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住んでいる場所に帰る!


 マシューが念動力(サイコキネシス)で蓋を動かすと蓋はずれ、ださい妖精は解放されて自由に動けるようになった。

 そのださい妖精は、何日も挟まっていたのが嘘かのように元気よくマシュー達の目の前を飛び回っている。


――やったー!これで自由よ-!それじゃあバイバーイ!


 ださい妖精は笑顔で飛び去ろうとしたが、三人は予測済みだったので、すぐに拘束するために反応した。

 一番早かったのはマシューだ。

 彼はださい妖精の前に素早く回り込んで手を伸ばして捕まえた。


――ぐえぇっ!!

「やった!捕まえたよ!」


 ださい妖精は飛び去るのに失敗し、汚い声を出した。


――ギャー!!何すんのよ!!やめてよー!!


 ださい妖精はマシューの手を振り解こうと頑張っているが、彼の手がゆるまむ気配はない。


「小さい人間さんありがとうございます。助かりました」

――助けてー!なんて力なの!離して!離してよ!いやー!!


 マシューはそんなに力を入れているようには見えない。

 なのにださい妖精はギャーギャーと大きな声で騒いでいる。

 いつもの大袈裟に騒ぐやつだろうか。


「うるさいですよ。さぁ小さな人間さん、私が魔法で拘束をしますから合図をしたら手を開いていいですよ」

「分かった」

――ギャー!早くしてー!!いやぁああ!!


