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行列!


 翌日、ヴァージニアとマシューは仕事を探しにギルドに行くと、ジェーンからブラシは牧場側で用意してくれることになったと知らされた。


「ヴァージニアに仕事の依頼は来ていないわねぇ。皆急ぎの荷物はないのね」

「そうですか。教えてくださりありがとうございます」

「ふふっ、ジニーの仕事がなくても僕がお金を稼ぐから安心してね!」


 そのうち冗談では済まされない気がするのでヴァージニアの顔色は悪くなっていた。

 彼女の頭には早めにマシューのマネージャーに回るべきかとの考えが浮かんだがすぐに消えた。

 まだ彼女自身に出来るものがあるはずだからだ。


「あら!頼もしいわねぇ!」

「でしょ!ジニーを楽に暮らさせてあげるんだぁ!」

「いいわねぇ」


 何やらジェーンとマシューは盛り上がっている。


「そうだ!オーラのコーティングの定着方法を教えてもらえるのいつになるかな?」

「エミリーさんが教えてくれるんだよね。そのうち連絡が来るんじゃないかな?」


 売れっ子なのでいつになるのか分からないが、マシューは彼女達に気に入られているので時間を作ってくれるだろう。

 甘えっぱなしは良くないので、ヴァージニアは何かお礼をしないといけないと考えた。

 だが、何も思い浮かばないでいる。


「早く連絡来ないかな~」


 新しい物を学べるのと、出来る事が増えるのが嬉しいらしくマシューはご機嫌だ。


「言い忘れていたわ。ブラシは明日か明後日にギルド宛てに届くそうよ」


 牧場側がブラシを注文したのだが、届け先をギルドにしたそうだ。

 ヴァージニアの家だったら足の踏み場が無くなっていた可能性が高いので有り難い。


「いい商売ねぇ。人間用のヘアブラシにも同じ事をして売ったらどう?」

「儲けられる?」

「そりゃもうバッチグーよ」


 ジェーンは古い言葉を言った。

 ヴァージニアはこっそりマシューに合図し、真似しないように伝えた。


「……あの、皆さん自分が得意な属性って知っているんですかね?」


 頻繁に魔法を使わない一般市民は知らないだろう。


「知らないの?」

「私は知らなかったよ」


 ヴァージニアは数ヶ月前まで自分にヤドカリが力を貸してくれているなんて知らなかった。


「そうねぇ、自分のオーラが見えない人はそうかもしれないわねぇ……」

「どっひゃー」


 ヴァージニアはマシューに発言にぎょっとした。

 彼女は急いでマシューに今後使わないように伝えた。


「むぅ……。通販は無理かぁ。対面販売するしかないのかな?」


 マシューから子どもらしからぬ言葉が聞こえた。

 どうやらヴァージニアが知らぬ間に勉強したようだ。


「あら、両方やればいいじゃない。分かっている人もいるでしょう?」

「なるへそ」


 ヴァージニアはまたもマシューに今後使わないように伝えた。

 大忙しである。


(ジェーンさんと話すと死語を思い出しちゃうのかな?)


