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仕事の依頼!


 二人がハンバーグを食べ終えた頃、マリリンがやって来た。


「こんばんは!遅くにごめんね!」


 マリリンは何やら紙袋を持っている。


「こんばんは!」


 マシューは元気よく挨拶した。

 会った事がある人だからか、それとも人に慣れたのか分からないが、人見知りは発動しなかった。

 マリリンを家の中に案内し椅子に座ってもらった。


「こんばんは。どうしたの?」

「ジニーに仕事を持ってきたのと…」

「と?」

「うふふ!いい服を見つけたから買っちゃった!」


 多分、いや、絶対にマシューにだろう。


「ほら!いいでしょう?」


 やっぱりマシューの服だった。

 マリリンが広げた服は男児用の服だった。


「ぼくのふく?」

「そうなの!お店で見かけて似合いそうって思ったから買っちゃった!」


 マリリンはとてもご機嫌な笑みを浮かべている。


「ありがとう!」

「…よかったねぇ」


 マリリンが笑顔で持って来たのはセーラーカラーの服だった。

 かっちりとしたデザインだが、可愛いといえば可愛い。


「ほら、当ててみて!」


 マシューに服を当ててみると予想以上に似合っている。


「ジニー!どう?」


 マシューはとっても嬉しそうだ。

 古着でなく新品だからだろうか、単純に服を貰って嬉しいのだろうか。


「ん?よく似合っているよ」

「本当?」


 マシューの目が輝き、頬も赤くなっている。

 マリリンの思惑通りだ。


「やっぱり、私の目に間違いはなかったみたいね」


 マリリンはとても満足げだ。

 マリリンが古着を選んでいたら、こんな感じの服が沢山入っていたのだろう。


「マシュー、明日この服を着る?」

「きる!」


 マシューは満面の笑顔だった。


「気に入って貰えてよかった。それで仕事の件だけど…」


 マリリンはチラリとマシューを見た。

 今まで笑顔だったのに急に真顔になったので、大事な案件のようだ。


「ああ、マシューお風呂入ってきて。一人でも大丈夫でしょう?」

「うーん…。わかんない…」

「ええー、マシューなら出来ると思ったんだけどなぁ…。そっかぁ出来ないのかぁ…」

「うー、やってみるよ!」


 マシューは脱衣所に走って行った。


「ちょ、着替え持って行ってないじゃないか」


 ヴァージニアはマシューの着替えとタオルを持って行った。

 ついでに髪の毛の三つ編みもほどいてやった。


「ちゃんと泡を洗い流すんだよ。泡が残っていたら痒くなっちゃうからね」

「わかった」

「頭にお湯をかける時は目と口を閉じるんだよ。呼吸は鼻でするんだよ」

「わかった」

「あ、そうだ。ジャンプーしている時も目を閉じていてね。目にしみちゃうからね」

「わかった」


 ヴァージニアはマシューを風呂場に見送った。


「ふふっ!マシューはすっかりジニーに懐いているのね」

「そうなのかなぁ?」

「そうでしょう」

「それで、仕事って何?運搬かな?」


 ヴァージニア一人だとそれくらいしか出来ない。


「そうね。この町から少し南にある町の教会から魔獣の角を運んで欲しいの。何やら教会の倉庫の整理をしている時に見つかったそうなのだけど、記録が残されていなくてね…。遡っても教会の近くでその角を持つ魔獣の討伐もなかったようなの」


 教会は出生や死亡の記録から、町に起きた出来事を事細かに記録している。

 それなのに、倉庫に入れられている物品の記録がないなんておかしい。


「変だねぇ」

「でしょう?だから王都で調べて貰うことになったの。引き受けてくれるかしら?」

「いいけど、魔獣の角だったら魔力を帯びているんじゃないの?そうするとそれに妨害されて、また転移魔法(テレポート)失敗しちゃうかもよ。もっと上級の人にお願いすべきじゃないかなぁ」