 ださい妖精はずっと騒いでいる。

 何日もぶら下がっていたはずなのに元気だ。

 それとも疲れているのに騒ぐほどの事態が起きているのだろうか。

 だが何度見てもマシューは手に力を入れているようには見えない。


「はい、拘束出来ました」

「分かった。はい」


 マシューが手を開くと、ぐるぐる巻きにされたださい妖精が出てきた。

 首から下が魔法で拘束されてみの虫状になってブラブラしている。


――はぁはぁはぁ……


 ずっと騒いでいたださい妖精は静かになった。

 見た目では拘束されている姿の方が無様なのだが、今の状態の方が楽なのか騒いでいない。

 それとも騒ぎ疲れたのだろうか。


「お騒がせしました。あっ、痕跡を消さないとですね。えいっ」


 綺麗な妖精はマシューの念動力(サイコキネシス)の痕跡を消してくれたようだ。

 蓋を凝視してもマシューの魔力残渣を感じなくなった。


「大丈夫みたいですね。ではここで失礼します」


 綺麗な妖精は会釈して去って行った。


「元気でね-!逃がしちゃダメだよー!反省するんだよー!」

「お気をつけてー」


 妖精達の姿は見えなくなった。

 妖精の世界に戻ったのだろう。


「……人間は誰も来なかったね」

「僕達が変な人達だと思われて近づかなかったのかな?」

「声は聞こえないはずだけど……」


 ヴァージニアが消音の魔導具を見てみると、ちゃんと機能しているようだ。


「美味しそうなのに人気ないんだね。食べられないからかな?」

「かもね」


 この展示室はややくたびれた食品サンプルまみれなので異質な空間といえばそう言える。

 ヴァージニアもマシューがいなければ足を踏み入れなかっただろう。


「僕ね、あの虫擬きにイライラしてたから、ちょっと力を入れて握っちゃおうかと思ったけどやめれたよ」

「おー偉いねぇ」


 ヴァージニアはださい妖精を力を入れて手で挟んだ記憶があるので、マシューよりヴァージニアは自制心がないことが判明した。

 なんなら彼女はテレポートで噴水に飛ばしていた。


「フフンッ!感情をコントロール出来たんだよ!」

「マシュー凄いね。頑張ったんだね。さっすが~!」


 よく分からないがマシューが威張っているのでヴァージニアは誉めておいた。

 数度、彼の魔力の不穏な変化を感じ取っていたからでもある。

 何かが起きてからでは遅いのだからとヴァージニアが心の中で頷いていると、そんな深刻な考えを打ち消すかのようにマシューの腹がグゥと鳴った。


「だけどお腹が空くのはコントロール出来ないみたい……」


 マシューは少し照れながら自身の腹を撫でている。


「……もう帰ろっか」


 まだまだ沢山の展示があるが空腹には勝てない。

 チケット代の元を取れたのかは不明だが、元々半額の値段で入場しているのでそこまで気にする必要は無い。


「僕、さっきチラッと見たんだけどね、ここにはレストランがあるみたいだよ。そこでご飯食べようよ!」

「マシュー、ギルドでコロッケ定食を食べよう」


 その方がかなり安い。

 ヴァージニアはここのレストランの値段は見ていないが、絶対にそうだと確信している。


「デートなのに……」

「いつもの所の方が安心出来るよ。早くギルドに行かないとコロッケなくなっちゃうかもよ」

「ここにもコロッケあると思うんだよね」


 あったとしても、サイズが小さくててマシューの腹を満足させられないだろう。

 値段的にもヴァージニアを納得させられないと思われるので、何とかして出費は抑えたい。


「疲れた時は慣れている食べ物の方がいいと思うんだよね」

「そうなの?」


 マシューはヴァージニアが苦し紛れに言った説に飛びついた。


「うん。お腹がびっくりしちゃうと思うよ」

「そうなんだ。じゃあ帰ろう」


 ヴァージニアは無事にマシューの説得に成功した。




 博物館から学園都市を出るまでマシューを誘惑する物が沢山あってヴァージニアは大変だったが、なんとかギルドにやって来られた。

 コロッケ定食はまだ残っていたので、マシューはいつも通り注文しヴァージニアはピラフを頼んだ。


「あーあ、都会のソフトクリーム食べたかったなぁ」

「牧場で食べた方が美味しいって」


 ヴァージニアは都会のソフトクリームの値段を確認済みだ。


「お洒落なドーナツも食べてみたいなぁ」

「パン屋さんにもドーナツ置いてるよ」


 見た目はシンプルで美味しい良心的な価格のドーナツだ。


「クレープもクリームとチョコが入ってて美味しそうだったなぁ」

「……クレープはないなぁ」


 残念ながらクレープを町内で取り扱っている店はない。


「シュークリームも食べてみたいなぁ」

「それはスーパーに売ってるよ」

「エクレアも食べてみたいなぁ」

「それもスーパーに売ってるんじゃないかな?」


 スーパー様々である。


「ジニー。僕はさ、都会のお洒落なおやつが食べたいんだよ」


 正直に言うとヴァージニアも食べたい。

 だが、食べられたらいいなぐらいの気持ちなので、食費等と削ってまで食べたくはない。


「じゃあマシューだけ都会に住む?毎日食べられるよ」

「えー、ジニーは一緒じゃないの?」

「家賃が払えないから無理だね。マシューだったら寮がある学校に行けば暮らせるよ」


 学園都市には初等部から全寮制の学校があるらしい。

 勿論通うのはエリートの子息女だ。


「ジニーも学校に行こうよ」

「お金がないから無理だよ。奨学金が貰えるほど賢くもないし魔力もないしね」


 マシューなら貴族が養子にしたいほどの魔力がある。

 賢さも書物から情報を簡単に得られるので問題ないだろう。

 そしてなにより相貌が良い。

 どれも喉から手が出るほど欲しいと思う人はいるはずだ。


「魔力はしょうがないけど、勉強は頑張ればなんとかなるよ」

「私が人名や地名を覚えられないの知ってるでしょう」


 勉強についてその通りとしか言えないが、ヴァージニアはどうしてなのか名前を覚えられない。

 ヴァージニアにとって歴史科目は人名と地名が出てくるので恐ろしいものだった。


「人の名前も町の名前も何かの加減で変わっちゃう、だっけ?」

「うん……」


 ヴァージニアは何故こんな言葉を口走ったのか自分でも不明だ。


「人の名前ってそんなに変わるの?」

「そうねぇ、異名とか二つ名かしら?はい、どうぞ」


 暇だったのかジェーンが食事を持って来てくれた。

 どちらも出来たてなので湯気が出ており、良い匂いもする。


「ジェーンさん……」


 ジェーンにも異名があるが、言うと半殺しにされかねないので誰も言ってはならない。


「わーい!いただきまーす!」


 マシューは今までの会話を忘れたかのようにコロッケ定食を食べ始めた。

 今は目の前の食事の方が大事なのだ。

 それほど空腹だったのだろう。


「名前なんて身近な人のを覚えていればいいのよ。気にすることないわ」

「はい……」

「じゃ、沢山食べて元気出してね」


 ジェーンは自分の仕事に戻って行った。

 暇だった訳ではないようだ。


(町の名前は統廃合で変わるけど、人間の名前が変わるって……。ペンネームとか芸名だったら変わるけど、それだとしてもあまり頻繁に変わらないよね)


 ヴァージニアはピラフをスプーンで取って口に運んだ。

 マシューはコロッケを食べる合間にキャベツの千切りを食べている。

 以前は最後に食べていたが、食べる順番を変えたようだ。


(一般人の名前が変わる理由はなんだろう。それとも最初から違うとか……?)


 ヴァージニアは自分で思いついたことだが、最初から違ったら違うことすら知りようがない。

 そもそも何と比較して違うのかも不明だ。


(幼名とかかな?)


