帰り道!
ヴァージニアとマシューは図書館に到着した。
平日の昼間だが、思ったより人が多くいた。
お年寄りと子連れが多いようだ。
二人は子ども用の図書のコーナーに行く。
当たり前だが、沢山の本がずらりと並べられていた。
「んー、どれがいいんだろう?絵本のがいいのかな?」
そもそもマシューは文字が読めるのだろうか。
確認してみようと思い、ヴァージニアはマシューの方を見た。
「マシューは文字読めるの?」
図書館なのでヒソヒソと小声で話しかけた。
「わかんない」
マシューは首を振った。
読めるのか分からないのか、文字が分からないのかどちらだろうか。
「これはなんて書いてあるか分かる?」
ヴァージニアは近くにあった本の背表紙を指さした。
「んとね、こどもよう、まほうにゅうもん」
ヴァージニアは適当に指をさしたが、この本は借りようと思った。
「字、読めるんだね。じゃあ、絵本じゃなくて児童用の普通の本でいいか。何か気になる本はある?」
マシューは並んだ背表紙を眺めて考えた。
「んー、のんびりさんにするよ」
のんびりさんはシリーズ作品だ。
ヴァージニアも何冊か読んだ記憶がある。
「これ…女の子用の本だけどいい?」
どんな本を読んでもいいと思うが、マシューは性別を間違えられると怒るので聞いてみた。
「…じゃあやめる……」
マシューはとてもしょんぼりしている。
ヴァージニアは読みたい本を読ませた方がよかったのか、性別を気にした方がいいのか悩んだ。
「あ、でもこれ料理を教えてくれるんじゃなかったかな?」
「せっかちさんは?」
マシューが言ったのは隣に並んでる同じ作者が書いた本のタイトルだ。
こちらもシリーズ作品だ。
このシリーズも何冊か読んだと思う。
「この本はお菓子だったかな?私も久しぶりに読みたいから一冊ずつ借りようか」
(我ながら良い考え!)
ヴァージニアは自画自讃した。
「うん!」
読みたいのも事実だが、ヴァージニアはマシューに料理を覚えてもらおうと密かに思った。
しかし刃物や火を使うのは危ないから、実際には手伝ってもらうぐらいになるだろうか。
「他に何がいい?全部で5冊借りられるから後2冊借りられるよ」
「ジニーはいいの?」
「私?んじゃあ、節約レシピの本を借りようかな」
少しでも食費を浮かすためだ。
今日みたいな幸運がまた来るとは限らない。
「せつやく?」
「栄養も考えないとか…」
成長期の子どもには何がいいのだろうか。
「せつやくとえいよう…。むずかしいねぇ」
マシューは眉根を寄せた。
「そうだね。まぁ、仕方ないさ」
ヴァージニアは節約レシピと栄養について書かれている本を借りた。
図書館の次は買い物だ。
最近出来たスーパーマーケットにやって来た。
色々商品が置いてあってとても便利だ。
ヴァージニアは忘れないように最初に魔力回復薬を籠に入れた。
「これで安心だね」
ヴァージニアはあまり体力回復薬は買わない。
体力が減ったら転移魔法で本拠地に戻ればいいからだ。
逃げるともいう。
「次は食材を買わないとね」
二人分を買わないといけねばならない。
「なにかうの?」
「お安いやつだよ。お買い得なやつ」
食費の節約だ。
「もも、やすいといいね!」
「そうだね」
(桃好きだなぁ)
ヴァージニアは冷蔵庫に野菜が残っているのでスープにしようと決めた。
主菜は肉か魚か鶏か何にしようかと考えていた。
「ジニー、あれなに?」
「お菓子だよ」
マシューが指さした方向には瓶詰めされた金平糖があった。
「きれいだねぇ」
確かにカラフルで綺麗だと思う。
「…買わないよ」
「えー」
「ご飯の材料買わないと」
「そっかぁ…」
(物わかりがいいなぁ)
野菜をいくつか籠に入れた。
缶詰売り場に移動して魚の缶詰も入れた。
「もも?」
マシューの表情が明るくなった。
なんなら周りを照らすぐらい明るい。
缶詰イコール白桃の缶詰になっているのだろうか。
「…白桃も入れようか」
マシューがあまりに目を輝かせるので入れてあげた。
「やった!」
「もうマシューの分はもう買わないよ」
「えー」
ヴァージニアはマシューを無視して進む。
肉売り場にやって来た。
「合い挽き肉を買うか…」
「なにそれ?」
「豚肉と牛肉を合わせた物だよ」
「えっ!」
マシューは変な顔になっている。
