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遭遇!


「クソッ!待ちやがれ!」

「やっと追いついた!」


 鎧を装備した男性二人組がそれぞれ武器を持ってやって来た。


「お、おい!あれ!」

「誰かいたのか?!」


 一人が指す場所には無残にも籠と赤い実が散らばっていた。

 そしてその前には異形の獣がいた。

 その獣は地面に残っている匂いを嗅いでいる。


「ま、まさか食われちまったのか?」

「クソッ!俺たちが逃がしちまったからっ!」


 獣は彼らに負わされたであろう傷が複数あった。


「必ずこいつを退治するぞ!」

「おう!」

(いえ、生きてますから…)


 ヴァージニアはマシューと一緒に木の枝の上にいた。

 獣が現れた時に慌てて転移魔法(テレポート)で移動したのだ。


「なに、あれ……」


 マシューは怯えていた。

 ヴァージニア自身も恐怖を感じていた。

 獣は足と体は馬、顔は狼、羽は猛禽類、尾は蛇の頭をしている。

 自然界にあんな姿の生き物はいない。

 突然変異にしても、ほ乳類と鳥類と爬虫類が混ざるなんておかしい。

 明らかに何者かの手で生み出された生き物だ。


「グリフォンでもキメラでもない…」


 男性二人組はこの獣の討伐に行ったのだろう。


「グルルルル…」


 獣は牙を剥きだして男性二人組を睨みつけている。

 男性達は武器を構えているが攻撃出来ていない。

 獣に隙がないのだ。

 ヴァージニアは獣と男性達の放つ殺気のせいで、冷や汗が出てきた。


(助けを呼びに行くべきか…)


 ふと、ヴァージニアは持っていたハサミが目についた。

 赤い実ではなくハサミを持って来てしまったのを酷く後悔した。

 実や薬草は傷がついてしまったので買い取り価格が下がるだろう。


「…ハサミか。うん、やってみよう」


 ヴァージニアは何か思いついたようだ。


「なにするの?」

「ハサミをあの生き物の首に転移魔法(テレポート)させるの。ダメージを与えられなくても隙は作れるはず」


 ヴァージニアは自身が移動するのは得意だが、物を移動させるのは得意ではない。

 だが、小さい物やヴァージニアが見えている範囲にだったら成功率は高い。

 しかも獣が今いる場所はついさっきまでヴァージニアがいた場所だ。

 ハサミは魔力残渣に引きつけられて獣に当たるのは間違いないだろう。


「よし、やろう。ハサミを転移魔法(テレポート)


