花火の思い出
花火の音が聞こえる。
ヒューッ、ドン!
パラパラ……
何回も何回も。
……花火が見たい。
でも、此処からじゃ見えなかった。
だからと言って、見える場所まで行って見ようとも思わない。
二年前までは、自分の家があったのに……。
家族六人で暮らしてた、二階建ての一軒家。その二階の南側が、僕の部屋。
そこから花火が見えた。
遠くの公園の花火が見えた。
今は、血の繋がりもない人が住んでいる。その人が、花火を見てるのかな。
ヒューッ、ドン!
ヒューッ、ドン!
あの部屋から、花火が見たい。
あの家に、みんなで住みたい。
ドン! パラパラ……。
花火が上がっては、砕け散る。
ドン!
何回も聞こえる花火の音。
何だか悲しい。
でも、気のせいだ。
そう言い聞かせて、静かに本を読む。
窓を開け放ち、音がよく聞こえるようにする。
ドドン!
地に響くような花火の音に驚く。そんな自分の臆病さに笑いながら、本を読む。
そのページが濡れても気にしない。
だって、約束したから。
ヒューッ、ドン!
パラパラ……。
働けるようになったら、たくさん稼いで、たくさん貯めて、またみんなで住む家建てるって。
約束したから。
僕は頑張る。
その日まで。
泣きながら、花火を見上げたって、平気だから。
笑いながら、花火の音を聞いたって、平気だから。
またみんなで暮らすんだ。
一つ屋根の下に、六人の家族。
南側の小さな部屋で、花火を眺める日々を見つめる。
ヒューッ、ドン!
パラパラ……。