ヴァージニアは美少年がしちゃいけない顔だと思った。
「もしかして豚と牛が合体した生き物を想像している?」
さっきの獣のような生き物を想像しているのだろうか。
衝撃的な姿だったから仕方ないだろう。
「ちがうの?」
「お肉になってから合体させたんだよ」
「ふーん…」
納得いかないようで、さっきよりはマシだが、まだ変な顔をしている。
眉間に皺を寄せて口はへの字になっている。
「卵も買わないと…」
「なんのたまご?」
「鶏だよ。朝の目玉焼きも鶏の卵だよ」
「へぇ~」
マシューからの質問攻めで、かなり疲れてきた。
ヴァージニアは自分もそうしていたのかなと思った。
「次はパンだよ」
近所のベーカリーのパンが置いてある。
「コロッケパン…」
マシューはよだれを垂らしそうな勢いでコロッケパンを見つめている。
(そんなにコロッケが気に入ったんだね)
「炭水化物と炭水化物じゃないか。いや、炭水化物に炭水化物をまぶして炭水化物に挟んでいる。炭水化物まみれじゃないか」
「たんすいかぶつぅ?」
「冗談だよ。明日の朝ご飯にしようか」
サラダも一緒に食べさせればいいだろうとヴァージニアは判断した。
「やった!ジニーはどうするの?」
「私は食パンでいいよ」
「あさのやつ?」
「そ」
図書館と買い物が終わり、家に帰る。
マシューにはパンを持って貰った。
(本が思ったより重い…。辞書を何冊も借りたわけじゃないのに…)
図書に加え、二人分の食糧も十分重かった。
腕と肩が痛い。
転移魔法を使うにしてもマシューがいるので一気に移動出来ない。
(これがずっと続くのか…。本当にどうしよう…。マシューの親は多分もういないだろうし、里子に出してもその里親達がいい人とは限らないし、児童養護施設に預けようか…)
しかし、マシューはヴァージニアに懐いているので嫌がるだろう。
(せ、せめてお金を…)
ヴァージニアの稼ぎは一人暮らしが出来る程度の物しかない。
そう思っていたらマシューが元気よく声を出した。
「あ!なにあれ!」
マシューは色々気が付くなぁと思いながら、ヴァージニアはマシューの視線の先を見た。
そこにはヒラリヒラリと蝶が飛んでいた。
「蝶々だよ」
「ちょうちょう、ヒラヒラしてるね」
「うん…」
ヴァージニアは立ち止まった。
マシューは一歩進んで立ち止まり、ヴァージニアを見た。
「どうしたの?」
「あ、子どもの頃を思い出して…」
「ジニーのこどものころ?」
マシューはヴァージニアの隣に来た。
「そう。とっても綺麗な蝶々がいたの。私が迷子になった時にその蝶々に出会ったんだ」
ヴァージニアは思い返してみると、子どもの頃に何回か危険な目にあってたんだなと思った。
「へぇ。どんな ちょうちょう?」
マシューは興味津々なようで、虹色の目が輝いている。
「本当に不思議な…虹色のガラス、水晶みたいな…透き通ってキラキラ光ってたんだよね。その蝶々について行ったら、知っている所に出たんだ」
無我夢中で蝶を追いかけたら、家の近くに出た。
「よかったね。ぼくも そのちょうちょうに あってみたいなぁ」
にっこりとマシューは笑った。
「調べてみたけど何ていう種類か分からなかったんだ」
他にも綺麗な蝶は沢山いたが、同じ種類の蝶は見当たらなかった。
もしかしたら魔法で作られた蝶だったのだろうか。
「ふぅん」
マシューの目の色と似た色の蝶。
マシューの髪色と同じ黒毛の犬のマシュー。
(ん?)
どちらもヴァージニアを助けてくれた。
(んん?)
「どうしたの?」
「え?なんでもないよ。夕飯にハンバーグを作るから手伝ってね」
ハンバーグならハンバーグのタネで肉団子を作れる。
明日の夕飯にしようと思う。
「わかった!でもハンバーグってなに?」
「さっきの合い挽き肉を使うんだよ」
「え…」
マシューは信じられないといった表情になった。
まだ豚と牛が合体した生き物を想像しているのだろうか。
「いや、だから、お肉になった後に合わせたんだからね?」
「ふぅうん」
「そんな顔するならマシューにはハンバーグあげないよ?」
「コロッケパンたべるからいい」
「朝ご飯なくなっちゃうよ?いいの?」
「うー…」
ヴァージニアが必死に合い挽き肉の説明をしたおかげで、マシューは理解してくれたようだった。
本の元ネタは「こ○ったさん」と「わ○ったさん」です。