妖精の国!
綺麗な妖精はださい妖精をつれて人間の国から妖精の国へ帰った。
ださい妖精が脱獄すると探しに行くのはいつも綺麗な妖精だ。
学校の先輩後輩という間柄だけで捜索班に任命されたので、綺麗な妖精は大変うんざりしている。
ださい妖精は常に魔法で監視されており、綺麗な妖精は映像から何処にいるのか分析している。
しかしださい妖精も脱獄を重ねるたびにそれを学んでいったのか、背景だけでは分かりにくい場所に潜伏するようになっていた。
もちろん捜索班側も何度も追いかけるうちに何処に行くか予想がつけやすくなっているので、すぐに見つけられるようになってる。
今回はださい妖精が動けない状況になっていたので、監視しつつ反省させるために放置していたのだが、放置自体は意味が無かったようだ。
実際、見える人間が現れるまでずっと悪態を吐いていた。
これならさっさと連れ戻して投獄すれば監視する手間が省けたのではと綺麗な妖精はため息をついた。
「お疲れ様です」
綺麗な妖精よりもずっと豪華な服を着ている女性が微笑みながら言った。
彼女にはステンドグラスのような蝶の羽が生えており、彼女の頭上には水晶のような氷のようなガラスのような、とにかく透明な物で出来た王冠がキラキラと輝いていた。
「勿体ないお言葉でございます」
綺麗な妖精は女王に報告にしに来ていた。
「まだ騒いでいるそうですね。元気で何よりです」
「ええ……そうですね……」
皮肉なのは分かっているが、綺麗な妖精は笑顔で返事出来なかった。
それだけださい妖精の悪行に悩まされているのだ。
「では、本題に入りましょう。例の少年を見つけたというのは本当ですか?」
脱獄犯を放置して唯一よかったと思えるのは、女王が探していた少年に出会えたことだ。
すぐに捕獲していたら彼には出会えなかった。
「はい。本当でございます。ティターニア様から伺った特徴と完全に一致しておりました」
ティターニアとは妖精王国の女王が代々引き継ぐ名前である。
「そうですか。見つかりましたか。封印が解けてから何ヶ月も探していたのになかなか見つからず困っていたのですが、やっと見つかりましたか」
「あれだけの魔力を持ちながら探知にかからないのは不思議です」
当初、少年が巨大な魔力を持っていると想定されたのですぐに見つかるだろうと考えられていた。
それなのに何度探知魔法を使っても一回も引っかからなかった。
「一緒にいた人間の仕業ですか?」
少年と共に封印と解いたと思われる人間がいたそうだ。
どうやら保護者のようだ。
「いえ、彼女ではないと存じます。彼女は魔力量が少ないので妨害する術の使用は不可能です。……彼女は前にも会った事がありますが、以前は脱獄犯が見えていないようでした」
彼女の様子からすると初めは見えなかったようだが、集中したら脱獄犯が見えるようになったようだ。
今回彼女が最初から見えていたのは、どうやって見るのかを習得したからだろう。
「彼女の仕業ではないと……。少年の様子はどうでしたか?」
「そうですね。健康的で明るいごく普通の人間の子どもに見えました。保護者の言うことも聞いており、よい子だという印象を持ちました。ああ……彼の魔力残渣も回収しておきましたので、今お渡しいたします」
綺麗な妖精は魔力残渣を消したのではなく回収していたのだ。
「これほど進展するとは……」
女王が少年の行方が分からずにどれだけ気を揉んでいたかを綺麗な妖精は知っている。
「こちらでございます」
綺麗な妖精は女王に少年の魔力残渣を渡した。
彼の目と同じく虹色に輝いている。
「おおっ!素晴らしい……。何の濁りも淀みもないですね」
女王は待ちきれないのか手を伸ばして受け取った。
そして顔の前に持って行き、隅々まで輝きを確認した。
「人間でここまでの輝きがあるのも驚きました。いえ、他の種族でもこの輝きはなかなかお目にかかれません」
魔力が多ければ強く輝く訳ではない。