 昔々どこかの国では成人するまでは別の名前で呼ばれていたそうだ。

 マシューはどうだろう、とヴァージニアは思ったがマシューと言う名自体が彼女かつけた偽名である。

 ヴァージニアが彼の本当の名前は何だろうか思いと彼を見てみたら、何やら彼は真剣な面持ちをしてい。


「よし……出来た……」


 マシューはパンにコロッケとキャベツを乗せてコロッケパンを作ったらしい。

 皿には何もないので、先ほどキャベツの千切りを食べていたのはパンに乗せる量を調節していたのだろう。


「うふふふふ……」


 マシューは不気味に笑いながら、都会のお洒落なおやつの話をしている時よりも目を輝かせている。


「美味しそうに出来たね」

「……ジニーになら一口あげてもいいよ」


 こう言っているのにマシューは目を潤ませている。

 彼は顔に出やすいようだ。


「私はピラフがあるから大丈夫だよ。ありがとうね」

「そう?じゃあ、いっただきまーす」


 マシューは大きな口を開けてコロッケパンにかぶりついた。

 もし学園都市のお洒落なお店で飲食していたら、その時もこんな風に齧りついていたのだろうか。


(まぁ、いいか。汚らしく食べなきゃいいんだろうし)


 マシューは一応落とさないように気を付けて食べているようだ。

 彼は食後には口を拭くし片付けも出来るようになったので、余程マナーに煩い人でなければ許してくれるだろう。




 お腹が膨れたので二人はギルドから出た。

 ヴァージニア宛の依頼も無かったので買い物をして帰ることにした。


「ジニー!桃を買わなきゃだね」

「あー忘れてたよ」


 マシューはヴァージニアが桃を買うのを忘れないように桃の歌を歌い始めた。


「桃っ桃っ桃っ、桃~。桃を忘れちゃいけないよ~」


 マシューが歌う曲調が古めなのはギルドの人達と関わったせいだと推測される。

 厨房のおじさんあたりだろう。


「美味しい桃~を忘れちゃダメなのさ~」

「……」


 二人は町行く人々にチラチラと見られている。

 しかも全員が微笑えんでいる。


(心を無にしよう。そうすれば恥ずかしくない。一種の修業だ)


 ヴァージニアはマシューが楽しそうに歌うので邪魔しては悪いと思ったのだ。


「桃もいいけど~ポテチもねっ」

「え」


 邪魔しては悪いと思った矢先にマシューは聞き逃せない歌詞で歌っている。


「ポテチとコロッケ~を忘れちゃダメなのさ~」

「全部買えないからどれか一つだよ」


 ヴァージニアはつられて歌わないように気を付けた。


「お金がないから~代わりに買っておくれよ~」

「私もお金ないから、買えるのは一つだけだよ」

「そういわねぇでおくれ~……あ、猫だ!」


 マシューは自由である。

 道に前に見た猫とは別の猫がいたので、彼は歌うのを止めて猫のもとに駆けていった。


(気まぐれだなぁ……あれ?)


 マシューの目の前の猫はマシューに威嚇している。

 猫をよく見ると乳が大きくなっているので母猫のようだ。


「マシュー、その猫は子猫を守ろうとしてるんだよ。近寄ったらいけないよー!」

「そうなの?君はお母さんなの?」


 猫はマシューに対してフシャーと声を上げ、更に毛を逆立て牙を剥き出しにして威嚇している。

 あまりに母猫が攻撃的なのは近くに子猫がいるのだろう。

 ヴァージニアは母猫の後ろの壁に小さな穴があるのを見つけ、その穴から子猫らしい影が少しだけ見えた。


「マシュー、そこから離れて。子どもを守るために必死なんだから邪魔しちゃ悪いよ」

「うーん分かったよ……」


 マシューはまたも猫と遊べずにがっかりしたようだ。

 彼はトボトボとヴァージニアのもとに戻ってきた。

 母猫はマシューが去ったのを確認してから巣に戻った。

 子に危険はなくなったと判断したのだろう。


(子どもを守るためって、確かトカゲも子を守るために脱走して住みやすい場所に移動した……。マシューの両親もそうだったのかな?姿をくらませて人目がつかない場所でマシューを育てようとした……。しかし何か理由があって一緒に暮らせなくなった。うーん、だからって、あんな所に閉じ込めるかな?)


 ヴァージニアが怖い顔をしていたらマシューが心配そうな顔をして彼女の顔を覗き込んできた。


「大丈夫?どこか痛いの?」

「え、いや何処も痛くないよ。大丈夫だよ」

「よーし、じゃあ桃を買いに行こう!」




 母猫は子猫たちを守った!

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