 ハサミはヴァージニアの手元から消えた。


「ギャウゥ!」


 ハサミは獣の首に刺さった。

 獣は大声で叫び、仰け反った。


「なんだかよく分からないが行くぞ!」

「おう!」


 男性二人は一斉に獣に攻撃し、見事獣を退治した。

 かなり手練れなようであっという間の出来事だった。

 実に鮮やかな仕事ぶりだった。


「ふぅ、やったか…」

「ああ、だが誰かが犠牲に…」


 男性は悔しそうな表情をした。


「いや待て。血が残されていないから上手く逃げたんじゃないのか?」

「本当か?」


 二人は地面をじっと見た。

 もしかしたら赤い実を血と見間違えたのかもしれない。


「本当です」


 ずっと会話を聞いていようかと思ったが、ここでヴァージニアはマシューと一緒に転移魔法(テレポート)で男性達の近くに移動した。


「うおぁああ!」

「ぬあーどこからー!」


 男性達は大きな声で叫んだ。

 突然背後から声をかけられたので驚いたようだ。


「な、なんだ。転移魔法(テレポート)の嬢ちゃんか…」


 年上そうな男性が言った。

 何度かギルドで見かけたと思う。


「隙を作ってくれたのもそうか?」


 若いほうの男性が言った。


「そうだよ!」


 ヴァージニアの代わりにマシューが笑顔で答えた。


「ん、この子は?」

「男の子だよな?」

「そうだよ!ぼくマシュー!」


 マシューは嬉しそうに答えた。

 さっき付けてもらったばかりの名前を披露したいらしい。

 あと、性別を間違われなかったのも大きいだろう。


「ははは!元気だな。怖くなかったか?」

「ん…ちょっとだけ…。でもジニーがいたからへいきだったよ」

「そうかそうか!ははは!」


 年嵩の男性は笑った。


「あの…私達がギルドに知らせて来ましょうか?」

「ああ、そうだな。明らかに人為的に作られた生き物だろう。法律に違反しているな」


 男性達から話を聞くと、異形の獣の目撃情報があり、人にも被害が出たので討伐依頼が来たそうだ。


「いたかったね…」

「マシュー…」


 マシューは悲しそうに獣を見つめていた。

 一度殺して何らかの術を使って、それぞれの部位をつなぎ合わせたのだろう。


「んん?死んで術が解けたのか、つなぎ目が取れかかってるな」


 獣のつなぎ目から崩れ始めている。


「ああっ!すみません。すぐに行ってきます!」




「これは酷い…」


 ヴァージニアはギルドから人を呼んできた。

 ちょうど副ギルド長が出張から帰って来たところだったので、事情を説明して来てもらった。

 皆で検分していると、彼が持つ通信機が光った。


「どうやら馬の盗難届けが出ていたようだ。他の生き物達もどこかで捕らえられたのだろう」


 通信機にギルドから情報が届いたようだ。


「これ以上損傷が広がらないように現状保存の魔法をかける」


 生物には使えないが生を終えたものになら使える。

 副ギルド長の魔法によって異形の獣のこれ以上の損壊は免れた。


「国や他のギルドに禁術を使用した人物がいると知らせる」

「禁術…」

「きんじゅつって?」


 マシューは不安げにヴァージニアに尋ねた。


「使っちゃいけない魔法だよ」

「わるいまほう?」

「そうだよ」


 マシューは悲しそうな顔をしている。

 ヴァージニアでさえ胸が痛くなるのに、マシューがこんな恐ろしい光景を見たら悲しいに決まっている。


「嬢ちゃんもマシュー坊もありがとうな。後は俺たちが対応しておく」

「ええ、分かりました」


 マシューのためにも一刻も早くこの場から立ち去るべきだろう。

 ヴァージニアは落としたままにしていた籠と赤い実を拾った。

 もちろん薬草も忘れずに回収した。




「はぁ…」

「ジニーだいじょうぶ?」


 薬草は一人分の賃金しか貰えなかった。

 赤い実も傷がついていたので大分安くされた。

 予想していたが、これは落ち込む。


「明日の昼までの食費かぁ」

「おひるごはんまだだね」


 太陽はかなり高くにある。


「ああ、そうだね。ギルドで残飯を分けて貰おうかな…」


 配膳係をするのも手だが、前に転移魔法(テレポート)が出来るのに歩いて運ぶなんてと馬鹿にされた。

 ヴァージニアは物だけの移動は苦手だし、自分で持ったまま転移魔法(テレポート)するのも魔力消費が大きくなるので嫌だ。


「お皿洗いの魔法覚えようかな…」


 配膳係が嫌なわけではないが、いちいち茶化されるのは嫌だった。


「ぼくもおぼえる!」

「一緒に覚えようかねぇ…」

「うん!」


 まずは落としても割れないであろう木製の皿を買おう。

 出費がかさむので元も子もない。

 落ち込みながら歩いていたらギルドに着いた。


「あら、ヴァージニアちゃんとマシュー君!」


 看板娘はいつも笑顔だ。


「先ほどぶりです」

「ぶりです」

(鰤?)

「はい、これ」


 看板娘が小さな袋をヴァージニアに手渡した。


「何ですか?これ…」

「お詫びとお礼ですって。彼らの成功報酬の2割って言ってたかしら?」

「えっ!」


 ヴァージニアは急いで小さな袋を開けた。


「おおお!」


 中には1ヶ月分の食費が入っていた。

 魔獣の―今回は違法の合成獣だが―討伐は報酬がいい。

 一攫千金を狙って武器を持つ者が多くいるが、そんな高額の報奨金が出る魔獣を討伐出来るようになるまでに何人もの人が死ぬ。

 なので地道に稼ぐ人の方が多い。

 あの人達の実力から見て、安い部類の依頼だったのではないだろうか。


「いいんですか?」


 ヴァージニアは勢いよく顔を上げて看板娘を見た。


「ええ、いいみたいよ。驚かせちゃったのと、隙を作ってくれたからですって」


 ハサミを転移魔法(テレポート)させたのは良い判断だったようだ。


「私からもお礼言わないと!」

「もう別の場所に行っちゃったわよ。売れっ子だからね」

「せめて名前だけでも教えて下さい」

「ケリー兄弟よ。5人兄弟なんだけど、たまに彼らの従兄弟とも仕事をするみたいね」

「ケリー兄弟ですね。ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


 二人で看板娘に礼を述べた。




 ギルドで昼食を食べた。

 もちろん残飯ではない。

 どうやらマシューはコロッケが気に入ったらしい。


「コロッケ~コロッケ~」


 帰り道、マシューはご機嫌なようで自作の歌を歌っている。

 ヴァージニアは夕食の献立を考えていた。

 自分一人だったら適当な物を食べるが、マシューがいるのでそうもいかない。

 朝食もそうだ。

 朝もずっと寝ていたかったが、マシューのために朝食を作った。

 いつもだったら、そこら辺にある物を食べるだけだ。


「お店に行って買い物するよ」

「ちからがみなぎるやつ?」

「そっか、それも買い足さないとか。そうだった。ありがとう」


 魔力回復薬を買い足さねばならない。

 今回の報酬で十二分に買える。

 沢山買ったら食費が減るので2本にしておくが。


「へへへ…」


 マシューは嬉しそうだ。

 褒めると本当に嬉しそうにするので、褒めがいがある。


「あ、その前に図書館に行ってマシュー用の本を借りよう」

「ぼくの?」

「お勉強しないと」

「おべんきょうかぁ…」

(嫌なのかな?)

「たのしみ!」

(楽しみなんだ)




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