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合流!


 ヴァージニアは女性と彼女の部下二人と共にケヴィンを探しに行った。

 女性の部下は探知魔法を使用しスイートルームがある階層には誰もいないと判断した。

 女性が言うにはスイートルームに泊まる客は自分の持ち物に保険や追跡魔法をかけている事が多いので、すぐに足が付くので慣れている泥棒は狙わないそうだ。

 先ほどの窃盗犯は初犯なのかもしれない。


「ああ、そうだ。あのこれを使ってください。私も人から貰った物なんですが……」


 ヴァージニアは先ほど乗組員から譲り受けた船内案内図を女性に渡した。


「ほう、……乗客用ではないみたいですね」

「乗組員の男性から渡されました。その方は逃げ遅れた人を探しに船尾に向かいました」

「分かりました。部下達に情報共有します」


 女性は通信機らしい魔導具を使い、乗組員の男性の存在を知らせた。

 その次に同じ魔導具を船内案内図の数センチ上で移動させた。


「これは他の者へこの案内図のデータを送っています」


 女性はヴァージニアが不思議そうな顔をしているので説明してくれた。


「へぇ……」


 これで捜索も捗るだろう。

 と言ってもかなり足場が悪いので、捜索困難なのは変わりない。


「ところで貴女はこの斜面をあの窃盗犯を連れて移動したのですか?」


 一人で歩くのも難しくなっているので、ヴァージニアのように一般人と大して変わらない筋力と魔力だと疑問に思われるのも無理はない。


転移魔法(テレポート)が出来るので移動出来たんです」

「そうでしたか。気分を悪くされたらすみません。我々は軍以外の救助隊員は把握していないので、もしかしたら貴女は先ほどの男性と逆の立場なのかもと思いましてね」

「えっ」


 ヴァージニアが金品を物色中に捕まりそうになって返り討ちにした、と考えられたようだ。

 遠くからでは筋力や魔力量が正確に分からないのと、他に仲間がいるかもしれないと考えられるので仕方ないだろう。


「船の上から貴女が甲板に出るのを確認したら、足元に人間がいたので驚いてしまいました。救助隊にしては軽装ですしね」

「確かに怪しさ満点ですね……」


 軽装の人物が男を足元に置いていたら変だろう。

 豪華客船に乗れるような服装でもないので尚更だ。


「急いでいたので鞄を忘れてしまいました……」


 我ながら情けない話だとヴァージニアは肩を落とした。


「近くにいらした訳ではないのですか?」

「はい、私は南ノ森町のギルドに所属しているのですが、そこに救援要請が入ったので来ました」

「……南ノ森町ですか」

「はい。ここからえーっと、北西にある小さな町です」

「そうですか……」


 女性の表情が少々曇ったので、ヴァージニアは首を傾げた。

 ヴァージニアは何故か聞きたかったが、女性の部下が声を出した。


「前方から誰か来ます」


 廊下の先には扉があり、扉にはめられた型ガラスから人影が確認出来た。

 女性はヴァージニアに後ろに下がるように合図した。

 ヴァージニアが女性の背中越しに誰が来るのか見守った。


「大丈夫か?この手すりを掴んで……」


 扉が開くと一人の中年男性が若い男性に肩を貸して貰いながら歩いていた。

 中年男性は先ほどの乗組員より制服に装飾が多いが、その制服には血がついている。

 若い男性はヴァージニア達が探していた人物だ。


「ケヴィンさん!」

「うぉ!ヴァージニアか!ってか誰だその人達!」

「我々は海軍です。救命救助に来ました。そちらの方はこの船の船長ですね」

「はい……」


 中年男性は小さく頷いた。




 船長はケヴィンによって止血はされていたが他にも負傷した箇所があるそうなので、船長を手当てするために部屋に入った。

 長い斜面より、斜めの部屋の方が安全だからだ。


「――時間通り航海中、突然下から突き上げられた。これで間違いありませんね」


 船長が女性の部下に手当をされている間、女性は船長に沈没までの経緯を聞いていた。


「間違いないです。ここの海域には岩礁はないので大海亀の仕業だと思われます」


 岩礁地帯に航路は取るわけないのでこの説が有力らしい。


「あれ?大海亀ってもっと深い所で暮らしてないか?」


 壁により掛かり腕組みをしているケヴィンが言った。

 ちなみに全員何かしらに寄りかかって体力を消費しないようにしている。


「この種類だと雌は雄より浅い海で暮らすのですが、今は繁殖期なので雌を追って浅い所に来たのでしょう。しかし、浅すぎる所まで来てしまう個体も稀にいるのだそうです。おそらくその亀が休憩中に船が上を通過したので驚いて浮上し、船に衝突したのだと考えられます」


