9時だけど。



「遅くなるって連絡しましたよ?」


「着たけど?」



玄関でちょっと拗ねる姉上様。ちゃんとやることやってて、怒る要素がなかったらしい。



「初デートだって言うから、昼過ぎには、べそかいて逃げ帰ってくると思ったのに」



恐ろしいことに、あながち間違っていない。どうやら心配してくれていたらしい。



「どこ行ったの?」



玄関から廊下に進んだ僕の後ろを追いかけてくる天乃さん。なぜそんなに気になるのか。



「映画行って、ネカフェ行って、カレー食べてきました。あ、今日の夕飯なんですか?」



ちょっとテレくさいので、ぶっきらぼうな答え方になってしまった。



「え?え?初デートでネカフェ?あ、一人でってこと?振られちゃった?二見さんに振られちゃったの?いや、ケンカかな?あ、夕飯は肉じゃがだけど……」



ちゃんと答えてくれる辺り可愛い。



「ちょっと、初デートどうだったのか、お姉ちゃんに教えてみ!」



リビングのテーブルには肉じゃがを中心に天乃さん手作りの夕食が並んだ。時間がずれてしまったし、一人の夕食を想像していた。



「天乃、そんなに流星くんに矢継ぎ早に質問したら、食べられないだろう?」



鉄平さんが石原裕次郎ばりにブランデーグラスをくゆらせながらソファから助け船を出してくれた。



「その……ごめんなさい」


「いえ、それよりもこの肉じゃが、ジャガイモが大きくて美味しいですね」


「そう?それは良かったわ」



食事をしているテーブル向かいで、その後もなんやかんやと質問攻めで賑やかな食事になり、僕は知らず知らずのうちに笑みが漏れてしまうのだった。



「で、結局、ネットカフェは一人で?二人で?」


「二人で」


「きーっ!あんなとこで二人で何してきたの!?」



なにか、姉上様の想像の翼は明後日の方向に羽ばたいているようだった。







ーーー

これまでに、当作品を評価して下さった方のペンネームを小説中に出させていただきました。


多かったので、今回載せられなかった方は、第3弾の方をお楽しみに!第3弾は24話を予定しています。


ぜひ、当作品を評価して、★を入れてください。よろしくお願いします。

猫カレーฅ^•ω•^ฅ

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