 地元に帰ると方言やなまりが出るような感じだろうか。


「……うん。とりあえずコーティングの定着が出来るようにならないとね」

「そうだねぇ。出来るようにならないとねぇ」

「連絡が来たら教えるわね」


 ヴァージニアは通信機を持っていないので、エミリーからの連絡もギルドを通してもらう。

 通信機はなかなか高価なのでヴァージニアは買えないでいる。

 不便なのですぐに買いたいが一向にお金が貯まらないので、未だに連絡先をギルドにしている。

 駆け出しあるあるではあるが、最近は新人でも持っているらしくヴァージニアと年齢が同じくらいの人でも持っている。

 初期投資なのかもしれないが、元々お金がある人でないと出来ないだろう。




 二人はジェーンに礼を言ってからギルドから出た。


「……これから博物館行くの?」

「9時からだからそろそろ行かないとだよ」


 もしかしたら入館者で行列になっているかもしれない。

 平日だが人気があるジャンルなので空いてはいないだろう。


「んー……」

「緊張してるの?」


 無理もない。

 両親と過ごした時の物を久しぶりに目にするので、気が引き締まっているのだろう。

 こうヴァージニアは思ったが、マシューの答えは違った。


「これってデートって言うんでしょう?」


 マシューは少し頬を赤くして照れてもじもじしている。


「……デート?」

「えっ、二人でお出かけってデートじゃないの?」


 マシューは目を丸くして驚いている。

 おかげで虹色の目がよく見える。


「……じゃあいつもデートになるよ」


 ギルドに行くのもデート、買い物に行くのもデート、牧場に行くのもデートになる。

 なんならそれらの帰り道もデートになる。


「はっ!いつもデート!」

「……もう行こうか」


 ヴァージニアはマシューの肩に手を置き、学園都市・聖マリア・マリアンに転移魔法(テレポート)した。




 二人は一瞬で学園都市に到着した。

 転移魔法(テレポート)なので当たり前だが、交通費がかからないのはとてもよい事だ。


(今回は入場料だけを気にすればいいんだものね)


 二人は案内表示に従って博物館へ向かって歩いた。

 同じ方向に歩いて行く人が何組かいるので、彼ら彼女らも博物館に行くのだろう。

 その人達にこっそりついて行けば何も見なくても目的地に辿り着けるに違いない。


「皆もデートかなぁ?」

「そうかもねぇ」


 マシューが不機嫌ではないのが救いだ。

 昨日のご機嫌斜めのままだったらマシューの扱いが大変だっただろう。

 入場目前で帰ると言い出したかもしれないし、途中でぐずっていたかもしれない。


(このままなら大丈夫そうだね)


 なるべくマシューのご機嫌を取りながら展示物を見てまわり、マシューに何か思い出して貰う。

 これが出来ればマシューの両親に一歩近づけるかもしれない。


(何の確証もないけど、何もしないよりはマシでしょう)