 休憩している亀が動き出してぶつかってくるのは不測の事態だ。


「過去にも数例報告があります。流石にこれほどの大きな船ではありませんでしたけどね」

「じゃあその亀も怪我をしているでしょうから、保護しないといけませんね」

「いやぁ~、大海亀の甲羅はもの凄く硬いから平気だろう。ダイアモンドぐらいだったか?」


 ケヴィンが言うと船長が頷いた。

 ヴァージニアはダイヤモンドほどの強固な甲羅を持つ亀が存在するとは知らなかったので、驚くしかなかった。


「えっ?……けど、船の重さで潰れたりしていませんかね?」

「ヴァージニアさん、大海亀はこの船を沈められるほどの大きさがあるんです。なので甲羅に少し傷がついた程度でしょう」


 人よりもはるかに大きな亀の仕業だ。

 なんなら、この船と同等の大きさがあるかもしれない。


「そんなに大きいんですね……」


 だから深い海で暮らしているのだろうか。

 普通の海亀は浅い海にいるイメージだ。


「亀が呼吸するのに浮上した際に島だと間違えられる事例がいくつもあります」

「あー、丸い島には気を付けろだっけ?」


 これは船乗りの間で伝えられている言葉だそうだ。


「そうです。島を目安に航海すると遭難するなんてザラにあります」


 ここで船長への応急処置が終わったようだ。

 彼は頭と腕、足を包帯で巻かれていた。


「繁殖時期だと知っていたのですから、より海中に目を向けるべきでした。注意を向けていればこんな大事故にはならなかったのですから」


 船長という立場上、誰よりも安全について考えているからこそ悔しいのだろう。


「どうか気を落とさないでください。残りの人間は我らが探しますので、船長は船から避難してください」

「しかしっ!私は船長なのですから逃げる訳にはいきません!」

「船長のお気持ちも分かりますが、その怪我では単独で動けないですよね。怪我人を連れての行動だとこちらの動きが制限されてしまうので、是非とも避難していただきたいのです」


 船長は大海亀が船に衝突した際の衝撃で、転倒し負傷したそうだ。


「っ!」

「どうか私達に任せて避難をしてください」

「そうそう、俺達に任せてくれ!」


 船長は説得に応じ、女性の部下に付き添われて下船した。




 ヴァージニア達は船内に残されている人の救助を再開した。


「俺は船長側の過失だとは思わないが、確認を怠ったとされるのか?」

「これだけの大きな事故ですからね。何かしらの責任を追わされるでしょう」


 過去に同様の事故があるのだから確認を怠ったと言われても仕方ないが、ヴァージニアは少し気の毒に思った。

 誰も下から亀が激突して来るなんて思わないだろう。


「ところでヴァージニアは大丈夫か?普段こんなことしないだろう?」


 こんなこととは救助活動だろう。


「ええ、まぁ……。ですけど何とか大丈夫ですよ」


 ケヴィンはふーんと言った。

 女性もとても淡泊な反応をした。


(あれ……もしかして足手まといなんじゃ……。そうだよね。ケヴィンさんと合流出来たんだからもう用済みでは?そもそも探知魔法出来る人がいるんだから最初から私はいらないのでは?)


 ヴァージニアは船外で救助を手伝うべきか考えた。

 乗員乗客の病院への搬送なら手伝えるだろう。


(帰れって言いにくいから察しろ、みたいな雰囲気なのかな……。どうしよう……。私も船長さんみたいに説得されるのかな?ここは自分から言った方がいいよね)