 ヴァージニアはつい先日、見知らぬ島に到着と言うよりかは漂着した時を思い出していた。

 無事に帰ってこられた今でも、思い出すだけで絶望感が襲いかかる。


「それは大丈夫よ。ちゃんと魔力封じの箱に入れてあるから」

「お高いのに…」

「そのお高いのに入っていたから気が付かずに、ずっと保管されていたみたいね」

「ああ、そっか。だけど、なんで私に?さっきも言ったけど、もっと腕のいい人いるでしょう?」

「…別の仕事をしているらしくて」


 マリリンの言い方からすると、最初はその人に依頼しようとしたように聞こえる。

 おそらく、重要な仕事なのだろう。


「それでいつ行けばいいの?」

「明日よ。明日の朝に行って欲しいの」

「…マシューを預けないとか。今日も大変だったんだから」


 マシューはヴァージニアと離れたくないと駄々をこねた。


「そうみたいね。それに合成された生き物と遭遇するなんて…。本当に無事でよかったわ」


 そのせいか、おかげかで異形の獣に出会った。

 とても不気味だったし、その後マシューに合い挽き肉の説明をするのが大変だった。


「うん…」

「どうしたの?」

「無事だったのはマシューが早く気付いてくれたおかげなんだ」

「ジニーより早く?マシュー君が?」

「そう。私が集中して察知したのをマシューは特に何もせずに気付いた」

「子どもってそういうのあるじゃない?考えすぎよ」


 マリリンはそう言ったが、少し焦っているようで一瞬目が泳いだ。


「そうかな。遺跡にいたんだよ。それもただ迷い込んだんじゃなくて、封印されてるみたいにさ…。何者なんだろう…」

「マシュー君はマシュー君でしょ?ジニーの事が大好きなマシュー君!」


 マリリンは明るい笑顔で言った。


「ぼくジニーすきだよ!」


 笑顔のマシューがやって来た。

 ちゃんとパジャマを着ているが、肩にタオルをかけていないのでパジャマが濡れている。

 なんなら床も塗れている。


「マシューもうお風呂から上がったの?」


 シャンプーを洗い流すのに時間がかかると思っていた。

 ヴァージニアは確認のためにマシューに近寄る。


「うん!」


 マシューは湯気が出てホカホカしている。

 彼の頬も赤くなっている。


「ん?」


 マシューの髪の匂いを嗅いでみる。


「マシュー、髪に何使ったの?」

「しろいやつだよ」

「やっぱり…。それボディソープだからね。髪の毛もボディソープ洗っちゃったのか…」


 マシューの濡れた髪を触ると髪の毛がキシキシする気がする。


「マシュー君、髪の毛もボディソープで洗ったの?体はどうしたの?」

「うん。そのまま、からだもあらったよ」


 マシューは頭を洗ったボディソープの泡で体を洗ったらしい。


「…はぁ」

(マシュー用に全身シャンプー買おうかな…)


 そう考えたら、犬のマシューを思い出してしまった。




 マリリンは用が済んだので笑いながら帰って行った。

 ヴァージニアは床を乾かし、マシューの髪の水分をタオルで取り、ヘアオイルを塗ってあげた。


(高いのに…)

「いいにおいだね!」

「そうだねぇ」

「ジニーとおなじ!」

「うん…」


 マシューは長髪に加え毛量があるので、ヴァージニアの倍は使っている。


「シャンプーは髪の毛、ボディソープは体ね。もう間違えちゃ駄目だよ。文字も読めるんだから、ちゃんと確かめてから使おうね」

「わかったよ。…ジニーおこってる?」


 マシューは悲しげな顔をして振り向いた。


「怒ってないよ」


 呆れていると言った方が近いだろう。


「…ほんとうに?」

「そうだよー。ほら、髪の毛乾かすから前向いててね」

「うん…」


 ヴァージニアは魔法でマシューの頭頂部から温風をかける。

 水属性の魔法が得意なら水分を一瞬にして取り除けるらしいが、ヴァージニアには出来ない。


「髪を乾かし終わったら、歯を磨いてね」

「わかった!」


 マシューの髪を乾かし終わり、彼の歯磨きを見届けた。

 マシューはこの後、今日借りた本を読むようだった。

 マシューだったら一人残しても大丈夫だろうと思い、ヴァージニアは風呂に行った。

 



「はぁ…これから自分の髪も乾かすのか…。もっと短くしようかな。シャンプー代も浮かせるし…」


 風呂から上がったヴァージニアはぼやいていた。

 ヴァージニアの髪の長さはポニーテールに出来るぐらいの長さがある。

 しかしマシューの髪は彼のお尻の下くらいまである。

 ヴァージニアが髪を切ったところで、あまりシャンプー代は変わらないかもしれない。

 ため息をつきながら、マシューがいるリビングに行った。


「あれ?マシュー子ども魔法入門もう読んだの?」


 ヴァージニアが風呂に行く前に持っていた本は子ども魔法入門だった。

 だが今、マシューが読んでいるのはせっかちさんだ。


「うん。おぼえたよ」

「結構、分厚い本なのに?」

「もちろんだよ。もう、まほうつかえるよ!」


 マシューが言うと本当のように聞こえる、というか本当だと思う。


「じゃあ温風出せる?」

「だせるよ!」


 マシューが手をかざすと温風が出てきた。

 熱くも冷たくもない、ちょうど良い温度だ。

 火と風属性の魔法なので簡単ではないはずなのに、子ども魔法入門を読んだだけで出来てしまった。

 二つの属性を同時に使うのは応用編なのに、本を読んだだけで出来るようになったようだ。


「じゃあ食器を洗う魔法は?」

「もう、あらっておいたよ!」

「え?」


 流し台を見ると食器が洗われてあり、すでに乾かされていた。

 マシューの魔力が少し残っているので、手ではなく魔法でやったのが分かる。


「すごいね。ありがとう」


 洗う手間が省けて嬉しいのと、少しの恐怖があったが、嬉しさの方を全面に出した。


「すごい?やったぁ!」


 こんなに無邪気に笑うマシューに厳しい顔は向けられない。


「助かったよ。ありがとう。今度からお皿洗いはマシューにお願いするね」

「ジニーの かみのけも ぼくがかわかすよ!」


 ヴァージニアは自身の濡れた髪の毛を触った。


「そう?じゃ、お願いしようかな?」

「まかせて!」


 マシューに髪を乾かして貰っている間に、ヴァージニアはスキンケアをしようと思った。

 風呂から上がってから時間が経っているので、すでに肌はカピカピになりかけていたのだ。


「ヘアオイルぬるんだよね?」

「自分でやるからいいよ」

「…そうなの?」


 いつの間にかマシューの手にはヘアオイルがあった。


「うん…」

「そっか…」


 マシューは物わかりがいいので、すぐにヴァージニアにヘアオイルを渡してくれた。

 しかし、がっかりしているようだ。

 マシューはヴァージニアの髪にヘアオイルを塗りたかったらしい。


(いくらがっかりしたって、ヘアオイルの量を間違えられて髪の毛をベタベタにされたら大変だしさ!)


 ヴァージニアはヘアオイルを塗りながら言い訳をし、手についたヘアオイルを洗い流した。


「マシュー、準備出来たから髪の毛乾かしてくれる?」

「いいよ!」


 マシューの顔はぱぁっと明るくなった。




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