 出来れば学芸員や研究者と知り合いになって、より有益な情報を得たいが何のコネもないのでこの願いは叶わなそうだ。

 ヴァージニアは必死に考えすぎて前を見ていなかった。


「ねぇジニー、皆は右に行っているよ」

「え?ああ本当だ」

「んもぅ、僕とデートだからって浮かれてるんでしょ~」

「……あ、はい」


 ヴァージニアは早くもマシューとのデート設定を忘れていた。

 そんなヴァージニアを尻目にマシューは上機嫌そうに鼻歌を歌っている。

 少ししたら彼の鼻歌が途切れたのでヴァージニアはどうしたのだろうと思っていたら、どうやら目的地に到着したらしい。


「あ!皆並んでる!」


 入場チケットを買い求める人が列を作っているのが見えた。


「あそこはチケット売り場だね。……貰ったのは半額になるチケットだから買わないといけなさそうだ」


 大きな博物館なので入場チケット売り場と博物館入口は離れているようだ。


「クーポン?」

「うん。これだけでは入れないからね」


 ヴァージニアはチケットを買うだけでこれだけ並んでいるのだから、入場を待つ人はどれくらいいるのだろうかと顔から血の気が引いた。


「マシュー、人が沢山いるから手を繋ごうね」

「デートだからねっ」

「うん……」


 二人が手を繋いで待っていると、漸くチケットを買う順番が回ってきた。


「お待たせいたしました。常設展ですか?特別展ですか?尚、特別展のチケットをお持ちのお客様は常設展示もご覧頂けます」


 チケット売り場の青年は何十組も相手にしているだろうにハキハキと言った。


「クーポンあるよ!」


 ヴァージニアが言う前のマシューが先に言った。


「どちらのクーポンをお持ちでしょうか」

「これです」


 ヴァージニアはチケット売り場の青年に割引チケットを見せた。


「特別展の半額の割引チケットですね。はい、確認いたしました。大人一枚子ども一枚でよろしいでしょうか?」

「ええ、そうです。お願いします」

「この券は本日限り有効でございます。尚再入場は出来ませんのでお気をつけください」

「はい。ありがとうございます」

「ありがとうございまーす」


 半額のチケットは購入済のハンコが押された。

 これで購入したか判別するようだ。


「マシュー急ぐよ」

「分かった」


 2人は少しでも早く入場したいので走り出した。




 ヴァージニアは急ぐよと言ったものの、マシューの方が先に入場待ちの列の最後尾に着いた。


「ジニー、遅いよ。ふふっ」

「マシューが速いんだよ」


 ヴァージニアは息を切らしているが、マシューの呼吸は少しも乱れていていない。


「普段から運動しないからだよ。転移魔法(テレポート)に頼りすぎなんだよ」


 マシューの言う通りなので、ヴァージニアは何も言い返せなかった。


「便利すぎるからなぁ……」


 ヴァージニアはほとんどの場所には転移魔法(テレポート)飛んでいける。

 本当は今も転移魔法(テレポート)を使いたかったが、公共施設の敷地内なのでやらなかった。


「使えない場所で何かあったらどうするの?」


 魔法が使えない場所、あるいは魔力がなくなった場合だ。

 後者だったら薬を飲んで回復出来るが、前者だったら魔法が使える所にまで移動しないといけない。


「ええ、仰る通りですよ」

「今度僕が鍛えてあげるよ」

「……いや、ジェーンさんにお願いするよ」


 厳しそうだが確実に強くなれそうだ。

 ジェーンのようにアッパーで人をぶっ飛ばせるようになるかもしれないし、踵落としで大きな魔獣を退治出来るかもしれない。

 とヴァージニアは思ったがあれは元々接近戦が得意な人でないと無理そうだと考えを改めた。


「むぅ……。ねぇ、ジニー。どこからこんなに人が集まったの?」

「色んな所からじゃない?」

「ふぅん?皆物好きだね」


 マシューからしたら偽の情報を見に来た変な人達なのかもしれない。


「んー、確かに人が多いよね。開催期間は結構長いのに……ん?」


 ヴァージニアがチケットで開催期間を確認しようと見てみると、今まで気付かなかった文字が目に入った。


「嘘っ。前期後期って書いてある……。ってことは、前期後期を両方見る人もいるんだ……」


 どちらかにしか行かない人もいるだろうが、両方行く人もいるし、どちらも複数回見る人もいる。

 どうりで人が沢山いるはずである。


「んふっ。物好きだね」

「そりゃ人気なはずだ……」


 ヴァージニアが肩を落としていると、前方から係員が何か言いながらやってきた。


「チケットをお見せくださーい。チケットをお持ちでない方はあちらでお買い求めくださーい」

「あれ?チケットを見せるのかな」


 時間短縮なのだろうかと思って前の人達を見ていたが、半券はちぎられていない。

 どうやら建物内に入った時にチケットを持っていない人の対策のようだ。


「チケットをお見せ下さい」

「はい!」

「はい。ありがとうございます」


 先ほど買ったばかりなので当然なのだが、問題なかったようである。


「全員にやるのかな?大変そうだね」


 マシューは暇なのか係員の様子を見ている。


「そうだねぇ」

「あ、後ろでチケットを買いに行った人がいるよ」

「並んだばかりでよかったね」


 ヴァージニア達が列に並んでから列はあまり進んでいない。

 しかし続々と人が並んでいるのでどんどん列が長くなっている。


「最初から列の最後尾に係の人がいればいいんだよ」

「確かにそうだねぇ」


 人員が足りないのかもしれないとヴァージニアは思った。


「何分待つのかなぁ?」

「何時間かもよ」


 おそらく入館者を人数制限をしているのだと思われる。

 なので少しずつしか進まないだろう。


「えー、じっとしてないといけないんでしょ?」

「そうだよ」


 すでに待つのに飽きて列から外れて駆け回っている子ども達がいる。


「足が痛くなりそう」

「嫌だねぇ」

「ジニー、僕との会話が面倒になってるでしょ」

「バレたかー」

「バレバレだよっ。……あっ、あの人本を読んでる。準備いいなぁ」


 列の前の方には読書をしたりクロスワードパズルをしている人がいた。


「私達も何か持ってくればよかったね」

「コロッケとか?」


 気を付けていないと油まみれになるし、列に並んでいるのにコロッケを食べていたら周囲から驚かれる。


「何でよ。どうせ数秒でなくなっちゃうんだから意味ないでしょう。暇つぶしにならないよ」

「バレたかー」

「バレバレだねぇ」


 二人は他愛もない会話で時間を潰した。




 マシューは列に並んでお行儀良く待っている!

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