「あ、あの!」


 ヴァージニアが意を決して発言しようとしたら、女性の通信機が鳴った。


「はい。子どもが?分かった」


 女性はすぐに艦内にいる部下達に連絡を入れ始めた。


「今子どもって言ったか?」

「言いましたね……」


 子どもだと狭いところに隠れてしまっているかもしれない。

 それだと目視だと確認しづらいし、声も届かないかもしれない。


「お聞きの通り、子どもが1名が行方不明との情報が入りました。どの漁船や救命ボートにも乗っていなかったそうです」

「このフロアにはいないようです」


 女性の部下が探知魔法を使用したようだ。

 女性が通信機を見たのでヴァージニアも覗き込んでみると、彼女の他の部下達がから次々に他のフロアや区画にも子どもはいないとの情報が入ってきていた。


「乗客用が出入り可能な場所にはいないようです」

「ってことは裏側に行ったか……」

「機関室だと外部からの魔法を阻害する措置がとられていると思われます」


 外部から操られないようにするためである。


「一番近い班に行かせましょう」


 女性はすぐに連絡を入れた。

 ヴァージニアはただ見守ることしか出来ない。

 子どもが何処に行くのかも予想がつかないし、探知魔法も出来ない、窃盗犯とも戦えない。


(出来るのは声を出すぐらいか……)

「よし」

「?」


 ケヴィンが首を傾げていると、ヴァージニアは大きく息を吸い声を出した。


「誰かいますかー!おーい!」

「おいおい、このフロアにはいないだろ」


 そう、先ほどの探知魔法では誰もいないとされたのだ。

 分かっているが、ヴァージニアにはこれしか出来ない。

 ヴァージニアは無意味だと思っていてもこうするしかなかった。

 何もしないよりは少しは気が楽になるからなので、自分のためでもある。

 それに気付いた彼女が自己嫌悪に陥りそうになった時だった。


「残念。います」


 上の通気口から誰かの声がした。


「うぉお!……ってなんだエミリーか」

「はい、そこ降りるから退いて」


 エミリーは通気口の柵を外して降りてきた。


「ヴァージニアの声がすると思って来てみたんだ」


 エミリーは上から下まで埃を払いながら言った。

 かなり汚れているのでヴァージニアも手を貸した。


「何処に行こうか迷っていたから助かったよ」

「え、あ、はい……」


 ヴァージニアは少し役に立てたようである。


「なんでまた通気口なんかに……」

「下の階層にいた人達が上に逃げるために使うんじゃないかと思ったの」

「んなの、映画の見過ぎだろ」


 ケヴィンはからかうように言った。


「その映画の見過ぎの人がいたんだよねー」


 スージーがエミリーの帽子からひょっこりと出てきた。

 ヴァージニアは女性の部下が驚いたのを見逃さなかった。


「はい。その方は部下から報告が入っていますね」

「マジか……。んじゃあ通気口の中も探すのか?」


 ケヴィンはとても面倒臭そうだ。

 彼は頭をボリボリとかいて口がへの字になっている。

 エミリーが埃を払い終えたので、残りは移動しながら話す事になった。

 ヴァージニアにとってはかなりきつい坂道なのだが、普段から鍛えている人達にとっては平気らしい。


「通気口の中にはもういないみたいだよ。一応探知してみたから間違いないよ」

「この船全体ですか?」


 女性の表情から考えると、相当すごいことなのだろう。

 しかも空間魔法を使った後なのにだ。


「はい。少なくとも乗客が出入り出来るところは全て繋がっているみたいなので出来ました」

「ってことはだ。一般客室の空気がスイートルームに来るってことか?」

「かもねぇ。だけど一般客室も結構なお値段だから悪臭をさせる人はいないんじゃない?」

「あはは……」


 ヴァージニアは笑っておいた。

 きっと換気はされているし、空気清浄機もあるだろう。

 そんな会話している間にレストランに到着した。

 テーブルは固定されているが、椅子はされていなかったようであちこちに散乱しており、他にも様々なものが散乱しているので、ケヴィンと女性と彼女の部下が足場を作ってくれている。


「ねぇ、ヴァージニア。この人達は軍人さんでいいんだよね?」


 エミリーはヴァージニアに近づきヒソヒソと話しかけてきた。

 二人は少し離れた場所にいるので当人達には聞こえないと思われる。


「そうです。海軍だそうです」

「へぇ……。女の人さぁ、誰かに似てない?」

「え?誰にですか?」

「なんか誰かに似ているとしか言えないけど、誰かに似ているんだよねぇ」


 ヴァージニアはエミリーから全くもって要領を得ない回答をもらった。




エミリーとスージーは映画好きの人を救助した!

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