魔力の輝きは性格などの精神面が強く出る。
「ふふっ……。今回は上手くいっているようですね……」
女王は少年の魔力残渣を見ながら顔が緩んだ。
綺麗な妖精は女王の言葉に目を見開いて驚いてしまった。
「えっ今回……、ですか?」
綺麗な妖精には何の事かさっぱり分からない。
話の流れからしたら少年についてだろうが、今回と言うに前回がなければならない。
「ふふふっ、いえ、脱獄犯がいつもより反省しているらしいじゃないですか」
あくまでいつもよりは、である。
「ええ、はい。そのようです。騒いでおりますが前回よりは大人しいですし、いつもは言わない反省の弁を述べております。しかし、こちらを油断させるつもりかもしれませんので、監視と警戒は続けるつもりでございます」
綺麗な妖精は女王がはぐらかしたように感じたが、触れてはいけないのだろうと察してそのまま会話を続けた。
「引き続きお願いします。……改心してくれるといいのですけどねぇ」
「私はしないと考えております。少しでも隙を見せたら逃亡するでしょう。そういう奴なのです。今回の反省も口だけでしょう」
いつも反省しないのだから、今回もそうだろう。
これは他の妖精達も同意見だ。
「ふふっ、厳しいのですね」
「何度も裏切られてますから。……あ、いえ今までは反省した素振りも見せていなかったのですから、裏切りではないですね。してやられていると言うべきでした」
脱獄犯は普段は文句しか言わなかった。
謝りはするが言葉だけで、しかも謝ってやっただろと上から目線なのだ。
「反省を口にするのだけでも大した進歩ですよ。一体、どんな心境の変化があったのでしょうね」
「私には分かりかねますが、少年に捕まえられた時にとても嫌がっておりました」
「へぇ?」
脱獄犯のお得意の喚き散らすのではなく、綺麗な妖精には必死そうに見えたのだ。
「ええ……。本気で叫んでいるように感じました。怪我はしておりませんでしたので、少年が何らかの影響を与えたのだと……」
少年は手に力を入れるでもなく、ただ脱獄犯を捕まえていただけだ。
「少年が今まで何の反省もしなかった者の心境を変えさせる何かをしたと……」
「はい。しかし私には何かをしているようには見えませんでした。現に脱獄犯には何の痕跡もありませんでしたし……」
綺麗な妖精はもう少しきちんと少年を見ておけばよかったと後悔した。
脱獄犯には魔法の痕跡も物理的痕跡も何もなかったので、少年は別の方法で脱獄犯を改心させたのだ。
「ふふふっ、案外お祈りのようなものかもしれませんよ」
「仰る通り、ただの祈りでしたら痕跡は何も残りませんね」
「小さな子がする事なんてそのようなものでしょう。さて、少年の発見は私から他の種族にも伝えます」
「はい」
綺麗な妖精は少年はそんなに重要な人物なのかと聞きたかったが、聞いても女王は先ほどのようにはぐらかさすだけだろう。
なので綺麗な妖精は返事だけして退室した。
「やっと古い友人達との約束を果たせそうです。協力者にも上手く出会えたようですし……」
女王は良かったとは思ったが、少年の存在を隠す行動をしているのは誰だか知りたい。
これでは女王達が少年に接触出来ない。
探知を妨害しているのは協力者なのだろうか。
少年を保護するためなのなら納得出来るが、女王等の庇護下に置かせないためなら危険だ。
「何処にでも邪魔する人はいますから、警戒しているかもしれませんね」
そのくらい警戒心を持っている方がいいだろう。
「せめて人間側の協力者を知られたらいいのですけどねぇ。ああけれど、人間は金銭や欲で簡単に裏切りますから……。はぁ、厄介ですね」
それだけが理由でないのは分かっている。
人間は寿命が短いので入れ替えが多いため情報が上手く伝わらない場合もあるし、血筋が途絶えた可能性もある。
女王は憂いを帯びた顔をし、少年の魔力残渣の輝きを見ながらため息をついた。
綺麗な妖精は休暇を貰った!




